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phrase.6
28.ストーリーなんて可愛いキャラを邪魔しなければ良いそうよ。
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渡会と四月一日は席が前後に並んでいる。四月一日が前で、渡会が後ろだ。
席順は最初、五十音順で決まるのだが、その結果がこの並び、という訳だ。運が良かったのか悪かったのかはいまだに分からない。
そんな位置取りのおかげもあって、四月一日には時々、渡会のひとりごとが聞こえてくるときがある。
そんな時四月一日は大抵無視を決め込んでいて、それでも渡会に会話の意思がある場合はきちんと話しかけてくるというのが定番になっていた。
ところが、この日は少し違った。
と、いうのも、
「はぁ~あ……ちょっと絵が可愛いだけで3期までアニメやる作品が絶滅しないかしら」
「一生アニメ化と縁がなくなりそうな発言はやめてもらえますかね?」
発言内容があまりもよろしくなかったのだ。なんだ今の発言は。間違いなく特定の作品を思い浮かべて言っただろう。ファンから刺されるぞ。
そんな渡会の懸念も他所に四月一日は、
「なによ四月一日くん。あなたもアニメ1話の弾幕を作った1人なの?いやだわぁ。出来れば私が死ぬまで呼吸を止めててほしいわ」
それ、要するに「死ね」ってことだよね?
「いい、四月一日くん。世の中ってのはね、可愛い絵と、可愛い声なのよ。それさえあれば、話なんてどうでもいいの。どこかの作家も言ってたじゃない。自分のシナリオは、可愛いキャラクターを味わうための添え物だって。そんなものなのよ。皆可愛いキャラをみて「萌え~」とかやれればそれでいいんだわ。なんて汚らわしい」
自らの肩を抱くようにして震え上がる渡会。取り合えず可愛いキャラが受けると思っているのであれば、今すぐその可愛さの対義語みたいな毒舌はやめていただきたい。
「じゃあ、渡会さんはどんな作品のアニメならいいんですか?」
「そうねえ……」
渡会は意外にも真剣に考えだし、
「30分間、私の日常を映し続けるアニメなんてどうかしら。とても有意義だと思うのだけど」
さあ、困った。
何がって、当の本人が割と真剣な目をしているからだ。
どうやら彼女からすれば、その「可愛いキャラと可愛い声の作品」より、「自分を映しているだけの作品」の方がよっぽど面白いらしい。冗談で言っているのならば「頭おかしいんじゃないですか」でもなんでも言えるのだが、冗談っぽくないのが困りものなのだ。
ただ、そんな無反応を渡会は別の意味に捉えたのか、ざっと四月一日と距離を取って、
「……四月一日くん。あなた、何を見ようとしているのかしら」
珍しく困惑。
「なにをって……今渡会さんが言った通りですけど」
「……ボウフラが」
「ボウフラ!?」
心外である。
ボウフラ呼ばわりももちろんそうだが、そもそも罵倒されるようなことは何もしていないではないか。やったことと言えば、渡会の提案した「自分の日常を映し続けるアニメ」についてくらいのものだ。
渡会は蔑んだ目で、
「どうせ「ぐへへ……生活の全て覗けるなんてなんていいんだ。全てってことは風呂もトイレも見放題だろ。これで今晩のオカズはばっちりだぜぐえっへっへっへ」とか考えてたんでしょう。変態ここに極まれりね」
あんたがな。
四月一日は思わずそう返しそうになった。
だってそうだろう。四月一日は今の今までそんなことは考えてもいなかったのだ。むじつであり、清廉潔白の身だ。もし穢れているものがあるとすれば、渡会さんの思考回路の方ではないだろうか。と、いうか、
「渡会さんって、定期的にそっち方向に話を持っていきたがりますよね……なんでですか?」
渡会は「なんでそんなことを聞くのかしら」とでも言いたげな顔で、
