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第5話:弥湖の能力
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私の紺色の髪は生まれつき父に似たもの。そして顔立ちは母に似たもの。
しかし、この金色の瞳だけは、誰から受け継いだものでもなかった。
「私はこの眼で、主に人の“過去”と…一応“未来”も視ることが出来ます。」
驚いて目を見開く騎士と、怪訝そうな顔を見せる騎士。
そしてアストラ様は、興味深そうに口の端を上げた。
「どうやって?」
「視たい時を頭の中に置きながら、相手の目を見るんです。じっと目を合わせるだけ…」
私はそう言いながら、向かって右側の騎士の目をじっと見つめた。口を開いてはアストラ様に制されている彼の過去を覗き込んだ。
「そちらの騎士さん、朝からジュウジュウ肉厚のハンバーグステーキですか?強い胃袋をお持ちですね。あら、おかわりまで…」
「なっ!何故知って…!?」
別にそこまで恥ずかしがることでもないと思うけど、「そうなの?よく食べるね」とアストラ様に言われた強い胃袋の彼はカアッと顔を赤くした。食いしん坊とは思われたくないのかもしれない。
「次は左の貴方…あら、ペットは可愛いわんちゃんですね。犬種はポメラニアンでしょうか?この可愛さではでれでれに甘やかしてしまうのも分かります」
「うわーっ!でれでれとか言うな!」
左の彼は普段はクールキャラなのか知らないが、せっかく隠してたのにといった様子で声を上げて頭を抱えてしまった。
「おやおや、これは面白い。」
「でしょう?アストラ様は…」
同じように覗こうとして、私はハッとする。
「…瞳が見えない」
「はは、見せませんよ。」
糸目であることをいいことに、愉快そうに高みの見物をするアストラ様。
私の能力とあまりにも相性が悪い。ここに来て初めて、私の天敵が現れた。
「少しでいいので瞼を開いてみませんか?半分ぐらい」
「残念、見せません。」
「ちょこっとだけ…」
「見せません。」
「くっ」
頑なに瞳を見せてくれない。お手上げだ。
「それにしても、本当に魔法のような力を持っていたとはね。自身の勘を信じて赴いて正解でした」
私の能力からサラリと逃れたアストラ様は胸に手を当てて、改めて口を開く。
「我が国ラトナティアの平穏の為、僕の妻となり王宮に住まい、そのお力を貸してはいただけませんか?」
「───はい。よろしくお願いします。」
ここまで話してしまったのだからもう引き返せない。
生まれ育ったこの村のためにも、自分を捧げる覚悟は出来ている。
私はこの方と結婚し、故郷を離れて王宮で暮らし、ラトナティアのために尽力する。
(…さて…忙しくなりそうね)
荷造り、そして村のみんなへの別れの挨拶回りはもちろん、王宮に住まうからには粗相が無いようにしっかりとマナーの勉強をしておく必要がある。ラトナティアについての知識も、頭に詰め込んでおかなくてはいけない。
(勉強も大変だけど、それよりも挨拶回りは骨が折れそう。一人一人から質問攻めを食らう予感…)
考えるだけでも疲れてこっそり肩を落としていると、アストラ様が「では」と立ち上がった。それを見た私も慌てて立ち上がる。
「本日の所はこれで失礼します。───また二週間後に、お迎えに上がりますね。ミコさん。」
「はい。…よろしく、お願いします。」
行くよ、とアストラ様が騎士二人を促す。
しかし彼らは、座布団の上で正座をしたまま動かない。
「ア、アストラ様…申し訳ございません」
「足が…足が痺れて…!」
慣れない正座で足をやられたらしい二人は、なんとか立ち上がろうとするも顔を歪めてプルプル震えている。
対するアストラ様は涼しい顔をしているどころか、愉快そうな顔で彼らを見下ろしていた。
「まったく情けないね。置いていくよ」
「置いていかれるのは私が困ります…」
「くっ…お待ち下さいアストラ様…!」
「ううっ…!」
うめき声を上げながらもなんとか立ち上がった二人は、互いに支え合いながらアストラ様の後を追う。
芳江さんと私は戸口の前に立って、馬車に乗り込んで去っていく三人を見送った。
「…弥湖ちゃん。途中から全くなにを話しているのか分からなかったんだけど、結局なにがどうなったんだい?」
「……ラトナティアの王宮に、お引っ越しです。」
「へっ?」
私は、目を丸くしてぽかんと口を開ける芳江さんにそれ以上の説明をすることもなく、遠ざかっていく馬車を眺めていた。
しかし、この金色の瞳だけは、誰から受け継いだものでもなかった。
「私はこの眼で、主に人の“過去”と…一応“未来”も視ることが出来ます。」
驚いて目を見開く騎士と、怪訝そうな顔を見せる騎士。
そしてアストラ様は、興味深そうに口の端を上げた。
「どうやって?」
「視たい時を頭の中に置きながら、相手の目を見るんです。じっと目を合わせるだけ…」
私はそう言いながら、向かって右側の騎士の目をじっと見つめた。口を開いてはアストラ様に制されている彼の過去を覗き込んだ。
「そちらの騎士さん、朝からジュウジュウ肉厚のハンバーグステーキですか?強い胃袋をお持ちですね。あら、おかわりまで…」
「なっ!何故知って…!?」
別にそこまで恥ずかしがることでもないと思うけど、「そうなの?よく食べるね」とアストラ様に言われた強い胃袋の彼はカアッと顔を赤くした。食いしん坊とは思われたくないのかもしれない。
「次は左の貴方…あら、ペットは可愛いわんちゃんですね。犬種はポメラニアンでしょうか?この可愛さではでれでれに甘やかしてしまうのも分かります」
「うわーっ!でれでれとか言うな!」
左の彼は普段はクールキャラなのか知らないが、せっかく隠してたのにといった様子で声を上げて頭を抱えてしまった。
「おやおや、これは面白い。」
「でしょう?アストラ様は…」
同じように覗こうとして、私はハッとする。
「…瞳が見えない」
「はは、見せませんよ。」
糸目であることをいいことに、愉快そうに高みの見物をするアストラ様。
私の能力とあまりにも相性が悪い。ここに来て初めて、私の天敵が現れた。
「少しでいいので瞼を開いてみませんか?半分ぐらい」
「残念、見せません。」
「ちょこっとだけ…」
「見せません。」
「くっ」
頑なに瞳を見せてくれない。お手上げだ。
「それにしても、本当に魔法のような力を持っていたとはね。自身の勘を信じて赴いて正解でした」
私の能力からサラリと逃れたアストラ様は胸に手を当てて、改めて口を開く。
「我が国ラトナティアの平穏の為、僕の妻となり王宮に住まい、そのお力を貸してはいただけませんか?」
「───はい。よろしくお願いします。」
ここまで話してしまったのだからもう引き返せない。
生まれ育ったこの村のためにも、自分を捧げる覚悟は出来ている。
私はこの方と結婚し、故郷を離れて王宮で暮らし、ラトナティアのために尽力する。
(…さて…忙しくなりそうね)
荷造り、そして村のみんなへの別れの挨拶回りはもちろん、王宮に住まうからには粗相が無いようにしっかりとマナーの勉強をしておく必要がある。ラトナティアについての知識も、頭に詰め込んでおかなくてはいけない。
(勉強も大変だけど、それよりも挨拶回りは骨が折れそう。一人一人から質問攻めを食らう予感…)
考えるだけでも疲れてこっそり肩を落としていると、アストラ様が「では」と立ち上がった。それを見た私も慌てて立ち上がる。
「本日の所はこれで失礼します。───また二週間後に、お迎えに上がりますね。ミコさん。」
「はい。…よろしく、お願いします。」
行くよ、とアストラ様が騎士二人を促す。
しかし彼らは、座布団の上で正座をしたまま動かない。
「ア、アストラ様…申し訳ございません」
「足が…足が痺れて…!」
慣れない正座で足をやられたらしい二人は、なんとか立ち上がろうとするも顔を歪めてプルプル震えている。
対するアストラ様は涼しい顔をしているどころか、愉快そうな顔で彼らを見下ろしていた。
「まったく情けないね。置いていくよ」
「置いていかれるのは私が困ります…」
「くっ…お待ち下さいアストラ様…!」
「ううっ…!」
うめき声を上げながらもなんとか立ち上がった二人は、互いに支え合いながらアストラ様の後を追う。
芳江さんと私は戸口の前に立って、馬車に乗り込んで去っていく三人を見送った。
「…弥湖ちゃん。途中から全くなにを話しているのか分からなかったんだけど、結局なにがどうなったんだい?」
「……ラトナティアの王宮に、お引っ越しです。」
「へっ?」
私は、目を丸くしてぽかんと口を開ける芳江さんにそれ以上の説明をすることもなく、遠ざかっていく馬車を眺めていた。
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