95 / 120
海の都 ラグーノニア
幕間:ライオン騎士のせわしない心―①
しおりを挟む(あぁーくっそ、さっきから落ち着かねぇ。)
それもこれも全部こいつのせいだ。目の前でちんまり座っている少年を見る。俺とジークを困ったアホ顔で見比べているこいつは何もわかっちゃいねぇんだろう。
どうなってんだよ異世界の情操教育は――!!
まさか目を離したすきに12歳の少年がハーレム形成してるとは思わないだろう……。風の都に行く前に、クリスティア姫様やディアナ嬢とも仲がいいと思っていた。あの時は子ども同士のじゃれ合いだと思って気にも留めていなかったが、きっとあれはハーレムの前兆だったのだろう。もし見抜けていたら、このあどけない顔した堕天使をダンジョン攻略中に徹底的に教育しなおしたのに……
こいつがそんなに女好きだったとは――なぜかものすごく――そのことにショックを受けている自分がいる。
一回りも年下の少年に先を越されたからか? いや、何を張りあっている。俺は獣人だ。抱きしめるのも人前でイチャつくのも番い相手だけだと決めている。
腹の奥で燻った感情を少しでも抑えたくて、大きく息を吐く。その俺の様子に、ミコトがピクリと反応した。怖がらせて悪いとは思うけど……お前のせいだからな。
一緒にいるならやっぱりむさくるしい男よりも女だよな――大抵の男ならそう達する結論になぜここまで苛立つのか。ミコトが俺よりもうちの女騎士を選んで観劇に行ったあの日から、ずっとモヤモヤしている。当たり前なのにな。
時折感じるジークからの視線。やめろ、そんな責めるような目で見るな。護衛を他のヤツに任せて、目を離したことは反省している。せめて女じゃなくて男を……と思ったが、適任者を脳内でリストアップしていくうちに、さらにイラついてきたのでやめることにする。
結論、もう二度と他人に任せたりしねぇ。油断するとミコトは予想外の方向に転がっていくから、俺が責任もって注意しよう。
そしてジークの説教中に衝撃的事実が発覚した。
――あっちでもこっちでもハグだとっ!?
不埒な異世界文化に頭が真っ白になる。あぁでもそういうことだったのか。あいつを見てると自然と手が出てしまうのは。
自分の行動に違和感はあったのだが、ミコトのオープンウェルカムな雰囲気に引きずられてしまっていたということか。なら仕方ないよな――厄介だなぁ、ハグ魔。
顔を真っ赤にしてからかわれているミコトを見て思う。やっぱり、男の護衛はやめておこう。獣人の俺だから耐えられているのであって、こいつに抱き着かれて勘違いしそうなやつも出てきそうだ。ミコトが抱き着きそうな気配があれば――これまで以上に気を引き締めて事前に阻止しなくてはいけないな。
♢♢♢
海か……
いろんな意味でしょっぱい思い出しかない。海のない緑の都出身の俺は、騎士学校時代に初めて海を見て……調子に乗り……挫折した……。泳ぐことに関しては何をどう頑張ってもダメだった。
(臨海学校とか地獄だったなぁ……)
海がなかったから、獣人だから、というのはダサい言い訳だと自分でもわかっているが、無理なものは無理である。
あいつらは、まだこのことを知らない。荷物が心配だ~とか何とか言って、適当にやり過ごすことを心に決めた。ほとんど荷物ないけど。
のんきな掛け声で体操をしているミコトを見る。部屋の時も思ったが、ミコトはいつもダボっとした服を身につけているから……こんなに肌が見えているのは初めて見た。
太陽の光の下だとその白さがよくわかる。スラッと伸びた足、いつもは隠されている膝と二の腕。膝裏のくぼみって見ていて飽きないんだなぁ、初めて知った。二の腕も柔らかそうで触ってみた……チッ、隠された。
そのまま逃げるようにミコトは海に行ってしまった。
(――って俺は何を考えてたんだっ!?)
逃げられても当然だ。俺は少年相手に何を考えていたんだ!? その場にしゃがみ大きく息を吐く。最近の俺はどうもおかしい……
ジークとニッキーが大はしゃぎしている笑い声が聞こえたので顔を上げる。ちょうどずぶぬれになったミコトが立ち上がるところだった。あいつらに何かいたずらでもされたか?
「――んなっ!? 」
なんだその腹はっ!! ミコトが捲くったシャツからチラリとお腹が見えた。白くって、腹筋のかけらもなくて、柔らかそうで、甘そうで、一瞬だけ見えたそれに目を奪われる。撫でてみたいと思った自分に驚愕する。
俺の思考回路にもドン引きだが――とりあえずジークたちの前からその腹を仕舞え。
あとでミコトに「浜辺にヤンキー座りでメンチ切って、湘南の不良かっ!! 」と言われたが、ヤンキーってなんだ? メンチ……とは? ショウナン……?
♢♢♢
はしゃぎまわって疲れたミコトが戻ってくる。随分と楽しそうだったな。俺も泳げていたら、一緒に楽しめたのだろうか、と少しだけ考えてしまう。
美味しそうにサーニャジュースを飲んで、目を輝かせるミコト。こいつは表情がコロコロ変わるから見ていて飽きない。何もかもが初めてのミコトに、いろんなことを教えてやりたい。どんな顔で、どんなリアクションをするのだろうか。
ジュースを堪能しているミコトを眺めていると、ふと、背中にうっすら浮かぶ横のラインがに気づいた。何だこれ?
――うわぁ、ちょっと待て! すまん!! これは本当に俺が悪かった!!
どんどん声が尻すぼみになって、最終的には顔を赤くして俯いてしまったミコトを前にオロオロする。まだ泣いてないよな? セーフだよな?
身体を抱きしめて震える様子は胸が痛い。だから、ダボダボの服で……精一杯自分を隠していたんだな。その健気で、儚げなミコトを誰にも見られたくなくて、そっとバスタオルをかける。あと、ジークたちにこのこと知ってほしくないしな。何でかわからんが絶対バレたくない。
その割にはあいつらと無防備に遊んでいたな、と思うと溜息をつきそうになる。警戒心はどこに置いてきたこいつは……膨らんできちゃってって、一体どのくらい……
(ストーップ、俺の思考回路っ!! そこまでだっ!! )
これ以上そばにいるのはよろしくなかったので、慌ててジークやニッキーたちのところへ逃げる。男の性だ! 不可抗力だ! 脳内の妄想をかき消すかのように足を進めた。
おい、やめろニッキー。水をそんなにかけるな……あぁぁぁぁ!!
――バレた。最悪だ。
いつまでも大爆笑中のこいつらが腹立たしい。でも、さっきまで泣きそうだったミコトが笑っているから……まあいいか。もっとカッコよく笑顔にしたかった気もするが、お前が楽しそうならなんだっていいわ。
とりあえずそこの馬鹿コンビは橋の上で騒ぐんじゃねぇっ!!!
0
お気に入りに追加
493
あなたにおすすめの小説
【R18】満足していないのにその部屋から強制退場させられたのですが
アマンダ
恋愛
少年聖女と獣人騎士シリーズ第2弾『満足するまで出られないのでオカズとして一生懸命頑張ります』のヒーロー視点です。
海底にあった謎の遺跡群で謎の魔法に巻き込まれたミコトとアル。ベッドしかない、殺風景な一室。「ここは、俺の世界の“絶対にセックスをしないと出られない部屋”にそっくりだ」と女装した少年が言うのですが!? 正気か、お前は!? 俺らは男と男だぞ……ましてやお前は未成年で……俺はもう、これ以上お前を汚したくないのだが。こっちが必死で抑え込んでいるというのに、なんでそんなに煽ってくるんだ!! ヒーローにとっての精神的BLですが残念、そうじゃないんです。ゴリゴリに削られていく獣人騎士の理性の崩壊をお楽しみください! 前後編です。
【R18】触手に犯された少年聖女を見て興奮した俺はヒトとして獣人として最低です
アマンダ
恋愛
獣人騎士のアルは、護衛対象である少年と共に、ダンジョンでエロモンスターに捕まってしまう。ヌルヌルの触手が与える快楽から逃れようと顔を上げると、顔を赤らめ恥じらう少年の痴態が――――。
連載中の『世界のピンチが救われるまで本能に従ってはいけません!!〜少年聖女と獣人騎士の攻防戦〜』のR18ver.となります。おなじく『男のフリした聖女は触手にアンアン喘がされ、ついでに想い人の獣人騎士も後ろでアンアンしています。』の続編・ヒーロー視点となっています。
本編は読まなくてもわかるようになってますがヒロイン視点を先に読んでから、お読みいただくのが作者のおすすめです!
