75 / 137
Ⅱ-Ⅳ.渋谷DEデート
67.地味な女の子の落とし方。
しおりを挟む
「とは言ったものの……」
スクランブル交差点を正面にして、
「宇佐美先輩が喜ぶものってなんだろう……」
助っ人・虎子はあっさりと暗礁に乗り上げてしまった。早い。もうちょっと粘ってほしかったよ。
「なあ、華」
「なに?」
「なんかないの?宇佐美先輩が喜びそうなものとか」
百合です。百合作品全般です。
とはとても言えなかった。
虎子がそういった類のものを好きか嫌いかは分からない。
分からないんだけど、それをここであげるということは、今日彼女に付き合ってもらった意味をドブ側のシュートすることに他ならない。超エキサイティングでもなんでもない。休日を一日潰してもらった彼女にも申し訳ない。
ただ、それを除くと正直俺にも分からなかった。
一応、ファッションが大人びていて、スカートよりもパンツを好むことくらいは分かる。
だけど、裏を返せばわかることはそれくらいだ。元々彼方自身が、百合作品以外を見えるところに置かないというのもある。正直なところ、好きなアイテムを送るという意味では若葉に軍配が上がってしまうのだ。伊達に付き合いが長いわけじゃない。なにせ若葉と彼方は同じ部活動の、
「ソフトボール部……」
「ん?」
「あ、いや、喜ぶものってのとはちょっと違うんだけど」
「なんだよ。なんかヒントがあるなら教えてくれよ」
ヒントって。クイズかなんかじゃないんだから。
俺は咳ばらいをする仕草をして、
「こほん……えっとね。彼方と辰野さんって、元々ソフトボール部の先輩後輩だったんだって」
「ああー……」
「知ってるの?」
「んー……まあ、一応ね」
そうか。そう言えば彼女は中等部からずっと白百合女学院なんだった。そして彼方はソフトボール部のエースだった。それくらいは知っていてもおかしくない。
「あー……ってことはあの人がもしかして宇佐美先輩だったのか」
「あの人?」
虎子は頬をかきながら、
「あー……これ、宇佐美先輩には内緒な?一緒に試合に出た人を忘れてたなんて失礼だからな……」
「一緒にって、ソフトボール部の試合?」
「そ」
驚いた。
まさかこんなところが繋がるとは。
だけど、虎子はそんな俺の驚きを分かっているようで、手のひらを「ないない」と振って、
「や。別に所属してたわけじゃないよ?だけど、中学に入ったばかりの時だったかなぁ……色んな部活動を見学して回ってた時期があったんだけど、そのよしみで助っ人を頼まれることが結構あってね。ソフトボール部はその一つ」
「出来るの?ソフトボール」
虎子は苦笑いしながら、
「そんなに。今はまあまあ人数いるみたいだけど、あの時期はあんまり部員がいなくてね、流石に経験もなにもない新入生ばっかりで対外試合もなんだろうってことで、俺が呼ばれたってわけ」
「……虎子も新入生なのに?」
「新入生なのに。動けるからいいだろうって判断だったみたい」
なんともとんでもない話だ。だけど、なんでだろう。そんな無茶苦茶な助っ人要請も、虎子ならさらりとこなしてしまいそうな気がしてしまう。美咲の「ヒーロー」という比喩はあながち間違いでもないのかもしれない。
虎子が続ける。
「で、その時、二年生にして既にエースだったのが、宇佐美先輩ってわけ。だけど、そうか……辰野か……」
「会ったことある?」
虎子は思考の海をさまようにして、腕を組んだうえでゆらゆらと揺れながら、
「いやぁ……どーだろ。あんまり覚えて無いなぁ……試合に来てた新入生は俺だけだったと思うし」
「そう、なんだ」
「でもそうか……あの人が宇佐美先輩か……」
「どうしたの?」
「いや、なんか今のイメージと違うなぁって」
「そうなの?」
「ああ。なんていうんだろう……ほら、今の宇佐美先輩って明朗快活な「かっこいいお姉さん」って感じじゃん?」
「あー……」
なるほど。良い表現だと思う。だけど、そのカテゴリには君も入ってると思うよ?自覚はないかもしれないけど。
