渡会さんは毒を吐きたい

蒼風

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10.勝ちヒロインは最初から決まってるものなのよ。

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「ねえ、四月一日わたぬきくん。なんでラブコメの主人公って必ず鈍感難聴イ○ポ野郎なのか知っているかしら?」

 さあ困った。

 正直なところ無視を決め込みたい。

 この導入からしてろくなことにならないのは目に見えている。

 つまるところ彼女の言う「鈍感難聴イン○野郎」というのはつまり四月一日のことに他ならないし、最終的に「ヘタレ」だの「○ンポ」だのといわれのないレッテルを張ってくるのは目に見えている。

 目に見えているのだが、

「……さあ?」

 これに反応をしなかった時にどうなるかを考えると。嫌でも反応せざるを得なかった。

 それはそうだろう。渡会わたらいにしてはまあまあ大き目の声で話しかけているのに、それに対して一切聞こえないふりをしようものなら、四月一日は明日から「鈍感難聴イ○ポくん」と呼ばれるのは決定したようなものだ。

 前門の虎、後門の狼。どちらに挑んでも死が確定している場合、どちらに突っ込むべきなのだろうか。

 振り向くと渡会は大層楽し気に、

「お、反応したわね。少なくとも難聴ではないと」

 うん。反応しておいてよかった。これは完全に四月一日を「鈍感難聴イン○くん」と呼ぶつもりだったな。

「そもそもそれはラブコメの主人公に関しての特徴でしょう……それで?なんでなんですか?」

 渡会は「あら残念」とつぶやき、

「答えは簡単よ。そうしないとラブコメにならないからよ」

 おや、意外にまともな答えが返って来た。

 渡会は続ける。

「そもそもね、ラブコメってジャンルはどういうジャンルかって言うとね。恋愛における起承転結の“転”だけをずーっと続けるっていうものなのよ。どんな作品でもそうよ。ヒロインたちと出会って、その子たちと仲良くなって、イチャイチャして、仲良くなって、イチャイチャして、その繰り返し。その過程で「勝ちヒロインはこいつだ」「いや、こっちだ」って言い争ったり、どのキャラクターが好きだから「○○のターンだ!」とかいって喜んだりするのよ。それがラブコメって作品よ四月一日くん……四月一日くん?」

「……渡会さんってまともなことも言えたんですね……」

「純粋に驚いているから怒るに怒れないわね……え、四月一日くんは私がまともなことを言わないように見えてるわけ?」

「はい、わりと」

「即答……あのね、四月一日くん。私は別に酔狂で暴言を吐いているわけじゃないのよ。ただ、結果的にそうなっているだけ。良いと思ったものは褒めるし、冷静に分析もする。その結果大半が暴言を吐かれるに値するクソってだけよ」

「暴言を吐くのは変わらないんですね」

「そりゃそうよ。そこにおべっかを使ったって仕方ないでしょ?忖度って言葉あるでしょ?あれ、私大嫌いなのよね。大したこともないやつ同士が群れなして、自分の縄張り守って、アホみたいだもの」

 言わんとするところは分かる。

 確かに、彼女の言動には毒と棘と暴言ばかりで構成されている。しかし、そこには本心しかないはずだ。少なくとも彼女の発言に「嘘」はない。全部本心。だから暴言。それが彼女の生き方なのだ。多分その生き方は少し、いや、凄く生きづらい。

 でも、

「まあ、変な気をつかうよりはいいのかもしれないですね」

 そんな風に思、

「そう?それじゃ、手始めにネットに蔓延る自称・フェミn」

「程度はありますけどね」

 渡会は思いっきり四月一日に聞こえるように舌打ちをする。やっぱり、もうちょっとマイルドになって貰った方がいいのかもしれない。
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