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Ⅱ-Ⅰ.幼馴染と変則デート
50.一般的にはただの友情、華的には完全に百合。
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「さて、これからどうする?」
虎子がそう切り出す。
場所は専門店街の入り口付近。俺たち三人は無事に服選び(主に俺の着せ替え)を終えて、いったん振り出し部分に戻ってきていた。
結局、あれから俺はずっと着せ替え人形状態だった。
流石に水着や下着類に着替えさせようとしたときにはNGを出したけど、それ以外に関しては抵抗をしなかったので、虎子たちも面白がって「これはどうだ」「これなんかに会うんじゃないか」と色んな服をもってきてては俺に着させていた。
最初こそそのまま押し倒されるんじゃないかというレベルの危機感を覚える鼻息の荒さを見せていた美咲も、後半は虎子と「どちらが華ちゃんに似合う服を選べるか」という勝負をしていた。
まあ、それも最終的にはよく分からないテンションで選ばれた「まあ、俺が着ることは未来永劫ないだろう」というぶっ飛んだ服を持ってきては爆笑するという展開になっていたんだけどね。
正直、もっときわどい服ばかりを着させられるのかと思っていたので、拍子抜けした半面、後半は純粋に楽しんでしまっていた。
いけない。このままだとただの仲良し三人組だ。これでは永遠に百合カップルは成立しない。三人組で恋愛が発生した場合、高確率で三角関係になるに違いない。しかもその場合(自惚れでなければ)奪い合いになるのは多分俺だ。なんでだろう。俺はモブだって言ってるじゃないか。
美咲が全体マップを眺めながら、
「そうね……お昼……にはまだ早いし、どこか行きたいところある?華ちゃん」
何故か俺に振ってくる。俺は戸惑いつつも、
「え!?えーっと……」
さて。困った。ぶっちゃけこの専門店街は俺のアウェーに他ならない。今美咲が眺めているマップに書いてある店名も大半は全く聞いたことが無い。見覚えがあるのは、どこにでもあるファーストフード店と、トイザ○スと、
「劇場版……」
思わず声に出してしまう。
仕方ない。だって視界に映ってしまったんだから。
俺が見ていたのは美咲の見ている全体マップではなく、その隣。やや離れたところに貼ってあった映画の広告だ。
タイトルは『折木さんと青い華』。
百合界隈ではちょっとした有名作品で、劇場版アニメーションの制作が決定していた作品だ。一応、スピンオフ作品ではあるものの、どちらかといえばこちらの知名度が高く、これだけ知っているという人も少なくない。
百合とはいったものの、どちらかといえば、女の子同士の友情作品という色合いが強く、これを百合と解釈するのは読み手の勝手な妄想でしかない部分もある作品なわけだが、この世界ではもう上映しているらしい。完全に不意打ちを食らってしまった。今度、その辺の前後関係を彼方と話すことですり合わせておいたほうがいいかもしれないな。
が、それは今後の対策でしかない。こと今回に関しては既に手遅れで、
「劇場版?」
美咲が疑問形で聞き返し、
「華、もしかしてこれ?」
虎子が目ざとくも俺の見ていたポスターを発見する。連係プレーをやめないか君たち。どうしてこういうときだけ幼馴染の結束を見せつけてくるんだ。
俺は周囲を見渡す。周りに「劇場版」というフレーズを誤魔化せそうなものは一切ない。あるのは『折木さんと青い華』。のポスターくらいだ。
まあいいや。別にこれはガッチガチの百合作品ってわけじゃない。美咲と虎子が見てもなんら問題は無いだろう。むしろ、それに触発されて、二人の仲が進展するかもしれない。
腹をくくることにした。
「えっと、うん。それ」
虎子はポスターをまじまじと見て、
「えーっと……おりきさんと、あおいはな?」
美咲が、
「おりき、じゃなくて、おれきじゃない?」
虎子が更にポスターを凝視して、
「んんんん?あ、ホントだ。フリガナ書いてあった」
おかしい。
いや、ほんとはおかしくない。美咲はなにも間違ってはいないんだ。たしかにあの作品の読みは、全てひらがなにすると「おれきさんとあおいはな」だ。「おりき」ではない。従って、美咲の指摘は正しいことになるし、実際に虎子もポスターをみて、その読みを確認していた。そこまではいい。
問題は、“なぜそれを美咲が知っているか”だ。
美咲とは知り合ってからまだ日が浅い。だからどんな趣味を持っているのかもよく分かっていないし、もしかしたら彼方のように百合作品が好き、というパターンもあり得るのかもしれない。
仮にそうでなかったとしても、『折木さん』は厳密には百合作品ではない。全数巻の漫画作品だが、連載していたのも確か普通の少女漫画誌だったはずだ。
だから、美咲がその作品自体を知っていてもなんらおかしくはないし、タイトルの読み間違えを訂正したって不思議はない。
けど、
「あっ……」
見たんだ。
見てしまったんだ。
美咲の「やってしまった」と言わんばかりの顔を。
幸い、虎子はその違和感には気が付いていない。大分近づいて確認しないと読めなかったフリガナを、ちょっと離れたところに立っていた美咲が読め、しかもノータイムで読みの訂正を入れてきたという事実の強烈な違和感に。
虎子は俺に、
「華はこれ、見たいってこと?」
さっきまでなら、なんとか否定したと思う。名前を知っていた、とか。絵が綺麗だったとか、言い訳だったらいくらでも思いつく。ちょっと強引でもいい、話題を変えて、ポスターから興味を逸らしたはずだ。
けど、
「えっと、はい」
それは二人とも『折木さん』を知らなかった場合だ。
間違いない。美咲は『折木さん』を知っている。もしかしたら、たまたまあれだけ知っていたという可能性も有るだろうし、百合作品に興味があるとは限らない。
ただ、これは突破口になる気がするんだ。一般的にはただの少女漫画だったとしても、百合界隈からの妄想を掻き立てるだけの力はある作品だ。それを見ている、知っているというのなら、美咲から虎子にアプローチするという可能性が生まれてくる。
そうなれば、俺はそれをサポートすればいい。大丈夫。安心してほしい。そういうアプローチならいくらでも思いつくから。まあ、創作知識でしかないけどね。うん。
虎子がそう切り出す。
場所は専門店街の入り口付近。俺たち三人は無事に服選び(主に俺の着せ替え)を終えて、いったん振り出し部分に戻ってきていた。
結局、あれから俺はずっと着せ替え人形状態だった。
流石に水着や下着類に着替えさせようとしたときにはNGを出したけど、それ以外に関しては抵抗をしなかったので、虎子たちも面白がって「これはどうだ」「これなんかに会うんじゃないか」と色んな服をもってきてては俺に着させていた。
最初こそそのまま押し倒されるんじゃないかというレベルの危機感を覚える鼻息の荒さを見せていた美咲も、後半は虎子と「どちらが華ちゃんに似合う服を選べるか」という勝負をしていた。
まあ、それも最終的にはよく分からないテンションで選ばれた「まあ、俺が着ることは未来永劫ないだろう」というぶっ飛んだ服を持ってきては爆笑するという展開になっていたんだけどね。
正直、もっときわどい服ばかりを着させられるのかと思っていたので、拍子抜けした半面、後半は純粋に楽しんでしまっていた。
いけない。このままだとただの仲良し三人組だ。これでは永遠に百合カップルは成立しない。三人組で恋愛が発生した場合、高確率で三角関係になるに違いない。しかもその場合(自惚れでなければ)奪い合いになるのは多分俺だ。なんでだろう。俺はモブだって言ってるじゃないか。
美咲が全体マップを眺めながら、
「そうね……お昼……にはまだ早いし、どこか行きたいところある?華ちゃん」
何故か俺に振ってくる。俺は戸惑いつつも、
「え!?えーっと……」
さて。困った。ぶっちゃけこの専門店街は俺のアウェーに他ならない。今美咲が眺めているマップに書いてある店名も大半は全く聞いたことが無い。見覚えがあるのは、どこにでもあるファーストフード店と、トイザ○スと、
「劇場版……」
思わず声に出してしまう。
仕方ない。だって視界に映ってしまったんだから。
俺が見ていたのは美咲の見ている全体マップではなく、その隣。やや離れたところに貼ってあった映画の広告だ。
タイトルは『折木さんと青い華』。
百合界隈ではちょっとした有名作品で、劇場版アニメーションの制作が決定していた作品だ。一応、スピンオフ作品ではあるものの、どちらかといえばこちらの知名度が高く、これだけ知っているという人も少なくない。
百合とはいったものの、どちらかといえば、女の子同士の友情作品という色合いが強く、これを百合と解釈するのは読み手の勝手な妄想でしかない部分もある作品なわけだが、この世界ではもう上映しているらしい。完全に不意打ちを食らってしまった。今度、その辺の前後関係を彼方と話すことですり合わせておいたほうがいいかもしれないな。
が、それは今後の対策でしかない。こと今回に関しては既に手遅れで、
「劇場版?」
美咲が疑問形で聞き返し、
「華、もしかしてこれ?」
虎子が目ざとくも俺の見ていたポスターを発見する。連係プレーをやめないか君たち。どうしてこういうときだけ幼馴染の結束を見せつけてくるんだ。
俺は周囲を見渡す。周りに「劇場版」というフレーズを誤魔化せそうなものは一切ない。あるのは『折木さんと青い華』。のポスターくらいだ。
まあいいや。別にこれはガッチガチの百合作品ってわけじゃない。美咲と虎子が見てもなんら問題は無いだろう。むしろ、それに触発されて、二人の仲が進展するかもしれない。
腹をくくることにした。
「えっと、うん。それ」
虎子はポスターをまじまじと見て、
「えーっと……おりきさんと、あおいはな?」
美咲が、
「おりき、じゃなくて、おれきじゃない?」
虎子が更にポスターを凝視して、
「んんんん?あ、ホントだ。フリガナ書いてあった」
おかしい。
いや、ほんとはおかしくない。美咲はなにも間違ってはいないんだ。たしかにあの作品の読みは、全てひらがなにすると「おれきさんとあおいはな」だ。「おりき」ではない。従って、美咲の指摘は正しいことになるし、実際に虎子もポスターをみて、その読みを確認していた。そこまではいい。
問題は、“なぜそれを美咲が知っているか”だ。
美咲とは知り合ってからまだ日が浅い。だからどんな趣味を持っているのかもよく分かっていないし、もしかしたら彼方のように百合作品が好き、というパターンもあり得るのかもしれない。
仮にそうでなかったとしても、『折木さん』は厳密には百合作品ではない。全数巻の漫画作品だが、連載していたのも確か普通の少女漫画誌だったはずだ。
だから、美咲がその作品自体を知っていてもなんらおかしくはないし、タイトルの読み間違えを訂正したって不思議はない。
けど、
「あっ……」
見たんだ。
見てしまったんだ。
美咲の「やってしまった」と言わんばかりの顔を。
幸い、虎子はその違和感には気が付いていない。大分近づいて確認しないと読めなかったフリガナを、ちょっと離れたところに立っていた美咲が読め、しかもノータイムで読みの訂正を入れてきたという事実の強烈な違和感に。
虎子は俺に、
「華はこれ、見たいってこと?」
さっきまでなら、なんとか否定したと思う。名前を知っていた、とか。絵が綺麗だったとか、言い訳だったらいくらでも思いつく。ちょっと強引でもいい、話題を変えて、ポスターから興味を逸らしたはずだ。
けど、
「えっと、はい」
それは二人とも『折木さん』を知らなかった場合だ。
間違いない。美咲は『折木さん』を知っている。もしかしたら、たまたまあれだけ知っていたという可能性も有るだろうし、百合作品に興味があるとは限らない。
ただ、これは突破口になる気がするんだ。一般的にはただの少女漫画だったとしても、百合界隈からの妄想を掻き立てるだけの力はある作品だ。それを見ている、知っているというのなら、美咲から虎子にアプローチするという可能性が生まれてくる。
そうなれば、俺はそれをサポートすればいい。大丈夫。安心してほしい。そういうアプローチならいくらでも思いつくから。まあ、創作知識でしかないけどね。うん。
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