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Ⅱ.
16.描く動機は人それぞれ。
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それでも二見は提案した。
その意図は、正直分からない。
二見との付き合いは長いし、なんだったら両親よりも一緒に過ごしている時間が多かったくらいだ。
しかし、それだけの付き合いの長さをもってしてもなお、行動原理が分からないことがちょくちょくある。
今回だってそうだ。もしかしたら本気で二見は俺が原作で、星咲が作画の漫画を読んでみたいと思っているのかもしれないし、ただ単純に、そういう選択肢もあるからと思って提示してみただけかもしれないし、もしかしたら、実は星咲の書いたシナリオが面白くなかったから、遠回しに「お前の書く話はつまらない」と突き付けたかったのかもしれない。
普段から飄々としていて、明るくて、沈んでいたり、本気でいらだっているようなことを殆ど見た記憶がない二見。その心の内はある意味、下手なポーカーフェイスよりも読みにくいと言ってよかった。
そんな二見の提案に星咲が、
「それ……は、難しいかな」
俺はすかさず、
「俺と組むのは我慢ならんってか?」
「それもあるけど……」
あるのかよ、失礼な奴だな。そういうときは形式的にでも否定しておくもんだぞ。まあ、逆の立場だったら俺も同じこと言うと思うけど。
星咲は言葉に詰まりながら、
「……私が……私の描こうとしてるものとはちょっと違うっていうか……うん、そんな感じ」
なんだかしおらしい。いつもそんな感じだったらいいんだけどな。暴力女一歩手前みたいな性格はモテないぞ?あ、でも普段はもうちょっと抑えめか。猫被ってやがるんだよな、こいつ。そうまでして好かれたいかね。
二見が更に聞き出す。
「描こうとしてる……っていうのは、この間のあれみたいな感じの?」
「そう……じゃなくてもいいんだけど、それに近いって言うか……うん。そんな感じ」
「あれに近いって……あれの近似値って大体面白くないと思うけどな」
「それは……」
とうとう黙り込んでしまった。
さて、どうしたものか。
どうやら、星咲はあの「ありきたりな異世界転生」を面白いとは思っていない節がある。それどころか、自分が描きたいものだとすら思っていなさそうだ。それでも、そのいわば「作風」を弄る気が無いと来ている。
加えて、俺の書いたあらすじが面白いということも認めつつも、最初に出てきた言葉が「好みの差があるから」だった。俺はこれを、「自分よりも相手の方が優れたものを書くことを認めたくない為の言い訳」だと思っていた。だがもしその言葉が、俺に対してではなく、もっと別の誰かに向けてのものだとすると、
「ひとつ聞いていいか?」
「な、なによ」
星咲がぴくっと反応する。先ほどまでならもうちょっと攻撃的な対応をしたんだろうが、流石二見というべきか。完全に星咲の牙を抜いてしまった。
俺は単刀直入に、
「お前があれを見せようと思っている相手は、ああいう単純なのが好みで、お前はそいつを納得させなきゃいけない。違うか?」
「っ……」
はい、ビンゴ。
反応が分かりやすすぎる。もうちょっと顔に出さないように努力した方がいいぞ。ババ抜きとか弱そうだなこいつ。
二見が、
「誰かに見せるために描いたの?」
「えっと……一応」
なんでだろうね。俺に対しては牙は抜かれてるのにも関わらず、依然として警戒心と敵意しかない対応をする星咲が、二見相手だとなんともしおらしいんだよね。おかしいな。俺がやったことと言ったら、星咲の詭弁を正面からこなごなにして思いっきり足で踏みにじって見せたくらいなのに。あ、それがいけないか。失敗失敗。
俺が聞いても答えが出てこないと思っているのか、二見が引き続き話を聞き出す。
「それが誰なのかって……聞いてもいい?」
「同じクラスの……友達」
「友達……?」
俺は少し考え込んで、
「ああ、あのいかにも頭悪そうなやつら?」
星咲が何か文句を言いたげにするも、ぐっと飲み込むようにして、
「……多分、あってる」
「え?なんで?あいつらそもそも文字読めるの?」
二見が、
「とんでもない認識だね」
「まあ、なあ……」
星咲が言っているのは詰まるところ、星咲がよく一緒に行動している三匹の人間と思わしき生命体のことだろう。
人間と思わしきというのは、まあ話している内容が漏れ聞こえるだけでも下らないからだ。ホントに君たちは小、中の九年間、義務教育受けてきたの?って疑問になるレベル。まあ、細かな内容はもう覚えてないけど。覚えておくほどの内容でも無かったからな。大体が自分の服か、男の話。それ以外のことに脳のリソースを割いてなさそうな感じ。
と、まあ思い出す限りでもとんでもないことこの上ないんだけど、何故か教室内での発言権っていうか、所謂カースト的なものでは上の方に位置しているっぽい。ぽいなんていう曖昧な表現なのは単純に俺がその光景を殆ど目撃していないからなんだけど。まあ、なんとなくそんな感じっぽいなってことくらいしか知らないしな。
二見がぽつりと、
「でも、確かあの三人モテるんじゃなかったっけ?」
「え、マジ?」
「うん。確か三人のうち誰かが告白されたとかされてないとか、そんな話をしてたような、してなかったような」
「なにその死ぬほど曖昧な話」
「や、だって私もそんな聞き耳立ててるわけじゃないし。零くんと違って」
「俺を女子の会話盗み聞きする人間みたいな扱いするのやめてくれる?」
それを聞いた星咲がやや身を引いて、
