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Ⅱ-Ⅲ.様々な友人関係
61.野獣と化した後輩。
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結局のところ悩みは解消しなかった。
未来は自称ではあるものの天才医師だし、その腕前は一私立高校にとどまっていいレベルでは無いのかもしれない。
しかし、それはあくまで彼女が「手を下した場合」だ。
碧の時だってそうだった。彼女に出来るのはあくまで手助けだ。崖の下に落ちてしまった子供に対して手を差し伸べることだけだ。差し伸べられた手を取る選択をするのはいつだって、崖の下に落ちてしまった子供自身だ。
相手に「助けて欲しい」という意思が無ければ。もっと言えば「自分は問題のある状態だ」と認識していなければ、その手を握ることは無いだろう。そうなってしまうといかに未来といえども無力なのだ。
一応、対話の中から可能性を見出すことは出来るだろう。
ただ、それにしたって途方もなく気の長い話になるはずだ。そんな時間、美咲や虎子が果たして付き合ってくれるだろうか?
美咲はともかく、虎子がそんな時間を費やすとは思えない。だって彼女は今の状態に問題なんて感じていないんだから。時間が限られていることを受け入れて、その時間を全力で楽しむ。その選択をしているのだから。
(悩んでも仕方ない……んだけどな)
分かっている。こんなものは俺一人でどうにかなるレベルじゃないってことなんて。
仮に美咲を説得して、虎子相手に告白させたとしても、それを虎子が受け取ってくれるとは思えない。それが恋愛感情に至っていないとか、美咲のことをそこまで好きじゃないという理由ならまだどうにかすることは出来たかもしれない。
けれど、今回に限っては逆なんだ。
虎子は「美咲のことが好きだからこそ、告白は受けない」んだ。
そこにどれだけ熱烈な告白をしても意味はない。暖簾に腕押し、糠に釘。そんな徒労だけで終わってくれればむしろまだいい方だ。そんな告白を受けた虎子と美咲が、今まで通りの関係性を保てるかは正直、分からない。
「はぁああああああ~…………」
寮の廊下で、誰も聞いていないのを良いことに、最早何度目かも分からない深いため息をつく。
(俺が悩むことでもないんだけどな……)
分かっている。
これは俺の問題ではない。
美咲と虎子の問題だ。
だけど、俺にはどうしても見過ごせない。
だって彼女ら二人は、あらゆる障害を取り除いてさえすれば、無事に結ばれて、カップルとなってもおかしくないからだ。
別に百合恋愛を見たいとか、二人のノロケを聞きたいとかそんなことだけが理由ではない。まだ付き合いは短いけど、二人は友達なんだ。困ってたら、やっぱりどうにかしてあげたい。何せこの世界は一応、俺の願いをかなえた世界なんだから。そこで起きる問題はやっぱり看過しづらいものがある。
「201ね」
と、そんなことを考えているうちに、自室……より正確に言うと俺と彼方の部屋についた。
この部屋に戻ってくるのにもすっかり慣れてしまった。恐ろしいもんだ。女子寮の一室に「帰ってくる」なんてことが常態化してるなんて。まあ、俺も外見は立派に女子高校生なんだけど。
俺はさっと部屋の鍵を開けて、扉を開き、
「ただいまー」
といつも通りの帰りの挨拶を、
「ちょ、ちょっと…………華が返って来たから」
「そんなの今どうでもいいですよ……さ、続きをしますよ……」
「ちょ、そこは駄目だって……!」
なんだろう。
明らかに不穏な内容の会話が聞こえる。
片方は彼方だろう。この部屋の住人なんだから当然だ。
では、もう片方は?
ここは女子寮だ。男性が入ることは固く禁じられているし、学院の敷地内に入るのも難しいとは思うが、裏を返せば、学院に在籍する女性ならば誰でも出入り出来る、ということでもある。
各々の部屋には鍵がかかっていて、その鍵は基本的に部屋の住人──201号室なら俺と彼方──しか持っておらず、合い鍵を作っていない限り、二人に招待されなければこの部屋に入ることは不可能なはずだ。
従って、今聴こえている声の主を部屋に招き入れたのは彼方であって、空き巣や、変質者の類ではありえないはずなのだが、
「ふへへへへへへへへ…………」
「ちょっと………やめてって……」
うん。
どう聞いても変質者とその被害にあう彼方という構図にしか聞こえない。
その変質者を招き入れたのも彼方である以上、責任は彼女のあるのかもしれないけど、流石にここまで一方的な変態行為だと気にはなる。仕方ない。気は進まないけど、止めに入ることにしよう。俺はそう思って、部屋の中央部分まで進み、
「は、華……助けて」
「あばれんなよ……あばれんなよ……」
視界が広くなる。
部屋の奥。彼方のベッドの上にいる二人の人物が目に入る。
片方は宇佐美彼方。制服は半脱ぎで、ブラのホックも今まさに外されようとしている状態だ。
もう片方は辰野若葉。こちらの制服はほとんど乱れていなかったけど、代わりに息が乱れていた。
目は不自然なくらい爛々と輝き、手はわきわきと実にすけべったらしい動きをし、身体はしっかりと彼方にまたがることで逃げ道を無くして、口元からはよだれをたらし、鼻息は過呼吸かと思わんばかりに荒かった。
この光景を見たら、きっと皆同じ感想を抱くと思う。皆そうする、俺だってそうする。
きっとこの心は同じはずだ。それでは皆さんご一緒に。
「変態だーーーーーーーー!!!!!!!!」
お後がよろしいようで。
……よろしいのか、これ?
