渡会さんは毒を吐きたい

蒼風

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4.人の言葉はちゃんと聞きなさいな。

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「まあ、面白くはあったんじゃないか?」

 それが渡会の出した最初の結論だった。

 ちなみに今は喫茶店に入っている。これは四月一日の希望だ。これを告げたら渡会は、

「やっぱりデートがしたかったんじゃない。チェリーボーイめ」

 と勝手な決めつけを行ってきたが、完全に無視を決め込んだ。

 この手の輩に反応したら負けだ。土俵に乗ったら最後。王道も邪道も通用しない。うっちゃりすら計算に入れて、下手したらこちらがうっちゃられて土俵下だ。

 こういう場合はもう相手にすることが間違いだ。三十六計逃げるに如かず。良い言葉があるものだ。先人の知恵はフル活用していかないといけない。特にこのような悪鬼羅刹と相対する時は、

「四月一日くん?」

 じっとりとした目でこちらを見る渡会。よかった。今度は場外乱闘を仕掛ける気はないらしい。流石にやりすぎると飽きてくるからね?

 四月一日は気を取り直して、

「なら良かったじゃないですか。ほら、やっぱりはやりものにだって名作は」

「これだからミジンコは」

「人を人類以外で例えるのやめてもらっていいですか?」

 渡会はアイドル顔負けのニッコリ笑顔で、

「やだなぁ~(あせ)別にたとえたわけじゃないよ(はあと)ただ、単純に事実をいっただけ(はあと)んもーせっかちなんだから(ぺろっと)」

 やだなぁ~それだと俺が本当にミジンコみたいじゃないですか~(いかり)

 まあそれはいいとして、

「でも、渡会さん確かに面白かったって」

「面白く「は」あった、よ。ちゃんと聞いてなさいな」

「何か違うんですか?」

 渡会さんは涙をぬぐう仕草をして、

「かわいそうに……言語能力が衰退してしまったのね……ミジンコだから」

「何か違うんですか?」

「……あなたって時々図太いわよね」

 あなたほどではないですよ?

 渡会はひとつ息を吐き、

「面白い面白くないの二択なら確かに面白い方に入るわよ。それは別に最初から否定してないわ。そうじゃなかったら流石に大流行なんかしないわよ。ウンコを料理にしたって、自称美食家以外誰も寄り付かないでしょ?そういうことよ」

 今何か具体的なものを想定しなかった?

 渡会はなおも続ける。

「でもね、それだけなの。面白いに分類されるだけのものではあるわ。ただ、それだけ。でもね、それくらいならもう山ほど転がってるのよ。その辺にね。それこそ10段階でいったら7くらいだものね。でも、世の中には8以上のものだって一杯ある。それに見向きもせずに7のものを凄い凄いって言ってるのがアホらしいって言ってるのよ」

 言い切って、手元の飲み物に手を付ける。ちなみに彼女の今飲んでいるのはカフェオレにアホほどガムシロップを入れた代物だ。

 あれはもう「ガムシロップ入りカフェオレ」じゃなくて、「カフェオレ入りガムシロップ」じゃないかと思うんだが。一つのテーブルにあんなにガムシロップのゴミが積みあがってるの初めて見たよ俺。

 四月一日は笑顔で、

「それだったら、今度はその8以上の作品を一緒に見に行きましょうよ」

 渡会は鼻で笑い、

「そうそう転がってるもんじゃないわよ。そのレベルになると基本的にアホの評価は信頼ならないから、自分で探さないといけないわ。それを探すなんてあなたには出来ないわよ」

 そう言い切る。それでも四月一日は、

「それなら、これはってのがあったら教えてくださいよ。俺も見ますから。ね?」

 渡会は目をぱちぱちさせたのち、ふっとそらして、ガムシロップwithカフェオレに口をつけ、

「ま、あったらね」

 ぽつりとつぶやき、

「そんなに女の子とデートがしたいのね。これだから思春期の男子高校生は」

 余計な一言を付け足していた。お後がよろしくないようで。
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