上 下
65 / 120
海の都 ラグーノニア

女子会で宣言しました

しおりを挟む
 
「それで……何でここにフェイラート副団長がいるわけ? それに第3騎士団の皆さんも。」

「ミコト、そんな怖い顔しないで。せっかくかわいい恰好してるんだから……痛い! 足踏まないで!! アルもそこでイラつかないで! オーラが怖すぎるよ~。」

(機嫌直せだとぉ~? こちとら乙女のタマ握られとんじゃいぃぃっ! そう簡単に許せるわけねぇだろ、おたんこナスぅっ!! )

 怒りと羞恥心で、顔はまだ赤いままだ。許すまじエロおやじ!! でもなんでアルがイラついているかはわからない。謎だ。

 ジークが盛大な溜息をつく。大方てめぇが何か企んでるからこうなってることはわかってんだぞオラァっ!!

「今回は闘技大会での優勝が条件だろ? さすがの、俺アルニッキーも中々に厳しいかもしれないからさ、騎士団の皆さんに協力していただいて、予防線を張っとこうと思ってね。俺らが負けて、全く知らないヤツらと海底都市行くわけにはいかないだろう? 」

(うっ……それは……)

 知らない人3人と、ユキちゃんと私で海底都市に行く想像をしてみた。うん、失敗する未来しか想像できない。至宝探しどころか男ってバレたら一貫の終わりだ。女ってバレるのももっとマズいけど。

「たまたまラグーノニアに別件で捜査に来ていた第3騎士団の皆さんにも闘技大会に出てもらって、ご協力願おうってわけでね。味方は多いほうがいいし、別に反則はしてないからいいだろ? もちろん俺らが優勝する気満々だけどね! 」

「たまたま……? 」

「そう、たまたま!! 」

 ジークがニッコリ微笑んで頷く。実に怪しい。最近のジークは信用できないが、これ以上ごねていたところで何も情報は引き出せないだろう。人間あきらめが肝心なのだ。

「ミコト様~。私たちがフェイ副団長はボコボコにしときましたよ! 」

「機嫌直してよかったら一緒にお買い物行きましょ~!! 」

「え! 楽しそう~!! 行く行く!! 」

 第3騎士団ってことで、サマンサちゃんとナターシャちゃんがいた。荒んだ心のオアシスだ。サマンサちゃんとナターシャちゃんの手によって、エロおやじは吊るされているし……もういっか。怒ることより楽しむ方が性に合う。サマンサちゃんとナターシャちゃんと南国デートなんて心が躍る。

「ミコト、女装になれるためにもそのままの格好で遊びに行っておいで。」

「えぇ~でも……わかったよ! そのままね!! 」

 ジークの微笑みの圧に負けてしまった。まぁいいさ。女の子として行くということは、これでハグしても何しても怒られない。さっきのエロおやじの感触を払拭するためにも私には天使たちとのイチャイチャが必要なのです!! 

 ♢♢♢

「くぅ~! 美味しい~!! 」

「ミコト様~、こっちも美味しいですよー! はい、あーん。」

「あーん!! 」

 女子会最高っ!! カフェに入って念願のサーニャアイスを食べる。サーニャの実は緑色のツルンとした果実だ。大きさはグレープフルーツくらいで、ヘタの部分だけカットされて南国の色鮮やかな花を添えられて運ばれてきた。実を丸ごとほじくって食べる感じが楽しいのなんの! サマンサちゃんのフルーツタルトも、ナターシャちゃんのシフォンケーキも絶品だ。何より麗しい女の子から手ずから味わわせてくれるオプションが最高だ。

 男どものせいで荒れていた心が浄化されていく。私じゃなくてこの子たちが聖女だよ~!!

