41 / 137
Ⅰ-Ⅵ.笹木華、奮闘
36.変人でも一流。
しおりを挟む
未来は、俺の全力否定に「そうか?」とまだ少し納得がいかない風ではあったけど、取り合えず引き下がり、
「しかし、欲求不満じゃないとすると……一体どんな悩みなんだ?それ以上となるとなかなか思いつかんぞ?」
脳内ピンク色かあんた。
一応校医なんだよな?校医を自称する変質者じゃないよな?今からでも全力で保健室を脱出して、誰かに助けを求めた方がいいとかないよな?
とはいえ、一応心配はしてくれているようなので、
「ちょっと、知り合いが喧嘩をしてまして」
説明をする。ただ、全部を語ることは出来ない。なにせそれをするには観測器の存在についても説明しなければならないからだ。
当然ながら、盗撮まがいの行為を行える代物の存在を教えるわけにはいかないしし、もし仮に説明をするとしても、現物を見せられない以上、信じてもらえるとは到底思えない。そこを省いて、何とか整合性が取れる状態で話をするべきだろう。
「喧嘩ねぇ……痴情のもつれ?」
だから脳内ピンク色かって。
ただ、この場合はあながち間違っていないような気もする。
一応現時点での碧と育巳の関係性は「先輩と後輩」でしかないし、間違っても「百合カップル」ではない。そこに百合恋愛性を見出しているのは俺でしかなくて、多分アテナあたりに行っても理解はされないだろう。
そしてそれは目の前にいる変人にも当てはまる。いくら変人とはいえ、恋愛観までもアブノーマルとは限らない。こういう人に限って、意外とロマンチックでピュアな恋愛観を持っていたりするものだしね。
「痴情のもつれ……ではないんですけど。ちょっとこうすれ違い、というか」
「すれ違い……具体的には」
「えっと、ですね」
そこから俺は碧と育巳の関係性についてかいつまんで説明をかけた。加えて、俺が描いているところを覗き見たというていで、いくつかの色を認識できていない可能性についても述べた。
最初、未来は普通に聞いているだけだった。
が、話が「色を認識できない」という話になったあたりから、その雰囲気は一気に変貌した。そこにはおちゃらけた脳内ピンクの変人はいなかった。代わりに座っていたのは、変な恰好をした、一人の医師で、
「色覚異常」
「……色覚異常?」
思わずオウム返し。未来は補足をするように、
「君は色覚検査ってものを受けたことはあるか?」
「ない……ですね」
「そう。君くらいの年齢だと色覚検査ってのは廃止されてるから多分受けていないだろうな。だから知らないと思うが、昔は色覚検査っていって、それぞれが認識できている色に異常がないかを検査するっていうことをしてたんだ。学校とかでな。それによって進路に制限がかかったりもしたらしい……ま、過去の話だがな」
「は、はあ」
未来は一呼吸おき、
「ただ君の話を聞いている感じだと先天性って感じではないからな……ちょっと待ってろ」
それだけ言って保健室の出入り口付近にある机へと歩いていく。机は横に二つ連なっていて、片方は机として使うのは到底無理なレベルで本や書類が積みあがっていた。どうしてこう、天才と呼ばれる人種は整理整頓が出来ないんだろう。未来の場合はまだ“自称”に過ぎないけどさ。
やがて、そのバベルのごとき書類の山とは別の、「整理はされていないけど、ぎりぎり使用には耐えうるレベルで散らかった机」の上に置いてあったタブレット端末と、その前に置いてあった丸椅子をひっさげてきて、椅子の方を俺の前においてどっかと座り、慣れた手つきでタブレット端末を操作しはじめると、
「その色覚異常があるって子の名前は分かるか?」
驚いた。
今まで自慰行為だのなんだのと言っていた人間とは思えないほどの真面目な表情がそこにはあった。もしかしたら本当に天才医師なのかもしれない。人は見かけによらないものだ。
俺は聞かれた通り、
「あ、馬部先輩です」
「馬部……下の名前は?」
「碧です」
「碧ね。クラスとかは分かる?」
「すみません……それはちょっと」
「ん。了解。ちょっと待ってろ」
俺からの情報を受けて、少し操作をすると、
「あった。これだな。馬部碧。三年E組。視力検査は……ああ、去年か少し視力が悪くなっているな。なるほど…………ただ、それ以外は至って健康と……ふむ……」
やがて、なにかひとつの結論に至ったようで、タブレット端末を、ベッドの隣にあるチェストの上に置き、
「多分だけど、心因性だね」
「しんいんせい?」
またオウム返ししてしまう。未来はまたしても捕捉を入れるようにして、