「なんでって……エロければ受けるからよ」
あっさりと言い切った。
取り合えずまずはその偏見まみれの思考回路を何とかする方が先だと思う。
席順は最初、五十音順で決まるのだが、その結果がこの並び、という訳だ。運が良かったのか悪かったのかはいまだに分からない。
そんな位置取りのおかげもあって、四月一日には時々、渡会のひとりごとが聞こえてくるときがある。
そんな時四月一日は大抵無視を決め込んでいて、それでも渡会に会話の意思がある場合はきちんと話しかけてくるというのが定番になっていた。
ところが、この日は少し違った。
と、いうのも、
「はぁ~あ……ちょっと絵が可愛いだけで3期までアニメやる作品が絶滅しないかしら」
「一生アニメ化と縁がなくなりそうな発言はやめてもらえますかね?」
発言内容があまりもよろしくなかったのだ。なんだ今の発言は。間違いなく特定の作品を思い浮かべて言っただろう。ファンから刺されるぞ。
そんな渡会の懸念も他所に四月一日は、
「なによ四月一日くん。あなたもアニメ1話の弾幕を作った1人なの?いやだわぁ。出来れば私が死ぬまで呼吸を止めててほしいわ」
それ、要するに「死ね」ってことだよね?
「いい、四月一日くん。世の中ってのはね、可愛い絵と、可愛い声なのよ。それさえあれば、話なんてどうでもいいの。どこかの作家も言ってたじゃない。自分のシナリオは、可愛いキャラクターを味わうための添え物だって。そんなものなのよ。皆可愛いキャラをみて「萌え~」とかやれればそれでいいんだわ。なんて汚らわしい」
自らの肩を抱くようにして震え上がる渡会。取り合えず可愛いキャラが受けると思っているのであれば、今すぐその可愛さの対義語みたいな毒舌はやめていただきたい。
「じゃあ、渡会さんはどんな作品のアニメならいいんですか?」
「そうねえ……」
渡会は意外にも真剣に考えだし、
「30分間、私の日常を映し続けるアニメなんてどうかしら。とても有意義だと思うのだけど」
さあ、困った。
何がって、当の本人が割と真剣な目をしているからだ。
どうやら彼女からすれば、その「可愛いキャラと可愛い声の作品」より、「自分を映しているだけの作品」の方がよっぽど面白いらしい。冗談で言っているのならば「頭おかしいんじゃないですか」でもなんでも言えるのだが、冗談っぽくないのが困りものなのだ。
ただ、そんな無反応を渡会は別の意味に捉えたのか、ざっと四月一日と距離を取って、
「……四月一日くん。あなた、何を見ようとしているのかしら」
珍しく困惑。
「なにをって……今渡会さんが言った通りですけど」
「……ボウフラが」
「ボウフラ!?」
心外である。
ボウフラ呼ばわりももちろんそうだが、そもそも罵倒されるようなことは何もしていないではないか。やったことと言えば、渡会の提案した「自分の日常を映し続けるアニメ」についてくらいのものだ。
渡会は蔑んだ目で、
「どうせ「ぐへへ……生活の全て覗けるなんてなんていいんだ。全てってことは風呂もトイレも見放題だろ。これで今晩のオカズはばっちりだぜぐえっへっへっへ」とか考えてたんでしょう。変態ここに極まれりね」
あんたがな。
四月一日は思わずそう返しそうになった。
だってそうだろう。四月一日は今の今までそんなことは考えてもいなかったのだ。むじつであり、清廉潔白の身だ。もし穢れているものがあるとすれば、渡会さんの思考回路の方ではないだろうか。と、いうか、
「渡会さんって、定期的にそっち方向に話を持っていきたがりますよね……なんでですか?」
渡会は「なんでそんなことを聞くのかしら」とでも言いたげな顔で、
「なんでって……エロければ受けるからよ」
あっさりと言い切った。
取り合えずまずはその偏見まみれの思考回路を何とかする方が先だと思う。
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