90 / 137
Ⅱ-Ⅴ.メイドとパフェと、時々恋人
82.曖昧な感情と答えはばっさりと切り捨てられた。
しおりを挟む
そんなメイドさんの挨拶をよそに、虎子は、
「間接キス…………」
そう言いながら、自分の持っているスプーンを眺めて、はっきりと赤面し、
「ご、ごごごごごごごごめん!俺、その、えっと、気が付かなくて!」
凄い勢いで謝りだした。
「いや、全然!そんなつもりはなくって!だけど、ほら、華にも食べて欲しくって。だから、」
そこでメイドさんがぽつりと、
「私を食べてってことかな~?」
その絶妙な合いの手で虎子はさらに動揺し、
「いや、そんな意味は、ない、です、けど」
メイドさんはさらに追及するようにして、
「ん~?どんな意味だと思ったのかな~?」
完全に追い詰められた虎子はうつむいて、
「うう……すみません。私ははしたない女です……」
よく分からない落ち込み方をしていた。それを見たメイドさんは笑いながら、
「あはは、ごめんごめん。冗談だよ、冗談。だけど、意外だな~トラちゃんにこんな可愛い恋人がいたなんて」
と言いつつ俺の方を向き、
「ね?君?名前は?」
「あ、えっと」
なんだろう。別にその質問に答える義理はどこにもないはずだ。だけど、俺はそのまっすぐな視線に折れる形で、
「えっと、笹木華です」
それを聞いたメイドさんはぱあっと表情を明るくさせ、
「へぇ~華ちゃんかぁ~可愛い名前。ねね、華ちゃんって呼んでもいい?」
「あ、えっと、はい。もうお好きなように」
なんだろう。
この人には何とも言い難い「逆らえない雰囲気」がある。
別に恫喝されたとか、脅されているとかそういうわけではないし、もしここで「嫌です」と言ったら素直に引いてくれるだろうなという気もする。
だけど、それら全ての退路がはっきりと見えているのに、どうしてか選択する気が起きない。まあこの人に呼ばれるならいいかな、と思ってしまう。人気ナンバーワンの力なのだろうか。分からないけど。
メイドさんは「うん」と言って仕切り直すように背筋を伸ばして、
「改めまして。私は八代弥生。一応、ここの人気ナンバーワン……ってことになってます。よろしくね」
そういってスカートの裾をかるくつまんで、お辞儀。その所作はメイド喫茶というよりも、本物のメイドという感じだった。なるほど、メリハリがはっきりしているひとなのかもしれない。
ちなみに、身体の凹凸もはっきりしている人だった。端的に言えばめっちゃスタイルがいい。いや、ヒップはスカートに隠れてて見えないけど。でも、きっといい形をしているに違いない(決めつけ)。
そんな彼女は、
「まぁ、今はお客さんも少ないから、ちょっと暇してるんだけどね」
と付け加えて、ぺろりと舌を出した。可愛い人だ。演技なのかもしれないけど。
そんなことを考えていると八代はさらりと話題を変え、
「で、なんだけどさ。華ちゃん」
「は、はい」
「ぶっちゃけ、トラちゃんのどこに惹かれたの?」
「あ、それは」
どうしよう。
表面上、スペシャルパフェは恋人同士にしか提供していないはずだ。だから、ここで、俺が「別に虎子とは付き合ってるとかではないんで」と否定するのは不味いような気もする。
だけど、こういうのは本音と建て前ってやつで、実際には「仲の良い二人組」であればいいというところまで条件が緩和されている以上、別に問題ないような気もする。
そのあたり、どうなんだろう。俺は助け舟を求めるようにして、虎子の方を、
「ふふ……俺は破廉恥な女……ふふふふふ」
あ、壊れたァ!