「でも、あの時の宇佐美先輩……っていうかエースの人はもうちょっとこう、寡黙っていうか……孤高のエースって感じだったんだけどなぁ……」
「へぇ……」
彼方が、寡黙で、孤高のエース。後者は試合に入ってギアが入っただけとして説明が出来るけど、前者は大分思い描いていたイメージと違う感じだ。部活動の場では余り喋らないってだけなんだろうか。
「ま、俺の記憶違いかもしれないけどな。だけど、そうだな……それだったら、あれなんかいいんじゃないか?」
「あれ?」
「ほら、運動用のアイテム。ランニングシューズ……だと、サイズが難しいから、ワイヤレスのイヤフォンとか。服も羽織る系だったら、そんなに間違いないだろうからいけるかな。たしか華より身長高かったよな?」
「あ、うん。っていうかそれくらいなら聞けば教えてくれると思うけど……」
虎子は首を横に振って、
「駄目駄目。そんなことしたらサプライズ感なくなるだろ?サイズなんて聞かれた日にはプレゼントが服だってわかっちゃう。それじゃワクワクしないじゃん。なんだか分からない状態で開けるから楽しいんだって」
なるほど。
一理あるかもしれない。
俺は頷いて、
「そう、だね。それじゃ、聞かなくても何とかなるものにしよっか」
「そうそう。その方がきっと喜んでくれるって。うし。そうと決まったらまずはあそこかな」
「あそこ?……わっ」
虎子が俺の手をがっちりと握り、
「ま、俺に任せとけって」
そう言ってウインクする。うーん……そのカッコよさは美咲にやってほしんだよ。いや、ホントに。俺を落としてどうするんだって話なのよ。ホント。
……ちょっとかっこいいなって思ったのは秘密ね。秘密。
スクランブル交差点を正面にして、
「宇佐美先輩が喜ぶものってなんだろう……」
助っ人・虎子はあっさりと暗礁に乗り上げてしまった。早い。もうちょっと粘ってほしかったよ。
「なあ、華」
「なに?」
「なんかないの?宇佐美先輩が喜びそうなものとか」
百合です。百合作品全般です。
とはとても言えなかった。
虎子がそういった類のものを好きか嫌いかは分からない。
分からないんだけど、それをここであげるということは、今日彼女に付き合ってもらった意味をドブ側のシュートすることに他ならない。超エキサイティングでもなんでもない。休日を一日潰してもらった彼女にも申し訳ない。
ただ、それを除くと正直俺にも分からなかった。
一応、ファッションが大人びていて、スカートよりもパンツを好むことくらいは分かる。
だけど、裏を返せばわかることはそれくらいだ。元々彼方自身が、百合作品以外を見えるところに置かないというのもある。正直なところ、好きなアイテムを送るという意味では若葉に軍配が上がってしまうのだ。伊達に付き合いが長いわけじゃない。なにせ若葉と彼方は同じ部活動の、
「ソフトボール部……」
「ん?」
「あ、いや、喜ぶものってのとはちょっと違うんだけど」
「なんだよ。なんかヒントがあるなら教えてくれよ」
ヒントって。クイズかなんかじゃないんだから。
俺は咳ばらいをする仕草をして、
「こほん……えっとね。彼方と辰野さんって、元々ソフトボール部の先輩後輩だったんだって」
「ああー……」
「知ってるの?」
「んー……まあ、一応ね」
そうか。そう言えば彼女は中等部からずっと白百合女学院なんだった。そして彼方はソフトボール部のエースだった。それくらいは知っていてもおかしくない。
「あー……ってことはあの人がもしかして宇佐美先輩だったのか」
「あの人?」
虎子は頬をかきながら、
「あー……これ、宇佐美先輩には内緒な?一緒に試合に出た人を忘れてたなんて失礼だからな……」
「一緒にって、ソフトボール部の試合?」
「そ」
驚いた。
まさかこんなところが繋がるとは。
だけど、虎子はそんな俺の驚きを分かっているようで、手のひらを「ないない」と振って、
「や。別に所属してたわけじゃないよ?だけど、中学に入ったばかりの時だったかなぁ……色んな部活動を見学して回ってた時期があったんだけど、そのよしみで助っ人を頼まれることが結構あってね。ソフトボール部はその一つ」
