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Ⅱ-Ⅱ.幼き日々と、淡い思い出。
55.幼馴染が出来るまで。
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美咲はとつとつと続きを語りだす。
「それで、ね。引っ越しの当日に私と両親で挨拶に行ったの。私は小学校にも上がる前だったからそんなに緊張してなかったと思うんだけど、パパとママはがちがちに緊張してたって、当たり前だよね。相手の家が家だから」
それはまあ、緊張するだろう。美咲の話を聞く限り、虎子の家は相当な大金持ちだ。
その家に挨拶に行く。言い方は良くないが、相手の機嫌を損ねたら、それこそ美咲一家など軽く吹き飛ばされるような相手かもしれないのだ。緊張もするだろう。
「で、当日。引っ越しの挨拶に行ったとき、私とトラは出会った。流石の私でも家に入った時点で「とんでもないところにきた」っていうのは分かってたし、トラのお父様も割といかつい方だったから、すっかり委縮しちゃってたし、その家の娘さんって紹介されても、私とは住む世界が違う存在だった思っちゃってた。だけどね、トラ、その時とんでもないこと言ったのよ。なんていったと思う?」
「え?えーっと……一緒に遊ぼう?とか」
美咲が少し驚いた顔を見せた後微笑んで、
「惜しいけど不正解。正解はね「お人形さんみたいだね!」よ」
「お人形さん……」
なるほど。言いそうな気がする。今の虎子でも正直そこまで違和感がないが、彼女の時を戻して幼稚園児にした場合、その台詞は確かにしっくりくると思う。
美咲が再び続ける。
「私もびっくりしちゃって。お人形さんってどういうこと?って聞き返して。そしたら、だって俺と違って女の子みたいで可愛いからって」
うわぁ。
二言目にはもう可愛いですか、虎子さん。俺が言えることじゃないけど、流石に節操が無さすぎると思いますよ?
美咲は手元に抱えたコーヒーカップの中を覗き込みながら、
「その後はね、トラのお父様から「部屋に戻ってなさい」って言われちゃって。そしたらトラは「分かった」って言った後に、私の手を取ったの。「一緒に遊ぼ」って。私びっくりしちゃって。パパもママも不測過ぎる出来事で浮足だっちゃってたし。トラのお父様はお父様で、だんまりだったし、どうしようってなった。だけど、トラがこっちを見てにかって笑ってくれたのを見て、「一緒に行ってもいいかな」って気持ちになったの」
「な、なるほど」
かぁーーーーーーーー!!!!!!!!
なんという女たらし。いや、男とも仲が良いのか。じゃあ人間たらし。あれ、この手のフレーズ、ちょっと前に聞いた気がするぞ。まあいいや。
そんなことよりも虎子だ。なんとまあイケメンムーヴをするんだ。出会いがしらに可愛いって言って、隙あらば自分の部屋に連れ込むなんて。どうして今!それをしないんだ!どこであんなヘタレ(※華の勝手な解釈です)になってしまったんだ!お父さんは情けないよ!(※華の以下略)
そんな華の心の叫びなど知る由もない美咲はぽつりぽつりと、
「それから私とトラは仲良くなった。最初は私にちょっと戸惑いがあったけど、トラはそんな壁もぐいぐい乗り越えてきてくれた。次第に私もトラに対して冗談とか、嫌みとか、そういうことが言えるようになっていったの」
「それで、今みたいな感じに?」
そう。
小さいころに出会った二人は、虎子の猛烈なアプローチによって友達になり、将来的には恋人に……なるかは分からないけど、少なくともそれくらいに仲良くなった。それで終わり。めでたしめでたし。ハッピーエンド。ここまでの話を聞いているとそんな物語も垣間見えた。
けれど、
「……この話にはね、続きがあるの」
美咲が首を横に振って否定し、
「確かに、トラと私はずっと仲が良いわ。小さな……この間みたいな喧嘩はするけど、それくらい。それこそ二日以上仲たがいをしたことはないわ」
そこで言葉を切って、手元のコーヒーに口をつけて、
「小学生になるって時、私とトラは同じ学校に通うことになった。幼稚園は違ったから、私は嬉しかった。一緒の学校に通える。学校に行ってもトラがいる。トラと遊べる。それが楽しみだった。幸運にも、クラス分けで別にされることもなくて、私とトラは無事に同じクラスに入ることが出来た」
少しの間を置いて、
「私は嬉しかった。だから、私は休み時間になったらトラのところに行くようになってた。それが習慣だったし、トラも喜んでくれてた。少なくとも、私からはそう見えた」
「それは……きっと嬉しかったんだと思うよ。虎子も」
美咲は不器用に笑い、
「ありがとう。でもね、ある日私は気がついちゃったの。トラの周りにいるのは私だけじゃないんだって」
「周りに……」
「そう。ほら、トラってあの性格じゃない。だから男子とも女子ともすぐ仲良くなれるのよ。だから、気が付いたときにはトラの周りには私以外にも沢山のクラスメートがいた。トラはね、クラスの中心になるような、そんな存在だったの」
トラがクラスの中心になって、皆の人気者となる。容易に想像が出来た。
今でこそ彼女は美咲(や俺)と過ごす時間が多くなっている。
けれど、それだけではない。学校は女学院だから男子と、という姿はほとんど見てこなかったが、それだって今日のケンヤたちとの接し方を見ればはっきりと分かる。彼女はきっと、同性にも異性にも人気者なのだ。