駄目だ。虎子さん、完全に使い物にならなくなってる。パッと見頼りがいはあるし、実際にその印象自体は間違ってないんだけど、メンタルは多分障子紙だからなぁ……特にここ一番に弱い。寸前×とかついてそう。
さて。
虎子の救援も望めないとなると、答え方は決まってくる。
恋人でも友人でも、どっちでも通用する内容にする。これできまりだ。
そうと決まれば話は早い。俺は早速、
「席が隣だったんですよ」
「ほうほう」
「それで、色々話していくうちに仲良くなって。今日も元はと言えば、私が付き合ってもらってたんです。ここに来たのは、そのお礼、なんです」
これらのことには全く嘘偽りはない。
そして、俺は一言も「恋人として好き」というフレーズを述べていない。これでいい。真実は闇の中だ。曖昧にしておくっていうのはいいことだ。グレーゾーンが人を救うこともある。俺は今、虎子を救ったのかもしれない。
ふう。いい仕事をしたなぁ。そんなことを思い、額の汗をぬぐう仕草をしていると、八代が、
「なるほど~いい話だにゃ~……で、華ちゃんは、虎子のどこが好きなの?あ、恋愛的な意味でね?」
ざっくりと切り捨てられた。俺の努力とグレーゾーンは完全否定され、事実を答えざるを得ない状況に追いやられる。
どういうことだ。もしかしてこの人はそこまで計算に入れていたのか?なんて恐ろしい。これが人気ナンバーワンを掴み取った策略なのか(※華の勝手な感想です)。
とはいえ、ここまで具体的に聞かれてしまっては偽るのは難しい。虎子も俺もこのお店に来るのが初めてで、これが最後ということならいくらでも嘘はつける。
だけど、虎子はこの店の常連だ。それはこれまでも、そしてこれからもそうだろう。その状況で、うっかり「虎子の普段はカッコいいけど、要所でヘタレるところが可愛いから好きになりました」なんてことでも言おうものなら、明日から虎子はその嘘を背負ってこの店に来なければならなくなる。それは良くない。俺にも類が及ぶ可能性がある。その彼女役は是非とも美咲にお願いしたいところだ。
と、言うことで、
「あの……実はなんですけど」
「うん」
「私と虎子は別に恋人でも何でもないんです。すみません」
そう言って頭を下げる。なし崩し的に崩壊しているとはいえ、元のルールは元のルールだ。謝っておいた方が良いだろう。まあ、流石にそれで無下に扱うということは、
「うん。知ってるよ~」
ないだろ……え?
「え、今なんて?」
「だから、知ってるって。付き合ってないの」
「え…………じゃ、じゃあ、なんで恋愛的に好きなところとか聞いたんですか?」
その言葉に八代はウインクして、
「だって、どういう反応するか気になっちゃって(はぁと)」
はぁと、じゃありません。
とんでもないメイドさんだな、この人。というかいいのか。お客様で遊んで。神様扱い城とは思わないけど、君たちは一応使用人っていう設定だよね?
と、そんなことを思っていると八代は、
「まあ、ホントのところは、華ちゃんにも脈があるんじゃないかなって思ったから、なんだけどね?ごめんね?」
そう言ってぺろりと舌を出す。相変わらずあざとい。でも、それで「まあいいや」ってなってしまう俺も大分ちょろいなと思う。しょうがないじゃないか。耐性なんてゼロなんだから。
「間接キス…………」
そう言いながら、自分の持っているスプーンを眺めて、はっきりと赤面し、
「ご、ごごごごごごごごめん!俺、その、えっと、気が付かなくて!」
凄い勢いで謝りだした。
「いや、全然!そんなつもりはなくって!だけど、ほら、華にも食べて欲しくって。だから、」
そこでメイドさんがぽつりと、
「私を食べてってことかな~?」
その絶妙な合いの手で虎子はさらに動揺し、
「いや、そんな意味は、ない、です、けど」
メイドさんはさらに追及するようにして、
「ん~?どんな意味だと思ったのかな~?」
完全に追い詰められた虎子はうつむいて、
「うう……すみません。私ははしたない女です……」
よく分からない落ち込み方をしていた。それを見たメイドさんは笑いながら、
「あはは、ごめんごめん。冗談だよ、冗談。だけど、意外だな~トラちゃんにこんな可愛い恋人がいたなんて」
と言いつつ俺の方を向き、
「ね?君?名前は?」
「あ、えっと」
なんだろう。別にその質問に答える義理はどこにもないはずだ。だけど、俺はそのまっすぐな視線に折れる形で、
「えっと、笹木華です」
それを聞いたメイドさんはぱあっと表情を明るくさせ、
「へぇ~華ちゃんかぁ~可愛い名前。ねね、華ちゃんって呼んでもいい?」
「あ、えっと、はい。もうお好きなように」
なんだろう。
この人には何とも言い難い「逆らえない雰囲気」がある。
別に恫喝されたとか、脅されているとかそういうわけではないし、もしここで「嫌です」と言ったら素直に引いてくれるだろうなという気もする。
だけど、それら全ての退路がはっきりと見えているのに、どうしてか選択する気が起きない。まあこの人に呼ばれるならいいかな、と思ってしまう。人気ナンバーワンの力なのだろうか。分からないけど。
メイドさんは「うん」と言って仕切り直すように背筋を伸ばして、
「改めまして。私は八代弥生。一応、ここの人気ナンバーワン……ってことになってます。よろしくね」
そういってスカートの裾をかるくつまんで、お辞儀。その所作はメイド喫茶というよりも、本物のメイドという感じだった。なるほど、メリハリがはっきりしているひとなのかもしれない。
ちなみに、身体の凹凸もはっきりしている人だった。端的に言えばめっちゃスタイルがいい。いや、ヒップはスカートに隠れてて見えないけど。でも、きっといい形をしているに違いない(決めつけ)。
そんな彼女は、
「まぁ、今はお客さんも少ないから、ちょっと暇してるんだけどね」
と付け加えて、ぺろりと舌を出した。可愛い人だ。演技なのかもしれないけど。
そんなことを考えていると八代はさらりと話題を変え、
「で、なんだけどさ。華ちゃん」
「は、はい」
「ぶっちゃけ、トラちゃんのどこに惹かれたの?」
「あ、それは」
どうしよう。
表面上、スペシャルパフェは恋人同士にしか提供していないはずだ。だから、ここで、俺が「別に虎子とは付き合ってるとかではないんで」と否定するのは不味いような気もする。
だけど、こういうのは本音と建て前ってやつで、実際には「仲の良い二人組」であればいいというところまで条件が緩和されている以上、別に問題ないような気もする。
そのあたり、どうなんだろう。俺は助け舟を求めるようにして、虎子の方を、
「ふふ……俺は破廉恥な女……ふふふふふ」
あ、壊れたァ!
