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Ⅵ.
35.不自然な積極性の正体。
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「だって、そうじゃない。零くんが、星咲さんをコテンパンにしなかったら、星咲さんはあのまま最初に描いたやつを見せてたわけでしょ?それならあんなことには」
「甘い」
「甘い?」
「そう。甘い。いいか。あの三匹と星咲の力関係は、あのイベントが起きる前で既に三匹>星咲になってるんだよ。星咲は最下層にいた。その相手に対して「ちょっと楽しいことしろよ、暇つぶしに」のテンションで吹っかけられたのが「漫画を持ってこさせる」っていうイベントだ。それが起きてる時点で、どのルートを通っても、あいつがあの三匹と対等な友達になるルートなんか存在しないんだよ。だから、俺と出会おうが出会わなかろうが、おそかれはやかれこうなってたって訳」
そう。
結局、三匹と星咲は友達などではないのだ。
三匹内部での力関係は分からない。外から見ているだけで言えば親分一匹と子分二匹という図式が成り立っているようには見える。ただ、その力関係に関わらず、あいつらは一応「友達」というカテゴリに属している可能性が高い。
ところが星咲は違う。星咲はあの三匹にとって「面白いやつ」程度の存在だ。それは友達とは言わない。道端の大道芸や、一年たたずに消えていく、一発屋の芸人と一緒。単発消費型のコンテンツに過ぎない。
星咲が三匹にとって面白いとされることをし続けられれば合格。そうでなければ不合格。星咲がアイツらと一緒に居続けるには、愛想笑いを貼り付けて、道化師を演じ続ける必要性がある。
もちろん、それが出来れば、あの三匹は星咲との関係性を続けるだろう。今回に限っていえば、それが比較的早い段階で崩壊した。それだけの話だ。遅かれ早かれどちらかに無理がくる。仮に来なかったとしても、後に残るのは黒歴史だけだ。楽しい青春などでは、決してない。
と、まあそんなわけで。俺が関わろうが関わらなかろうが、星咲と三匹が本当に分かりあうことなどありえないわけで。例え決別しようが、その結果星咲がちょっと孤立していようが、それは俺の知ったことではないし、興味もない。
無いのだが、
「それはそうかもしれないけど……でも、一応、関係者な訳だし……」
二見がなおも食い下がる。
実に珍しい。こういうときの二見は、俺ほどではないものの、比較的ドライなはずだ。
確かに件の騒動に関わっている当事者なのは間違いない。間違いないが、俺はともかく、二見は隣にいただけで、はっきり言って巻き込まれただけの被害者に近い。その二見が、星咲を助けたいと思う理由が、どうしても見当たらない。そんなに人助け大好きっ子だっけ?君。
「関係者って言っても、司はずっと俺の隣にいただけだろ?仮にあのイベントが星咲にとってダメージになったと仮定しても、司にはなんの非も無い。違うか?」
「それは……そう、なんだけど」
実に歯切れが悪い。
なんだ。いつもの二見らしくない。いつもだったら、もうちょっと反論があってもいいはずだ。
小さい、けれど確かな違和感。
俺はその正体を暴こうと、
カランカラン……
「いらっしゃいませー。一名様ですか?」
「あ、えっと……待ち合わせをしてるんですけど」
「伺っております。ご案内いたしますね」
微かに聞こえる、店員と客のやりとり。この時の俺はそんなことは全く気にしていなかった。だってそうだろう。喫茶店で待ち合わせ、なんてよくある話で、
「こちらですね」
「ありがとうございます~」
「え?」
「あ」
それがよくある話ではないことに気が付いたのは、案内された客──二見と同じ制服を着た少女──が、いつもの席に通された時だった。
「甘い」
「甘い?」
「そう。甘い。いいか。あの三匹と星咲の力関係は、あのイベントが起きる前で既に三匹>星咲になってるんだよ。星咲は最下層にいた。その相手に対して「ちょっと楽しいことしろよ、暇つぶしに」のテンションで吹っかけられたのが「漫画を持ってこさせる」っていうイベントだ。それが起きてる時点で、どのルートを通っても、あいつがあの三匹と対等な友達になるルートなんか存在しないんだよ。だから、俺と出会おうが出会わなかろうが、おそかれはやかれこうなってたって訳」
そう。
結局、三匹と星咲は友達などではないのだ。
三匹内部での力関係は分からない。外から見ているだけで言えば親分一匹と子分二匹という図式が成り立っているようには見える。ただ、その力関係に関わらず、あいつらは一応「友達」というカテゴリに属している可能性が高い。
ところが星咲は違う。星咲はあの三匹にとって「面白いやつ」程度の存在だ。それは友達とは言わない。道端の大道芸や、一年たたずに消えていく、一発屋の芸人と一緒。単発消費型のコンテンツに過ぎない。
星咲が三匹にとって面白いとされることをし続けられれば合格。そうでなければ不合格。星咲がアイツらと一緒に居続けるには、愛想笑いを貼り付けて、道化師を演じ続ける必要性がある。
もちろん、それが出来れば、あの三匹は星咲との関係性を続けるだろう。今回に限っていえば、それが比較的早い段階で崩壊した。それだけの話だ。遅かれ早かれどちらかに無理がくる。仮に来なかったとしても、後に残るのは黒歴史だけだ。楽しい青春などでは、決してない。
と、まあそんなわけで。俺が関わろうが関わらなかろうが、星咲と三匹が本当に分かりあうことなどありえないわけで。例え決別しようが、その結果星咲がちょっと孤立していようが、それは俺の知ったことではないし、興味もない。
無いのだが、
「それはそうかもしれないけど……でも、一応、関係者な訳だし……」
二見がなおも食い下がる。
実に珍しい。こういうときの二見は、俺ほどではないものの、比較的ドライなはずだ。
確かに件の騒動に関わっている当事者なのは間違いない。間違いないが、俺はともかく、二見は隣にいただけで、はっきり言って巻き込まれただけの被害者に近い。その二見が、星咲を助けたいと思う理由が、どうしても見当たらない。そんなに人助け大好きっ子だっけ?君。
「関係者って言っても、司はずっと俺の隣にいただけだろ?仮にあのイベントが星咲にとってダメージになったと仮定しても、司にはなんの非も無い。違うか?」
「それは……そう、なんだけど」
実に歯切れが悪い。
なんだ。いつもの二見らしくない。いつもだったら、もうちょっと反論があってもいいはずだ。
小さい、けれど確かな違和感。
俺はその正体を暴こうと、
カランカラン……
「いらっしゃいませー。一名様ですか?」
「あ、えっと……待ち合わせをしてるんですけど」
「伺っております。ご案内いたしますね」
微かに聞こえる、店員と客のやりとり。この時の俺はそんなことは全く気にしていなかった。だってそうだろう。喫茶店で待ち合わせ、なんてよくある話で、
「こちらですね」
「ありがとうございます~」
「え?」
「あ」
それがよくある話ではないことに気が付いたのは、案内された客──二見と同じ制服を着た少女──が、いつもの席に通された時だった。
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