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儀式
希望へと続く未来へ……
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烈士団は魔物に対する方針を変更した。
といっても魔物は退治するものという根本的な定義は変わっていない。
力が弱く人間に害のない種族や、友好的な種族については保留や協定を結ぶことを新たに追加したのだ。
魔物の存在を世間に公表することについても検討中らしい。
今まで魔物や烈士団と遭遇した人々は忘却魔法で記憶を消されていた。
でもこれからは記憶は残しておくそうだ。
いきなり大々的に発表しては世間に混乱を招くだけだ。
先ずは噂話から広がる人々の反応を探り、どのような方向で進めていくのかを決めるのだという……
まあ俺とシャオンが魔法学校にいるうちは、人間の振りをし続けることに変わりはないだろう。
ジョーカーからもこのまま烈士団の団員として協力して欲しいと頼まれている。
──────人間と魔物が共存する世界。
ゆっくりとだが確実に……
その歩みは進んでいるようだ───────……
「凄い霧だな。全く前が見えないのにツクモはよく迷わずに飛べるな?」
「体が覚えてんだよ。危ねえから俺の手を離すなよ。」
俺はシャオンと里があった場所に四百年ぶりに向かっていた。
別に里帰りなんかしなくても良かったのだけれど……
シャオンがリハンのお墓の場所をばあさんから教えてもらい、初めて墓参りをした時に言ったのだ。
ツクモのお母さんのお墓にもお参りをしたいと。
せっかく女の姿のシャオンと堂々とデート出来るってのに、行き先が墓参りだなんて色気がねえ。
この辺りは火山が多く、そこら中から地下水を多く含む火山ガスが吹き上がっているため濃い霧で覆われている。
二酸化硫黄や塩化水素などの有毒なガスが吹き出る噴気口もあり、別名死の山として恐れられていた。
太陽の光に十字架やニンニク…弱点が多いヴァンパイアは里を作り、集団で生活している。
そんなヴァンパイアにとって、誰も近付かないこの山は住むにはうってつけの場所だった。
やがて霧が晴れ、切り立った絶壁の上に建つ石造りの町並みが見えてきた。
この渓谷の部分だけ、海からの風が通り抜けて見通しが良くなっているのだ。
懐かしい…けれど……
今にも知り合いが出てきても不思議じゃないきちんと清掃された街並みに違和感を感じた。
母が眠る墓地にも雑草は一本も生えていなくて、当時の記憶のままだった。
12年前にゴーストタウンになったにしてはどう考えても綺麗過ぎる……
「ツクモ、丘の上にあるのもお墓か?」
シャオンが示す方を見ると青御影石で出来たバカでかい石碑が鎮座していた。
あんなの…俺は知らない……
石の前までいくとそこには親父のの名前が刻まれてあった。
裏には12年前に死んだであろう里のみんなの名前が整然と刻まれていた。
この右肩上がりの癖のある字体は……
「まほろばか……」
自分が殺した仲間の墓を作るだなんて……
罪滅ぼしのつもりか?
「ツクモ…花を積んでくる。」
母の分しかお供え用の花を用意していなかったシャオンは、向こうに見える花畑へと歩いていった。
まほろばの奴、定期的に誰も居ない里に来ては手入れをしていたのか?
里のみんなを恨んでたんじゃなかったのかよ……
あいつの考えることはさっぱり分からん。
いや…まほろばのことだ。
親父を殺し、里のみんなを皆殺しにした話だってどこまでか本当でどこからが嘘かは分からない。
でも、親父が命より大切にしていたブローチを持っていたのは事実だ。
そして住人のいなくなったこの里も─────……
戻ってきたシャオンは両手いっぱいにカラフルな花を積んでいた。
俺も一緒にその花を墓石に飾り、手を合わせた。
まほろばがシャオンにしたことを思えば許すつもりなんてこの先も一切ないが……
あの時俺が里に残り、もっと腹を割って話し合えていたらなにかが変わっていたのだろうか……
まあ今となってはそんなこと
どうでもいいか──────……
墓石の後ろの隅に、まほろばの名前も小さく掘ってやった。
あの世で親父からぶん殴られろ。
「そうだシャオン、この近くの川に温泉が湧き出てるとこがあるんだけど入って行かね?」
「……温泉は好きだけど…遠慮しとく。」
「真っ裸では入んねえぞ?シャオンの分の水着もちゃんと用意してきたから。」
「その水着って男物か?」
「女もんに決まってんだろ。誰が野郎の水着姿を見たがるんだっ。」
「なら入らない。」
「なんでだよ?せっかく買ってきてやったのに。」
「ツクモが選ぶのなんて絶対際どいデザインに決まってる!」
「ほら、ちゃんと大事な部分は隠れてるだろ?」
「どう見ても布面積が小さ過ぎるだろ!!」
「俺しかいないんだからそんなに恥ずかしがるなって。」
「そのツクモがどスケベ野郎なのが問題なんだっ!!」
「なあシャオ~ン。一緒に温泉入ろ?」
「ぜ────ったいイヤだっ!!」
「一生のお願いっ!ヤラシイ目では見ないからっ。」
「嘘付け!イヤだっつったらイヤだっ!!」
ちぇっ。シャオンのエロいビキニ姿、超見たかったのに。
露出を欲張らずにワンピース型くらいにしとけば良かったかな……
いや待て。まだ諦めるのは早い。
なにか……良い策はないものか─────……
「……綺麗だな。」
考えあぐねる俺の横でシャオンがポツリと呟いた。
「こんなに鮮やかな紅葉を見たのは初めてだ。」
眼下にはオレンジやサーモンピンクや真紅に彩られた森が一面に広がっていた。
この季節、この丘から見える紅葉は一際綺麗だった。
風が舞い、俺達のいる丘にまで落ち葉が飛んできた。
プラチナゴールドの長い髪をフワリとなびかせ、赤いカエデの葉を背伸びをしながらキャッチしたシャオンが嬉しそうに笑った。
俺は……そんなシャオンの横顔にポウっと見とれてしまっていた。
「……ツクモ?」
視線に気付いたシャオンが首を傾げながら振り向いた。
改めて思うのもなんだけど、シャオンてすっごく綺麗なんだよな。
それに…汚れてなくて、真っ白というか……
なんとか水着姿を拝もうとしてた俺の考えって邪心《じゃしん》だったかも。ちょっとだけ反省。
「メタリカーナ国では一年中葉っぱを茂らせている常緑樹が多いからな。この辺は全部、冬に葉を落とす落葉樹なんだ。」
紅葉も条件がそろえばより鮮やかに染まる。
きっとここ何日かに朝方がぐっと冷え込んで一気に色付いたのだろう。
日光がよく当たり、空中の湿度も適度にあることも大事だ。
「ツクモはなんでも知ってるな。関心する。」
「そうか?本当に知りたいことは全然分からないんだけど?」
シャオンを抱き寄せておでこをコツンと合わせた。
俺が分からないことはもちろん、シャオンの頭の中だ。
「……僕はそんなに分かりずらいか?」
「難攻不落だな。今もシャオンにキスしたいけど、またデンデを食らうのかなってビクついてる。」
紅い瞳が揺れながら淡く光った。
ウ~っと悩んだあと、シャオンは恥ずかしそうに瞼をギュっっと閉じてくれた。
シャオン……力、入り過ぎだっ。
魔女は千年に一度だけ産まれてくる。
類まれなる美貌もさることながらその紅い瞳はとても魅力的で、一瞬で心を奪われそうになる……
また、その美しい見た目とは反して魔力の量は他を逸脱しており、最強と呼ぶに相応しい強さを誇っていた。
まさに、唯一無二の存在だ。
その圧倒的な存在ゆえに、今までの二人の魔女がどう恐れられ、どんな最期を遂げたかは今更言うまでもないだろう……
三人目の魔女であるシャオンも、不運な運命を歩んでしまった……
「ツクモ……僕は目をつむった状態でいつまで待てばいいんだ?」
「どしたシャオン?なにを待ってるんだ?」
「……っんとに、サイっテーだなおまえはっ!!」
「ごめんシャオンっ冗談だって!」
でも俺にとっちゃ、なんでこんなに可愛いかなって歯がゆくなるくらいに……
守ってあげたくなる愛しい女の子だ。
これから先、途方もない歳月が続いても
ずっと……
一緒にいような。
二人の重なる影に
色鮮やかな落ち葉が
幾つも、幾つも…落ちていった──────……
~END~
といっても魔物は退治するものという根本的な定義は変わっていない。
力が弱く人間に害のない種族や、友好的な種族については保留や協定を結ぶことを新たに追加したのだ。
魔物の存在を世間に公表することについても検討中らしい。
今まで魔物や烈士団と遭遇した人々は忘却魔法で記憶を消されていた。
でもこれからは記憶は残しておくそうだ。
いきなり大々的に発表しては世間に混乱を招くだけだ。
先ずは噂話から広がる人々の反応を探り、どのような方向で進めていくのかを決めるのだという……
まあ俺とシャオンが魔法学校にいるうちは、人間の振りをし続けることに変わりはないだろう。
ジョーカーからもこのまま烈士団の団員として協力して欲しいと頼まれている。
──────人間と魔物が共存する世界。
ゆっくりとだが確実に……
その歩みは進んでいるようだ───────……
「凄い霧だな。全く前が見えないのにツクモはよく迷わずに飛べるな?」
「体が覚えてんだよ。危ねえから俺の手を離すなよ。」
俺はシャオンと里があった場所に四百年ぶりに向かっていた。
別に里帰りなんかしなくても良かったのだけれど……
シャオンがリハンのお墓の場所をばあさんから教えてもらい、初めて墓参りをした時に言ったのだ。
ツクモのお母さんのお墓にもお参りをしたいと。
せっかく女の姿のシャオンと堂々とデート出来るってのに、行き先が墓参りだなんて色気がねえ。
この辺りは火山が多く、そこら中から地下水を多く含む火山ガスが吹き上がっているため濃い霧で覆われている。
二酸化硫黄や塩化水素などの有毒なガスが吹き出る噴気口もあり、別名死の山として恐れられていた。
太陽の光に十字架やニンニク…弱点が多いヴァンパイアは里を作り、集団で生活している。
そんなヴァンパイアにとって、誰も近付かないこの山は住むにはうってつけの場所だった。
やがて霧が晴れ、切り立った絶壁の上に建つ石造りの町並みが見えてきた。
この渓谷の部分だけ、海からの風が通り抜けて見通しが良くなっているのだ。
懐かしい…けれど……
今にも知り合いが出てきても不思議じゃないきちんと清掃された街並みに違和感を感じた。
母が眠る墓地にも雑草は一本も生えていなくて、当時の記憶のままだった。
12年前にゴーストタウンになったにしてはどう考えても綺麗過ぎる……
「ツクモ、丘の上にあるのもお墓か?」
シャオンが示す方を見ると青御影石で出来たバカでかい石碑が鎮座していた。
あんなの…俺は知らない……
石の前までいくとそこには親父のの名前が刻まれてあった。
裏には12年前に死んだであろう里のみんなの名前が整然と刻まれていた。
この右肩上がりの癖のある字体は……
「まほろばか……」
自分が殺した仲間の墓を作るだなんて……
罪滅ぼしのつもりか?
「ツクモ…花を積んでくる。」
母の分しかお供え用の花を用意していなかったシャオンは、向こうに見える花畑へと歩いていった。
まほろばの奴、定期的に誰も居ない里に来ては手入れをしていたのか?
里のみんなを恨んでたんじゃなかったのかよ……
あいつの考えることはさっぱり分からん。
いや…まほろばのことだ。
親父を殺し、里のみんなを皆殺しにした話だってどこまでか本当でどこからが嘘かは分からない。
でも、親父が命より大切にしていたブローチを持っていたのは事実だ。
そして住人のいなくなったこの里も─────……
戻ってきたシャオンは両手いっぱいにカラフルな花を積んでいた。
俺も一緒にその花を墓石に飾り、手を合わせた。
まほろばがシャオンにしたことを思えば許すつもりなんてこの先も一切ないが……
あの時俺が里に残り、もっと腹を割って話し合えていたらなにかが変わっていたのだろうか……
まあ今となってはそんなこと
どうでもいいか──────……
墓石の後ろの隅に、まほろばの名前も小さく掘ってやった。
あの世で親父からぶん殴られろ。
「そうだシャオン、この近くの川に温泉が湧き出てるとこがあるんだけど入って行かね?」
「……温泉は好きだけど…遠慮しとく。」
「真っ裸では入んねえぞ?シャオンの分の水着もちゃんと用意してきたから。」
「その水着って男物か?」
「女もんに決まってんだろ。誰が野郎の水着姿を見たがるんだっ。」
「なら入らない。」
「なんでだよ?せっかく買ってきてやったのに。」
「ツクモが選ぶのなんて絶対際どいデザインに決まってる!」
「ほら、ちゃんと大事な部分は隠れてるだろ?」
「どう見ても布面積が小さ過ぎるだろ!!」
「俺しかいないんだからそんなに恥ずかしがるなって。」
「そのツクモがどスケベ野郎なのが問題なんだっ!!」
「なあシャオ~ン。一緒に温泉入ろ?」
「ぜ────ったいイヤだっ!!」
「一生のお願いっ!ヤラシイ目では見ないからっ。」
「嘘付け!イヤだっつったらイヤだっ!!」
ちぇっ。シャオンのエロいビキニ姿、超見たかったのに。
露出を欲張らずにワンピース型くらいにしとけば良かったかな……
いや待て。まだ諦めるのは早い。
なにか……良い策はないものか─────……
「……綺麗だな。」
考えあぐねる俺の横でシャオンがポツリと呟いた。
「こんなに鮮やかな紅葉を見たのは初めてだ。」
眼下にはオレンジやサーモンピンクや真紅に彩られた森が一面に広がっていた。
この季節、この丘から見える紅葉は一際綺麗だった。
風が舞い、俺達のいる丘にまで落ち葉が飛んできた。
プラチナゴールドの長い髪をフワリとなびかせ、赤いカエデの葉を背伸びをしながらキャッチしたシャオンが嬉しそうに笑った。
俺は……そんなシャオンの横顔にポウっと見とれてしまっていた。
「……ツクモ?」
視線に気付いたシャオンが首を傾げながら振り向いた。
改めて思うのもなんだけど、シャオンてすっごく綺麗なんだよな。
それに…汚れてなくて、真っ白というか……
なんとか水着姿を拝もうとしてた俺の考えって邪心《じゃしん》だったかも。ちょっとだけ反省。
「メタリカーナ国では一年中葉っぱを茂らせている常緑樹が多いからな。この辺は全部、冬に葉を落とす落葉樹なんだ。」
紅葉も条件がそろえばより鮮やかに染まる。
きっとここ何日かに朝方がぐっと冷え込んで一気に色付いたのだろう。
日光がよく当たり、空中の湿度も適度にあることも大事だ。
「ツクモはなんでも知ってるな。関心する。」
「そうか?本当に知りたいことは全然分からないんだけど?」
シャオンを抱き寄せておでこをコツンと合わせた。
俺が分からないことはもちろん、シャオンの頭の中だ。
「……僕はそんなに分かりずらいか?」
「難攻不落だな。今もシャオンにキスしたいけど、またデンデを食らうのかなってビクついてる。」
紅い瞳が揺れながら淡く光った。
ウ~っと悩んだあと、シャオンは恥ずかしそうに瞼をギュっっと閉じてくれた。
シャオン……力、入り過ぎだっ。
魔女は千年に一度だけ産まれてくる。
類まれなる美貌もさることながらその紅い瞳はとても魅力的で、一瞬で心を奪われそうになる……
また、その美しい見た目とは反して魔力の量は他を逸脱しており、最強と呼ぶに相応しい強さを誇っていた。
まさに、唯一無二の存在だ。
その圧倒的な存在ゆえに、今までの二人の魔女がどう恐れられ、どんな最期を遂げたかは今更言うまでもないだろう……
三人目の魔女であるシャオンも、不運な運命を歩んでしまった……
「ツクモ……僕は目をつむった状態でいつまで待てばいいんだ?」
「どしたシャオン?なにを待ってるんだ?」
「……っんとに、サイっテーだなおまえはっ!!」
「ごめんシャオンっ冗談だって!」
でも俺にとっちゃ、なんでこんなに可愛いかなって歯がゆくなるくらいに……
守ってあげたくなる愛しい女の子だ。
これから先、途方もない歳月が続いても
ずっと……
一緒にいような。
二人の重なる影に
色鮮やかな落ち葉が
幾つも、幾つも…落ちていった──────……
~END~
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