「アンタ、やっぱり……」
「やっぱり、じゃない。まあ、でも相手は分かった。んで?なんであんなのに対して漫画見せるんだよ」
「そ、それは……見せろって言われたから……」
その意図は、正直分からない。
二見との付き合いは長いし、なんだったら両親よりも一緒に過ごしている時間が多かったくらいだ。
しかし、それだけの付き合いの長さをもってしてもなお、行動原理が分からないことがちょくちょくある。
今回だってそうだ。もしかしたら本気で二見は俺が原作で、星咲が作画の漫画を読んでみたいと思っているのかもしれないし、ただ単純に、そういう選択肢もあるからと思って提示してみただけかもしれないし、もしかしたら、実は星咲の書いたシナリオが面白くなかったから、遠回しに「お前の書く話はつまらない」と突き付けたかったのかもしれない。
普段から飄々としていて、明るくて、沈んでいたり、本気でいらだっているようなことを殆ど見た記憶がない二見。その心の内はある意味、下手なポーカーフェイスよりも読みにくいと言ってよかった。
そんな二見の提案に星咲が、
「それ……は、難しいかな」
俺はすかさず、
「俺と組むのは我慢ならんってか?」
「それもあるけど……」
あるのかよ、失礼な奴だな。そういうときは形式的にでも否定しておくもんだぞ。まあ、逆の立場だったら俺も同じこと言うと思うけど。
星咲は言葉に詰まりながら、
「……私が……私の描こうとしてるものとはちょっと違うっていうか……うん、そんな感じ」
なんだかしおらしい。いつもそんな感じだったらいいんだけどな。暴力女一歩手前みたいな性格はモテないぞ?あ、でも普段はもうちょっと抑えめか。猫被ってやがるんだよな、こいつ。そうまでして好かれたいかね。
二見が更に聞き出す。
「描こうとしてる……っていうのは、この間のあれみたいな感じの?」
「そう……じゃなくてもいいんだけど、それに近いって言うか……うん。そんな感じ」
「あれに近いって……あれの近似値って大体面白くないと思うけどな」
「それは……」
とうとう黙り込んでしまった。
さて、どうしたものか。
どうやら、星咲はあの「ありきたりな異世界転生」を面白いとは思っていない節がある。それどころか、自分が描きたいものだとすら思っていなさそうだ。それでも、そのいわば「作風」を弄る気が無いと来ている。
加えて、俺の書いたあらすじが面白いということも認めつつも、最初に出てきた言葉が「好みの差があるから」だった。俺はこれを、「自分よりも相手の方が優れたものを書くことを認めたくない為の言い訳」だと思っていた。だがもしその言葉が、俺に対してではなく、もっと別の誰かに向けてのものだとすると、
「ひとつ聞いていいか?」
「な、なによ」
星咲がぴくっと反応する。先ほどまでならもうちょっと攻撃的な対応をしたんだろうが、流石二見というべきか。完全に星咲の牙を抜いてしまった。
俺は単刀直入に、
「お前があれを見せようと思っている相手は、ああいう単純なのが好みで、お前はそいつを納得させなきゃいけない。違うか?」
「っ……」
はい、ビンゴ。
反応が分かりやすすぎる。もうちょっと顔に出さないように努力した方がいいぞ。ババ抜きとか弱そうだなこいつ。
二見が、
「誰かに見せるために描いたの?」
「えっと……一応」
なんでだろうね。俺に対しては牙は抜かれてるのにも関わらず、依然として警戒心と敵意しかない対応をする星咲が、二見相手だとなんともしおらしいんだよね。おかしいな。俺がやったことと言ったら、星咲の詭弁を正面からこなごなにして思いっきり足で踏みにじって見せたくらいなのに。あ、それがいけないか。失敗失敗。
俺が聞いても答えが出てこないと思っているのか、二見が引き続き話を聞き出す。
「それが誰なのかって……聞いてもいい?」
「同じクラスの……友達」
「友達……?」
俺は少し考え込んで、
「ああ、あのいかにも頭悪そうなやつら?」
星咲が何か文句を言いたげにするも、ぐっと飲み込むようにして、
「……多分、あってる」
「え?なんで?あいつらそもそも文字読めるの?」
二見が、
「とんでもない認識だね」
「まあ、なあ……」
星咲が言っているのは詰まるところ、星咲がよく一緒に行動している三匹の人間と思わしき生命体のことだろう。
人間と思わしきというのは、まあ話している内容が漏れ聞こえるだけでも下らないからだ。ホントに君たちは小、中の九年間、義務教育受けてきたの?って疑問になるレベル。まあ、細かな内容はもう覚えてないけど。覚えておくほどの内容でも無かったからな。大体が自分の服か、男の話。それ以外のことに脳のリソースを割いてなさそうな感じ。
と、まあ思い出す限りでもとんでもないことこの上ないんだけど、何故か教室内での発言権っていうか、所謂カースト的なものでは上の方に位置しているっぽい。ぽいなんていう曖昧な表現なのは単純に俺がその光景を殆ど目撃していないからなんだけど。まあ、なんとなくそんな感じっぽいなってことくらいしか知らないしな。
二見がぽつりと、
「でも、確かあの三人モテるんじゃなかったっけ?」
「え、マジ?」
「うん。確か三人のうち誰かが告白されたとかされてないとか、そんな話をしてたような、してなかったような」
「なにその死ぬほど曖昧な話」
「や、だって私もそんな聞き耳立ててるわけじゃないし。零くんと違って」
「俺を女子の会話盗み聞きする人間みたいな扱いするのやめてくれる?」
それを聞いた星咲がやや身を引いて、
「アンタ、やっぱり……」
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