「色覚異常と一口にいっても色々あってな。先天性……つまりは生まれつき色覚の認識になんらかの異常……まあ異常という判断基準にも色々と問題があるんだが……今は割愛するぞ。ともかく、生まれながらの色覚異常を持っている場合が、先天性。そして、それ以外の生まれた時には無かった以上が出ているのが後天性だ。馬部の場合は恐らくこっちなわけだが、この後天性にも色々と種類がある」
「種類……ですか」
未来は首肯し、
「そう。まあ、ざっくりと言ってしまうと、他に何らかの疾患……つまりは病気だな。これを抱えているパターンと、そうでないパターン。前者の場合は背後に重大な疾患が隠れていることもあるから注意が必要なんだが、私が貰っている報告には、問題なしと書いてあった。そうなってくると考えられる可能性はそうでないパターン。つまりは心因性……メンタルの問題ってことになる」
「メンタルで色が認識できなくなるってこと、あるんですか?」
「ある。性別で言えば女性。年齢で言えば子供に多い。ただ、大人とまではいかないまでも高校生くらいで心因性の色覚異常が出た症例もあるからな。決してありえない話じゃない。その馬部と言ったか。彼女の周りで何か原因になりそうなことはないか?」
俺は首を横に振り、
「……すみません。私も馬部先輩のことは最近知ったばかりなので」
「そうか……」
未来は腕を組んで考え込んでしまう。
「しかし、欲求不満じゃないとすると……一体どんな悩みなんだ?それ以上となるとなかなか思いつかんぞ?」
脳内ピンク色かあんた。
一応校医なんだよな?校医を自称する変質者じゃないよな?今からでも全力で保健室を脱出して、誰かに助けを求めた方がいいとかないよな?
とはいえ、一応心配はしてくれているようなので、
「ちょっと、知り合いが喧嘩をしてまして」
説明をする。ただ、全部を語ることは出来ない。なにせそれをするには観測器の存在についても説明しなければならないからだ。
当然ながら、盗撮まがいの行為を行える代物の存在を教えるわけにはいかないしし、もし仮に説明をするとしても、現物を見せられない以上、信じてもらえるとは到底思えない。そこを省いて、何とか整合性が取れる状態で話をするべきだろう。
「喧嘩ねぇ……痴情のもつれ?」
だから脳内ピンク色かって。
ただ、この場合はあながち間違っていないような気もする。
一応現時点での碧と育巳の関係性は「先輩と後輩」でしかないし、間違っても「百合カップル」ではない。そこに百合恋愛性を見出しているのは俺でしかなくて、多分アテナあたりに行っても理解はされないだろう。
そしてそれは目の前にいる変人にも当てはまる。いくら変人とはいえ、恋愛観までもアブノーマルとは限らない。こういう人に限って、意外とロマンチックでピュアな恋愛観を持っていたりするものだしね。
「痴情のもつれ……ではないんですけど。ちょっとこうすれ違い、というか」
「すれ違い……具体的には」
「えっと、ですね」
そこから俺は碧と育巳の関係性についてかいつまんで説明をかけた。加えて、俺が描いているところを覗き見たというていで、いくつかの色を認識できていない可能性についても述べた。
最初、未来は普通に聞いているだけだった。
が、話が「色を認識できない」という話になったあたりから、その雰囲気は一気に変貌した。そこにはおちゃらけた脳内ピンクの変人はいなかった。代わりに座っていたのは、変な恰好をした、一人の医師で、
「色覚異常」
「……色覚異常?」
思わずオウム返し。未来は補足をするように、
「君は色覚検査ってものを受けたことはあるか?」
「ない……ですね」
「そう。君くらいの年齢だと色覚検査ってのは廃止されてるから多分受けていないだろうな。だから知らないと思うが、昔は色覚検査っていって、それぞれが認識できている色に異常がないかを検査するっていうことをしてたんだ。学校とかでな。それによって進路に制限がかかったりもしたらしい……ま、過去の話だがな」
「は、はあ」
未来は一呼吸おき、
「ただ君の話を聞いている感じだと先天性って感じではないからな……ちょっと待ってろ」
それだけ言って保健室の出入り口付近にある机へと歩いていく。机は横に二つ連なっていて、片方は机として使うのは到底無理なレベルで本や書類が積みあがっていた。どうしてこう、天才と呼ばれる人種は整理整頓が出来ないんだろう。未来の場合はまだ“自称”に過ぎないけどさ。
やがて、そのバベルのごとき書類の山とは別の、「整理はされていないけど、ぎりぎり使用には耐えうるレベルで散らかった机」の上に置いてあったタブレット端末と、その前に置いてあった丸椅子をひっさげてきて、椅子の方を俺の前においてどっかと座り、慣れた手つきでタブレット端末を操作しはじめると、
「その色覚異常があるって子の名前は分かるか?」
驚いた。
