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Ⅰ-Ⅰ.転生って多分こんな感じ

1.女神さまの思し召し。

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「…………あれ?」

 意識が、フェードアウトしない。

 それどころか視界がどんどん鮮明になっていっているような気がする。おかしい、こんなことは許されない。違った、ありえない。

 だってそうだろう。俺こと小太郎こたろうはさっきついつい読書に集中していて赤信号に変わっていることに全く気が付かないまま横断歩道を渡ろうして、そんなことは全く想定していなかったトラックに、それはそれは綺麗に吹っ飛ばされて帰らぬ人となったはずではないのか。

 それがどうだ。確認できる限りで自分の体を見てみれば傷一つ無い。動かしてみても痛みのようなものも全く感じない。いくら頑丈だといっても流石に無傷なのはおかしすぎる。

 ギャグマンガの世界だって、次の話で生き返るとしても、一度死んだ話の中では死んだものとして扱われるはずだ。回復が早いどころか、傷一つ負っていないのはあまりにも不自然だ。

佐々木ささきさん。佐々木小太郎さん」

 声がする。すぐ前からだ。小太郎が顔を上げると、

「…………誰?」

 見覚えが無かった。

 髪は金髪、瞳は青色。まとう衣は純白と来ている。ざっくりで受ける印象としてはまさに天使という表現がふさわし、

「あ、」

「どうしました?」

「や、もしかしてなんですけど…………ここって、天国?」

 そんな問いに女性は軽く噴き出して、

「天国ではありませんよ。まあ、それに近い空間なのは間違いありませんけど。もし天国だとしたら、あまりにも簡素過ぎると思いませんか?」

 なるほど。

 言うことはもっともだ。

 今現在小太郎の視界に映っているのは、椅子に座った金髪碧眼の女性だ。視線を下に向ければ自分の体と、女性が座っているのと全く同じ椅子が映る。辺りは真っ暗闇というのにふさわしい状態で、本来ならば目の前にいる女性の姿も満足に見えるはずはないとおもうのだけど、なぜか彼女と、自分の姿ははっきりと認識できている。

 女性は一つ咳払いをし、

「突然ですが佐々木さん。あなたは寿命というものをどうお考えですか?」

「どうお考えですか?って、また曖昧な……」

 女性は軽く頷き、

「そうですね、失礼しました。それでは……もしあなたがたの寿命が生まれた瞬間決まっている、と言ったら信じますか?」

「決まっている……っていうことは何をしても変わらないってことですか?」

「ええ。基本的には。どうですか?」

 難しい問いだ。確かに、そういう考え方が存在するのは事実だ。人間は生まれてくるときに、その土地の神様の承認を得て、両親の元に生まれてくる、そしてそれは全て決められたことだという考え方も中には存在するという話を聞いたことがある。とはいえ、

「え、具体的にはどれくらい決まってるんですか?」

 女性は得意げに、

「それはもう、何歳何か月何日何時間何分何秒まできっちりと」

「へぇ……」

「あまり驚かないんですね?」

「や、これでも驚いてるんですけどね。ただ、そうですね……なんかそういう考え方もあるってのは聞いたことがあるんで、まあ、そうなのかぁくらいの感じです。正直」

 女性は軽く微笑み、

「なるほど……それなら話は早いですね。先ほども言った通り、基本的に人間の生き死にというのは生まれた時点で決まっているものなのです。ですが、例外も存在します」

「例外……?」

「はい。分かりやすく言うなら、「早く死に過ぎちゃう人」と「長生きし過ぎちゃう人」がたまにいるんですよ」

「…………そんな雑なもんなんですか」

「意外とそんなもんなんです。で、ここまでくれば分かるかと思いますが、佐々木さん。あなたは本来の寿命よりもかなり早く死んでしまったんですよ」

「え、そうなの?」

「ええ。あなたの現時点での寿命は21歳3カ月10時間45分39秒なんですが、本来の寿命は90歳近いんです」

「きゅ、きゅうじゅう!?」

「ええ。こんなにずれることもかなり珍しくって。通常、早めに死んでしまった方にはそれなりのアフターサポートと言うか、死ぬまでの期間に相当する「良い体験」をしてもらうことになっているんですが、佐々木さんの場合、ほぼなんでも出来るような状態なんです」

 まどろっこしいな。

 こういうときはあれに限る。

「……三行で頼む」

「佐々木さんは本来よりも早く死んでしまいました」

「そのため、その間に得られたはずの体験や利益を佐々木さんに還元するべく、並行世界に転移して、そこで生活してもらうという事になります」

「あなたがたの世界でよく言う「異世界転生」っていうのに近いやつです」

「がっつり原稿用紙のフル尺分使ってしゃべるやつがあるかおい」

「すみません。これでも結構細かいところは端折ったのですが……」

 なんともめんどくさい話である。これ多分、場合によっては五行くらいになってると思うぞ。

 が、言いたいことは分かった。

「え、ってことは俺、これからいわゆる俺TUEEE状態になって無双するの?」

「と、いうことも出来ます。あの手の世界は割とポイントが少なくてもオッケーなんですよ。なにせ世界の文化レベルが低くて良いわけですからね。いやー簡単で良いですよ」

 ポイントってなんだよ。

 ただ、それよりも気になることは、

「え……俺もその手の文化レベル低い世界に行くことになるわけ?」

 女性はゆらゆらと左右に揺れながら、

「別にそういうわけではないんですけどー。ただ、人気があるんで、やっぱりそこなのかなーて思っただけでー。なんせ簡単にハーレムが築けますからねー」

 困る。

 正直ハーレムなんて興味はない。そもそも俺には男として生まれ変わりたいなんて欲求は微塵もない。

 なので、

「なあ、えーっと」

「あ、女神って呼んでください。ホントは長ったらしい名前があるんですけど、途中人類では発音できない音が何回か含まれるので」

 なんだ人類では発音できない音って。気になるじゃないか。

 まあ、いい。いま重要なのはパブロ・ピカソ並に長いかもしれない女神(自称)の本名についてじゃない。

「女神さん」

「はい」

「その転生する世界っていうのは選べないもんなのか?」

「選べますよー。なにせ残り寿命が60年以上ありますからね。ポイントもマックスです」

 ポイントか、ポイント制なのか。

 だが、それなら話は早い。

「ならさ、その転生先に女学院みたいなのってない?」

「女学院……ですか?あるとは思いますけど、あなた、男性ですよね?」

「うん。だから女性として転生して。出来ない?」
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