「出来るの?ソフトボール」
虎子は苦笑いしながら、
「そんなに。今はまあまあ人数いるみたいだけど、あの時期はあんまり部員がいなくてね、流石に経験もなにもない新入生ばっかりで対外試合もなんだろうってことで、俺が呼ばれたってわけ」
「……虎子も新入生なのに?」
「新入生なのに。動けるからいいだろうって判断だったみたい」
なんともとんでもない話だ。だけど、なんでだろう。そんな無茶苦茶な助っ人要請も、虎子ならさらりとこなしてしまいそうな気がしてしまう。美咲の「ヒーロー」という比喩はあながち間違いでもないのかもしれない。
虎子が続ける。
「で、その時、二年生にして既にエースだったのが、宇佐美先輩ってわけ。だけど、そうか……辰野か……」
「会ったことある?」
虎子は思考の海をさまようにして、腕を組んだうえでゆらゆらと揺れながら、
「いやぁ……どーだろ。あんまり覚えて無いなぁ……試合に来てた新入生は俺だけだったと思うし」
「そう、なんだ」
「でもそうか……あの人が宇佐美先輩か……」
「どうしたの?」
「いや、なんか今のイメージと違うなぁって」
「そうなの?」
「ああ。なんていうんだろう……ほら、今の宇佐美先輩って明朗快活な「かっこいいお姉さん」って感じじゃん?」
「あー……」
なるほど。良い表現だと思う。だけど、そのカテゴリには君も入ってると思うよ?自覚はないかもしれないけど。
「でも、あの時の宇佐美先輩……っていうかエースの人はもうちょっとこう、寡黙っていうか……孤高のエースって感じだったんだけどなぁ……」
「へぇ……」
彼方が、寡黙で、孤高のエース。後者は試合に入ってギアが入っただけとして説明が出来るけど、前者は大分思い描いていたイメージと違う感じだ。部活動の場では余り喋らないってだけなんだろうか。
「ま、俺の記憶違いかもしれないけどな。だけど、そうだな……それだったら、あれなんかいいんじゃないか?」
「あれ?」
「ほら、運動用のアイテム。ランニングシューズ……だと、サイズが難しいから、ワイヤレスのイヤフォンとか。服も羽織る系だったら、そんなに間違いないだろうからいけるかな。たしか華より身長高かったよな?」
「あ、うん。っていうかそれくらいなら聞けば教えてくれると思うけど……」
虎子は首を横に振って、
「駄目駄目。そんなことしたらサプライズ感なくなるだろ?サイズなんて聞かれた日にはプレゼントが服だってわかっちゃう。それじゃワクワクしないじゃん。なんだか分からない状態で開けるから楽しいんだって」
なるほど。
一理あるかもしれない。
俺は頷いて、
「そう、だね。それじゃ、聞かなくても何とかなるものにしよっか」
「そうそう。その方がきっと喜んでくれるって。うし。そうと決まったらまずはあそこかな」
「あそこ?……わっ」
虎子が俺の手をがっちりと握り、
「ま、俺に任せとけって」
そう言ってウインクする。うーん……そのカッコよさは美咲にやってほしんだよ。いや、ホントに。俺を落としてどうするんだって話なのよ。ホント。
……ちょっとかっこいいなって思ったのは秘密ね。秘密。
0
お気に入りに追加
67
あなたにおすすめの小説
彼女の浮気現場を目撃した日に学園一の美少女にお持ち帰りされたら修羅場と化しました
マキダ・ノリヤ
恋愛
主人公・旭岡新世は、部活帰りに彼女の椎名莉愛が浮気している現場を目撃してしまう。
莉愛に別れを告げた新世は、その足で数合わせの為に急遽合コンに参加する。
合コン会場には、学園一の美少女と名高い、双葉怜奈がいて──?
君は今日から美少女だ
藤
恋愛
高校一年生の恵也は友人たちと過ごす時間がずっと続くと思っていた。しかし日常は一瞬にして恵也の考えもしない形で変わることになった。女性になってしまった恵也は戸惑いながらもそのまま過ごすと覚悟を決める。しかしその覚悟の裏で友人たちの今までにない側面が見えてきて……
漫画の寝取り竿役に転生して真面目に生きようとしたのに、なぜかエッチな巨乳ヒロインがぐいぐい攻めてくるんだけど?
