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Ⅶ.
39.いわゆる天丼ってやつ。
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「それは神木くんが悪いねぇ」
「……神木が悪い」
「やだ、なんかデジャヴュ」
小一時間後。
喫茶二見に訪れた伊万里と安楽城に、今日ここまでの経緯を語ると、以前と全く同じような反応が返って来た。
おかしいなぁ。この二人は比較的俺に対しては優しいはずだったんだけど、一番優しいはずの二見はさっきから一切口をきいてくれないし。この世界は俺に対して厳しい場所しか存在しないのか。うう、世知辛い。
とまあ、そんな下らない話はさておいて、
「や、まあ、要求自体は俺もちょっと無いかなぁとは思うんですよ」
伊万里が、
「じゃあ、なんでそんな要求したの?その、か、身体を……なんて」
うん。薄々気が付いてはいたけど、この人そういう経験ないな。反応があまりに分かりやすい。身体の部分でどもるのはもう「私は経験ありません」って白状してるようなもんだよ。
まあ、この人の場合、下手に積極的だと、良くない男に引っ掛かりそうな気しかしないので、これでいいのかもしれない。いつか将来、良い旦那さんが見つかってほしい。俺みたいのじゃなくって、もっと理想的な男性が見つかるはずだ。
俺はあくまで淡々と、
「条件がそれしか思いつかなかったんですよ。なにせ俺と小此木は接点ないし、今後も接点を持つ気も無かったんです。そうなってくると、友達になるとか、恋人になるとか、そういうのも違う。けど、それ以外に小此木が出来ることを思いつかない。流石に金を要求するのはどうかと思うし、それをすると本気で、しかも貯金を切り崩して出しちゃいそうな気がしたんで」
安楽城が、
「……神木は、断りたかった?」
「ま、端的に言えばそういうことだ」
そう。
俺は断るつもりだったのだ。
なにせ内容が面倒だ。あの拗らせコミュ障の星咲とまた会話をするというだけでも嫌なのに、アイツを三匹から切り離すとなれば、再びあいつらとコミュニケーションを取る必要性がある。
そうなれば当然「言葉の通じない類人猿」と必死に会話を試みることになるだろうからやりたくないし、それらを切り離すだけではなく、クラスに星咲を溶け込ませるともなれば、もっと困難が予想される。
なにせ、コミュ障陰キャぼっちが拗らせに拗らせて高校デビュー(笑)をしたような女だ。どこと接続させてもやっぱり問題は残る。その場合、星咲と友達になる相手か、星咲自身、どちらか、あるいは両方にある程度折れてもらう必要性があるのだが、肝心の星咲がそれを極めて嫌っている節がある。
それ以外にも様々面倒な問題がある中で、それを解決するために、しかも小此木自体が殆ど戦力にならない可能性が考えられる状態で、力になろうとはどうしても思えなかったのだ。だからこそ、無理難題を吹っかけたし、それでドン引いて、俺のことを嫌いになって、金輪際相談事など持ち込まないと思わせるつもりで吹っかけたのだ。なのに、
「……なんで素直に差し出すかねぇ……」
世の中、色んな価値判断基準が存在するんだなとつくづく思った。
小此木の中では「クラスを取りまとめて、困っているクラスメートの力になれる委員長」になることが「自分の大事な大事な貞操を守る」ことよりも大事なのだ。恐ろしい。もしかして、最近の若い子の貞操観念ってそんなものなのか?
「最近の若い子はすぐに自分を安売りして……」
「いや、神木くんも同い年でしょ?」
「バレちゃった♡」
と、小ボケを挟んでみるも、二見は一切口を開かない。俺の隣でただただ明後日の方向を向いている。そんなに嫌だったのか。
そんな様子を見た伊万里が不思議そうに、
「にしても珍しいねぇ……二見ちゃんがこんなになるなんて。神木くん、他に何かしなかった?」
「なんで俺がやらかした前提なんですか……」
「え、だって、二見ちゃんと神木くん、やらかすとしたら?」
「十対零で俺ですかね?」
「分かってるんじゃない」
「てへ♡」
とまあ、ツッコミの入らない小ボケはさておいて、
「ま、多分これのせいですけどね」
俺は一枚の紙をテーブルの上に乗せる。
「これは……なに?」
「誓約書です。俺が力を貸して、円満に解決したら、小此木が体を捧げるっていう条件を細かく書いて、俺と小此木の署名がしてあります」
そう言いつつ、俺はさっさとその紙を鞄にしまい込む。
伊万里と安楽城はそれぞれ、
「それは神木くんが悪いねぇ」
「……神木が悪い」
「君たちはそれしかリアクションがないのかい?」
「……神木が悪い」
「やだ、なんかデジャヴュ」
小一時間後。
喫茶二見に訪れた伊万里と安楽城に、今日ここまでの経緯を語ると、以前と全く同じような反応が返って来た。
おかしいなぁ。この二人は比較的俺に対しては優しいはずだったんだけど、一番優しいはずの二見はさっきから一切口をきいてくれないし。この世界は俺に対して厳しい場所しか存在しないのか。うう、世知辛い。
とまあ、そんな下らない話はさておいて、
「や、まあ、要求自体は俺もちょっと無いかなぁとは思うんですよ」
伊万里が、
「じゃあ、なんでそんな要求したの?その、か、身体を……なんて」
うん。薄々気が付いてはいたけど、この人そういう経験ないな。反応があまりに分かりやすい。身体の部分でどもるのはもう「私は経験ありません」って白状してるようなもんだよ。
まあ、この人の場合、下手に積極的だと、良くない男に引っ掛かりそうな気しかしないので、これでいいのかもしれない。いつか将来、良い旦那さんが見つかってほしい。俺みたいのじゃなくって、もっと理想的な男性が見つかるはずだ。
俺はあくまで淡々と、
「条件がそれしか思いつかなかったんですよ。なにせ俺と小此木は接点ないし、今後も接点を持つ気も無かったんです。そうなってくると、友達になるとか、恋人になるとか、そういうのも違う。けど、それ以外に小此木が出来ることを思いつかない。流石に金を要求するのはどうかと思うし、それをすると本気で、しかも貯金を切り崩して出しちゃいそうな気がしたんで」
安楽城が、
「……神木は、断りたかった?」
「ま、端的に言えばそういうことだ」
そう。
俺は断るつもりだったのだ。
なにせ内容が面倒だ。あの拗らせコミュ障の星咲とまた会話をするというだけでも嫌なのに、アイツを三匹から切り離すとなれば、再びあいつらとコミュニケーションを取る必要性がある。
そうなれば当然「言葉の通じない類人猿」と必死に会話を試みることになるだろうからやりたくないし、それらを切り離すだけではなく、クラスに星咲を溶け込ませるともなれば、もっと困難が予想される。
なにせ、コミュ障陰キャぼっちが拗らせに拗らせて高校デビュー(笑)をしたような女だ。どこと接続させてもやっぱり問題は残る。その場合、星咲と友達になる相手か、星咲自身、どちらか、あるいは両方にある程度折れてもらう必要性があるのだが、肝心の星咲がそれを極めて嫌っている節がある。
それ以外にも様々面倒な問題がある中で、それを解決するために、しかも小此木自体が殆ど戦力にならない可能性が考えられる状態で、力になろうとはどうしても思えなかったのだ。だからこそ、無理難題を吹っかけたし、それでドン引いて、俺のことを嫌いになって、金輪際相談事など持ち込まないと思わせるつもりで吹っかけたのだ。なのに、
「……なんで素直に差し出すかねぇ……」
世の中、色んな価値判断基準が存在するんだなとつくづく思った。
小此木の中では「クラスを取りまとめて、困っているクラスメートの力になれる委員長」になることが「自分の大事な大事な貞操を守る」ことよりも大事なのだ。恐ろしい。もしかして、最近の若い子の貞操観念ってそんなものなのか?
「最近の若い子はすぐに自分を安売りして……」
「いや、神木くんも同い年でしょ?」
「バレちゃった♡」
と、小ボケを挟んでみるも、二見は一切口を開かない。俺の隣でただただ明後日の方向を向いている。そんなに嫌だったのか。
そんな様子を見た伊万里が不思議そうに、
「にしても珍しいねぇ……二見ちゃんがこんなになるなんて。神木くん、他に何かしなかった?」
「なんで俺がやらかした前提なんですか……」
「え、だって、二見ちゃんと神木くん、やらかすとしたら?」
「十対零で俺ですかね?」
「分かってるんじゃない」
「てへ♡」
とまあ、ツッコミの入らない小ボケはさておいて、
「ま、多分これのせいですけどね」
俺は一枚の紙をテーブルの上に乗せる。
「これは……なに?」
「誓約書です。俺が力を貸して、円満に解決したら、小此木が体を捧げるっていう条件を細かく書いて、俺と小此木の署名がしてあります」
そう言いつつ、俺はさっさとその紙を鞄にしまい込む。
伊万里と安楽城はそれぞれ、
「それは神木くんが悪いねぇ」
「……神木が悪い」
「君たちはそれしかリアクションがないのかい?」
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