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花の都 ラスカロッサ
先生はハッシュドハッシュが好物です
しおりを挟むミコトの孤児院訪問は次の日から行えるようになった。
(ジークとニッキーはどんな手を使ったんだよ…)
怖くて聞けない。
午前は今まで通り、地理と歴史の授業で至宝についての理解を深め、午後は孤児院へ行き子どもたちと一緒に魔法の授業をして夕飯を食べて読み聞かせをしてから帰る。
そう、ミコトの魔力運用は幼児レベルなので子どもたちと一緒に学ぶほうが効率よくできるのではないか…ということらしい。
凹みはしたが、ひとりで永遠と向き合うよりみんなでやるほうが楽しかったので結果オーライだ。
(それに最近コツをつかんだ子たちからの話のほうがぶっちゃけ大人から聞くよりわかりやすい…)
孤児院の子どもたちはみんなミコトの先生だ。
そしてミコトには孤児院訪問と同じタイミングで魔法の先生が新しくなった。
ユークリッド・エルモンテ。エルモンテ侯爵家の嫡男で幼少期から魔法の才能を開花、数々の新魔法、魔導具を生み出し、若干16歳にして宮廷魔導士に任命されバリバリ活躍する超エリートだ。見た目はふわふわの紺色の髪の毛がかわいらしい美少年なので肩書きとのギャップがすごい。
(黙ってりゃかわいいのに、ひねくれてんだよなぁ…)
♢♢♢
「あんたかよ、魔法もろくに使えないバカ男聖女は。僕は早く自動浄化装置が動くところを見たいんだ。さっさとしてくれないか。」
萌え袖とかが似合いそうな美少年の登場にテンションが上がっていたミコトに対するユークリッドの一言目がこれである。
どうやらユークリッドはかなりの魔法大好き人間らしい。魔法のことなら何でも知りたいと研究を重ねてきたユークリッドの魔力運用の講義を子どもたちと一緒に受けるようになってからミコトのレベルは3歳→5歳まで上がった。手を使わずにろうそくに火を灯す、コップ一杯の水を出す、10㎝程度の砂の山を作る、このくらいは出来るようになった…が、求められるレベルには程遠い。手のひら大の火の玉や水の玉、身を守るレベルの土の壁くらい出せれば10歳レベルであり、至宝との共鳴も出来るのではないかと考えられている。ミコトの魔力レベルと旅の出発の時期をどうしていくか…議会では活発な口論が行われているらしい。
ユークリッドはいちいち皮肉っぽいし二言目には「自動浄化装置がみたいから早く覚えろ」なので非常に腹立たしいが、「まぁまぁだね。」と言いながらミコトとシスターたちが作った夕飯をきれいに完食、おかわりを要求してくる感じや、ミコトが話すおとぎ話を一番ワクワクして聞いているのがかわいすぎる。絶対怒るので言わないが心の中で“ユキちゃん”って呼ぶのが最近のひそかな楽しみだ。
ユークリッドの抜擢はミコトの護衛面からも考えられていた。
ニッキーとジークが話していた対魔力攻撃用の要である。魔法の研究がしたいのに子守りと余計な仕事が増えてユークリッドは大変ご立腹であった。そんなユークリッドをどうやらジークは「“自動浄化装置”を近くでじっくり見られるチャンスだよ。なんなら至宝も研究できるチャンスかも?」という甘い言葉で釣ったらしい…魔法オタクめ…
2、3日置きにジークとニッキーはやってきて、子どもたちと遊んだり、魔法の授業を冷かしたり、ユークリッドをからかったりして楽しんでいる。
「こんなに疲れるつもりじゃなかった。聖女様はバカだし子どもはうるさいし、殿下はしつこいし…早く至宝を見つけて終わらせてよ…。このハッシュの揚げ物おかわり。」
ユキちゃんのご機嫌のためにもミコトは日本との知識を融合させて、毎日おいしいご飯作りを頑張る!!
♢♢♢
子どもたちには毎晩1つ新しいおとぎ話を話している。
そして1度話した話は昼にもせがまれれば話す。一緒に物語の童謡も一緒に教える。物語に歌があることはこの世界ではなかったらしく物凄くウケがいい。
ある晴れた日もミコトは庭で読み聞かせをしていた。
終わった後はみんなで歌う。子どもたちの朗らかな声は庭中によく響いていた。
「ミコト―もっともっと!今度はお姫様の話がいい!」
「えぇー、冒険に行く話がいい!」
「他にもあるんですか!?ぜひ詳しく!!」
庭を囲む柵の隙間から顔をねじ込む勢いで、声をかけてくる眼鏡の女性がいた。
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