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Ⅱ-Ⅳ.渋谷DEデート
75.九条虎子は常に想定外である。
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虎子はやや強引に、
「そ、そんなことより、腹減らないか?」
「別に、」
大丈夫。そう言いかけたところで俺のお腹が「ぐぅ~」と音を立てる。畜生。生理現象ってのはどうしてこう、空気を呼んでくれないんだ。虎子はにかっと笑い、
「なんか食べようぜ。俺も腹減ったし」
「そ、そうだね」
苦笑い。
くそう。腹ぺこな俺が気を使われたみたいなかんじになっちゃったじゃないか。俺はそんなキャラじゃないのに。むしろそれは虎子だろう(※華の以下略)。
「何にする?俺、この辺そんなに詳しくなくって」
「うーん……」
正直、俺もそんなに詳しくはない。そもそも渋谷という駅にそんなに縁がないまである。ここは俺みたいな人種が足を踏み入れる場所じゃない気がするんだ。
だから取り合えず、
「虎子は?何か食べたいものある?」
「俺?俺は……うーん……でも」
悩んでいる。
これは、もしかして、
「虎子」
「ん?」
「別にどこでも大丈夫だよ。ハンバーガーとか、とんかつとか、そういうのでも。虎子の行きたいところで良いから、ね?」
促す。
虎子は基本男勝りだ。制服だって着崩していることが多いし、気が付けば上履きを脱いで、椅子の上に胡坐をかいていたりするくらいだ。それに小学校時代の男友達と未だに付き合いがあって、そこにわだかまりや迷いなんてないように見える。
けれど、本当は違うのかもしれない。
表に出ないだけで彼女はきっと色々悩んでいる。悩んで悩みまくって今のキャラクターを選択しているのだ。その決定には自信を持っているかもしれない。けれど、彼女だって年頃の女の子だ。女っ気のない自分の生活スタイルに、違和感を覚えることがあっても不思議はない。
だけど。
それでも、俺は思うのだ。虎子には好きに生きて欲しいと。自分の欲望に正直に、例えその選択が女子力皆無のものだったとしても、俺は気にしない。っていうかその方が接しやすいまであるかもしれない。俺だって元々は男だし。
そんな俺の後押しが利いたのかは分からないけれど、
「ホントに?どこでもいい?」
「ホントホント。大丈夫だって」
念を押す。そんな俺の言葉で虎子は漸く決心し、
「それじゃ……あそこにするか」
「あそこ?」
「ん?ああ。ちょっと気になってたところがあってな。案内するよ」
そう言って俺を先導する。その顔はどこか晴れやかだった。
◇
俺は確かに言った。どこでもいいと。虎子の好きなところでいいんだと。その発言に嘘偽りはないし。目の間に広がる光景を見た今でもその意見を変えるつもりは毛頭ない。
だけど、驚きはする。人間だもの。せいぜい丼もののチェーン店くらいかなと高をくくっていた俺が悪いと言えばその通りで、文句を言う権利も無ければ、その気もないんだ。
でも言わせてくれ。
心の中で良いんだ。
聞いてねえよ。
「あの、虎子さん?ここは?」
「ん?ここ?ラーメンサブロー」
「サブロー……」
ネーミングの時点できっと敏い人は気が付くと思う。当然このサブローは繋ぎの四番として千葉ロッテマリーンズなどで活躍した外野手の名前から来ているわけではない。四番ライトではないのである。
「もしかして、なんだけど」
「うん」
「ここって所謂“インスパイア系”っていうやつ、だよね」
虎子は驚き、
「お、よく知ってるね?そ。インスパ系。ここ、元から同系統のお店が入ってたんだけど、それが移転しちゃって。で、後に入ったのがまたインスパ系だったってわけ。面白いよな」
「はは……」
面白いには面白い。だけど、俺はろくな反応は出来なかった。
