聖なる愚者は不敵に笑う

蒼風

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0.プロローグ

1.面白いことだけを求めて。

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 今から考えれば明確だ。あの時の俺は、面白い物語シナリオに飢えていたんだと思う。

 ……いや、違うな。あの時なんて免罪符をつけてはみたけどしっくりこない。そんな所謂「魔が差した」みたいな可愛いもんじゃない。俺は常に面白い物語シナリオを求めている。というか、面白い物語シナリオしか求めていない。

 好きなものは面白い人間が織りなす、面白い物語シナリオ。逆に嫌いなのは。凡庸でつまらない人間の生み出す、中途半端でどこにでも転がってる、予想しかつかない安易な展開ゴミ

 ところが現実リアルってのは実につまらないもんで、視界にうつる光景の殆どが後者……要はゴミで構成されてる。

 突然転校してくる美人の転校生もいないし、入学式の当日に、可愛い美少女と曲がり角でごっつんこしたり、それが実は自分と同じクラスだったりもしない。

 自己紹介で「ただの人間には興味がない」とのたまう頭のネジが数本外れた神様もどきも存在しないし、突然異世界に転生して、実に都合のいい無双をしたりもしない。

 突然襲来する怪物も無ければ悪の組織だって存在し……いや、悪の組織はあるか。マッチポンプで作り上げた流行と正義で金を稼ぐ、笑いや感動に繋がらない三流未満のゴミならいくらでも転がってる。

 でも、そのくらいだ。

 大した能力もないくせに、精神だけはいっちょまえのヒーロー気取りで、実際は出る杭を叩きまくって再生不可能に陥れることを正義だとほざいてる無能はいくらでも転がってるけど、世界を救って感謝されるようなヒーローはいない。

 そんなもんだ。事実は小説より奇なりなんていう馬鹿なワードがあるけど、あれだってたまたま外れ値的に凄いことが起きた時に使われるワードでしかない。結論、現実がゴミで救いようが無くて、なんの面白みがないから、創作は生まれる。言ってしまえばただのオナニーみたいなもん。

 だけど、だからこそ面白くもある。現実では目障りでしかない、その他大勢のオーディエンスも、毒親にさいなまれて、キレるポイントが意味不明な上に、口先だけは上手いめんどくささ特A級みたいなやつも。数字を使ってると思い込んでるけど実際は数字に使われてるだけの、難しいカタカナ言葉大好きの頭でっかちクソ野郎も、基本、存在しない。面白い物語シナリオっていうのはそういうもんだ。

 雑魚はいない。あるのは理解能力とはき違えた言論弾圧じゃない寛容さを持ち合わせた聖人君子だけ。たまに出てくる三流の悪役は、ゴミみたいに処分され、畜生同然の断末魔を上げて散っていく。それが創作。それがフィクション。ビバ、美しい世界!

 と、まあ、そんな美しい世界とは裏腹に、俺たちが生きるこの世界は、今日も下らないモブと、声だけでかい馬鹿が跋扈し、いじめをなくそうとほざくその口で、言論弾圧をしてみたりするわけで。そんなものは見ない聞こえないの精神で生きていくのがいいってそういう話。

 ま、いつかはこのスタイルで生きていけなくなるときがくるかもしれないけど、その時はその時。今が楽しければそれでいいわけ。

「なんだったら、つかさに養ってもらえばいいしな、うん」

「漏れてる漏れてる。聞こえちゃいけないモノローグが漏れてるよ」

「おっと、すまない。つい本音が」

 俺が一人、この世界の下らなさについて再確認していると、二見ふたみ司がナチュラルに会話に加わってくる。手には何も載せていないお盆。服装はメイド喫茶と、ファミレスの女子制服を足して二で割ったようなユニフォーム。彼女の両親が経営する「喫茶二見」の制服である。

 二見司。

 俺との関係性は簡単に言えば幼馴染。今俺がいる喫茶二見と、俺の家が隣同士で、それこそ物心ついたころからの知り合いだ。

 一緒に風呂だって入ったことがあるし、同じ布団で寝たことだってある。なんだったら、家を空けがちな俺の両親よりも俺との距離感が近いまであるくらいで、俺を取り巻く現実の中でも数少ない「小説より奇なり」と言っていい要素である。

 ちなみに、喫茶二見の常連客でもう一人、「奇なり」サイドの人間がいるんだけど……今はいいだろう。今日は来てないみたいだし。

 そんなわけで俺の性格もあしらい方もばっちり把握済みな幼馴染は、俺の反応を見て、

「そこで取り繕わないのがれいくんらしいよね」

「だろ?もっと褒めたたえるがいい」

「わーぱちぱちぱちぱち」

 これである。ちなみに「ぱちぱち」とは言っているが手は叩いていない。何も乗っていないし、落としたって問題の欠片もないお盆をそれはもうがっちりとホールドしている。その状態で口だけで「ぱちぱちぱちぱち」である。完全に舐めている。まあ、今更二見にかっこつける気は無いからいいんだけどさ。

 とはいえ、気になるものは気になるので、

「なんか雑だなぁ……」

「えーそんなことないよ。ちゃんと褒めてるって」

「そうかぁ?」

「そんなことよりさ」

「そんなこと扱いするレベルはちゃんと褒めてるって言わないと思うな」

 これもまた日常茶飯事。最早慣れ過ぎてて、この手の返しもするっと出てくるようになった。二人で漫才でもしたら、実にスムーズな掛け合いが出来る気がする。やらないけど。台本作るのも覚えるのもだるいし。

「それ、何?まさか零くん。漫画家デビュー?」
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