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52 収穫の市 1

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 パーセラが嬉しそうに両手を合わせた。彼女は午後から店に立っている。
「……それでいい」
 耳元でエルランドが囁く。
「あと、妻が使う最高級の化粧道具や身の回りの品々も頼む」
「かしこまりました」
「それから、布地」
 衣類や布はウィルターの専門だ。彼が扱うのは主に高級な服地である。
「えっと、下着用の柔らかい木綿を。あとは……私に似合う色や柄はわからないから、ウィルターさん選んでくださる?」
「もちろんでございます! 光栄です! リザ様は美しい黒髪をお持ちですから、明るい色の衣装がお似合いです。これなどはどうでしょう?」
 自分で高級服地など買ったことのないリザは、次々に出てくる美しい布地に魅せられていた。
「少しですが、絹もあるのですよ」
 そう言ってウィルターが奥から出してきた布は海の底から取れるという真珠色の絹織物だ。
「奥方様がいらっしゃると知ってれば、もっと持ってきたのですが、今回はこの一反だけなのです。ですが、質はいいですよ」
「もらおう」
 エルランドは即座に言った。
「この次からはたくさんの絹や毛織物を仕入れてきます」
 結局店の中の半分くらいの布地を買い占めることになってしまったが、リザがどきどきしているのに対して、エルランドは平気だった。
「布を買えば、この街の仕立て屋や女達にも仕事ができる。これも領主の妻の仕事だよ」
「……そうなのね。そうして回っていくのね」
「我が妻は賢い。では次だ」
 そうして、リザとエルランドは次々に店を回って行った。
 そして最後にやってきたのは、地元の職人が集まる一角だった。そこでもエルランドは鉄や皮製品を買っていく。地元の職人たちは、エルランドには丁寧にお辞儀をしたが、リザには胡乱うろんそうな目を向けた。
「気にするな。職人気質というものはそうしたものだ。彼らはいい人間たちだが、とても保守的で頑固なのだ」
 しかし、リザは市場のある一画に目を止めていた。
「あっちを見たいのだけど」 
 リザがエルランドに指した場所は、面積だけは大きいが天幕もなにもない、布地を広げた上に品物を並べただけの露店だった。
「え? ああ、あれは」
 それは陶器を扱う店だった。

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