だって思わないじゃないか。花の女子高校生が「前から行きたかったお店」がこんなデカ盛りラーメン屋だなんて。
「そ、そんなことより、腹減らないか?」
「別に、」
大丈夫。そう言いかけたところで俺のお腹が「ぐぅ~」と音を立てる。畜生。生理現象ってのはどうしてこう、空気を呼んでくれないんだ。虎子はにかっと笑い、
「なんか食べようぜ。俺も腹減ったし」
「そ、そうだね」
苦笑い。
くそう。腹ぺこな俺が気を使われたみたいなかんじになっちゃったじゃないか。俺はそんなキャラじゃないのに。むしろそれは虎子だろう(※華の以下略)。
「何にする?俺、この辺そんなに詳しくなくって」
「うーん……」
正直、俺もそんなに詳しくはない。そもそも渋谷という駅にそんなに縁がないまである。ここは俺みたいな人種が足を踏み入れる場所じゃない気がするんだ。
だから取り合えず、
「虎子は?何か食べたいものある?」
「俺?俺は……うーん……でも」
悩んでいる。
これは、もしかして、
「虎子」
「ん?」
「別にどこでも大丈夫だよ。ハンバーガーとか、とんかつとか、そういうのでも。虎子の行きたいところで良いから、ね?」
促す。
虎子は基本男勝りだ。制服だって着崩していることが多いし、気が付けば上履きを脱いで、椅子の上に胡坐をかいていたりするくらいだ。それに小学校時代の男友達と未だに付き合いがあって、そこにわだかまりや迷いなんてないように見える。
けれど、本当は違うのかもしれない。
表に出ないだけで彼女はきっと色々悩んでいる。悩んで悩みまくって今のキャラクターを選択しているのだ。その決定には自信を持っているかもしれない。けれど、彼女だって年頃の女の子だ。女っ気のない自分の生活スタイルに、違和感を覚えることがあっても不思議はない。
だけど。
それでも、俺は思うのだ。虎子には好きに生きて欲しいと。自分の欲望に正直に、例えその選択が女子力皆無のものだったとしても、俺は気にしない。っていうかその方が接しやすいまであるかもしれない。俺だって元々は男だし。
そんな俺の後押しが利いたのかは分からないけれど、
「ホントに?どこでもいい?」
「ホントホント。大丈夫だって」
念を押す。そんな俺の言葉で虎子は漸く決心し、
「それじゃ……あそこにするか」
「あそこ?」
「ん?ああ。ちょっと気になってたところがあってな。案内するよ」
そう言って俺を先導する。その顔はどこか晴れやかだった。
◇
俺は確かに言った。どこでもいいと。虎子の好きなところでいいんだと。その発言に嘘偽りはないし。目の間に広がる光景を見た今でもその意見を変えるつもりは毛頭ない。
だけど、驚きはする。人間だもの。せいぜい丼もののチェーン店くらいかなと高をくくっていた俺が悪いと言えばその通りで、文句を言う権利も無ければ、その気もないんだ。
でも言わせてくれ。
心の中で良いんだ。
聞いてねえよ。
「あの、虎子さん?ここは?」
「ん?ここ?ラーメンサブロー」
「サブロー……」
ネーミングの時点できっと敏い人は気が付くと思う。当然このサブローは繋ぎの四番として千葉ロッテマリーンズなどで活躍した外野手の名前から来ているわけではない。四番ライトではないのである。
「もしかして、なんだけど」
「うん」
「ここって所謂“インスパイア系”っていうやつ、だよね」
虎子は驚き、
「お、よく知ってるね?そ。インスパ系。ここ、元から同系統のお店が入ってたんだけど、それが移転しちゃって。で、後に入ったのがまたインスパ系だったってわけ。面白いよな」
「はは……」
面白いには面白い。だけど、俺はろくな反応は出来なかった。
だって思わないじゃないか。花の女子高校生が「前から行きたかったお店」がこんなデカ盛りラーメン屋だなんて。
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