駄目だ。虎子さん、完全に使い物にならなくなってる。パッと見頼りがいはあるし、実際にその印象自体は間違ってないんだけど、メンタルは多分障子紙だからなぁ……特にここ一番に弱い。寸前×とかついてそう。
さて。
虎子の救援も望めないとなると、答え方は決まってくる。
恋人でも友人でも、どっちでも通用する内容にする。これできまりだ。
そうと決まれば話は早い。俺は早速、
「席が隣だったんですよ」
「ほうほう」
「それで、色々話していくうちに仲良くなって。今日も元はと言えば、私が付き合ってもらってたんです。ここに来たのは、そのお礼、なんです」
これらのことには全く嘘偽りはない。
そして、俺は一言も「恋人として好き」というフレーズを述べていない。これでいい。真実は闇の中だ。曖昧にしておくっていうのはいいことだ。グレーゾーンが人を救うこともある。俺は今、虎子を救ったのかもしれない。
ふう。いい仕事をしたなぁ。そんなことを思い、額の汗をぬぐう仕草をしていると、八代が、
「なるほど~いい話だにゃ~……で、華ちゃんは、虎子のどこが好きなの?あ、恋愛的な意味でね?」
ざっくりと切り捨てられた。俺の努力とグレーゾーンは完全否定され、事実を答えざるを得ない状況に追いやられる。
どういうことだ。もしかしてこの人はそこまで計算に入れていたのか?なんて恐ろしい。これが人気ナンバーワンを掴み取った策略なのか(※華の勝手な感想です)。
とはいえ、ここまで具体的に聞かれてしまっては偽るのは難しい。虎子も俺もこのお店に来るのが初めてで、これが最後ということならいくらでも嘘はつける。
だけど、虎子はこの店の常連だ。それはこれまでも、そしてこれからもそうだろう。その状況で、うっかり「虎子の普段はカッコいいけど、要所でヘタレるところが可愛いから好きになりました」なんてことでも言おうものなら、明日から虎子はその嘘を背負ってこの店に来なければならなくなる。それは良くない。俺にも類が及ぶ可能性がある。その彼女役は是非とも美咲にお願いしたいところだ。
と、言うことで、
「あの……実はなんですけど」
「うん」
「私と虎子は別に恋人でも何でもないんです。すみません」
そう言って頭を下げる。なし崩し的に崩壊しているとはいえ、元のルールは元のルールだ。謝っておいた方が良いだろう。まあ、流石にそれで無下に扱うということは、
「うん。知ってるよ~」
ないだろ……え?
「え、今なんて?」
「だから、知ってるって。付き合ってないの」
「え…………じゃ、じゃあ、なんで恋愛的に好きなところとか聞いたんですか?」
その言葉に八代はウインクして、
「だって、どういう反応するか気になっちゃって(はぁと)」
はぁと、じゃありません。
とんでもないメイドさんだな、この人。というかいいのか。お客様で遊んで。神様扱い城とは思わないけど、君たちは一応使用人っていう設定だよね?
