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Ⅱ-Ⅳ.渋谷DEデート

67.地味な女の子の落とし方。

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「とは言ったものの……」

 スクランブル交差点を正面にして、

宇佐美うさみ先輩が喜ぶものってなんだろう……」

 助っ人・虎子とらこはあっさりと暗礁に乗り上げてしまった。早い。もうちょっと粘ってほしかったよ。

「なあ、はな

「なに?」

「なんかないの?宇佐美先輩が喜びそうなものとか」

 百合です。百合作品全般です。

 とはとても言えなかった。

 虎子がそういった類のものを好きか嫌いかは分からない。

 分からないんだけど、それをここであげるということは、今日彼女に付き合ってもらった意味をドブ側のシュートすることに他ならない。超エキサイティングでもなんでもない。休日を一日潰してもらった彼女にも申し訳ない。

 ただ、それを除くと正直俺にも分からなかった。

 一応、ファッションが大人びていて、スカートよりもパンツを好むことくらいは分かる。

 だけど、裏を返せばわかることはそれくらいだ。元々彼方自身が、百合作品以外を見えるところに置かないというのもある。正直なところ、好きなアイテムを送るという意味では若葉に軍配が上がってしまうのだ。伊達に付き合いが長いわけじゃない。なにせ若葉と彼方は同じ部活動の、

「ソフトボール部……」

「ん?」

「あ、いや、喜ぶものってのとはちょっと違うんだけど」

「なんだよ。なんかヒントがあるなら教えてくれよ」

 ヒントって。クイズかなんかじゃないんだから。

 俺は咳ばらいをする仕草をして、

「こほん……えっとね。彼方かなた辰野たつのさんって、元々ソフトボール部の先輩後輩だったんだって」

「ああー……」

「知ってるの?」

「んー……まあ、一応ね」

 そうか。そう言えば彼女は中等部からずっと白百合女学院なんだった。そして彼方はソフトボール部のエースだった。それくらいは知っていてもおかしくない。

「あー……ってことはあの人がもしかして宇佐美先輩だったのか」

「あの人?」

 虎子は頬をかきながら、

「あー……これ、宇佐美先輩には内緒な?一緒に試合に出た人を忘れてたなんて失礼だからな……」

「一緒にって、ソフトボール部の試合?」

「そ」

 驚いた。

 まさかこんなところが繋がるとは。

 だけど、虎子はそんな俺の驚きを分かっているようで、手のひらを「ないない」と振って、

「や。別に所属してたわけじゃないよ?だけど、中学に入ったばかりの時だったかなぁ……色んな部活動を見学して回ってた時期があったんだけど、そのよしみで助っ人を頼まれることが結構あってね。ソフトボール部はその一つ」

「出来るの?ソフトボール」

 虎子は苦笑いしながら、

「そんなに。今はまあまあ人数いるみたいだけど、あの時期はあんまり部員がいなくてね、流石に経験もなにもない新入生ばっかりで対外試合もなんだろうってことで、俺が呼ばれたってわけ」

「……虎子も新入生なのに?」

「新入生なのに。動けるからいいだろうって判断だったみたい」

 なんともとんでもない話だ。だけど、なんでだろう。そんな無茶苦茶な助っ人要請も、虎子ならさらりとこなしてしまいそうな気がしてしまう。美咲の「ヒーロー」という比喩はあながち間違いでもないのかもしれない。

 虎子が続ける。

「で、その時、二年生にして既にエースだったのが、宇佐美先輩ってわけ。だけど、そうか……辰野か……」

「会ったことある?」

 虎子は思考の海をさまようにして、腕を組んだうえでゆらゆらと揺れながら、

「いやぁ……どーだろ。あんまり覚えて無いなぁ……試合に来てた新入生は俺だけだったと思うし」

「そう、なんだ」

「でもそうか……あの人が宇佐美先輩か……」

「どうしたの?」

「いや、なんか今のイメージと違うなぁって」

「そうなの?」

「ああ。なんていうんだろう……ほら、今の宇佐美先輩って明朗快活な「かっこいいお姉さん」って感じじゃん?」

「あー……」

 なるほど。良い表現だと思う。だけど、そのカテゴリには君も入ってると思うよ?自覚はないかもしれないけど。

「でも、あの時の宇佐美先輩……っていうかエースの人はもうちょっとこう、寡黙っていうか……孤高のエースって感じだったんだけどなぁ……」

「へぇ……」

 彼方が、寡黙で、孤高のエース。後者は試合に入ってギアが入っただけとして説明が出来るけど、前者は大分思い描いていたイメージと違う感じだ。部活動の場では余り喋らないってだけなんだろうか。

「ま、俺の記憶違いかもしれないけどな。だけど、そうだな……それだったら、あれなんかいいんじゃないか?」

「あれ?」

「ほら、運動用のアイテム。ランニングシューズ……だと、サイズが難しいから、ワイヤレスのイヤフォンとか。服も羽織る系だったら、そんなに間違いないだろうからいけるかな。たしか華より身長高かったよな?」

「あ、うん。っていうかそれくらいなら聞けば教えてくれると思うけど……」

 虎子は首を横に振って、

「駄目駄目。そんなことしたらサプライズ感なくなるだろ?サイズなんて聞かれた日にはプレゼントが服だってわかっちゃう。それじゃワクワクしないじゃん。なんだか分からない状態で開けるから楽しいんだって」

 なるほど。

 一理あるかもしれない。

 俺は頷いて、

「そう、だね。それじゃ、聞かなくても何とかなるものにしよっか」

「そうそう。その方がきっと喜んでくれるって。うし。そうと決まったらまずはあそこかな」

「あそこ?……わっ」

 虎子が俺の手をがっちりと握り、

「ま、俺に任せとけって」

 そう言ってウインクする。うーん……そのカッコよさは美咲みさきにやってほしんだよ。いや、ホントに。俺を落としてどうするんだって話なのよ。ホント。

 ……ちょっとかっこいいなって思ったのは秘密ね。秘密。
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