聖なる愚者は不敵に笑う

蒼風

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幕間Ⅲ

隠善洸太朗はただ見守り続ける。

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 喫茶二見ふたみには二つの顔がある。

 一つは、神木かみきたちが訪れる。ちょっとこじゃれた、雰囲気のある喫茶店だ。

 そしてもう一つは、

「よう二見。久しぶり」

「……隠善いんぜんか」

「いつもの一つ、貰えるかな」

「ん」

 いつもの、とは、あきらが自ら作成する、この店のオリジナルカクテルのことである。

 別に、時間帯によって、店名が変わるわけではない。店の表に立っている看板は、この時間帯も喫茶二見のままだ。昼間と同様に、美味しいケーキと、奥深さを感じるコーヒーを頂くことも出来る。ただ、酒類の提供も行う時間がある。それだけの話。

 昼の喫茶店ほどの盛況は無いし、店側としても強く打ち出してはいない。ただ、こうやって、一部の常連や、顔なじみにとっては、居心地のいい場所となっている。

「ほら」

「あんがとよ」

 短い言葉。それがこの二人の関係性。長く語らなくとも、大体のことは分かる。この日だってそう。微妙な空気感を察知した明が、

「なにか、あったのか?」

「なにかあった……ってほどじゃないけどな。ただ、ちょっと子供が揉めて、子供が解決した。それだけだ」

「お前が解決したんじゃないのか?」

「しないしない。ああいうのは、自分らで解決した方が良い。大人が入り込むのは、ホントにこじれたとき。後は、ちょっとしたサポートくらいでいいんだよ」

 そう言って手元のカクテルを一気に飲み干す。

 明が、

「手助けはしたのか?」

「一応な。星咲ほしざき……騒動の発端となった女の子だけど。彼女に、事の一部始終を聞かせてた」

「それが、手助けになるのか?」

「まあな。もし仮に、神木かみきがきちんと解決したなら、あいつの神木に対する好感度が上がっただけだろうし、解決出来なかったなら、それはそれでしびれを切らして突撃するんじゃねえかなぁ、とな」

「また、曖昧だな」

「ま、何を選択するかは本人次第だからな。差し伸べられた救いの手を、がっちりと握って這い出すか、思いっきりひっぱたいて、自ら苦しみを受け入れるか。それは本人の意思だ。人がどうこうするもんじゃない」

「……まあ、そうだな」

「そうだ。結局のところ、あんな歪な空間に身を投じて、何も思ってないって時点で、俺に出来ることは何もない。せいぜいが、最悪の事態に発展しないようにセーフティーネットを張っておくだけだ。閉鎖的なムラ社会で、いざこざを起こすなって方が無理なんだよ」

「そう、か」

 沈黙。

 やがて明が、

「もう一杯、要るか?」

「貰うよ」

 即答だった。明は隠善の前にあるグラスを片づけ、次のグラスを容易する。

(いつもなら、一杯目はもうちょっとじっくり飲むのだけどな)

 明はちらりと、隠善の方を向く。そこには、カウンターの内部を眺めながらぼーっとする、いつもの隠善洸太朗こうたろうがいた。
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