聖なる愚者は不敵に笑う

蒼風

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Ⅵ.

34.視点を変えると違う世界が見えてくる。

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 実際、解決策が思いつかないことはない。

 もちろん、現実には何が起きているかを把握するのは必須だ。今までの情報はあくまで二見ふたみつかさというフィルターを通した話であって、実際とは異なる可能性がある。

 事実だけを取ったとしても、移動教室間違いが、嘘の情報を信じ込ませてからかわれたという可能性もあれば、単純に体調不良だったり、ついついどこかで居眠りをしてしまっただけ、という可能性もありえる。

 体育の見学だって、体操服を誰かに隠されたとかそういう陰湿な出来事があった可能性もあるし、表には見せていないだけで本当に体調が悪かっただけという実に純粋かつ、平和な事実が横たわっていることも考えられる。

 そのあたりの事実関係をまず確認しないことには、そもそも「存在しない問題を解決する」ことになりかねない。

 それ以外にも問題はある。

 もし、星咲ほしざきがなんとなくクラスで孤立していた場合。それがいじめのような事態を孕んでいるとするならば、関与しているのはあの三匹で間違いない。

 俺もそこまでクラスの内情に明るいわけではないが、少なくともクラス委員はあの三匹の誰でも無かった。名前は忘れたが、それはそれは「委員長とかやってそうな雰囲気の女子」が勤めていたのを覚えている。

 クラス内のカーストには明確な決まりはないし、誰が上で誰が下かなんてのは一時のインパクトで簡単に変化する。もし、委員長の協力が取り付けられれば、現状を打破することは出来るかもしれない。

 具体的にはそうだな……三匹を内部から崩壊させるのが手っ取り早いか。あいつら、全然一致団結しなさそうだしな。所詮は「強そうな一匹に二匹が寄生してる」っていう力関係だから、寄生する対象を作り出すとか、ボス猿の力が弱まれば、あっさりと崩壊するだろう。

 これが既に人間関係が固まり切った時期なら難しいが、まだ高校一年の新学期始まりたてだ。そんなに難しいことじゃないだろう。それ以外でも確認しなくちゃいけないことはいくつもあるが、何せ相手が相手だ、裏をかくのはそんなに難しくは無いはずだ。

 ただ、

「……隠善いんぜんは?どうしてるんだ?」

「今のところは何も言ってない……かな」

 結論。

 多分、大した問題じゃない。

 教師としては少し……いや、かなり問題のある隠善だが、その手の嗅覚が働かない人間じゃない。消極的ではあるだろうが、大きな問題になる前に対処くらいはするはずだ。

 その論拠が「いじめは良くないことだから」ではなく「自分のクラスで面倒ごと起こされるとうざいから」という極めて自分中心の理由からではあるだろうが、きっと解決に動くはずだ。

 その隠善が何も言わない時点で答えは明白だ。もしかしたら星咲は孤立ぎみなのかもしれないし、相も変わらずあの三匹の仲間入りをしようとして、いじられ役といじめの対象のちょうど中間点くらいの立ち位置に落ち着いてしまっているかもしれない。そのあたりの真相は不明だが、取り合えずひとつだけ言えることは、

「隠善が何もしないなら放っておいて大丈夫だろ」

 ただ、その結論に二見は納得せず、

「じゃあ、れいくんは星咲さんを助けないってこと?」

「その通りだ」

「原因を作ったのに?」

「人聞きの悪い言い方をするな。確かにあの日俺は渦中にいたが、遅かれ早かれこうなったはずだぞ。あの三匹と星咲は絶望的に相性が悪い。にも拘わらず付き合いを続けようと思ったらどっちかが折れるしかない。一対一ならまだしも、三対一だ。星咲が折れることになる。だからこそクソみたいな異世界転生を、ご丁寧に漫画に仕立て上げるなんて時間をドブ川に捨てるようなことまでした。けれど、気が変わって、いつも自分が描いているような作品を描いてきてアイツらに見せるなんてことをした。その先にあるのは「理解されない」上に「見下される」だ。それ以外のイベントなど起こりえない。俺がそそのかして見せさせたってんなら話は別だが、あいつは俺が廊下に着いた時点でもうあいつらに自作の漫画を見せていた。その時点で結果は決まってたんだよ。俺は関係ない」

「でも、自分が普段描いてるようなものを見せるきっかけ作ったの零くんじゃない?」

「あ?」

 珍しく二見が反論をする。
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