みずがめ
恋愛
目が覚めたら読んだことのあるエロ漫画の最低寝取り野郎になっていた。
なんでよりによってこんな悪役に転生してしまったんだ。最初はそう落ち込んだが、よく考えれば若いチートボディを手に入れて学生時代をやり直せる。
身体の持ち主が悪人なら意識を乗っ取ったことに心を痛める必要はない。俺がヒロインを寝取りさえしなければ、主人公は精神崩壊することなくハッピーエンドを迎えるだろう。
一時の快楽に身を委ねて他人の人生を狂わせるだなんて、そんな責任を負いたくはない。ここが現実である以上、NTRする気にはなれなかった。メインヒロインとは適切な距離を保っていこう。俺自身がお天道様の下で青春を送るために、そう固く決意した。
……なのになぜ、俺はヒロインに誘惑されているんだ?
※他サイトでも掲載しています。
※表紙や作中イラストは、AIイラストレーターのおしつじさん(https://twitter.com/your_shitsuji)に外注契約を通して作成していただきました。おしつじさんのAIイラストはすべて商用利用が認められたものを使用しており、また「小説活動に関する利用許諾」を許可していただいています。
3年振りに帰ってきた地元で幼馴染が女の子とエッチしていた
ねんごろ
恋愛
3年ぶりに帰ってきた地元は、何かが違っていた。
俺が変わったのか……
地元が変わったのか……
主人公は倒錯した日常を過ごすことになる。
※他Web小説サイトで連載していた作品です
[完結済み]男女比1対99の貞操観念が逆転した世界での日常が狂いまくっている件
森 拓也
キャラ文芸
俺、緒方 悟(おがた さとる)は意識を取り戻したら男女比1対99の貞操観念が逆転した世界にいた。そこでは男が稀少であり、何よりも尊重されていて、俺も例外ではなかった。
学校の中も、男子生徒が数人しかいないからまるで雰囲気が違う。廊下を歩いてても、女子たちの声だけが聞こえてくる。まるで別の世界みたいに。
そんな中でも俺の周りには優しいな女子たちがたくさんいる。特に、幼馴染の美羽はずっと俺のことを気にかけてくれているみたいで……
男女比1:10000の貞操逆転世界に転生したんだが、俺だけ前の世界のインターネットにアクセスできるようなので美少女配信者グループを作る
電脳ピエロ
恋愛
男女比1:10000の世界で生きる主人公、新田 純。
女性に襲われる恐怖から引きこもっていた彼はあるとき思い出す。自分が転生者であり、ここが貞操の逆転した世界だということを。
「そうだ……俺は女神様からもらったチートで前にいた世界のネットにアクセスできるはず」
純は彼が元いた世界のインターネットにアクセスできる能力を授かったことを思い出す。そのとき純はあることを閃いた。
「もしも、この世界の美少女たちで配信者グループを作って、俺が元いた世界のネットで配信をしたら……」
大好きな彼女を学校一のイケメンに寝取られた。そしたら陰キャの僕が突然モテ始めた件について
ねんごろ
恋愛
僕の大好きな彼女が寝取られた。学校一のイケメンに……
しかし、それはまだ始まりに過ぎなかったのだ。
NTRは始まりでしか、なかったのだ……
お兄ちゃんが私にぐいぐいエッチな事を迫って来て困るんですけど!?
さいとう みさき
恋愛
私は琴吹(ことぶき)、高校生一年生。
私には再婚して血の繋がらない 二つ年上の兄がいる。
見た目は、まあ正直、好みなんだけど……
「好きな人が出来た! すまんが琴吹、練習台になってくれ!!」
そう言ってお兄ちゃんは私に協力を要請するのだけど、何処で仕入れた知識だかエッチな事ばかりしてこようとする。
「お兄ちゃんのばかぁっ! 女の子にいきなりそんな事しちゃダメだってばッ!!」
はぁ、見た目は好みなのにこのバカ兄は目的の為に偏った知識で女の子に接して来ようとする。
こんなんじゃ絶対にフラれる!
仕方ない、この私がお兄ちゃんを教育してやろーじゃないの!
実はお兄ちゃん好きな義妹が奮闘する物語です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる