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前編

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「なんだ――これは。」

 馬鹿王子の強引な策で、護衛対象の少年と海底散策をしていたはずなのに――

 発見した海底の遺跡。家屋の中に踏み込んだ瞬間、俺たちを襲ったまばゆい光。何らかの魔術が発動によって、海底の一室に閉じ込められた。

 ――ホテルって推察はあながち間違ってなかったのかもな。

 その部屋には一組の椅子と、テーブルと大きなベッドのみ。眠るだけの部屋って感じで生活感は感じられない。そして、テーブルの上には1枚のカードと砂時計。

 “満足するまで出られません”

 ――どういう意味だ?

 満足っていろんな意味があるだろう。腹いっぱい食って、満足。いっぱい寝て、満足。いい芸術作品と出会えて、満足。この殺風景な部屋で求められる満足とは一体なんだ。そして、誰がそれを判断する。

 検討もつかない俺に対して、ミコトは何か思い当たる節があるみたいで、顔を真っ赤にして真っ青にして、また真っ赤にした。

「――――ミコト? 」

「はははははいっ!! 」

 カードを見た瞬間から、明らかに挙動不審になっている。

「何かあったか? 」

「いいえ、何にもないです!! 」

「……あったんだな。」

 何でわかるの? って驚いた顔をしたあいつは、俺を見てさらに頬を染める。誰でもわかるわ。

「おい、ミコト!! 」

「何でもないから! 気にしないで!! 」

 気にしないでと逃げられると、気になって追いかけてしまう。部屋の中で行き場を失ったあいつは、ドアを開けようと必死で取っ手を回した。

 ――そんなに嫌がられると傷つくのだが?

 情けないので声には出さないが、少しだけ意地悪したい気持ちになった。ちょっとした出来心で、いつもより近い距離で声をかける。

「なぁ……もしかしてこの部屋から出る方法、知ってるのか? 」

「あ……や…………」

 案の定、ミコトは大きく肩を震わせて、涙目で俺を見上げながらその場にへたり込んだ。

 ――なんだ、その顔は。

 上気した顔、潤んだ瞳、震えるか細い声。弱り切った様子のミコトに、少し意地悪したつもりが――予想外のリアクションに戸惑う。

 それと同時に湧き出てきた感情を抑え込んだ。

 落ち着け。俺はこいつの護衛として、安全に外に出るための方法を探している。ミコトの様子からこいつは何かを知っていることは確実だ。よって、これは部屋から出るための大事な情報交換だ。

「言えよ。いつまで経っても出られなかったら大変だろ? 」

 大事なことだから――少しミコトとの距離を詰める。さっきみたいに逃げられるわけにはいかない。決して邪な気持ちなどない。

「満足するまで……ってなんだよ。」

 顔を赤くしてフルフル首を振る、精一杯なミコト。



 ――くっそ、さっきから何なんだよ。駄目だ、抑えきれなくなった。そんなかわいいリアクションをするお前が悪い。



 そんなに抵抗されると、無理やりにでも言わせたくなるじゃねえか。


 膨れ上がった嗜虐心に従って、手を伸ばして、逃げる獲物を捕まえた。

「言えよ――」

「――っ!! 」

 年下の少年を苛めて楽しんでんじゃねぇよって頭の片隅で冷静な俺が騒いでいるが、止まらないもんは仕方ねぇ。男のくせに妙な雰囲気を出しているこいつが悪いと思う。赤くなって固まったミコトの表情から目が離せない。無意識にあいつのあごを親指でなぞっていた。

「満足ってなんだ……? 」

 目を強く閉じて、震えるミコト。固く閉じられていた唇が薄っすら開いた。腕の中で、自分の思い通りに動くミコトの様子に、謎の征服欲が満たされていく。

「性的に……満足するってことだと思います…………」

「――――はぁ? 」

「俺の世界の――“絶対にセックスをしないと出られない部屋”とそっくりなんです……」

 思い通りに動いたと思った少年の口からは、思いもしない言葉が発せられた。

 絶対にセックスするまで出られない部屋だと……お前の世界どうなってんだ!!

 そして誰だ、こいつにこんなことを教えたヤツは!!

 ♢♢♢

 セックス。
 それは成熟した男女が互いの愛を深め合うために行う、快楽を伴う行為である。

 もう一度言おう。
 成熟した男女が行う行為である。

 成熟した、男女が。

 ――未成熟の男だぞ!!

