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0.プロローグ
2.放任主義なくらいでちょうどいいって話。
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「まさか。俺がそんなめんどくさいことすると思う?」
「ううん。でもそうじゃないとがっつり封筒から取り出して、テーブルの上に広げている理由が見当たらないなって思って」
「いや、別に見当たるだろう。探してみろよ」
「うーん……分かった!誰かから添削を頼まれた!」
「しかしまあ、この漫画。絵は上手いけど、話がつまんねえなぁ……司もそう思うだろ?」
「わお、まさかの無視。流石零くん」
「よせよ、照れるぜ」
「褒めてないよ~」
二見はそう言いつつ覗きこみ、
「ホントだ。絵、上手いね」
「だろ?そこは凄いと思うんだけどなぁ……」
二見が意外そうに、
「え、凄いと思う?零くんが?」
「なんだよ。司は凄いと思わないのか?」
「いや、私は思うけど。でも、ほら、零くんって自分が最強で最高みたいなところあるから、凄いと思ってても、凄いって口にしないんじゃないかなって思って」
「幼馴染の俺に対する認識酷くない?」
二見はからりと笑いながら、
「あはは、ごめんごめん。でも、そんなに人を褒めるイメージって無かったから。意外で」
「ああ……まあ、それはそうかもな」
「でしょ?だから凄いと思うんだなって」
「まあ、実際上手いからな。誰が描いたものなのかは分からんが。これを描いたのがプロじゃないなら、今すぐヘッドハンティングした方が良いレベルじゃないのか?」
「おお、高評価。明日は隕石が降ってくるね」
「せめて雨くらいにしてくれる?」
二見はそんな俺のツッコミを完全に無視し、
「でも、話は面白くないんでしょ?」
「まあな。だから、プロとして使うなら原作を付けることになるんじゃないか。これでプロだとしたら……ぷっ」
「うわぁ、なかなかな反応」
「いや、だって、読んでみろよこれ」
「今、私、仕事中」
二見はそう言いつつ、手元のお盆でガードの姿勢を作る。
が、俺はそんなことは意にも介さず、
「仕事中の割には、さっきからずっと俺のところにいるけどね?」
「まあ、暇だから」
「じゃあいいじゃん」
「でもほら、なんとなく。仕事中にってのも」
俺は店舗の奥──二見の母親、二見陽菜がいるであろうスペースに向かって、
「すみませーん。ちょっと司借りますねー」
すぐに、
「いいよー。ゴムはつけるんだよー」
「え、なにこの酷いやり取り」
二見がドン引きする。いやまあ、字面だけで見たらその反応の方が正しいんだけど、俺がこうやって二見を借りるっていうときは、店内に俺と、せいぜいが常連客くらいしかいないときが殆どなので、それを分かっている二見ママンは、実に飲食店とは思い難い返しを毎回してくるのだ。
俺としてはその感じが正直好きなのだが、二見はそうでもないらしい。難しいところだ。親なんてフランクで大雑把な方が良いと思うんだけどな。自分のコンプレックスを発散するべく、子供をガッチガチに縛り付けて育てた挙句、「誰でもいいから殺したかった」なんていうストレスの発散に出るような結論を出すほどに追い詰めてしまうよりはよっぽどいい。
何はともあれ大義名分は得た。俺は二見を手招きし、
「ほれ、そこ座んなさいな」
「まあ、ママがいいならいいけど……」
ちなみに、二見は父親母親のことを「パパ」「ママ」と呼ぶ。年齢は俺と同学年な訳だから、今年で十六歳になるのに、である。
大体は最初その呼び方をしていても「なんかダサい」とか「恥ずかしい」みたいな理由をつけて辞めていくような気がするのだが、彼女にはその感性がないらしい。俺も俺だが、幼馴染は幼馴染で、大分世間ずれしているような気がする。ま、だからこそ俺とここまで仲良く出来るんだろうけど。
俺に促されるようにして向かい側の席に座った二見は、
「どれどれ……」
俺の手元にあった漫画を勝手に取り上げて読み始める。正確に数えたわけじゃないけど、枚数は恐らく五十枚近くはあるはずで、通常ならそれなりに時間がかかると思われるのだが、二見はそれをものの数分で読み終わり、
「うーん……」
俺の手元に返しつつ唸る。どうやら俺と同じような感想を抱いたようだ。
俺は手元の原稿を整えつつ、
「どうだった?」
「うーん……普通」
「だろ?」
そう。
実のところ、つまらないというのはあくまで相対的な評価に過ぎなくて、これ単体で評価をするならば「普通」や「無難」というワードがぴたりと当てはまるのだ。
ただ、物語は「普通」では駄目なのだ。
よくある日常の出来事を並べただけでは面白くはならない。どんな作品にも必ず「非日常感」がある。
日常系の作品だって、作品の要素を紐解けばどこかに「特別」なものが潜んでいるはずなのだ。世の女子高生はキャンプサークルを立ち上げないし、世の独り身おじさんは突然幼女を拾って育てたりはしないし、ぼっちなギター弾きはいつまでたっても出会いうが無いまま時間だけが過ぎていくのが世の常だ。
ただの日常を並べたるのなら、人間か、会話か、あるいはその両方が特別でないといけない。凡人が凡庸な日常を並べただけの作品は、面白くはなりえない。今、俺の手元にあるのは、まさにそういう作品なのだ。
「ううん。でもそうじゃないとがっつり封筒から取り出して、テーブルの上に広げている理由が見当たらないなって思って」
「いや、別に見当たるだろう。探してみろよ」
「うーん……分かった!誰かから添削を頼まれた!」
「しかしまあ、この漫画。絵は上手いけど、話がつまんねえなぁ……司もそう思うだろ?」
「わお、まさかの無視。流石零くん」
「よせよ、照れるぜ」
「褒めてないよ~」
二見はそう言いつつ覗きこみ、
「ホントだ。絵、上手いね」
「だろ?そこは凄いと思うんだけどなぁ……」
二見が意外そうに、
「え、凄いと思う?零くんが?」
「なんだよ。司は凄いと思わないのか?」
「いや、私は思うけど。でも、ほら、零くんって自分が最強で最高みたいなところあるから、凄いと思ってても、凄いって口にしないんじゃないかなって思って」
「幼馴染の俺に対する認識酷くない?」
二見はからりと笑いながら、
「あはは、ごめんごめん。でも、そんなに人を褒めるイメージって無かったから。意外で」
「ああ……まあ、それはそうかもな」
「でしょ?だから凄いと思うんだなって」
「まあ、実際上手いからな。誰が描いたものなのかは分からんが。これを描いたのがプロじゃないなら、今すぐヘッドハンティングした方が良いレベルじゃないのか?」
「おお、高評価。明日は隕石が降ってくるね」
「せめて雨くらいにしてくれる?」
二見はそんな俺のツッコミを完全に無視し、
「でも、話は面白くないんでしょ?」
「まあな。だから、プロとして使うなら原作を付けることになるんじゃないか。これでプロだとしたら……ぷっ」
「うわぁ、なかなかな反応」
「いや、だって、読んでみろよこれ」
「今、私、仕事中」
二見はそう言いつつ、手元のお盆でガードの姿勢を作る。
が、俺はそんなことは意にも介さず、
「仕事中の割には、さっきからずっと俺のところにいるけどね?」
「まあ、暇だから」
「じゃあいいじゃん」
「でもほら、なんとなく。仕事中にってのも」
俺は店舗の奥──二見の母親、二見陽菜がいるであろうスペースに向かって、
「すみませーん。ちょっと司借りますねー」
すぐに、
「いいよー。ゴムはつけるんだよー」
「え、なにこの酷いやり取り」
二見がドン引きする。いやまあ、字面だけで見たらその反応の方が正しいんだけど、俺がこうやって二見を借りるっていうときは、店内に俺と、せいぜいが常連客くらいしかいないときが殆どなので、それを分かっている二見ママンは、実に飲食店とは思い難い返しを毎回してくるのだ。
俺としてはその感じが正直好きなのだが、二見はそうでもないらしい。難しいところだ。親なんてフランクで大雑把な方が良いと思うんだけどな。自分のコンプレックスを発散するべく、子供をガッチガチに縛り付けて育てた挙句、「誰でもいいから殺したかった」なんていうストレスの発散に出るような結論を出すほどに追い詰めてしまうよりはよっぽどいい。
何はともあれ大義名分は得た。俺は二見を手招きし、
「ほれ、そこ座んなさいな」
「まあ、ママがいいならいいけど……」
ちなみに、二見は父親母親のことを「パパ」「ママ」と呼ぶ。年齢は俺と同学年な訳だから、今年で十六歳になるのに、である。
大体は最初その呼び方をしていても「なんかダサい」とか「恥ずかしい」みたいな理由をつけて辞めていくような気がするのだが、彼女にはその感性がないらしい。俺も俺だが、幼馴染は幼馴染で、大分世間ずれしているような気がする。ま、だからこそ俺とここまで仲良く出来るんだろうけど。
俺に促されるようにして向かい側の席に座った二見は、
「どれどれ……」
俺の手元にあった漫画を勝手に取り上げて読み始める。正確に数えたわけじゃないけど、枚数は恐らく五十枚近くはあるはずで、通常ならそれなりに時間がかかると思われるのだが、二見はそれをものの数分で読み終わり、
「うーん……」
俺の手元に返しつつ唸る。どうやら俺と同じような感想を抱いたようだ。
俺は手元の原稿を整えつつ、
「どうだった?」
「うーん……普通」
「だろ?」
そう。
実のところ、つまらないというのはあくまで相対的な評価に過ぎなくて、これ単体で評価をするならば「普通」や「無難」というワードがぴたりと当てはまるのだ。
ただ、物語は「普通」では駄目なのだ。
よくある日常の出来事を並べただけでは面白くはならない。どんな作品にも必ず「非日常感」がある。
日常系の作品だって、作品の要素を紐解けばどこかに「特別」なものが潜んでいるはずなのだ。世の女子高生はキャンプサークルを立ち上げないし、世の独り身おじさんは突然幼女を拾って育てたりはしないし、ぼっちなギター弾きはいつまでたっても出会いうが無いまま時間だけが過ぎていくのが世の常だ。
ただの日常を並べたるのなら、人間か、会話か、あるいはその両方が特別でないといけない。凡人が凡庸な日常を並べただけの作品は、面白くはなりえない。今、俺の手元にあるのは、まさにそういう作品なのだ。
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