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第1話:突然の来訪者
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「そのヘソクリは、居間のタンスの二段目にあると思いますよ。多分服と服の間に挟まっているかと」
「タンス…そうだ、タンスだ!俺は確かにそこに隠した!ありがとう、探してくるよ!」
何度もお礼を言いながら走り去っていく相談者の彼を見送って、私はふうと一息ついた。
「やっぱり弥湖さん、すごいね!一人でこっそり隠したヘソクリの場所まで分かっちゃうんだ」
私の家に集まってきゃっきゃとはしゃいでいるのは、近所の子どもたち。
「もちろん。金額までばっちり。…それにしてもさっきの明蔵さん、最近無くし物の相談が増えてきたわね。お年かしら…」
「明蔵さんももうおじいちゃんだ~」
子どもたちが無邪気に笑う様子を見て、私もつられて…心の中で微笑んだ。私の表情筋は怠惰なので、気持ちだけで微笑んだ。
ここは和国の中でも特に東に位置する、小さな村。
とてものどかで村人同士は全員顔見知り。西国の人々から見たらありえないほどの自然に溢れた田舎だ。
私、弥湖はそんな村に住みながら、得意な占いで日々村人たちの無くし物を見つけたり、明日の天気を教えたりなどしていた。
お隣に住む春子さん曰く、私の占いは近隣の村に留まらず他国にまで噂になって広まっているようで。
知らぬ間に“占い娘”なんて呼び名を付けられているとか、いないとか。
実はその名を東から西へ馳せているとか、いないとか。
「僕も弥瑚さんみたいに占いたい!どうやってるの?」
「私も教えてほしい!」
「オレもー!」
元気よく手を挙げて取り囲んでくる子どもたちをまあまあと落ち着かせながら、私はこれで何度目かも分からない宥め文句を口にする。
「教えたいのは山々なんだけど、みんなには難しいと思うわ。」
「えーなんでー!?出来るもん!」
「私の占いは、練習して身につけるようなものじゃなくてね…」
言いかけたその時。
ドタドタと慌ただしい足音が外から近づいてくるのが聞こえた。
「みっ、弥瑚ちゃあん!!」
「え、な…なにごと」
今まで見たこともないくらいの全力疾走で私の家に駆け込んできたのは、いつもよくお野菜を持ってきてくれる芳江さん。この人の作るお野菜は新鮮でおいしい。オススメはトマト。
芳江さんは息をゼェゼェと切らして肩を上下させて、呼吸が整いきらないうちに声を上げる。
「西の国の…!西の国の王宮から、遣いが来たんだよ!それもとんっでもなく男前の!」
「王宮からの、遣い…?どうしてこんな辺鄙な田舎に」
「それがね、弥瑚ちゃんを探してるんだよ。弥瑚ちゃんと会って話がしたいって!」
「…私?」
思いがけない指名に、自分を指さして気の抜けた声を上げた直後。芳江さんの夫である三郎さんの「こ、こちらです…!」という声が聞こえてきた。
芳江さんの横から我が家の戸口に現れたのは、すらりと背が高く、“とんっでもなく男前”という評価に大いに納得できるくらい端正な顔をした、白皙の美青年。
「初めまして。ラトナティアの国王より遣わされて参りました、第一王子レオヴィル・リーザ・アルマンドの側近、アストラ・シルヴァートと申します。貴女が噂の“占い娘”…で、間違いないでしょうか?」
三言で驚きの情報量を叩き込まれて理解が遅れる。
「…はい…弥瑚と、いいます」
「ミコさんですね。少々お話があるのですが、よろしいですか?」
「タンス…そうだ、タンスだ!俺は確かにそこに隠した!ありがとう、探してくるよ!」
何度もお礼を言いながら走り去っていく相談者の彼を見送って、私はふうと一息ついた。
「やっぱり弥湖さん、すごいね!一人でこっそり隠したヘソクリの場所まで分かっちゃうんだ」
私の家に集まってきゃっきゃとはしゃいでいるのは、近所の子どもたち。
「もちろん。金額までばっちり。…それにしてもさっきの明蔵さん、最近無くし物の相談が増えてきたわね。お年かしら…」
「明蔵さんももうおじいちゃんだ~」
子どもたちが無邪気に笑う様子を見て、私もつられて…心の中で微笑んだ。私の表情筋は怠惰なので、気持ちだけで微笑んだ。
ここは和国の中でも特に東に位置する、小さな村。
とてものどかで村人同士は全員顔見知り。西国の人々から見たらありえないほどの自然に溢れた田舎だ。
私、弥湖はそんな村に住みながら、得意な占いで日々村人たちの無くし物を見つけたり、明日の天気を教えたりなどしていた。
お隣に住む春子さん曰く、私の占いは近隣の村に留まらず他国にまで噂になって広まっているようで。
知らぬ間に“占い娘”なんて呼び名を付けられているとか、いないとか。
実はその名を東から西へ馳せているとか、いないとか。
「僕も弥瑚さんみたいに占いたい!どうやってるの?」
「私も教えてほしい!」
「オレもー!」
元気よく手を挙げて取り囲んでくる子どもたちをまあまあと落ち着かせながら、私はこれで何度目かも分からない宥め文句を口にする。
「教えたいのは山々なんだけど、みんなには難しいと思うわ。」
「えーなんでー!?出来るもん!」
「私の占いは、練習して身につけるようなものじゃなくてね…」
言いかけたその時。
ドタドタと慌ただしい足音が外から近づいてくるのが聞こえた。
「みっ、弥瑚ちゃあん!!」
「え、な…なにごと」
今まで見たこともないくらいの全力疾走で私の家に駆け込んできたのは、いつもよくお野菜を持ってきてくれる芳江さん。この人の作るお野菜は新鮮でおいしい。オススメはトマト。
芳江さんは息をゼェゼェと切らして肩を上下させて、呼吸が整いきらないうちに声を上げる。
「西の国の…!西の国の王宮から、遣いが来たんだよ!それもとんっでもなく男前の!」
「王宮からの、遣い…?どうしてこんな辺鄙な田舎に」
「それがね、弥瑚ちゃんを探してるんだよ。弥瑚ちゃんと会って話がしたいって!」
「…私?」
思いがけない指名に、自分を指さして気の抜けた声を上げた直後。芳江さんの夫である三郎さんの「こ、こちらです…!」という声が聞こえてきた。
芳江さんの横から我が家の戸口に現れたのは、すらりと背が高く、“とんっでもなく男前”という評価に大いに納得できるくらい端正な顔をした、白皙の美青年。
「初めまして。ラトナティアの国王より遣わされて参りました、第一王子レオヴィル・リーザ・アルマンドの側近、アストラ・シルヴァートと申します。貴女が噂の“占い娘”…で、間違いないでしょうか?」
三言で驚きの情報量を叩き込まれて理解が遅れる。
「…はい…弥瑚と、いいます」
「ミコさんですね。少々お話があるのですが、よろしいですか?」
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