と、そんなことを思っていると八代は、
「まあ、ホントのところは、華ちゃんにも脈があるんじゃないかなって思ったから、なんだけどね?ごめんね?」
そう言ってぺろりと舌を出す。相変わらずあざとい。でも、それで「まあいいや」ってなってしまう俺も大分ちょろいなと思う。しょうがないじゃないか。耐性なんてゼロなんだから。
0
お気に入りに追加
67
あなたにおすすめの小説
彼女の浮気現場を目撃した日に学園一の美少女にお持ち帰りされたら修羅場と化しました
マキダ・ノリヤ
恋愛
主人公・旭岡新世は、部活帰りに彼女の椎名莉愛が浮気している現場を目撃してしまう。
莉愛に別れを告げた新世は、その足で数合わせの為に急遽合コンに参加する。
合コン会場には、学園一の美少女と名高い、双葉怜奈がいて──?
漫画の寝取り竿役に転生して真面目に生きようとしたのに、なぜかエッチな巨乳ヒロインがぐいぐい攻めてくるんだけど?
みずがめ
恋愛
目が覚めたら読んだことのあるエロ漫画の最低寝取り野郎になっていた。
なんでよりによってこんな悪役に転生してしまったんだ。最初はそう落ち込んだが、よく考えれば若いチートボディを手に入れて学生時代をやり直せる。
身体の持ち主が悪人なら意識を乗っ取ったことに心を痛める必要はない。俺がヒロインを寝取りさえしなければ、主人公は精神崩壊することなくハッピーエンドを迎えるだろう。
一時の快楽に身を委ねて他人の人生を狂わせるだなんて、そんな責任を負いたくはない。ここが現実である以上、NTRする気にはなれなかった。メインヒロインとは適切な距離を保っていこう。俺自身がお天道様の下で青春を送るために、そう固く決意した。
……なのになぜ、俺はヒロインに誘惑されているんだ?
※他サイトでも掲載しています。
※表紙や作中イラストは、AIイラストレーターのおしつじさん(https://twitter.com/your_shitsuji)に外注契約を通して作成していただきました。おしつじさんのAIイラストはすべて商用利用が認められたものを使用しており、また「小説活動に関する利用許諾」を許可していただいています。
君は今日から美少女だ
藤
恋愛
高校一年生の恵也は友人たちと過ごす時間がずっと続くと思っていた。しかし日常は一瞬にして恵也の考えもしない形で変わることになった。女性になってしまった恵也は戸惑いながらもそのまま過ごすと覚悟を決める。しかしその覚悟の裏で友人たちの今までにない側面が見えてきて……
3年振りに帰ってきた地元で幼馴染が女の子とエッチしていた
ねんごろ
恋愛
3年ぶりに帰ってきた地元は、何かが違っていた。
俺が変わったのか……
地元が変わったのか……
主人公は倒錯した日常を過ごすことになる。
※他Web小説サイトで連載していた作品です
[完結済み]男女比1対99の貞操観念が逆転した世界での日常が狂いまくっている件
森 拓也
キャラ文芸
俺、緒方 悟(おがた さとる)は意識を取り戻したら男女比1対99の貞操観念が逆転した世界にいた。そこでは男が稀少であり、何よりも尊重されていて、俺も例外ではなかった。
学校の中も、男子生徒が数人しかいないからまるで雰囲気が違う。廊下を歩いてても、女子たちの声だけが聞こえてくる。まるで別の世界みたいに。
そんな中でも俺の周りには優しいな女子たちがたくさんいる。特に、幼馴染の美羽はずっと俺のことを気にかけてくれているみたいで……
男女比1:10000の貞操逆転世界に転生したんだが、俺だけ前の世界のインターネットにアクセスできるようなので美少女配信者グループを作る
電脳ピエロ
恋愛
男女比1:10000の世界で生きる主人公、新田 純。
女性に襲われる恐怖から引きこもっていた彼はあるとき思い出す。自分が転生者であり、ここが貞操の逆転した世界だということを。
「そうだ……俺は女神様からもらったチートで前にいた世界のネットにアクセスできるはず」
純は彼が元いた世界のインターネットにアクセスできる能力を授かったことを思い出す。そのとき純はあることを閃いた。
「もしも、この世界の美少女たちで配信者グループを作って、俺が元いた世界のネットで配信をしたら……」
大好きな彼女を学校一のイケメンに寝取られた。そしたら陰キャの僕が突然モテ始めた件について
ねんごろ
恋愛
僕の大好きな彼女が寝取られた。学校一のイケメンに……
しかし、それはまだ始まりに過ぎなかったのだ。
NTRは始まりでしか、なかったのだ……
令嬢の名門女学校で、パンツを初めて履くことになりました
フルーツパフェ
大衆娯楽
とある事件を受けて、財閥のご令嬢が数多く通う女学校で校則が改訂された。
曰く、全校生徒はパンツを履くこと。
生徒の安全を確保するための善意で制定されたこの校則だが、学校側の意図に反して事態は思わぬ方向に?
史実上の事件を元に描かれた近代歴史小説。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる