百合カップルを眺めるモブになりたかっただけなのに。

蒼風

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Ⅱ-Ⅳ.渋谷DEデート

71.お隣さんはランカー。

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 それから俺と虎子とらこは二人で一緒にプレイするモードを選択した。

 この手のモードは、対戦時のマックス人数(Ubeatユービートなら四人だ)が揃っていないと、人数が欠けた状態でのプレイになりがちだったりするのだが、このゲームは、一緒にプレイするを選択したメンバー以外の残りメンツを適当に全国から探してくれたりする。

 それを良いと思うかは人それぞれだとは思うけど、俺はちゃんと人数が揃った方が嬉しいので、このシステムは好きだったりする。

 曲の選択権は俺。迷った末に、ゲームオリジナルの人気曲を選ぶ。ちなみにこれの高難易度譜面はクリアしたことがないので、難易度も一つ下だ。

 ちなみに、このゲームはプレイヤーのレベルによって「称号」が手に入るシステムになっていて、それを獲得するために、人々は難関譜面の練習を何度も何度も繰り返したりするわけだ。

 俺の称号は「ビギナー」。データを作りたての場合、この称号が付いている。自動車で言えば若葉マーク。いや、プレイ自体が初めてなことを考えると、教習車、しかも公道にすら出ていないかもしれない。

 対して虎子の称号はといえば、

「…………は?」

 目を疑った。

 っていうか実際に目をこすった。なんども瞬きをした。なんだったら頬をつねって夢じゃないか確認しようかと思ったんだけど、それをすると虎子に不審がられそうだからやめておいた。

 だって、そこについていた称号は、

『Are you ready?…………Go!』

 筐体が無機質な機械音声で、曲が始まることを教えてくれる。それを受けて、俺は譜面を叩き始める。流石に難易度を落としたこともあって、そう簡単にはミスをしない。

 だから、俺はこっそり隣のプレイをちら見する。

 凄かった。

 手の動きはパネルを「押す」とか「タッチする」というよりも「撫でる」という力感の無さで、それでも正確に譜面を押していく。自筐体の上部分にある虎子のスコアは淡々と綺麗な数字が積み重ねられていく。

 間違いない。

 彼女は「全パフェ」だ。

 パフェというのは「パーフェクト」の略で、音ゲーやリズムゲーでは一番上の判定。つまりは「ぴったりのタイミング」で譜面を押すとこれが出ることになる。

 低難易度譜面ならばともかく、高難易度になればなるほど、これを積み重ねるのは難しく、普通はそれなりにグレート(ひとつ下の判定基準)なんかが混じってしまうものなのだ。そして、それらのスコアはパーフェクトに対して数字が中途半端になりやすい。

 ところが、虎子のスコアはどうだろうか。

 彼女のスコアは一の位が一切動く気配がない。つまり全パフェの証拠だ。

 ただまあ、そのプレイも、先に称号を見ていたから納得してしまう。

 だって彼女の称号は、

「KC杯優勝……」

 そう。

 彼女がつけていた称号は、公式の開催する全国大会優勝者のそれ、だったのだ。
 どういうことだよ。おい。


               ◇


 Ubeatは基本設定が三曲で一クレジットである。

 だから、途中では全く感想も挟まず、曲の選択と、二言、三言の会話に終始していた。

 その間、俺の中にたまりにたまっていた感想が、三曲目を終えたあとに漏れ出る。

「すっご…………」

 ちなみにあの後も虎子はミスをすることは一切なく、三曲無事に全パフェをこなしていた。三曲全部全パフェって初めて見たよ……

 そんな俺の反応を見た虎子ははっと我に返り、

「あ、こ、これはちがくて!」

 何が違うんだろう。俺は素直に、

「えー?凄いじゃない」

「そ、そう?」

 やや伺い加減の上目遣いで俺を見る。

 正直に言う。可愛いなと思った。

 いつもはイケイケで、人の目なんて気にしていなそうな感じのする虎子だけど、やっぱり気にするときは気にするみたいだ。

 別に良いと思うけどな。全国一位なんて俺ならむしろ自慢しまくっちゃうけど。そんなメンタリティだから駄目なのかもしれない。謙虚って大事。

 虎子はまだ納得せずに、

「変じゃない?こんな、その……廃人プレイヤーで」

 あ、廃人って自覚はあるんだ。

 まあ、そうだよね。あんな洗練されたプレイは一朝一夕じゃ絶対に出来上がらないもんね。

 きっとかなりの時間とお金を費やしたんだろう。お金の方は多分あっただろうけど、時間はどこから捻出したんだろう。美咲みさきからはそんな話全く聞いたことが無いから、間を縫って行ってた……のかな?

 このあたり、難しいところだなと思う。

 割と廃プレイヤーっていうのは自分が廃プレイヤーであることを否定したがる。

 それは日本人が誇る謙遜の心なのかもしれないし、意識が高くない(イメージでしかないけど)ことに打ち込んでいる自分に対するうしろめたさなのかもしれない。

 だけど、同じことをやろうと思っても出来ない俺からすれば、

「いいじゃん。だって、プレイしてるところ、かっこよかったし」

「か、かっこいい?」

「うん」

 嘘ではない。

 実際後半はわざと難易度を落として、彼女のプレイを眺めることに重きを置いていた気がする。

 なんてったって指さばきが凄い。人間の指ってあんなに滑らかに素早く動くんだなって思った。俺の周りには全国大会に出るレベルの人間がいなかったからなおさらだ。

 虎子はやや視線を逸らしながら、

「そ、そっか……ありがと」

 ゲームセンター室内は基本的に暗い。だから、その頬が紅潮しているのかどうかは、俺からは判断がつかなかった。

「と、取り合えず。どこっか。筐体占領してても悪いし」

「そ、そうだね」

 俺たちはぎこちなくその場を後に、

「ん……?そこにいるのは虎子?」

 出来なかった。

 背後から呼び止められたからだ。

 俺と虎子はほぼ同時に振り返り、

「誰?」

きゅう?」

 全く違う反応を示した。
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