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第22話:ヴァネッサのプレゼン
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好きなものや占いの話で少し打ち解けて、私と彼女たちの間の会話が続くようになってきた。
つまり目を合わせられる時間も長くなっている。
私の能力的には、とても都合がいい。
「わたくしのオススメはシャルレーノの有名パティシエが手がけた」
今はサーニャ様の期間限定チョコチーズケーキの話から、ヴァネッサ様オススメのスイーツのプレゼンに移行したところだ。
エレーナ様とサーニャ様にはもう聞かせたことがあるのか、そのプレゼンは主に私に向けられている。
ぱっちりと大きく、キラキラを超えてギラギラしたヴァネッサ様の瞳が、私をがっつり捉えている。
純粋に逃がすまいという目。お聞きなさいという目。
いつもなら逃がしてほしいと切に思うところだけれども今は好都合。
「なるほど」
中身のない相槌を打ちながら、こちらに向いている彼女の瞳を見つめる。
(ヴァネッサ様が、ナターシャ様と関わっている時────)
視えたのは、ヴァネッサ様のマシンガントークにたじたじになっているご令嬢の姿。
ピンク髪ということは、ナターシャ様で間違いない。
守ってあげたくなるような華奢な体で、とても可愛らしい顔立ち。少し伏せがちな目元は、長いまつ毛から柔らかな若葉のような瞳が覗いている。
淑やかで儚げな雰囲気があって、この人自身が花のようだというか、強烈なオーラを持つ人が多い候補者の中では珍しいタイプだ。
ナターシャ様は常に控えめに微笑みながら眉を少しばかり下げて、小さな声で相槌を打っている。
最初はぐいぐい来るヴァネッサ様に困り果てているのかと思ったけど、実際困ってはいるんだろうけど、彼女はどの場面を視ても同じような様子だった。
いつでも自信なさげで控えめ。気弱と言われていたのもなるほどと納得できる。
「ああでも、これは数量限定なんですの!あまりにも人気なものだから、まだ日も昇りきらない早い時間に通信水晶に手をかけてスタンバイしておかないと、全然予約が取れませんのよ!」
「すごいですね」
…ヴァネッサ様の過去を見漁っても、ヴァネッサ様に押し負けてるナターシャ様しか確認できない。
仲が良いのか一方的なのか二人の関係値はよく分からない。けれど、とりあえず険悪という雰囲気ではない。ただただヴァネッサ様のノリと押しが強いくらいだ。
(少し目が疲れてきたかも…でも、まだまだ)
「わたくしは執事に予約を頼むのだけど、」
「興味深いです」
「シルバーったらすごくて!」
視る方に集中しているせいで、相槌を挟むタイミングを少し間違えた気がする。気にせず続行されているのでよしとする。
(……ん?)
ここで、あることに気がついた。
ナターシャ様はお茶会の場に少し遅れて来ることが多い。
ナターシャ様があまりにも真っ青な顔で謝ってくるので、他三人も特に責めることなく和やか…賑やか?なお茶会が始まるけれど。
(彼女の性格的に、遅刻を繰り返すのは意外というか…まあ、まだヴァネッサ様視点の断片的なものしか視れていないから、なんとも言えないけど)
「───今度、アナタにおすそ分けをしてあげてもよくってよ!」
「そんな、よろしいんですか?とても嬉しいです。ありがとうございます。」
話の終わりはなんとか聞き取って、口元に手を当てて少し大袈裟にリアクションしてみせる。私の場合、これぐらいしないと多分「嬉しい」は信じてもらえない。
ヴァネッサ様は私の反応を見て、満足そうに派手な扇子を広げた。よし。上手くいった。
つまり目を合わせられる時間も長くなっている。
私の能力的には、とても都合がいい。
「わたくしのオススメはシャルレーノの有名パティシエが手がけた」
今はサーニャ様の期間限定チョコチーズケーキの話から、ヴァネッサ様オススメのスイーツのプレゼンに移行したところだ。
エレーナ様とサーニャ様にはもう聞かせたことがあるのか、そのプレゼンは主に私に向けられている。
ぱっちりと大きく、キラキラを超えてギラギラしたヴァネッサ様の瞳が、私をがっつり捉えている。
純粋に逃がすまいという目。お聞きなさいという目。
いつもなら逃がしてほしいと切に思うところだけれども今は好都合。
「なるほど」
中身のない相槌を打ちながら、こちらに向いている彼女の瞳を見つめる。
(ヴァネッサ様が、ナターシャ様と関わっている時────)
視えたのは、ヴァネッサ様のマシンガントークにたじたじになっているご令嬢の姿。
ピンク髪ということは、ナターシャ様で間違いない。
守ってあげたくなるような華奢な体で、とても可愛らしい顔立ち。少し伏せがちな目元は、長いまつ毛から柔らかな若葉のような瞳が覗いている。
淑やかで儚げな雰囲気があって、この人自身が花のようだというか、強烈なオーラを持つ人が多い候補者の中では珍しいタイプだ。
ナターシャ様は常に控えめに微笑みながら眉を少しばかり下げて、小さな声で相槌を打っている。
最初はぐいぐい来るヴァネッサ様に困り果てているのかと思ったけど、実際困ってはいるんだろうけど、彼女はどの場面を視ても同じような様子だった。
いつでも自信なさげで控えめ。気弱と言われていたのもなるほどと納得できる。
「ああでも、これは数量限定なんですの!あまりにも人気なものだから、まだ日も昇りきらない早い時間に通信水晶に手をかけてスタンバイしておかないと、全然予約が取れませんのよ!」
「すごいですね」
…ヴァネッサ様の過去を見漁っても、ヴァネッサ様に押し負けてるナターシャ様しか確認できない。
仲が良いのか一方的なのか二人の関係値はよく分からない。けれど、とりあえず険悪という雰囲気ではない。ただただヴァネッサ様のノリと押しが強いくらいだ。
(少し目が疲れてきたかも…でも、まだまだ)
「わたくしは執事に予約を頼むのだけど、」
「興味深いです」
「シルバーったらすごくて!」
視る方に集中しているせいで、相槌を挟むタイミングを少し間違えた気がする。気にせず続行されているのでよしとする。
(……ん?)
ここで、あることに気がついた。
ナターシャ様はお茶会の場に少し遅れて来ることが多い。
ナターシャ様があまりにも真っ青な顔で謝ってくるので、他三人も特に責めることなく和やか…賑やか?なお茶会が始まるけれど。
(彼女の性格的に、遅刻を繰り返すのは意外というか…まあ、まだヴァネッサ様視点の断片的なものしか視れていないから、なんとも言えないけど)
「───今度、アナタにおすそ分けをしてあげてもよくってよ!」
「そんな、よろしいんですか?とても嬉しいです。ありがとうございます。」
話の終わりはなんとか聞き取って、口元に手を当てて少し大袈裟にリアクションしてみせる。私の場合、これぐらいしないと多分「嬉しい」は信じてもらえない。
ヴァネッサ様は私の反応を見て、満足そうに派手な扇子を広げた。よし。上手くいった。
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