今まで自慰行為だのなんだのと言っていた人間とは思えないほどの真面目な表情がそこにはあった。もしかしたら本当に天才医師なのかもしれない。人は見かけによらないものだ。
俺は聞かれた通り、
「あ、馬部先輩です」
「馬部……下の名前は?」
「碧です」
「碧ね。クラスとかは分かる?」
「すみません……それはちょっと」
「ん。了解。ちょっと待ってろ」
俺からの情報を受けて、少し操作をすると、
「あった。これだな。馬部碧。三年E組。視力検査は……ああ、去年か少し視力が悪くなっているな。なるほど…………ただ、それ以外は至って健康と……ふむ……」
やがて、なにかひとつの結論に至ったようで、タブレット端末を、ベッドの隣にあるチェストの上に置き、
「多分だけど、心因性だね」
「しんいんせい?」
またオウム返ししてしまう。未来はまたしても捕捉を入れるようにして、
「色覚異常と一口にいっても色々あってな。先天性……つまりは生まれつき色覚の認識になんらかの異常……まあ異常という判断基準にも色々と問題があるんだが……今は割愛するぞ。ともかく、生まれながらの色覚異常を持っている場合が、先天性。そして、それ以外の生まれた時には無かった以上が出ているのが後天性だ。馬部の場合は恐らくこっちなわけだが、この後天性にも色々と種類がある」
「種類……ですか」
未来は首肯し、
「そう。まあ、ざっくりと言ってしまうと、他に何らかの疾患……つまりは病気だな。これを抱えているパターンと、そうでないパターン。前者の場合は背後に重大な疾患が隠れていることもあるから注意が必要なんだが、私が貰っている報告には、問題なしと書いてあった。そうなってくると考えられる可能性はそうでないパターン。つまりは心因性……メンタルの問題ってことになる」
「メンタルで色が認識できなくなるってこと、あるんですか?」
「ある。性別で言えば女性。年齢で言えば子供に多い。ただ、大人とまではいかないまでも高校生くらいで心因性の色覚異常が出た症例もあるからな。決してありえない話じゃない。その馬部と言ったか。彼女の周りで何か原因になりそうなことはないか?」
俺は首を横に振り、
「……すみません。私も馬部先輩のことは最近知ったばかりなので」
「そうか……」
未来は腕を組んで考え込んでしまう。
0
お気に入りに追加
66
あなたにおすすめの小説
3年振りに帰ってきた地元で幼馴染が女の子とエッチしていた
ねんごろ
恋愛
3年ぶりに帰ってきた地元は、何かが違っていた。
俺が変わったのか……
地元が変わったのか……
主人公は倒錯した日常を過ごすことになる。
※他Web小説サイトで連載していた作品です
大好きな彼女を学校一のイケメンに寝取られた。そしたら陰キャの僕が突然モテ始めた件について
ねんごろ
恋愛
僕の大好きな彼女が寝取られた。学校一のイケメンに……
しかし、それはまだ始まりに過ぎなかったのだ。
NTRは始まりでしか、なかったのだ……
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
俺のセフレが義妹になった。そのあと毎日めちゃくちゃシた。
ねんごろ
恋愛
主人公のセフレがどういうわけか義妹になって家にやってきた。
その日を境に彼らの関係性はより深く親密になっていって……
毎日にエロがある、そんな時間を二人は過ごしていく。
※他サイトで連載していた作品です
社長の奴隷
星野しずく
恋愛
セクシー系の商品を販売するネットショップを経営する若手イケメン社長、茂手木寛成のもとで、大のイケメン好き藤巻美緒は仕事と称して、毎日エッチな人体実験をされていた。そんな二人だけの空間にある日、こちらもイケメン大学生である信楽誠之助がアルバイトとして入社する。ただでさえ異常な空間だった社内は、信楽が入ったことでさらに混乱を極めていくことに・・・。(途中、ごくごく軽いBL要素が入ります。念のため)
[完結済み]男女比1対99の貞操観念が逆転した世界での日常が狂いまくっている件
森 拓也
キャラ文芸
俺、緒方 悟(おがた さとる)は意識を取り戻したら男女比1対99の貞操観念が逆転した世界にいた。そこでは男が稀少であり、何よりも尊重されていて、俺も例外ではなかった。
学校の中も、男子生徒が数人しかいないからまるで雰囲気が違う。廊下を歩いてても、女子たちの声だけが聞こえてくる。まるで別の世界みたいに。
そんな中でも俺の周りには優しいな女子たちがたくさんいる。特に、幼馴染の美羽はずっと俺のことを気にかけてくれているみたいで……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる