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双晶の宝石「会いたい」 (番外)
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会いたい!
私が名づけたあなた。番号で呼ばれていた、あなたに。
私とずっと生きていたいと言ってくれた。
私を救うと誓ってくれた。
幼い頃に絵本で見た口づけをまねて、私はあなたに触れた。
温かかったあなたの唇。
抱きしめてくれた細い腕は、硬くて安心できたの。
私は、あなたの額の呪いを抉り取り、代わりに別の呪いを埋め込んだ。
私の持つ宝石の片割れを。
そうしてあなたは旅立って行った。
私の命を長らえるために。悲憤の魔女を倒すために。
あれからもう、幾度季節が巡ったのかしら?
私はまだ生きている。
でも、少しずつ痣が広がっているの。
死ぬのはそんなに怖くはない。
でも、あなたに会えないまま死ぬのはとても怖い。
会いたい。
会いたいの。
背は高くなった?
男の子は大きくなると声が変わるというけれど、私は私よりも高いあなたの声しか知らない。
目の見えない私は、あなたの顔も知らない。
けれど、会えばすぐにわかるはず。
だって、あなたは私のナギだから。
私が名づけたのだから。
大好きなのだから。
──ナギ!
会いたい!
どうか、今すぐに私の手を取りに来て。
帰ってきたと言って。
私は今、震えているの。
どうか、どうか。
私の瞼から溢れる涙をその指で拭って、抱きしめて、そして──。
口づけを返してほしい。
手の中の小さな石に唇を寄せた。
レーゼ!
群がるギマどもを薙ぎ払いながら心の中で叫ぶ。
レーゼ、無事でいるか?
あれから何年経った?
いまだに俺は誓いを果たせないまま、戦いの最中にいる。
レーゼ。
目も見えず、声も出せず、魔女の呪いに蝕まれた体で笑っていた少女。
包帯で覆われた体、悪された顔、抱きしめたら俺そうな細い体。
なのに──。
君は誰よりも強く優しかった。
名もなき俺に名前をくれた。
俺の重ねた罪をその手で切り裂き、温かい思いを埋めてくれた。
あの時飲み込んだ君の血の味を、俺は忘れない。
柔らかな唇を、甘い唾液の味を、俺は忘れない。
何よりも、君の魂の形を俺は忘れない。
ああ、だから目の前の魔性を俺は狩る。
狩って、狩って、狩り尽くす。
そうして、君に呪いをかけた元凶に辿り着く。
もうすぐ!
きっともうすぐだ!
だから、待っていて。
命の炎を消さないで。
レーゼ。
その名を呟くたびに、俺の中に力が蘇る。
湧いて出る魔など、少しも恐ろしくはない。
恐ろしいのは君をなくすこと。
会いたい!
今すぐ君の元へ駆けつけ、か細い体を抱きしめたい!
もう大丈夫だと、薄色の瞳の前でそう告げたい。
会いたいんだ、レーゼ!
俺の中の唯一の希望、そしてもっと大切な一つの想い。
そっと額に触れる。そこに君の思いがある。
きっと帰る。君を救う。
誰にも邪魔はさせない。
だから名を呼ばせて。
レーゼ!
愛している!
青い石が密かに輝く。
***
改題記念の番外編。いかがでしたか?
離れていた頃の二人の想いを綴ってみました。
もしかしたらまた書くかもしれません。
私が名づけたあなた。番号で呼ばれていた、あなたに。
私とずっと生きていたいと言ってくれた。
私を救うと誓ってくれた。
幼い頃に絵本で見た口づけをまねて、私はあなたに触れた。
温かかったあなたの唇。
抱きしめてくれた細い腕は、硬くて安心できたの。
私は、あなたの額の呪いを抉り取り、代わりに別の呪いを埋め込んだ。
私の持つ宝石の片割れを。
そうしてあなたは旅立って行った。
私の命を長らえるために。悲憤の魔女を倒すために。
あれからもう、幾度季節が巡ったのかしら?
私はまだ生きている。
でも、少しずつ痣が広がっているの。
死ぬのはそんなに怖くはない。
でも、あなたに会えないまま死ぬのはとても怖い。
会いたい。
会いたいの。
背は高くなった?
男の子は大きくなると声が変わるというけれど、私は私よりも高いあなたの声しか知らない。
目の見えない私は、あなたの顔も知らない。
けれど、会えばすぐにわかるはず。
だって、あなたは私のナギだから。
私が名づけたのだから。
大好きなのだから。
──ナギ!
会いたい!
どうか、今すぐに私の手を取りに来て。
帰ってきたと言って。
私は今、震えているの。
どうか、どうか。
私の瞼から溢れる涙をその指で拭って、抱きしめて、そして──。
口づけを返してほしい。
手の中の小さな石に唇を寄せた。
レーゼ!
群がるギマどもを薙ぎ払いながら心の中で叫ぶ。
レーゼ、無事でいるか?
あれから何年経った?
いまだに俺は誓いを果たせないまま、戦いの最中にいる。
レーゼ。
目も見えず、声も出せず、魔女の呪いに蝕まれた体で笑っていた少女。
包帯で覆われた体、悪された顔、抱きしめたら俺そうな細い体。
なのに──。
君は誰よりも強く優しかった。
名もなき俺に名前をくれた。
俺の重ねた罪をその手で切り裂き、温かい思いを埋めてくれた。
あの時飲み込んだ君の血の味を、俺は忘れない。
柔らかな唇を、甘い唾液の味を、俺は忘れない。
何よりも、君の魂の形を俺は忘れない。
ああ、だから目の前の魔性を俺は狩る。
狩って、狩って、狩り尽くす。
そうして、君に呪いをかけた元凶に辿り着く。
もうすぐ!
きっともうすぐだ!
だから、待っていて。
命の炎を消さないで。
レーゼ。
その名を呟くたびに、俺の中に力が蘇る。
湧いて出る魔など、少しも恐ろしくはない。
恐ろしいのは君をなくすこと。
会いたい!
今すぐ君の元へ駆けつけ、か細い体を抱きしめたい!
もう大丈夫だと、薄色の瞳の前でそう告げたい。
会いたいんだ、レーゼ!
俺の中の唯一の希望、そしてもっと大切な一つの想い。
そっと額に触れる。そこに君の思いがある。
きっと帰る。君を救う。
誰にも邪魔はさせない。
だから名を呼ばせて。
レーゼ!
愛している!
青い石が密かに輝く。
***
改題記念の番外編。いかがでしたか?
離れていた頃の二人の想いを綴ってみました。
もしかしたらまた書くかもしれません。
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