美咲が目線を伏して、
「それでね。その時、私思ったの。ああ、虎子はみんなのヒーローなんだって。私だけのものじゃないんだって。独占しちゃダメなんだって」
「それで、ね。引っ越しの当日に私と両親で挨拶に行ったの。私は小学校にも上がる前だったからそんなに緊張してなかったと思うんだけど、パパとママはがちがちに緊張してたって、当たり前だよね。相手の家が家だから」
それはまあ、緊張するだろう。美咲の話を聞く限り、虎子の家は相当な大金持ちだ。
その家に挨拶に行く。言い方は良くないが、相手の機嫌を損ねたら、それこそ美咲一家など軽く吹き飛ばされるような相手かもしれないのだ。緊張もするだろう。
「で、当日。引っ越しの挨拶に行ったとき、私とトラは出会った。流石の私でも家に入った時点で「とんでもないところにきた」っていうのは分かってたし、トラのお父様も割といかつい方だったから、すっかり委縮しちゃってたし、その家の娘さんって紹介されても、私とは住む世界が違う存在だった思っちゃってた。だけどね、トラ、その時とんでもないこと言ったのよ。なんていったと思う?」
「え?えーっと……一緒に遊ぼう?とか」
美咲が少し驚いた顔を見せた後微笑んで、
「惜しいけど不正解。正解はね「お人形さんみたいだね!」よ」
「お人形さん……」
なるほど。言いそうな気がする。今の虎子でも正直そこまで違和感がないが、彼女の時を戻して幼稚園児にした場合、その台詞は確かにしっくりくると思う。
美咲が再び続ける。
「私もびっくりしちゃって。お人形さんってどういうこと?って聞き返して。そしたら、だって俺と違って女の子みたいで可愛いからって」
うわぁ。
二言目にはもう可愛いですか、虎子さん。俺が言えることじゃないけど、流石に節操が無さすぎると思いますよ?
美咲は手元に抱えたコーヒーカップの中を覗き込みながら、
「その後はね、トラのお父様から「部屋に戻ってなさい」って言われちゃって。そしたらトラは「分かった」って言った後に、私の手を取ったの。「一緒に遊ぼ」って。私びっくりしちゃって。パパもママも不測過ぎる出来事で浮足だっちゃってたし。トラのお父様はお父様で、だんまりだったし、どうしようってなった。だけど、トラがこっちを見てにかって笑ってくれたのを見て、「一緒に行ってもいいかな」って気持ちになったの」
「な、なるほど」
かぁーーーーーーーー!!!!!!!!
なんという女たらし。いや、男とも仲が良いのか。じゃあ人間たらし。あれ、この手のフレーズ、ちょっと前に聞いた気がするぞ。まあいいや。
そんなことよりも虎子だ。なんとまあイケメンムーヴをするんだ。出会いがしらに可愛いって言って、隙あらば自分の部屋に連れ込むなんて。どうして今!それをしないんだ!どこであんなヘタレ(※華の勝手な解釈です)になってしまったんだ!お父さんは情けないよ!(※華の以下略)
そんな華の心の叫びなど知る由もない美咲はぽつりぽつりと、
「それから私とトラは仲良くなった。最初は私にちょっと戸惑いがあったけど、トラはそんな壁もぐいぐい乗り越えてきてくれた。次第に私もトラに対して冗談とか、嫌みとか、そういうことが言えるようになっていったの」
「それで、今みたいな感じに?」
そう。
小さいころに出会った二人は、虎子の猛烈なアプローチによって友達になり、将来的には恋人に……なるかは分からないけど、少なくともそれくらいに仲良くなった。それで終わり。めでたしめでたし。ハッピーエンド。ここまでの話を聞いているとそんな物語も垣間見えた。
けれど、
「……この話にはね、続きがあるの」
美咲が首を横に振って否定し、
「確かに、トラと私はずっと仲が良いわ。小さな……この間みたいな喧嘩はするけど、それくらい。それこそ二日以上仲たがいをしたことはないわ」
そこで言葉を切って、手元のコーヒーに口をつけて、
「小学生になるって時、私とトラは同じ学校に通うことになった。幼稚園は違ったから、私は嬉しかった。一緒の学校に通える。学校に行ってもトラがいる。トラと遊べる。それが楽しみだった。幸運にも、クラス分けで別にされることもなくて、私とトラは無事に同じクラスに入ることが出来た」
少しの間を置いて、
「私は嬉しかった。だから、私は休み時間になったらトラのところに行くようになってた。それが習慣だったし、トラも喜んでくれてた。少なくとも、私からはそう見えた」
「それは……きっと嬉しかったんだと思うよ。虎子も」
美咲は不器用に笑い、
「ありがとう。でもね、ある日私は気がついちゃったの。トラの周りにいるのは私だけじゃないんだって」
「周りに……」
「そう。ほら、トラってあの性格じゃない。だから男子とも女子ともすぐ仲良くなれるのよ。だから、気が付いたときにはトラの周りには私以外にも沢山のクラスメートがいた。トラはね、クラスの中心になるような、そんな存在だったの」
トラがクラスの中心になって、皆の人気者となる。容易に想像が出来た。
今でこそ彼女は美咲(や俺)と過ごす時間が多くなっている。
けれど、それだけではない。学校は女学院だから男子と、という姿はほとんど見てこなかったが、それだって今日のケンヤたちとの接し方を見ればはっきりと分かる。彼女はきっと、同性にも異性にも人気者なのだ。
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