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Ⅱ-Ⅰ.幼馴染と変則デート

47.まさしく絶体絶命ってやつ。

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「ついたわ」

 美咲みさきに手を握られ、駅から十分ほど歩いたのち、俺たち三人はちょっとした専門店街たどり着いていた。

 このあたり一帯の建物には展望台から、レストラン、水族館からプラネタリウムと様々な施設がひしめいているのだが、その一部、主に地下から低階層部分が専門店街となっているのだった。

 なるほど、ここならお目当てのものが探せるかもしれない。ちなみに、俺も(元の世界で)足を運んだことはある場所だけど、その時のお目当ては飲食店か、トイザ○スかの二択だった。

 だって、それ以外の店はなんていうか、俺には関係ない世界のものだったから。ほら、あるじゃない。ちょっときらびやかな感じ。そういうのよ。

 ただ、今回に関してはそんなことも言っていられない。なにせ、美咲に服を選ぶのを手伝って欲しいと頼まれているから。

 と、いうかそのためについてきたと言っても過言ではない。そうじゃなかったら、二人の間に挟まる理由は特にないと思う。あ、喧嘩の仲裁位ならするけどね?

 虎子とらこがあたりを見渡し、

「はぁ~広いな」

 なんとも雑な感想を述べた。これはあれだな。虎子も俺と同じタイプの人間だな?仲良くなれそうな気がしてきた。

 美咲は更に俺たちを先導するようにして、

「ついてきて」

 と、実に慣れた足取りでフロアを歩き出す。ホームグラウンドと言ったところだろうか。完全アウェーの俺と虎子には、デ○バーから下山してきて打撃成績が下がったスラッガー並にデバフがかかってしまっているから、借りてきた猫のようにおとなしくついていくほかない。

 俺はともかく、普段から美咲と付き合いのある虎子にもデバフがかかるのはどうかと思うけど、もしかしたら、服を選びに行くときはついていっていないのかもしれない。

 駄目だなぁ。虎子くんは欲望の開放のさせ方が下手。もっと、自分色に染めるとか、そういうイケイケ感を出していかないと。やっぱりヘタレか?ヘタレなのか?
 と、俺が、アウェー空間から逃げ出すようにして妄想の世界を漂っていると、

「ここここ」

 美咲の足が止まる。俺たちの目の前には「こじゃれてます」という雰囲気の漂う、実にファッショナブルな空間が広がっていた。どこ?ここ?異世界?あ、異世界であってたわ。うん。

 割と虎子も似たような感想らしく、

「うへぇ、俺とは縁遠い世界だな」

 美咲が、

「そうでしょうね。けど、今日の目的は、ね?」

 と目くばせする。それを受けた虎子がにかっと笑い、

「そっか、そうだよな」

 俺の方を向く。釣られるようにして、美咲も俺のことをじっと眺める。

「な、なに?」

 なんだろう。俺の顔に何かついているんだろうか。取り合えず顔をぬぐってみるが、何もついてこない。

 そして、そんな一連の動作をみても、二人の視線はいっこうに俺から離れない。プラスいい笑顔。なんだ、その笑顔は。ちょっと怖いぞ。まるで、そう。

 面白いおもちゃを見つけた子供みたいに、

「あ」

 気が付いた。

 気が付いてしまった。

 もしかして、服を選ぶ対象っていうのは、美咲じゃなくて、俺なんじゃないか?
 いや、もしかしての話だ。だけど、思い返してみると、美咲の口から「自分の服を選ぶから手伝ってほしい」という類の話をされていない気がする。

 確かに、服を選ぶのには付き合って欲しいと言われたし、その時に自分一人ではなく、他の人と選びたいとも言われた。虎子だと好みから離れすぎるかもしれないという話もしていた。

 もちろん、結果としてはこうして虎子もついてきてはいる。だけど、それを除けば、美咲に言われたことは全て着せ替え対象を俺に差し替えても通用する話で、

「あの」

「ん?なあに?」

 相変わらずいい笑顔。不思議なもんだ。笑顔って言うのは敵対の意思とは程遠いもののはずなのに、今の美咲は正直ちょっと怖い。

 俺は思い切って、

「もしかして、なんだけど」

「うん」

「服って……私のを選ぶってこと……?」

 美咲は実に悪戯っぽく下をぺろりと出して、

「バレた?」

 バレた?じゃない。

 しかし、こうなると、

「ってことは、虎子も?」

 虎子は美咲と同じように舌を出し、

「美咲に頼まれちゃった☆」

 だから「頼まれちゃった☆」じゃないっての。アウェーなんじゃないのか?そんなところに足を踏み入れるほどの動機があるのか?

 そんな俺の疑問を感じ取ったわけではないだろうけど、虎子が首筋をさすりながら、視線を逸らして、

「いや、ね。この間。ほら、あったでしょ?」

「この間?」

 今度は美咲が、

「ほら、美術部の先輩の」

「あー」

 思い出した。今でも部員勧誘以上の目的をもって、俺に部活に入らないかと誘ってくる美術部の二人か。

「それが、なにか?」

 美咲が、

「見ちゃったのよ」

「見ちゃった?」

「そう。見ちゃったの。絵を」

「絵?」

 今度は虎子が、

馬部うまべ先輩の描いた、はなの絵。それも、今みたいに前髪を下ろしてるんじゃなくて」

 バッ

「ちゃんと目元が見える形の絵を、さ」

 不意打ちだった。

 俺が「目立ちすぎても良くないから」という理由で、素顔を隠すために伸ばしてもらった前髪は、あっさりと左右に分けられて、「可愛い方がいいよね」という何とも適当な理由で設定された「モブにあるまじき顔面偏差値を持った美少女」が日の目を見てしまっていた。

 それを見た美咲が、

「だからね、華ちゃん」

 俺の両肩をがっちりと掴み、

「今日は華ちゃんの可愛さを100%……いや、120%引き出そうと思って、誘ったの。大丈夫。お代は全部私が持つから。痛くもしない。怖いのは最初だけだから。天井のシミを数えてればすぐ終わるから、ね?」

「え、えっと……」

 気が付けば、俺の背後には虎子がいる。前には美咲。前門の虎後門の狼という言葉があるが、この場合は前門の牛に後門の虎だろうか。逃げ道は幼馴染特有のコンビネーションでがっちりとふさがれていた。
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