「ほんと信じられない!! みんなしてブラとか詰め物とか触っててさ!! 」

「わかります~! 騎士団でも誰かが話し出すとすぐに便乗して盛り上がって……居心地悪いんですよね~!! 」

 男ってやーねぇーって話で盛り上がる。あぁ、女の子同士最高。癒されるよ……

「あ、灯風船マナ・バロン……」

 ふと空を見上げると灯風船マナ・バロンが飛んでいた。昼間もきっと綺麗なんだろうなぁ。このラグーノニアの青い海を上から見る絶景も楽しそうだ。

「ミコト様、もう灯風船マナ・バロンには乗ったんですか? 」

「うん~、昨日の夜アルと。」

「カルバン副団長と……? 」

 サマンサちゃんとナターシャちゃんの目がキラリと光ったことに、ミコトは気づかないまま女子会の醍醐味、恋バナに話題は移っていく。

「2人で乗ったんですか……? 」

「そうなんだよね~、ユキちゃんが空気読まずに途中で帰っちゃってさ~。」

「二人で、どんなお話を……? 」

海絆祭ラウトアンカーについて話したよ。」

「それ以外には……? 」

「それ以外……」

 “大人を舐めるな”低音ボイスが脳内で木霊する。ダメダメダメっ!! あんな危険なものは封印して抹消しなくては!!

「な、何もないですよ……」

「ありましたね!! 何かあったんですね!! 」

「何もない!! 何もなかったらないっ!! 」

 なぜだかすぐに見抜かれた。しかし答えるわけにはいかないので全力で回避させていただく。

「ほら、俺の話はもういいから! 普段の騎士団の話とか聞かせてよ。花の都以外での仕事も結構あるの? 今回みたいに遠征的な? 」

「そうですね~。第3騎士団はいわゆる特殊部隊のような立ち位置にありますから、地方の警備隊で解決できそうにない問題とかがあれば任務が来ますね。第1騎士団が王家の護衛や、地方の警備団の統括、つまり人から人を守り、第2騎士団は魔物から人を守り……で、第3騎士団は? ってなると説明が難しいんですよね。」

 ナターシャちゃんが少し困ったように笑う。

「本腰入れてじっくり調査したい案件がこっちに回ってくる、って感じです。簡単に言えば。いろんなことをするから、個性的なメンバーがそろってますよ。その中でもカルバン副団長は圧倒的な身体能力とその面倒見の良さで、部下からモテモテです。」

 サマンサちゃんがかわいくウインクしながら教えてくれる。イケメン女子からの不意打ちウインクは駄目だって。惚れちゃう。

「そうそう、基本的に無口だけど悩んでいる時には気づいて声をかけてくれますし、どんな相手でもひるまず立ち向かう強さも団員たちの憧れの的です。」

「剛のカルバン副団長、柔のフェイラート副団長で第3騎士団は成り立っているようなものです。だけど獣人の種族柄か、カルバン副団長は他人に固執することは今までなかったんですよ。来るもの拒まず去るもの追わず……優しいは優しいんですけどね。でもこの前のお見送りの時に副団長がミコト様に……」

「アルの、番いはきっと幸せ者だよね。絶対大切にしてくれるもの!! 」

 少し不自然になってしまったかもしれないが、これ以上アルの話をするのは耐えられなくて無理やり遮ってしまった。こういう自分は本当に嫌いだ。もう少し大人の対応が出来ていたはずなのに、アルのことになると途端にできなくなる。

 特に、私よりもアルを知っている2人から聞く話は、アルが誰か知らない人に思えてきちゃって心に黒い靄がかかる。どんなに望んだって、この手を掴まれることはないのに。

 大丈夫。今ならまだ、うまく笑えているはずだ。

「イケメンで、強くって、優しくって、仕事が出来る! 女の子にとって最高の旦那様だよね。ほんと、この旅の間で番いに会えるといいよな~。ジークやニッキーもそう言ってたし。」

 やっぱり不自然だったかな。サマンサちゃんとナターシャちゃんがきょとんとした顔の後に少し気まずそうに身じろぐ。ごめんね……そんな顔をさせちゃって。もう少し器用に話題を逸らしたかったけど、私の技量はここまでです。

「……ミコト様も、この旅の間に副団長が運命の番いに出会ってほしいと思っていますか? 」

「……思っているよ。大事な友人の幸せを願うのは当たり前じゃん! 」

 うん、大丈夫。今日一のいい笑顔が出来ているはず。
 でも何故か、サマンサちゃんが少し残念そうな顔をする。え? なんで?

「ミ、ミコト様は、薔薇好きですけど……ご自身の恋愛対象はどちらなんですか? 」

「え? 俺?? 」

 なんでいきなりそういう話に――?
 あぁ~、確かに今までの女子会の私を見ていると、そう誤解されてもおかしくないか。思いっきり男性愛について語ってたしなぁ――
 真剣な目でこっちを見ているナターシャちゃんと向き合う。

 この場合、答えるのは1択しかない。

「女の子だよ。だって俺、男だし。」

 俺だってオオカミなんだぞ~と、ガルガル唸ってみたら、クスクス笑われた。場の空気が和んだことにホッとする。

 何も不自然なことはない。
 私は男だから――、友人のアルがかわいい女の子と幸せな未来を歩む道を祝福しなくちゃいけない。この小さな嘘が、心に少しずつヒビを刻んでいくだけだ。




サマンサ 「ミコト様と副団長の、運命の番いを乗り越えた究極のラブストーリーはやっぱり咲かないのかな? 」

ナターシャ 「……二人並ぶといい感じだけどなぁ。ミコト様が断言してたし、厳しいかなぁ。」
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

おばさんは、ひっそり暮らしたい

波間柏
恋愛
30歳村山直子は、いわゆる勝手に落ちてきた異世界人だった。 たまに物が落ちてくるが人は珍しいものの、牢屋行きにもならず基礎知識を教えてもらい居場所が分かるように、また定期的に国に報告する以外は自由と言われた。 さて、生きるには働かなければならない。 「仕方がない、ご飯屋にするか」 栄養士にはなったものの向いてないと思いながら働いていた私は、また生活のために今日もご飯を作る。 「地味にそこそこ人が入ればいいのに困るなぁ」 意欲が低い直子は、今日もまたテンション低く呟いた。 騎士サイド追加しました。2023/05/23

【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)

かのん
恋愛
 気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。  わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・  これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。 あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ! 本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。 完結しておりますので、安心してお読みください。

異世界で神様になってたらしい私のズボラライフ

トール
恋愛
会社帰り、駅までの道程を歩いていたはずの北野 雅(36)は、いつの間にか森の中に佇んでいた。困惑して家に帰りたいと願った雅の前に現れたのはなんと実家を模した家で!? 自身が願った事が現実になる能力を手に入れた雅が望んだのは冒険ではなく、“森に引きこもって生きる! ”だった。 果たして雅は独りで生きていけるのか!? 実は神様になっていたズボラ女と、それに巻き込まれる人々(神々)とのドタバタラブ? コメディ。 ※この作品は「小説家になろう」でも掲載しています

【完結】番(つがい)でした ~美しき竜人の王様の元を去った番の私が、再び彼に囚われるまでのお話~

tea
恋愛
かつて私を妻として番として乞い願ってくれたのは、宝石の様に美しい青い目をし冒険者に扮した、美しき竜人の王様でした。 番に選ばれたものの、一度は辛くて彼の元を去ったレーアが、番であるエーヴェルトラーシュと再び結ばれるまでのお話です。 ヒーローは普段穏やかですが、スイッチ入るとややドS。 そして安定のヤンデレさん☆ ちょっぴり切ない、でもちょっとした剣と魔法の冒険ありの(私とヒロイン的には)ハッピーエンド(執着心むき出しのヒーローに囚われてしまったので、見ようによってはメリバ?)のお話です。 別サイトに公開済の小説を編集し直して掲載しています。

【完結】冷酷眼鏡とウワサされる副騎士団長様が、一直線に溺愛してきますっ!

楠結衣
恋愛
触ると人の心の声が聞こえてしまう聖女リリアンは、冷酷と噂の副騎士団長のアルバート様に触ってしまう。 (リリアン嬢、かわいい……。耳も小さくて、かわいい。リリアン嬢の耳、舐めたら甘そうだな……いや寧ろ齧りたい……) 遠くで見かけるだけだったアルバート様の思わぬ声にリリアンは激しく動揺してしまう。きっと聞き間違えだったと結論付けた筈が、聖女の試験で必須な魔物についてアルバート様から勉強を教わることに──! (かわいい、好きです、愛してます) (誰にも見せたくない。執務室から出さなくてもいいですよね?) 二人きりの勉強会。アルバート様に触らないように気をつけているのに、リリアンのうっかりで毎回触れられてしまう。甘すぎる声にリリアンのドキドキが止まらない! ところが、ある日、リリアンはアルバート様の声にうっかり反応してしまう。 (まさか。もしかして、心の声が聞こえている?) リリアンの秘密を知ったアルバート様はどうなる? 二人の恋の結末はどうなっちゃうの?! 心の声が聞こえる聖女リリアンと変態あまあまな声がダダ漏れなアルバート様の、甘すぎるハッピーエンドラブストーリー。 ✳︎表紙イラストは、さらさらしるな。様の作品です。 ✳︎小説家になろうにも投稿しています♪

【本編完結】異世界再建に召喚されたはずなのにいつのまにか溺愛ルートに入りそうです⁉︎

sutera
恋愛
仕事に疲れたボロボロアラサーOLの悠里。 遠くへ行きたい…ふと、現実逃避を口にしてみたら 自分の世界を建て直す人間を探していたという女神に スカウトされて異世界召喚に応じる。 その結果、なぜか10歳の少女姿にされた上に 第二王子や護衛騎士、魔導士団長など周囲の人達に かまい倒されながら癒し子任務をする話。 時々ほんのり色っぽい要素が入るのを目指してます。 初投稿、ゆるふわファンタジー設定で気のむくまま更新。 2023年8月、本編完結しました!以降はゆるゆると番外編を更新していきますのでよろしくお願いします。

【12/29にて公開終了】愛するつもりなぞないんでしょうから

真朱
恋愛
この国の姫は公爵令息と婚約していたが、隣国との和睦のため、一転して隣国の王子の許へ嫁ぐことになった。余計ないざこざを防ぐべく、姫の元婚約者の公爵令息は王命でさくっと婚姻させられることになり、その相手として白羽の矢が立ったのは辺境伯家の二女・ディアナだった。「可憐な姫の後が、脳筋な辺境伯んとこの娘って、公爵令息かわいそうに…。これはあれでしょ?『お前を愛するつもりはない!』ってやつでしょ?」  期待も遠慮も捨ててる新妻ディアナと、好青年の仮面をひっ剥がされていく旦那様ラキルスの、『明日はどっちだ』な夫婦のお話。    ※なんちゃって異世界です。なんでもあり、ご都合主義をご容赦ください。  ※新婚夫婦のお話ですが色っぽさゼロです。Rは物騒な方です。  ※ざまあのお話ではありません。軽い読み物とご理解いただけると幸いです。 ※コミカライズにより12/29にて公開を終了させていただきます。

旦那様に愛されなかった滑稽な妻です。

アズやっこ
恋愛
私は旦那様を愛していました。 今日は三年目の結婚記念日。帰らない旦那様をそれでも待ち続けました。 私は旦那様を愛していました。それでも旦那様は私を愛してくれないのですね。 これはお別れではありません。役目が終わったので交代するだけです。役立たずの妻で申し訳ありませんでした。

処理中です...