百合カップルを眺めるモブになりたかっただけなのに。

蒼風

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Ⅱ-Ⅲ.様々な友人関係

63.人間関係悲喜こもごも。

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「なんだか、とんでもないことになっちゃったね……」

「そう、だね……」

 若葉わかばが嵐のようにして部屋を去り、彼方かなたが制服から私服に着替えた後、改めて状況の整理をしていた。

 彼方曰く、ちょっとした戯れのつもりだったという。

 自分を慕ってくれている後輩が、自分の部屋にずっと来たがっていた。

 だけど、若葉と俺の相性が余り良くない。だからずっと二の足を踏んでいたのだという。

 ところが、機会は訪れた。

 俺が外出し、暫く戻らないという。

 それならば、鉢合わせることも無いだろう。そう思った彼方は部屋に若葉を招待することにした。

「制服を着てみて欲しいって言われてさ。私からしてみたら「なんでそんなこと?」って思ったんだけど、辰野がどうしてもって言うから、着てみたんだよね。そしたら、まあ、あんなことに」

「ははは……」

 どうやら若葉は、彼方の制服姿が気に入っているらしかった。

 だから、彼方はその願いをかなえてあげた。

 その顛末は……もはや説明するまでも無いだろう。

辰野たつのはね、あんまり友達がいないんだよ」

 突然だった。

 突然すぎてろくな反応も出来なかった。

 そんな俺をよそに、彼方は続ける。

「私と辰野はね、一緒の部活動だったんだ」

「一緒のって……何部だったの?」

「ソフトボール部。そうは見えないかもしれないけど、これでも割と活躍してたんだよ?」

 そう言って力こぶを作る仕草をする彼方。

 彼方がソフトボール部。余り印象はないけれど、想像してみるとしっくりくる気もする。

「……辰野は、特に私を慕ってくれた後輩だった。私もそれが嬉しくてね。今考えると思いあがってたところもあったんだろうけど、辰野のことを随分構ってたんだ」

 彼方はそこで言葉を切って、

「……でも、辰野は部活をやめた」

「やめた……」

「理由はね、実は今でも分かってないんだ。その時のことをほとんど語らないしね、辰野は。だけど、同級生との不仲があったのは間違いないみたいだから、きっとその辺かな」

 人間関係による退部。

 ありえない話ではない。

 けれど、あの若葉が?とも思う。失礼な印象かもしれないが、彼女がその程度で部活動をやめるような気がしない。むしろ躍起になって続けるような気すらする。もちろん、彼方がやめてしまっていたのならば話は別だと思うけど。

 だけど、

「ちなみになんだけど、彼方は部活動を」

「続けたよ。エースだったしね、これでも」

 そう。

 彼方が続けている以上、やめる理由なんかないはずなのだ。

 むしろ、彼方が続けているから続けるという可能性すらあるはずだ。少なくとも、俺の目から見た辰野若葉はそういう人間だ。

 彼方がとつとつと、

「同級生にはね、妬まれたんじゃないかって言われた」

「妬まれた?」

「そ。辰野はね、お世辞にもうまいってわけではなかったからね。そんな子が、部のエースともいえる人間に贔屓されてるってのは、良く思わない人間がいてもおかしくはないと思うって言われたよ」

「あぁ……」

 分からない話ではない。

 とみに運動部というのは上意下達、一つの集団として同じ方向を向いていることが重要視される。その方向は様々だろうけど、きっと試合での勝利も含まれているはずだ。

 そんな勝利に貢献できるわけでもない、自分より下手な同級生が、凄い先輩に贔屓されている。あまりいい気持ちはしなかったかもしれない。

 実のところ彼方が贔屓したりしているわけではないし、試合ともなれば、そんな関係性に縛られるような人間ではないことなんて、普段の彼女を見ていれば分かるはずなんだけど、そこまで頭は回らなかったのだろう。

「だからね、辰野のことは後輩として大切に思ってるし、慕ってくれるのは嬉しいと思ってる。だけど、そろそろ私から離れてもいいんじゃないかなって思ったりもするんだよね」

 苦笑い。

 そこには彼方なりの苦悩がにじみ出ていた。

 きっと、彼女は彼女なりに若葉のことを考えてきたに違いない。だけど、結論は出なかった。だから今でもこうして「愛情を向ける後輩」と「それを受け取る先輩」という立ち位置を変えていないのだろう。

「勝負、受けた方がいいかな?」

 彼方は「降参」と言った具合に、肩をすくめ、

はなに任せる」

「もし、勝負を受けなかったら?」

「その時は私がなんとかしておくよ。多分辰野は不満たらたらだとは思うけど、まあ、そもそも華はさっき明確に勝負を受けたわけじゃないからね」

 確かに。

 若葉は俺に対して宣戦布告をしただけだし、俺も取り合えずの相槌を打っただけに過ぎない。勝負の約束を取り付けたわけでもなければ、具体的な内容をつめたわけでもない。どうしたら勝利なのかも分からないし、いつ渡すのかも分からない。今分かっているのは彼方の誕生日が来たる四月二十五日ということだけだ。

「……勝負を受ける……かは、分からないけど。誕生日プレゼントは用意するよ」

 彼方は申し訳なさそうに、

「そう?良いんだよ、別に。意地を張らなくても」

 俺は首を横に振り、

「ううん。意地とかじゃなくて、誕生日はほら、やっぱり祝いたいから、さ」

 そうだ。

 勝負なんて関係ない。ルームメイトにして同じ趣味を持つ同好の士である彼方の誕生部なんだ。お祝いにプレゼントをするくらい当たり前じゃないか。

 彼方は不器用に笑い、

「あ、ありがと。でも、それなら、華の誕生日にはお返しをしないといけないね」

「そんな、いいよ別に」

「いいっていいって。誕生日は私も祝いたいから、ね?」

 そう言って彼方はにかっと笑った。いつもの、彼方だった。
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