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第10話:初めての聞き込み
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(身だしなみ、よし。いざ出陣。)
部屋の扉を開けて、張り切って足を踏み出す。
まずは王宮を散策した。
未知の世界の探検気分であちこちを回り、道中であらゆる人に声をかけられた。
王宮内の人々は、“占い娘”が王宮の問題を解決するために引き入れられたことを知っているようで、私がその占い娘であることを知ると、だいたい歓迎してくれた。
時々、村にいた時のように“占い”を頼まれたので、未来を視て天気を教えたり、過去を覗いて落し物の場所を教えたりなどした。
「明日の天気が知りたいです!」
「わかりました。…少し雨が降るようですね。午後には止みますよ」
「あの、ハンカチをどこかに落としてしまって…」
「少し待ってくださいね。……庭園に出た時に落としたんだと思いますよ。紫のパンジーの花が咲いている花壇辺りです。戻って探してみてください」
最初はみんな面白半分といった様子だったけれど、どうやら私に落し物の場所を言い当てられたソフィーさんが、“占い”の信用足ることを言い広めたらしい。
私の元にやって来て、本気の相談事をしてくる人は少なくなかった。
「…………」
(…とても強い視線を感じる…)
多くが歓迎してくれるとはいえ、中にはやっぱり、般若のような形相で睨みつけてくる人もいた。
そういう時は心の中で謝りながらさっさと離れるが吉。いざこざを解決するためにやって来たのに、新たないざこざを発生させるわけにはいかない。
色んな人と交流して、それなりに仲良くなったり質問攻めに遭ったりしながらも、私は最近起こったと聞いた“王太子妃候補辞退問題”に関連する情報を集めた。
第一王子レオヴィル殿下の妻となり得る女性、すなわち王太子妃候補は、辞退した方も含めて四人。
強気で勝気な金髪縦ロール令嬢ヴァネッサ・ローズレット、知的でクールな勤勉銀髪令嬢エレーナ・シュティリア、天真爛漫な最年少水色髪令嬢サーニャ・エディエーレ…
そして最近候補の座を辞退した、気弱で心優しいピンク髪令嬢ナターシャ・フィノン。
揃って容姿端麗の美少女で、全員が公爵家のご令嬢らしい。
彼女たちは月に二度ほど、この王宮の庭園で集まってお茶会を開いているんだとか。
「…あれ、変わった格好したえらい美人が散歩してると思ったら!あんた噂の“占い娘”?」
「!」
いつの間にか庭園まで出てきていた私は、恐らく庭師の若い男性に声をかけられた。
「初めまして、弥湖…ミコ・シルヴァートと申します。よろしくお願いします。」
「ミコ様ね、俺はカイリ。庭師見習い。多分歳はあんたと近いよ」
「本当ですか。私は十九です」
「やっぱりそうだ!俺も十九。」
「まあ、同い年…!」
ここに来て、恐らく初めて同い年の人と出会った。ここの使用人の人々は誰も彼も年上ばかりだったから、なんだか嬉しい。
「つって、アストラ様だって近いけどさ。」
「え?」
意外なことを知らされて思わず聞き返す。
そういえば私はアストラの年齢を知らない。
あの容姿ならそりゃあ若いだろうけど、使用人の中でもけっこう偉い立場のようだし、あれだけ仕事を任されているんだから…二十代半ばくらいじゃないかと勝手に思っていた。
「あの人、二十歳だろ?わっかいのにすげーよな~」
「はたち!?」
「あれっ知らなかったんだ」
私と一つしか変わらない。
たった一つ上のアストラにあんなに翻弄されているという事実を突きつけられて、私はまたもや敗北感を味わう。
「二十歳の余裕じゃなくないですか?あれは…」
「それはホントに思うよ。あんた、アストラ様のお嫁になったんだっけ?さては振り回されっぱなしでしょ」
「…悔しいですが、正解です。反撃はここからですよ」
「あっはっは、頑張って~」
軽い調子で笑われた。ムッとしてから、ふと話が脱線していることに気がついて仕切り直す。
「…と、こんな話をしたいのではなくて。カイリさん、王太子妃候補の方々について、何か知っていることがあれば聞かせてもらえますか?」
カイリさんは「あー」と左手を腰に当てて、右手を顎に添えた。
「正妃最有力候補って言われてたご令嬢が抜けちゃったやつね。みんな殿下やアストラ様の前ではコワくて言えたもんじゃないけどさぁ…“アレ”じゃないかって、使用人の間ではもっぱらの噂だよ。」
“アレ”とはいったい何か、首を傾げると、カイリさんは声をひそめて続ける。
「イジメだよ、イジメ。」
「!」
「ナターシャ様が一番殿下と親密だったらしくてさ。その上ちょいと気弱らしいし、他の候補者のご令嬢から妬まれて嫌がらせを受けて、精神的に参ったんじゃないかってね。」
西側諸国の王太子は今どき珍しい一夫多妻。確かにいざこざも起きやすいと聞く。
「俺ぁ候補者の令嬢さんたちについてはよく知らないから、その噂の信憑性も分からんけどさ」
「……なるほど」
肩をすくめながら話を終えたカイリさん。
今度は私が顎に手を添えて、考えこむ。
他の候補者によるイジメ…いざこざ…ありえない話じゃない。けれど、そうだと決めるには憶測すぎる。
(…婚約者候補たちの間で、何かが起こったのか…直接視て調べるしかなさそうね)
「ありがとうカイリさん。ちょっと調べてみます」
「はいよー、頑張って占い娘さん。良けりゃあまたお喋りしに来てな」
ヒラヒラと手を振ってくれるカイリさんに手を振り返して、私は踵を返した。
部屋の扉を開けて、張り切って足を踏み出す。
まずは王宮を散策した。
未知の世界の探検気分であちこちを回り、道中であらゆる人に声をかけられた。
王宮内の人々は、“占い娘”が王宮の問題を解決するために引き入れられたことを知っているようで、私がその占い娘であることを知ると、だいたい歓迎してくれた。
時々、村にいた時のように“占い”を頼まれたので、未来を視て天気を教えたり、過去を覗いて落し物の場所を教えたりなどした。
「明日の天気が知りたいです!」
「わかりました。…少し雨が降るようですね。午後には止みますよ」
「あの、ハンカチをどこかに落としてしまって…」
「少し待ってくださいね。……庭園に出た時に落としたんだと思いますよ。紫のパンジーの花が咲いている花壇辺りです。戻って探してみてください」
最初はみんな面白半分といった様子だったけれど、どうやら私に落し物の場所を言い当てられたソフィーさんが、“占い”の信用足ることを言い広めたらしい。
私の元にやって来て、本気の相談事をしてくる人は少なくなかった。
「…………」
(…とても強い視線を感じる…)
多くが歓迎してくれるとはいえ、中にはやっぱり、般若のような形相で睨みつけてくる人もいた。
そういう時は心の中で謝りながらさっさと離れるが吉。いざこざを解決するためにやって来たのに、新たないざこざを発生させるわけにはいかない。
色んな人と交流して、それなりに仲良くなったり質問攻めに遭ったりしながらも、私は最近起こったと聞いた“王太子妃候補辞退問題”に関連する情報を集めた。
第一王子レオヴィル殿下の妻となり得る女性、すなわち王太子妃候補は、辞退した方も含めて四人。
強気で勝気な金髪縦ロール令嬢ヴァネッサ・ローズレット、知的でクールな勤勉銀髪令嬢エレーナ・シュティリア、天真爛漫な最年少水色髪令嬢サーニャ・エディエーレ…
そして最近候補の座を辞退した、気弱で心優しいピンク髪令嬢ナターシャ・フィノン。
揃って容姿端麗の美少女で、全員が公爵家のご令嬢らしい。
彼女たちは月に二度ほど、この王宮の庭園で集まってお茶会を開いているんだとか。
「…あれ、変わった格好したえらい美人が散歩してると思ったら!あんた噂の“占い娘”?」
「!」
いつの間にか庭園まで出てきていた私は、恐らく庭師の若い男性に声をかけられた。
「初めまして、弥湖…ミコ・シルヴァートと申します。よろしくお願いします。」
「ミコ様ね、俺はカイリ。庭師見習い。多分歳はあんたと近いよ」
「本当ですか。私は十九です」
「やっぱりそうだ!俺も十九。」
「まあ、同い年…!」
ここに来て、恐らく初めて同い年の人と出会った。ここの使用人の人々は誰も彼も年上ばかりだったから、なんだか嬉しい。
「つって、アストラ様だって近いけどさ。」
「え?」
意外なことを知らされて思わず聞き返す。
そういえば私はアストラの年齢を知らない。
あの容姿ならそりゃあ若いだろうけど、使用人の中でもけっこう偉い立場のようだし、あれだけ仕事を任されているんだから…二十代半ばくらいじゃないかと勝手に思っていた。
「あの人、二十歳だろ?わっかいのにすげーよな~」
「はたち!?」
「あれっ知らなかったんだ」
私と一つしか変わらない。
たった一つ上のアストラにあんなに翻弄されているという事実を突きつけられて、私はまたもや敗北感を味わう。
「二十歳の余裕じゃなくないですか?あれは…」
「それはホントに思うよ。あんた、アストラ様のお嫁になったんだっけ?さては振り回されっぱなしでしょ」
「…悔しいですが、正解です。反撃はここからですよ」
「あっはっは、頑張って~」
軽い調子で笑われた。ムッとしてから、ふと話が脱線していることに気がついて仕切り直す。
「…と、こんな話をしたいのではなくて。カイリさん、王太子妃候補の方々について、何か知っていることがあれば聞かせてもらえますか?」
カイリさんは「あー」と左手を腰に当てて、右手を顎に添えた。
「正妃最有力候補って言われてたご令嬢が抜けちゃったやつね。みんな殿下やアストラ様の前ではコワくて言えたもんじゃないけどさぁ…“アレ”じゃないかって、使用人の間ではもっぱらの噂だよ。」
“アレ”とはいったい何か、首を傾げると、カイリさんは声をひそめて続ける。
「イジメだよ、イジメ。」
「!」
「ナターシャ様が一番殿下と親密だったらしくてさ。その上ちょいと気弱らしいし、他の候補者のご令嬢から妬まれて嫌がらせを受けて、精神的に参ったんじゃないかってね。」
西側諸国の王太子は今どき珍しい一夫多妻。確かにいざこざも起きやすいと聞く。
「俺ぁ候補者の令嬢さんたちについてはよく知らないから、その噂の信憑性も分からんけどさ」
「……なるほど」
肩をすくめながら話を終えたカイリさん。
今度は私が顎に手を添えて、考えこむ。
他の候補者によるイジメ…いざこざ…ありえない話じゃない。けれど、そうだと決めるには憶測すぎる。
(…婚約者候補たちの間で、何かが起こったのか…直接視て調べるしかなさそうね)
「ありがとうカイリさん。ちょっと調べてみます」
「はいよー、頑張って占い娘さん。良けりゃあまたお喋りしに来てな」
ヒラヒラと手を振ってくれるカイリさんに手を振り返して、私は踵を返した。
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