ヒーロー本人はBLだと思ってますが、残念、BLではありません。
異世界召喚されたけどヤバい国だったので逃げ出したら、イケメン騎士様に溺愛されました
平山和人
恋愛
平凡なOLの清水恭子は異世界に集団召喚されたが、見るからに怪しい匂いがプンプンしていた。
騎士団長のカイトの出引きで国を脱出することになったが、追っ手に追われる逃亡生活が始まった。
そうした生活を続けていくうちに二人は相思相愛の関係となり、やがて結婚を誓い合うのであった。
気付いたら異世界の娼館に売られていたけど、なんだかんだ美男子に救われる話。
sorato
恋愛
20歳女、東京出身。親も彼氏もおらずブラック企業で働く日和は、ある日突然異世界へと転移していた。それも、気を失っている内に。
気付いたときには既に娼館に売られた後。娼館の店主にお薦め客候補の姿絵を見せられるが、どの客も生理的に受け付けない男ばかり。そんな中、日和が目をつけたのは絶世の美男子であるヨルクという男で――……。
※男は太っていて脂ぎっている方がより素晴らしいとされ、女は細く印象の薄い方がより美しいとされる美醜逆転的な概念の異世界でのお話です。
!直接的な行為の描写はありませんが、そういうことを匂わす言葉はたくさん出てきますのでR15指定しています。苦手な方はバックしてください。
※小説家になろうさんでも投稿しています。
旦那様が多すぎて困っています!? 〜逆ハー異世界ラブコメ〜
ことりとりとん
恋愛
男女比8:1の逆ハーレム異世界に転移してしまった女子大生・大森泉
転移早々旦那さんが6人もできて、しかも魔力無限チートがあると教えられて!?
のんびりまったり暮らしたいのにいつの間にか国を救うハメになりました……
イケメン山盛りの逆ハーです
前半はラブラブまったりの予定。後半で主人公が頑張ります
小説家になろう、カクヨムに転載しています
私が美女??美醜逆転世界に転移した私
鍋
恋愛
私の名前は如月美夕。
27才入浴剤のメーカーの商品開発室に勤める会社員。
私は都内で独り暮らし。
風邪を拗らせ自宅で寝ていたら異世界転移したらしい。
転移した世界は美醜逆転??
こんな地味な丸顔が絶世の美女。
私の好みど真ん中のイケメンが、醜男らしい。
このお話は転生した女性が優秀な宰相補佐官(醜男/イケメン)に囲い込まれるお話です。
※ゆるゆるな設定です
※ご都合主義
※感想欄はほとんど公開してます。
男女比が偏っている異世界に転移して逆ハーレムを築いた、その後の話
やなぎ怜
恋愛
花嫁探しのために異世界から集団で拉致されてきた少女たちのひとりであるユーリ。それがハルの妻である。色々あって学生結婚し、ハルより年上のユーリはすでに学園を卒業している。この世界は著しく男女比が偏っているから、ユーリには他にも夫がいる。ならば負けないようにストレートに好意を示すべきだが、スラム育ちで口が悪いハルは素直な感情表現を苦手としており、そのことをもどかしく思っていた。そんな中でも、妊娠適正年齢の始まりとして定められている二〇歳の誕生日――有り体に言ってしまえば「子作り解禁日」をユーリが迎える日は近づく。それとは別に、ユーリたち拉致被害者が元の世界に帰れるかもしれないという噂も立ち……。
順風満帆に見えた一家に、ささやかな波風が立つ二日間のお話。
※作品の性質上、露骨に性的な話題が出てきます。
美醜逆転の異世界で私は恋をする
抹茶入りココア
恋愛
気が付いたら私は森の中にいた。その森の中で頭に犬っぽい耳がある美青年と出会う。
私は美醜逆転していて女性の数が少ないという異世界に来てしまったみたいだ。
そこで出会う人達に大事にされながらその世界で私は恋をする。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる