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84 夜明け 4*

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「甘いものって何? エルランド様」
「う~ん……前から思っていたんだが、リザ、俺を呼ぶ時、様づけはもうよしてくれないか?」
 エルランドはリザを抱え上げながら奥の部屋へと歩いていく。
「身分からすれば、リザの方がずっと上なのだし。それに俺はリザと呼んでいる……短くて美しい響きが好きだ」
「結婚式の前に、兄上にも覚え易くて良いと言われたわ。生まれて初めてめられた」
「王の話はしたくない。正直苦手だ」
 エルランドはリザを自分の寝台に横たえながら言った。自分も横になり肘をついた彼は、もう一方の手でリザの頬を包む。
「今は俺とリザの時間だ。他の男の話はしたくない」
「いいけど……どうして、エルランド様の寝台に私を運ぶの?」
「一緒に寝たいからだ。初めてじゃないだろう?」
「それはそうだけど……また、あんな風にするの? 裸になって?」
 森の見張り小屋での出来事が、もうずっと前のことのように思える。けれど忘れたことはない。リザの胸は大きく鼓動を打ち始めた。
「そうだ。だがリザが嫌ならしない」
「……嫌じゃないわ」
 リザは真っ赤になって言った。
「温かくて……いえ、熱いのが好きよ」
 その言葉にエルランド目は一瞬見開き、そしてすぐに色気たっぷりに微笑んだ。
「いくらでも熱くさせてやる」
 そう言って、エルランドは蕾のような唇に深く口付けた。
 リザの腕が大きな肩を両手で抱きしめる。大きな寝台がぎしりと揺れた。

    ***


 するすると着ているものがほどかれる。
 胸元が緩められ、真っ白い珠がこぼれでた。すかさず獣が喰らい付く。
「ん!」
 びくりと背中がのけぞるが、その隙間に腕を差し込まれ、リザは動けなくなってしまった。

 すごい音……恥ずかしいけど、とても嬉しそうな……。

 渇いた狼が水を飲む様な音が胸元からひっきりなしに聞こえる。男のもう片方の手はやわやわと対の乳房を掴んでいた。
「はぁあ! ああ!」
 熱く濡れた舌先と、硬くざらざらした指の腹で頂を刺激されると頭がおかしくなりそうで、快感からのがれるようにリザは腰を捻った。だがそれは、さらに愛撫を強めるだけの効果しかない。
 きつく吸い上げられ、くりくりとこすられて、リザはさらに高く鳴いた。
「あうっ!」
 つきんとする快感に翻弄されてこぼす息が荒くなる。胸の感覚はそのまま腹の下へと伸びていて、知らずに腰が揺れた。
 それを見逃すエルランドではない。
 長い腕が夜着の裾に伸びる。
 あっという間にそれはたくし上げ上げられ、小さな下着を露わにした。
 中央の窪んだ部分にそっと中指が添えられる。
「リザ、濡れている」
「え? どうして?」
 驚いたリザが思わず体を起こそうとするのを止めて、エルランドはリザの耳に口をつけた。
「リザが俺を求めているというあかしだ」
「……そ、そうなの? 前の時もそうだった?」
「ああ。だが、まだ慣れていなかったから、これほど潤ってはいなかった。確かめるか?」
「う……うん」
 エルランドはリザの手を取って自分の中心に触れさせた。初めて触れるのだろう、その指先はおぼつかない。
「う……濡れてる……気持ち悪い」
 リザは慌てて手を引っ込めた。
「なんで? これが俺の好きな甘いものなのに」
 そう言いながらエルランドは巧みに下着の紐をほどいていく。
「食べさせて」
「え?」
 リザが意味を解しかねているうちに、エルランドは機敏に体を沈めてリザの膝を抱えた。
 すぐに頭が沈み込み、胸に受けた愛撫がそこにも繰り返される。
 それは以前、森の小屋でも受けた行為。しかし、あの時のリザは混乱し切っていて、よく覚えていないのだ。
 しかし今は、その横柄な舌の動きが全て感じ取れた。
「ん……くく」
「リザ、声を我慢するな。俺はあなたの声もむさぼりたい」
「こ、こえ? きゃあ!」
 ある一点に触れられた時、自然に腰が小さく跳ねる。押さえ込まれて、ねられて、挟み込まれて悲鳴が止まらない。
 もうそこは、お互いの体液で大変なことになっていた。
「あ、あああああ──っ!」
 きつく吸い上げられて、リザの体が大きく伸び切った時、ようやくエルランドは僅かに身を離した。
「……リザ」
「て、鉄樹を挿れるの?」
 リザは二人だけしか知らない例えを使った。
「ああ。受け止めてくれ」
 そう言ってエルランドはゆっくりと体を進めた。
「あっ……!」
 それは最初の時のように痛くはなかったけれど、やはり相当の質量でリザを圧倒する。たっぷり濡れていたにもかかわらず、太い部分が入り込む時、リザの眉間は苦痛に歪んだ。
「大丈夫だ、リザの体が慣れるまでこのままでいる」
 エルランドはリザを安心させるように囁き、細い腰を撫でながら優しい口づけを与えた。
「ああ、リザ……あなたの中はとてもいい」
「よく……わからない。どんな風なの?」
 リザは大きく息をつきながら尋ねた。
「そう、だな……極上の絹で締めあげられている……感じ?」
 顎から滴り落ちた汗が、リザの頬に落ちる。動きたいのを我慢しているのだろう、彼は相当に汗をかいていた。
「エル、辛いの? 私はもう大丈夫だから……どうかエルの好きなように」
「いい、のか?」
「うん。エルが私を大事にしてくれるのがわかるから……さぁ」
「……」
「して」
 まるでお預けを喰らっていた狼のように、エルランドは腰をゆすり始める。
 最初はやはりゆっくりと小刻みに、そして次第に深く、大きな波のように彼は動いた。
「うっ、ううっ! リザ……リザ!」
 エルランドが獣の様な唸り声を上げた。何かを堪えるように歯を食いしばり、汗が滝のように滴り落ちている。
「エル、いいの。もっと……お願い。私、もっと熱いのが欲しいわ!」
 両腕を伸ばして、男の頬を覆いながらリザは叫んだ。
「もっと!」
「くそ! 殺し文句を!」
 そう叫ぶとエルランドは、本能に従って猛然と腰を突き上げ始めた。
「あああ!」
 体ががくがくと揺れる、しかし一見激しいようでも、乱暴ではない。
 エルランドはリザがちゃんと受け止められるようにちゃんと配慮している。自分だけくても彼は嬉しくないのだ。
 
 だから、私も受け止める。
 彼の形を硬さを熱さを。
 ああ、少し苦しいけど、なんて幸せなの!

「エル! もっとよ! もっと熱くして! 熱くなって!」
「おう!」
 どん! と打ち付けられる。リザはぎゅっと目を瞑って体に力を入れた。
「く……ああ!」
 ぎりぎりと歯を食いしばってエルランドは最奥まで到達し、そこで昇り詰めた。胎内に大量の熱を感じて、リザも顎をあげてのけぞる。
 二人は荒い息をこぼしながら、汗まみれの体でどっと敷布に倒れ込んだ。
「リザ……すまない……大丈夫か? うお⁉︎」
 リザは心配そうに覗き込むエルランドの首に両手を回し、自分から強く唇を押し付けた。そのままエルランドがしてくれるように自分の唇で彼のそれを挟み、小さな舌を滑り込ませる。
「ん……む!」
 エルランドリザを抱いたまま、仰向けに転がり、リザの好きなようにさせた。
「エル、こんなのは嬉しい?」
「ああ、最高だ。もっと喰ってくれ」
 二人はそのまま舌を絡め合い、胸をすり合わせ、お互いをむさぼった。
 ──やがて。
「リザ……俺は再び満ちた。このまま……いいか?」
「ん……」
 そうして二人は再び揺れ始めたのだった。

  
    ***


 半刻いちじかんの後──。
「……リザ?」
「……ん?」
 まどろんでいた瞼がゆっくりと上がり、瞳にエルランドを捉えた。
「私、寝ていた?」
「ああ。可愛い声をあげてから、気をやってしまったな。すまない。少し励みすぎたかもしれない。リザも疲れているのに」
「エルランド様ほどじゃないわ」
「男はいいんだ。疲れるとこういうことをしたくなる……すごくよかった」
 足の間にリザを挟み込みながらエルランドは満足そうな太い吐息をついた。
「よかったならよかったわ」
「意味がわかってないくせに」
「じゃあ、なにがよかったの?」
「リザの外も中も全部よかった」
「中? 心の中?」
「それもある。でも、ここもすごく俺にぴったり寄り添ってくれる」
「やぁ!」
 触れられたところはまだ濡れていて、リザは思わず腰を引いた。二人ともまだなにも着ていないのだ。
「確かに……少し汚してしまったな。汗もかいたし」
 エルランドは暖炉の前においた桶の湯を使ってリザの体をき、自分もざっと体をぬぐった。
 暖炉の灯りに照らされて、何もまとわぬその体は男性神の彫刻のように美しい。あちこちにある傷跡でさえも、全身を鎧う筋肉の装飾のように思えてくる。

 私の貧弱な体とは全然違う……。

「綺麗ね」
「何が?」
「エルランド様の体」
 リザは、腰に布を巻いただけで寝台へと戻ってきたエルランドの体をするりと撫でた。
「こんな傷だらけのごつい体が? リザの柔らかくて白い体の方がよほど触り心地がいい……さっき感じたが、前よりも豊かになったな」
「ええ。たくさん食べているもの。動くとお腹が減るのよ」
 リザはこぶのようにいくつも盛り上がった腹の肉に指先を滑らせる。エルランドは立ったままで、自分の体に興味を示すリザに、新たな欲がじわりと滲む。
「リザ、そんなにするな。今日はもう眠ろうと思っていたのに」
 腰に巻いた布が少し持ち上がっているのを隠そうともせずに、エルランドが苦笑する。
「ええ、そうね。確かに眠いわ……エル」
「エル?」
「そう……様では嫌なのでしょう? 私の名が短くていいのなら、エルランド様のも短いのがいいわ」
「ああ、いいな……これからはそう呼んでくれ……そら!」
 エルランドは裸のリザの体に布を巻きつけ、勢いよく抱き上げた。
「どこに行くの? 寝るのじゃないの?」
「寝るさ。リザの部屋でな。この寝台はやや寝るには不適だ」
「でもそっちは廊下じゃないわ」
「こっちからの方が近い」
 そう言うと、エルランド部屋の北側の壁に設けられた小さな扉を開けた。
 そこには織物がかけられてあり、それをめくるとリザの寝室へとつながる扉が現れた。
「まぁ! こんな仕組みになっていたとは知らなかったわ」
「昔はもっと小さな通路だったようだ。砦だったから、あまり大っぴらにできなかったんだろう。だが、リザにこの部屋を使ってもらうと決めた時から、俺がもっと大きくしようと壁をくり抜いたんだ……さぁここなら清潔だ。誰か気の利く奴が火を入れてくれたようだ。寒くはないか?」
「ええ……わたし、いい港になれた?」
「ああ。この上なく素晴らしい、俺だけの港だ……」
 満足しきったエルランドが足の間にリザを挟む。
「そう? いつか本当の港もみてみたいなぁ」
「ああ、ぜひそうしよう。綺麗で大きいぞ」
「嬉しい……」
 エルランドに抱き込まれ、リザのまぶたは次第に重くなっていく。
「エルの腕が気持ちがいい」
「腕か……」
 エルランドはやや残念そうに言って、眠りに落ちようとするリザを寝台に横たえた。
「さすがに疲れたな。俺も疲れた」
 寄り添って眠る冬の夜。
 いつしか雪がちらついている。この雪は溶けない雪だ。朝まで降り続くだろう。巣篭すごもりの季節がもう直ぐにやってくる。
 エルランドは深い吐息をついた。リザが眠ったまま、くすぐったそうに首を竦めている。
 
 俺たちはもう、大丈夫だな……リザ。

 夜が一番深く暗い時は、夜明けがすぐそこまで来ているのだ。

 
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