渡会さんは毒を吐きたい

蒼風

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22.最近の缶詰って凄いのよ?

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 当日。

 二人は新宿駅で待ち合わせ、在来線の特急列車を利用して熱海方面に向かうことにした。

 渡会わたらい曰く、

「別に新幹線を使ってもいいのだけど、それだとなんだか風情がないから、在来線特急を使いましょ」

 とのことだった。彼女の口から風情などという言葉が出てくるとは思わなかった。明日はきっと雷雨だろう。

「あら、大丈夫よ。明日は快晴だもの」

「当たり前のようにモノローグと会話しないでもらえます」

 そんなわけで、今二人は特急列車の中だ。ちなみに渡会の希望もあって、先頭車両。走っている線路の行く先がはっきりと見える場所に陣取っていた。子供みたいなことを要望するなと思ったものだが、これが存外悪くない。なんていうか、旅をしている感じが出る。

「ほら、おやつを買ってきたわよ、好きなものをお食べなさい」

 そう言って渡会が取り出したのは以下の5つだ。

 ・さきいか
 ・サラミ
 ・チーズちくわ
 ・カマンベールチーズ
 ・焼き鳥缶

「渡会さんは俺を酒飲みか何かと勘違いしていらっしゃる?」

 そんな四月一日わたぬきの言葉を受けた彼女は意外そうに、

「あら違うの?夜な夜な「酒はまだか」と怒鳴り散らす、暴力亭主かとばかり」

 ツッコミどころしかない。

 まず四月一日はそんな横暴なことは言わないし、暴力など振るわないし、亭主でもない。しまいにはそもそも未成年だから飲んだくれるはずもない。一体どこから出てきたんだそのイメージ。違う人間の資料とごっちゃになってません?

 渡会は、そんな四月一日の脳内ツッコミなどどこ吹く風で、

「あ、ごめんなさい。焼き鳥缶はお箸が必要よね……はい、どうぞ。ちなみに缶詰はあるだけ買ってきたから色んな種類があるわよ」

「せめてごはんが欲しいんだが」

「あるわよ」

 あるのかよ。

 なんでそんなもんまで持ってきてるんだよ。

 渡会は鞄をごそごそと漁ると、中から保温機能付きの弁当箱らしきものを取り出して、

「これ、全部白米が詰まってるのよ。これでいくらでもがっつけるわね」

「いやいやいやいや」

 渡会が取り出した弁当箱を簡易テーブルの上に置いたことにより、移動中の電車内は「どのおつまみが一番ごはんが進むか決定戦みたいな様相になってきていた。おかしい。今日はゴールデンウィークで、日帰り旅行の真っ最中だったはずだ。なんだこの、「宅飲み」感の溢れる光景は。

「さ、乾杯しましょ。と、いっても、私はコーヒーで、四月一日くんはコーラだけど」

「……一体どこに向かっているのかが分からなくなってきましたよ」

「いいじゃないの。楽しければ。四月一日くんは楽しくないのかしら?」

「そんなことはないけど」

「じゃ、いいじゃない。ほら。乾杯」

 ずいっ。

 渡会が手元の缶を差し向けてくる。四月一日も持っていたコーラのペットボトルをぶつけて、

「乾杯」

「乾杯」

 こんな旅行も悪くはない。そんな風に、

「にしても地味ね、色合いが。やっぱりチョコレート菓子とかの方が良かったかしら」

 持ってきた人が否定するのやめてもらえる?現実を直視しちゃうから。
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