未来は自称ではあるものの天才医師だし、その腕前は一私立高校にとどまっていいレベルでは無いのかもしれない。
しかし、それはあくまで彼女が「手を下した場合」だ。
碧の時だってそうだった。彼女に出来るのはあくまで手助けだ。崖の下に落ちてしまった子供に対して手を差し伸べることだけだ。差し伸べられた手を取る選択をするのはいつだって、崖の下に落ちてしまった子供自身だ。
相手に「助けて欲しい」という意思が無ければ。もっと言えば「自分は問題のある状態だ」と認識していなければ、その手を握ることは無いだろう。そうなってしまうといかに未来といえども無力なのだ。
一応、対話の中から可能性を見出すことは出来るだろう。
ただ、それにしたって途方もなく気の長い話になるはずだ。そんな時間、美咲や虎子が果たして付き合ってくれるだろうか?
美咲はともかく、虎子がそんな時間を費やすとは思えない。だって彼女は今の状態に問題なんて感じていないんだから。時間が限られていることを受け入れて、その時間を全力で楽しむ。その選択をしているのだから。
(悩んでも仕方ない……んだけどな)
分かっている。こんなものは俺一人でどうにかなるレベルじゃないってことなんて。
仮に美咲を説得して、虎子相手に告白させたとしても、それを虎子が受け取ってくれるとは思えない。それが恋愛感情に至っていないとか、美咲のことをそこまで好きじゃないという理由ならまだどうにかすることは出来たかもしれない。
けれど、今回に限っては逆なんだ。
虎子は「美咲のことが好きだからこそ、告白は受けない」んだ。
そこにどれだけ熱烈な告白をしても意味はない。暖簾に腕押し、糠に釘。そんな徒労だけで終わってくれればむしろまだいい方だ。そんな告白を受けた虎子と美咲が、今まで通りの関係性を保てるかは正直、分からない。
「はぁああああああ~…………」
寮の廊下で、誰も聞いていないのを良いことに、最早何度目かも分からない深いため息をつく。
(俺が悩むことでもないんだけどな……)
分かっている。
これは俺の問題ではない。
美咲と虎子の問題だ。
だけど、俺にはどうしても見過ごせない。
だって彼女ら二人は、あらゆる障害を取り除いてさえすれば、無事に結ばれて、カップルとなってもおかしくないからだ。
別に百合恋愛を見たいとか、二人のノロケを聞きたいとかそんなことだけが理由ではない。まだ付き合いは短いけど、二人は友達なんだ。困ってたら、やっぱりどうにかしてあげたい。何せこの世界は一応、俺の願いをかなえた世界なんだから。そこで起きる問題はやっぱり看過しづらいものがある。
「201ね」
と、そんなことを考えているうちに、自室……より正確に言うと俺と彼方の部屋についた。
この部屋に戻ってくるのにもすっかり慣れてしまった。恐ろしいもんだ。女子寮の一室に「帰ってくる」なんてことが常態化してるなんて。まあ、俺も外見は立派に女子高校生なんだけど。
俺はさっと部屋の鍵を開けて、扉を開き、
「ただいまー」
といつも通りの帰りの挨拶を、
「ちょ、ちょっと…………華が返って来たから」
「そんなの今どうでもいいですよ……さ、続きをしますよ……」
「ちょ、そこは駄目だって……!」
なんだろう。
明らかに不穏な内容の会話が聞こえる。
片方は彼方だろう。この部屋の住人なんだから当然だ。
では、もう片方は?
ここは女子寮だ。男性が入ることは固く禁じられているし、学院の敷地内に入るのも難しいとは思うが、裏を返せば、学院に在籍する女性ならば誰でも出入り出来る、ということでもある。
各々の部屋には鍵がかかっていて、その鍵は基本的に部屋の住人──201号室なら俺と彼方──しか持っておらず、合い鍵を作っていない限り、二人に招待されなければこの部屋に入ることは不可能なはずだ。
従って、今聴こえている声の主を部屋に招き入れたのは彼方であって、空き巣や、変質者の類ではありえないはずなのだが、
「ふへへへへへへへへ…………」
「ちょっと………やめてって……」
うん。
どう聞いても変質者とその被害にあう彼方という構図にしか聞こえない。
その変質者を招き入れたのも彼方である以上、責任は彼女のあるのかもしれないけど、流石にここまで一方的な変態行為だと気にはなる。仕方ない。気は進まないけど、止めに入ることにしよう。俺はそう思って、部屋の中央部分まで進み、
「は、華……助けて」
「あばれんなよ……あばれんなよ……」
視界が広くなる。
部屋の奥。彼方のベッドの上にいる二人の人物が目に入る。
片方は宇佐美彼方。制服は半脱ぎで、ブラのホックも今まさに外されようとしている状態だ。
もう片方は辰野若葉。こちらの制服はほとんど乱れていなかったけど、代わりに息が乱れていた。
目は不自然なくらい爛々と輝き、手はわきわきと実にすけべったらしい動きをし、身体はしっかりと彼方にまたがることで逃げ道を無くして、口元からはよだれをたらし、鼻息は過呼吸かと思わんばかりに荒かった。
この光景を見たら、きっと皆同じ感想を抱くと思う。皆そうする、俺だってそうする。
きっとこの心は同じはずだ。それでは皆さんご一緒に。
「変態だーーーーーーーー!!!!!!!!」
お後がよろしいようで。
……よろしいのか、これ?
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