 俺の固定概念や常識をことごとく破壊していく目の前の少年。

 先ほどまで浮かんでいたいろんな満足の形は、少年の衝撃発言により木っ端みじんに消え去っていった。ベッド以外何もないこの部屋ではミコトの言うように――セックスするしかないのでは? と思考回路がおかしくなる。

 恥ずかしそうに椅子に座って俯いている少年。小さく丸まったミコトは、巣の中に入って身を守る小動物のようで庇護欲を掻き立てられる。
 それと同時に――馬鹿王子の作戦のせいで女装しているせいか、薄暗く汚い欲が高まり、あの日の記憶を呼び起こす。

 グチャグチャにされて嬌声をあげて、イキまくるミコト。無理だ、やめて、と叫びながらも快楽を享受しているミコト。その姿を、においを思い出しただけで、下半身に血が集まってくるのを感じた。

 次は、俺が触っていいのか?

 好きに、自由に、あいつを貪り食っていいのか?

 フワフワした白いワンピースはいつものポンチョ姿と違って、なだらかな身体のラインを映し出す。そのラインを視線でなぞったのがバレたのだろうか、ミコトは椅子の上で膝を抱えた。

 ――何を考えているんだ、俺は。

 興奮している身体と心に、背筋を伸ばして深呼吸をしながらストッパーをかける。

 思い出せ。あの日の後のやるせない気持ち。運命の番いでもない、同性の、未成年相手に興奮した罪悪感。いつか出会う番いにも、世間様にも顔向けが出来ない。

 まるで腹の底に鉄球でも飲み込んだみたいな、重たく冷たい後悔はもう勘弁だ。

 こいつは――俺の番いでも何でもない。護衛対象で友達だ。

 俺は、こいつの騎士だ――あらゆる脅威から守り抜くのが俺の使命だ。


 例え、俺自身からでも。


 思い出した後悔の念は俺の中に渦巻いていた俺の欲望は落ち着かせる。

 満足には、いろんな形がある。

 おかしくなった思考回路は、もうエロいことしか考えられないけれど、エロにも様々な形がある。

 ――多少恥ずかしいが、ミコトを守るためだ。

「とりあえず、お前は布団かぶっておとなしくしてろ。」

「うわっ――っ! 」

 こいつの姿やにおいがなければ大丈夫だ。落ち着いて、対処できる。

「その中で耳塞いで、目つぶって――いいか、絶対出てくるんじゃねぇぞ。」

 待ってろ、ミコト。こんな頭のいかれた部屋から、俺が助けてやる。

「大丈夫だ――俺に任せろ。」

 番いのいない獣人男の満足の仕方を、披露する時が来た。


 ♢♢♢



 ――1回目はいいとして、2回目からだよな……

 元気のなくなった息子を弄びながら思う。どっちかといえば淡白な方の俺は、絶倫でもなんでもねぇ。さっきは妙な興奮で無敵だと思ったが、一度吐き出したことで冷静になってしまった。

 ダンジョンの時のあれは――媚薬と状況が異常だったんだ。

 あの時の無限に高まった欲が今は懐かしい。

 右手を動かすが、そうすぐに元気になるわけでもない。吐き出した後の気だるい身体をベッドに横たえ、途方に暮れる。

 その時、甘酸っぱいかぐわしい香りが俺の鼻をくすぐった。その香りはダイレクトに股間を直撃する。

 ――くっそ、このにおいと感覚は身に覚えがある。

「――おい。大人しくしとけって言ったろ。」

 身の内で燻る獣から守るため、低い声で威嚇して、あいつを追いやった。こっちの気も知らないで出てきてんじゃねぇよ。

 ――そしてなんで俺は少年の、男のにおいで起つんだよ。

 臨界体勢に入った俺の息子を見下ろし、自分自身の情けなさに呆れ返る。

 ――あいつは、淫魔か何かなのか?

 もうオカズにしないと決めたはずなのに、脳内にあいつのあられもない姿がチラつき誘惑してくる。布団に篭ったことで薄くなった残り香を求めて、無意識に鼻をひくつかせる。

 “駄目だ、やめとけ”

 理性が警報を鳴らすが、俺の本能はこう訴えかける。

 “ミコトを求めれば求めるほど、もっと気持ちよくなれるぞ”

 唇を噛みしめながら目を閉じて、必死で右手を動かす。このまま続ければいつかはイけるだろう。

 でも、もっと気持ちよくなりたい。身も心も震えるような快感が欲しい。

 男の欲に負けた情けない俺は、その名前を呼んだ。

 触らなくてもいい。見なくてもいいから、せめて――

 においだけでも嗅ぎたい。


 先ほどより隙間を開けたのだろうか、ムワッとした甘い香りが部屋全体に広がって、背筋にゾクゾクした興奮が駆け上がる。その酩酊するような芳醇な香りを目一杯吸い込みながら、右手の動きを早くして――果てた。

