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転生したらアンデッド!?

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喰らえ、アンデッド!!」

 ブシュッ!! アンデッドの巣窟、ここミストール遺跡ではいつものように駆け出しの冒険者達がレベルを上げるため最下級モンスターであるアンデッドを狩りまくっていた。

 その光景を遺跡の物陰から他とは外見の違うアンデットが一体、冒険者たちを見つめている。



 「あーあ、また来てるよ冒険者。皆そんなにレベルを上げたいのかねぇー。」



 来る日も来る日も、俺達アンデッドは切られては蘇り、切られては蘇り・・・。

 毎日がその繰り返しだ。

 だがそれも仕方がない。なんせ駆け出しの冒険者が倒せるモンスターなんて限られているからな。





 俺の名前は柊太一。元日本人、年は確か・・・、25歳だったかな。

 血の気の無い顔から既にお気づきだろうが、俺はアンデッドだ。

 何で俺がこんな所で冒険者を見つめているのか、それを説明するには少し時間がかかる。



 俺がまだ日本人だったころ、その人生の後半は最悪な物だった。 

 一流と呼ばれる大学を卒業したまではいいが、就職には失敗。そこからは全てが上手くいかず、職を探すが受けた会社はなぜか全て落ち、付き合っていた彼女には振られ、挙句に車にまで轢かれてしまった。

 まぁ、そんなこんなであっという間にニートの仲間入りを果たし、それから3年間引きこもり生活を送ることになる。

 そして最後は俺の部屋のコンセントから出火したことによる火事で、眠っている間に呆気なくあの世行きさ・・。



 これでようやく死ねる・・。

 そう思っていたが、目が覚めると、そこはこのミストール遺跡の墓所にある棺桶の中だった。

 しかも目が覚めた途端に冒険者によって頭を切り落とされるというおまけまでついていた。



 まぁ、幸か不幸か不死身の肉体だったことで死ぬことは無かったが、頭を拾い上げ元の位置に戻した瞬間、頭の中で誰かが話しかけてきた。



 (何か、あまりにも気の毒だったからこの世界に転生させたんだけど、手違いでアンデットに転生させちゃった! てへっ。)



 いや待て。てへっ。じゃないぞ?? まずこの世界? アンデッド?? 一体何が何だか・・。



 (まぁその身体なら死ぬことは無いし、結果的に良かったかもね! でも、手違いなのはこっちのミスだから、特別にスキルをあげちゃうね!!)

 (それじゃあ、あとは頑張ってね~!!)



 おい!! もうちょっと説明しろ!! まずお前は誰なんだー!!



 (・・・・・・・・。)



 結局その声は俺の問いには全く答えてはくれなかったが、その後、何日か冒険者がいなくなった遺跡内で生活するにつれ俺にも徐々に分かってきたことがあった。



 冒険者。彼らは人間だけでなく他の種族もいるようだ。

 エルフ、ドワーフ、リザードマン、獣人・・。他にもいたようだが詳しくは分からない。

 ただ一つ言えることは、彼らに会うと問答無用で俺は切られるということ。

 いや、切られるだけならいい。時には魔法と呼ばれるもので火を発生させ、俺へと攻撃してくる時もあった。



 だから俺は逃げまくった。ただひたすら逃げまくった。

 他のアンデットには自我がないのか、自ら冒険者達に向かっていってくれたお陰で、身を隠すのには苦労はしなかったのは幸運だった・・。

 そうしている内に、俺は巨大な石で出来た扉の中にある、一つの部屋に辿り着いたんだ。



 「ここは・・、図書館、ではないよな。でもこれだけの本や巻物、普通の場所には置いてないけど・・。」



 俺の辿り着いた部屋には、その中を埋め尽くすほどの本や巻物が棚の中に積み上げられていた。

 その一つに近づくと、俺は埃被った一冊の本を手に取り中を開いた。



 「何々・・? 初級魔法の原理?? なんだこれ??」



 (スキル 習得者が発動。初級魔法の原理を習得した。)



 な、なんだ?? 頭の中で誰かの声が・・!!!



 本の中身を読み終えた瞬間手に持っていたその本は一瞬で消えてしまい、代わりに頭の中で誰かの声が聞こえたが、それっきり何も言ってこない。

 だが俺はただ一つだけ変化した部分、視界の右端に浮かび上がった数字が1から2に上がったのに気が付いた。



 なんだこれ? Lv.2?? なんのゲームだよ・・。

 何が何だかさっぱり分からないが、とりあえず他の本も読んでみるか。



 俺が新たな本を手に取り、それを読み終えると、本は消え先程の声が再び頭の中に聞こえる。



 (スキル 習得者が発動。 初級火魔法を習得しました。)



 スキル・・? あ、そう言えばこの世界に転生したときに聞こえた声が何か言ってたな!!

 これがあいつがくれたスキルなのか??

 習得者。言葉通りなら、本に書かれていることを習得できるってことなんだろうか・・?



 「・・・ええい! こうなったらここにある本全部読んでやる!!」



 うぉぉぉぉぉ!!



 (スキル 習得者が発動。 初級水魔法を習得しました。)



 あぁぁぁぁぁぁ!!



 (スキル 習得者が発動。・・)



 ぬあぁぁぁぁぁ!!



 (スキル 習得者が・・・)





 こうしてすべての本を読み終えるころには恐らく200年以上の月日を費やしていた。

 アンデットは死ぬことがない体。食べ無くても、眠らなくてもいいと気づいてからは、昼夜問わず読み込んだ。

 そして最期の一冊を読み終えると、俺のLvは200まで上昇していた。



 Lv.200・・。まぁこれだけ簡単に上がったんだ、それほど大したことでもないだろう。

 それよりも流石に一度外に出てみるか・・。



 ギィィ・・。 俺が数百年ぶりに扉を開くと、そこでは相変わらず冒険者達がアンデットを相手にレベルを上げるため剣を振り下ろしていた。



 こいつらまだやってるんだ・・。全く懲りないなぁ・・。

 だが見つかるのは面倒だ。確か習得した魔法に良い物があったはず・・。



 「・・・不可視インビジブル。」



 おぉぉぉぉ!!! 魔法と共に俺の体はみるみる透明に変化し、普通に遺跡内を歩いても冒険者に見つかることは無かった。



 これはいい! これなら誰にも邪魔されず、静かに暮らすことが出来るじゃないか!!



 こうして俺はこの不可視インビジブルの魔法を使い、誰にも見つからず遺跡の一番高い塔、その最上階の部屋に移動すると、そこで今度こそ誰に気兼ねすることも無い引きこもり生活を開始した。はずだった・・。



 50年経ち、100年が経った頃、俺はある問題に直面する。



 「・・・あれ、これめっちゃ暇じゃね!?!?」



 そうだよ! この世界にはテレビもなければゲームもパソコンもない!!

 いや、逆によく100年も過ごせたな!!



 「・・・誰かと喋りたい。」







 こうして俺は話相手を探すため遺跡の入口付近まで出て来たところ、冒険者に遭遇した現在に至るという訳だ。



 ・・・あーヤバい! 人とどうやって話すんだっけ?? 

 数百年誰とも話してなかったからな・・・。

 よし、まずはこの右目のむき出しになっている眼球をなんとかしよう!



 「創造クリエイション。」



 ヴゥゥゥゥゥン。 太一は右手の上に片目を覆う程度の大きさの幾何学模様が入ったマスクを作ると、むき出しになっている右目の眼球を隠すように身に着ける。



 これでいい。俺も最初自分の顔を見た時は腰を抜かしたからな・・。

 右目以外は血の気が無いことを除いて殆ど人間と変わらない。

 これで何とか大丈夫なはずだ!



 「ふー、ふー・・。落ち着け、大丈夫だ。俺なら出来る、俺なら出来る!!」







 「ほら奴隷!! 高い金出してお前を買ったんだ! きちんと盾にならないか!!」



 「きゃぁ!! も、申し訳ありませんご主人様・・。」



 ・・・なんだ???



 その声に気が付いた太一の視線の先には、冒険者と思われる男性と、その前に小さな少女がアンデットの大軍と対峙していた。



 「くそ、くそ!! ダメだ数が多すぎる!! おい奴隷! お前がこいつらを引き付けろ!」



 「そ、そんな! 待ってご主人様・・、ッ!!」



 ドンッ!! 冒険者は少女を蹴りアンデットの前に倒すと、自分は急いでその場を離れていくのだった。



 ・・・ああいう奴はどの世界にもいるんだな。

 しかも奴隷って・・。この世界には奴隷制があるのか。



 「だ、誰か、助けて・・・。」



 少女は自分を喰らおうと集まってくるアンデットの大軍に、白い布切れ一枚の服から伸びる細い腕で剣を持ち、涙を浮かべながら何とか立ち上がった。



 「・・・しょうがない。まぁ、他に誰もいないならむしろ好都合だな。 アンデッドよ! その子に手を出すな!!」



 ヴゥゥゥゥゥン。 太一の手が光を放つと、その光を浴びたアンデッドたちは動きを止め少女と太一の間の道を開けていく。

 その道を通り少女の元に近づいていくと、太一の姿を見た少女の表情はますます恐怖のものへと変わっていった。



 あれ?! やっぱり俺の姿って怖い???

 どうしよう、何とかしないと・・・。



 「・・・えっと、大丈夫か?」



 「は、はい!! 何でもしますから命だけは・・・。」



 えぇー・・。なんか凄い震えてるんだけど・・。

 ちょっとショック・・。



 「それならいいんだ。それで、えっと・・・。」



 うわぁー!! 人を誘うのってこんなに恥ずかしいことだったっけ!? 

 落ち着け・・。大丈夫だ・・。俺なら出来るぞ・・・。



 「・・・あ、あの、何でしょうか??」

 少女は太一が自分に危害を加え無いと分かると体の震えを止め、涙を拭きながら太一に尋ねる。



 「へ?! いや、だから、その・・。これから時間があれば、俺と・・。」



 バクッ、バクッ!! 俺は動いていないのに心臓が高鳴り口から飛び出そうになるのを何とか堪え、ようやくある言葉をひねり出すのに成功した。



 「・・・お茶しません?」



 いや、違うだろぉぉぉ!!!

 誰がこんなアンデッドだらけの所でお茶なんかするんだよ!!!



 「・・・あ、はい。分かりました。」



 ・・・え、いいの??



 こうして太一の300年ぶりのお誘いは成功したのだった。

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