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花の都 ラスカロッサ
狐さんに捕まりかけました
しおりを挟むある日の午後、今日もうまくいかなかった魔法の授業を終えミコトはトボトボと廊下を歩く。護衛騎士は3歩後ろに。「隣を歩いてほしい」と声をかけたが堅物騎士の答えは「NO」だった。
角を曲がった先に、議会でミコトのことを怪しんでいたおじさんがいた。
(うわぁ…会いたくなかった…)
ミコトはすぐに感情が顔に出る。案の定つかまってしまった。
「おや、聖女どの。調子はいかがですか。何やら表情が暗いですが。」
「いえ、別に…」
(めんどくせぇ…)
早く興味を失ってくれることを願う。
「毎日、講義と魔力の訓練ばかりではつまらないでしょう。いかがですか。今度息抜きしに我が邸宅へ遊びに来ませんか。」
(何考えているんだこのおっさん…明らかに鋭い目でこっちを見る癖に家に誘うなんて…罠か…?でも確かにずっとお城にいるし少し出たいかも…)
ミコトのわずかに揺れた心のスキを逃さず、おっさんは畳みかける。
「たまには違う場所で食事を食べ、休むことも重要ですよ。あぁ、我が家には自慢のバラ園がありましてな。たまには薔薇園で日の光とかぐわしい香りに包まれながら、自然を感じて魔力運用をするのもいかがでしょうか。」
明らかに怪しいことはわかっているが弱っているミコトは揺れてしまう。
「失礼致しました。まだ名乗っていませんでしたね。吾輩はロイ・ベッケンロード。3大侯爵のうち1つで代々財務大臣を務める家系にございます。」
ベッケンロード侯爵は仰々しいお辞儀をする。
「聖女様をお招きできることを誠に光栄に思います。我が家の自慢のシェフが今日はいい肉が入ったと言っておりましてねぇ。腕によりをかけて今頃準備していることでしょう。そこの君、陛下に聖女様の予定を伝えてきてくれ。今夜はベッケンロード邸に宿泊すると。あぁ護衛は心配ないよ。吾輩の護衛がいるからね。君も毎日気を張っていて疲れただろう。今日くらい休みたまえ。では聖女様、あちらに馬車を用意してますのでご案内致します。ディナーにはまだ早いので先ほど話した薔薇園で散歩でも致しましょう。」
(あれ?私返事したっけ?)
グイッと腕を引かれて馬車の方へ誘導される。
「お待ちください閣下。事後報告でなく事前に陛下の了承を得てから晩餐にはお招きいただきたい。そして私は聖女様の護衛である。聖女様がお役目を立派に勤められるまで、片時も傍を離れるつもりはございません。そして陛下の許可だけでなく聖女様の意思も尊重してもらわないと困ります。まだ聖女様は一言もおっしゃられてはいないではないですか。」
(この人こんなにしゃべれるんだ…)
助け舟にミコトはホッとする。騎士の言葉に、聖女の意思を尊重しろという何気ないその一言に、ふわふわ浮いていた足がちゃんと地面についたようだ。グッと腕に力を入れて侯爵から離れる。
「お誘いいただきありがとうございます。ですが今日はクリスティア姫様から晩餐に誘われていますのでご了承ください。また機会がありましたらお願い致します。」
(よっしゃー!断れた。)
こんな小さなことでも自身が出てくるから不思議だ。それにいけ好かない護衛騎士が助けてくれたことも嬉しい。
(興味ないと思っていたのになぁ。でも片時も離れないのは嫌だな…)
たまには離れてもいいんですよぉーと心の中でつぶやく。
「ふむ、そうでございますか。失礼いたしました。ではまたの機会とはいつがよろしいかな。聖女様の好物を用意してお待ちしております。」
(あ、予想より押しが強い人だった…でも1回断ってしまったし次は行かないとかな…)
「えぇっと…そうですね…」
口ごもるミコト。行きたくないが行かないといけないだろう。でもあまり先過ぎる予定だと失礼だし…と悲しい日本人的精神でグルグルと揺れる。
「失礼ですが閣下。聖女様は王妃様からお茶会に招待され向かっている途中でございましたので…これ以上お待たせするわけにはいきません。日を改めて書面でご招待いただけますでしょうか。」
騎士からの助け舟再び!!
「では聖女様、参りましょう。」
これ以上会話させてはなるものか、という勢いで騎士はミコトを追い立てる。
「あの、ではまた、さようなら!!」
勢いに押された少々元気なあいさつで侯爵に別れを告げ、ミコトと騎士はこの場を去った。
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