 先ほどとは全く違う快感の度合い。身体の力が抜けて、頭が真っ白になるような、幸福感。なんだこれは。病みつきになりそうだ。

 だがしかし、一瞬の幸せは無情にも、すぐに消え去っていく。再び押し寄せてきた罪悪感の波。

 ――またやってしまった。

 一体全体、俺はどうしちまったんだ。コントロールが利かない。友達に、欲情するって最低すぎる。 

「アル…….今大丈夫? 」

「あぁ。」

 大丈夫だけど大丈夫じゃない。だがみっともないので大丈夫と答えるしかない。

「砂時計は順調?」

 その言葉に導かれるように砂時計に目を向けた。4分の1~3分の1くらい溜まっていた砂。2回で3分の1ということは、全6回……頭を抱えたくなった。一回休もう。

「……少し休憩だ。」

「……お疲れさまです。」

 布団から出てきたあいつは――暑かったのだろうか。上気した顔、濡れて額には張り付いた前髪、玉になった滴が首筋を流れていき、胸元に入り込む。汗が気持ち悪いのか、モジッと太ももを擦り合わせて座りなおす、まるで女みたいな仕草。ミコトの汗の香りが閉じ込められていた布団の中から解放されて、辺りを包み込む。

 ――お前なぁぁぁっ!

 嗅覚と視覚に訴えてくる暴力に抗いながら必死で己を押し殺す。2回出していなかったら、そのまま押し倒してしまいたくなるくらい破壊的な香りだ。

 悲しませたり、傷つけたりしたくないんだ。

 大事にしたいのに、今のミコトを見ているとその決意が崩れそうな気がして、直視できない。なんで、今、このタイミングで、お前は女装をしているんだ。女の子にしか見えなくて、勘違いしそうになる。

「ねぇ、アル……嫌かもしれないけど、俺に何か出来ることない? 」

 こっちが必死で冷静になろうとしているのに、頭を勝ち割られるような衝撃発言をミコトがかましてきた。

「はぁっ!? いや、いい。何もない!! 1人でやるから。お前は何もしなくていい。」

 顔を赤らめながら、俺を見つめるその瞳に、頭が沸騰したみたいに馬鹿になる。

 ――何でもお手伝いって、お前その意味わかっていて使ってるのか?

「でもアルにばっか……申し訳ないよ。」

「ガキがやることじゃねぇ。気にするな。大体お前……は……」

 お前は……

 男で、

 未成年で、

 友達で、

 対象外のはずなのに、

 今のお前は女じゃないか。

 そう思った瞬間、頭のねじがはじけ飛んでしまった。

「少しだけ――いいか? 」

 こいつが女の格好をして誘惑するからいけないんだ。何されても構わない、全てを任せます、とでもいうように無抵抗でされるがままのミコトに、身体の芯が熱く興奮していく。

 ――待て、落ち着け。

 欲望のままに貪りつくしたい衝動を押し殺す。

 何でもするとミコトは言ったけど、さすがに超えてはいけない一線がある。男の欲を知らなさすぎる、女の格好をして、俺の理性を破壊していく小悪魔。どうする、どこまでする。このベッド上での試合の審判は俺に任されている。

「前みたいに――嗅がせろよ。」

 触れるはアウトだが、においを嗅ぐくらいなら、セーフじゃないだろうか。熱に浮かされ追い込まれた思考回路に、通常ならありえない判断を脳みそが下した。
 さすがに自慰行為をまじまじと見られる趣味はないので、あいつを四つん這いにして覆いかぶさる。正面よりマシだと思ったけど、これはこれで中々――獣の交尾のような体勢は下半身に来るものがある。

 無防備に晒された首元を嗅ぎながら、夢中になってミコトのにおいを堪能する。甘く、俺のすべてを焼き切るかのような強烈なにおい。俺の息が耳にかかるたびに、くすぐったいのか震えてしまうミコトがかわいくて、気づかれない程度に遊ぶ。耳に息を吹きかけて遊ぶ変態だと思われたくない。せめてもの矜持だ。

「もう……アル…………」

 崩れ落ちたミコトがこちらを向いた。真っ赤に染まった濡れた唇、涙を浮かべて懇願する表情。身体の中で急激に膨れ上がった欲望に従って、その無防備な首筋に牙を立てながら、欲を吐き出した。

 ダイレクトに嗅いだにおいのせいで、先ほどより強い快感に身を震わす。

 ――何をやってるんだ、俺は。

 熱い息を整えながら、賢者タイムに入る。快感と罪悪感。次から次へと代わるがわる押し寄せてくる波に、頭と心がおかしくなりそうだ。

 柔らかい身体からそっと身を離す。どんどん強くなっていくミコトの香りと俺の香りが混ざりあってほの暗い喜びに満たされる。

 ――待て、俺の香りとミコトの香りがなぜ混ざる。俺は今どこに出した……

 ハッとして視線を下ろすと、俺の白濁がミコトのお尻から太ももを汚していた。

「すまん!! 服が……」

 口ではすまないといいながら、俺に染まったミコトの様子に目を奪われる。満たされた支配欲と共に、もっと汚したい、染め上げたい欲望に駆られる。

 ――なんだよ、これ。

 知らないぞ、俺のこんな感情は。自分がこんなに汚い大人だとは思わなかった。綺麗にすれば、その狂おしい感情も消え去るかもしれない。そう思ってミコトの許可も取らずにスカートへと手を伸ばした。

 邪な感情はなかったはずなんだ。それなのに、めくったスカートの中、白くて柔らかそうで、触ったら気持ちよさそうな太ももに目にした瞬間、再び身体の中に燃え上がる炎。

 ――ふざけるなよ。

 際限なくミコトへの欲望が高まる。そろそろ手に負えそうもない。この欲望が暴走してしまったら、俺とこいつの関係はどうなるのだろう。

 ――今ならまだ間に合う。早く綺麗にして離れないと。

 そう思った俺の気持ちなんて、またしてもこいつには関係ないみたいだ。

 慌てたミコトの手に汚い欲が絡みつく。それを見たミコトは顔を赤らめ、目を潤ませた恍惚とした表情を浮かべた。

 こんなミコトの顔は初めて見た。さっきまでの全てを暴きたくなるような可愛らしい恥じらう雰囲気が消えて、こっちの欲を刺激する、艶っぽくて大人の女性のような色香を漂わせた。

 どこでそんな顔を覚えた。

 少年が浮かべたとは思えない、妖艶な表情に心を奪われる。

 心臓が痛いくらいに高鳴る。ミコトから目を離すことが出来ない。

 薄っすら開いた唇。その間から赤い舌がチロリと顔を出す。ミコトはゆっくりと手を近づけ……俺の白濁液を舐めとった。

 ――っつ!?

「ミコト――っ!! 」

 驚きのあまり、その手を急いで掴む。

 俺の迫力に驚かせてしまったか、目を丸く見開いたミコト。コクリ、と喉が鳴る。口の端から少し垂れた白濁。

 俺が吐き出した物がこいつの身体を汚した。まだ未成年の、年下の少年を俺が汚した。

 ――なんで舐めた。どうしてそうしようと思った。

 いろいろ問いただしたいが、緊張と興奮で喉がカラカラだ。うまく言葉が出ない。

「苦い……」

「当たり前だろうがっ――」

 ――くっそ。何だこれは。

 身体の中から、ミコトを支配したような感覚に陥って頭がクラクラする。なんでそんな変態じみた行為がこんなに震えるくらい……嬉しいんだ。

 でも、足りない。もっと、もっとだ。

 もっと俺で染め上げて、身体の至る所から俺のにおいがするくらいにならないと満足できない。

 膨れ上がった欲望に従って、そのまま押し倒した。

 思った通りだ。すげぇ気持ちいいじゃないか。先ほど見えた太ももを俺の手が堪能する。柔らかくてすべすべで、少しひんやりして――無限に触っていられる。

 理性の警報は聞こえない。

 聞こえてくるのは、その太ももの先を見たい、嗅ぎたい、グチャグチャにしたい、俺の本能の声だ。

「――アルっ!! 俺、おさわりNGなんです!!」

「あぁん? 」

 なんだその、一応決まっているけど雰囲気でボーダーラインがグダグダになってしまいがちな、風俗店の暗黙のルールみたいなセリフは。

「ここまで来て、何言ってんだ。何でもやるって言っただろう。」

「言ってない! 言ってないよ!! 」

 切羽詰まったミコトの様子に少し冷静になる。言っていた気がしたんだが……

「少しだけ――少しだけだ。」

 触ってほしいとでもいうように、俺を誘うにおいをまき散らしているくせに……触るなとお前の口が言うのか。

 本来なら止まらなくてはいけないのに、止めることの出来ない欲求に従って、みっともなくすがりつく。

「おさわり以外なら――何でもやるから!! 」

「――ほう。」

 その言葉、俺はしっかり聞いたぞ。おさわり以外なら、何でもいいんだな。折れたミコトがかわいくて思わず笑みが零れる。

「なら――――パンツ見せてもらおうか。」

 驚愕に目を見開いたミコト。その頭をゆっくり撫でた。

 ――悪いな。俺はどうしてもその先が見たい。俺の肉棒の形の触手で気持ちよくなっていたお前の秘めた場所を。

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