紅い瞳の魔女

タニマリ

文字の大きさ
上 下
45 / 46
儀式

命懸けです

しおりを挟む

なにかが俺のおデコを突いている─────……


違和感を感じて目を開けると、緑色の鳥がチュンと鳴いて飛んで行った。
あのデブ鳥め…人の睡眠を妨害しやがって……

なんだが体がフラフラする。
たっぷり寝たんだかちょっとしか寝てないんだかよく分からん。

てか、ここどこだ……?
ふかふかのベッドに寝かされていたそこは、豪華な調度品で飾られた見知らぬ部屋だった。



「あら、ようやく起きたのね。」



隣の部屋を覗くと、ばあさんが背もたれの長い椅子に腰掛けていた。
どうやら校長室の横にある寝室で寝かされていたらしい。

「俺って何時間くらい寝てたんだ?」
「なに言ってるの。丸三日寝てたわよ。」

み、三日も?!
飛行艇の中で寝てからず───っと寝っ放しだったらしい。
どんだけ疲れてたんだよ、俺……






とにかくシャオンに会いたい。
学校の授業はもうとっくに終わっている時間帯だったので、寮へと向かった。


「あっツクモ!もう大丈夫なのっ?シャオンから二回死んだって聞いたんだけど。」


ドアを開けた瞬間、ココアが勢いよく話しかけてきた。
シャオンは風呂上がりなのか、タオルで濡れた髪の毛を乾かしていた。
男の姿をしているシャオンを見ると、学生生活が戻ってきたのだなあとしみじみと感じる……

「思ったより元気そうで良かったよ。」

シャオンは素っ気ない口調でそう言うと、ドライヤーのスイッチを押した。
なんだよ……もっと喜んで抱きついてくるかなとか期待してたのに。
俺達の微妙なやり取りを見てココアが吹き出した。


「シャオンさあ、この三日間ずっとツクモのこと心配して校長室までしょっちゅう見に行ってたんだよ?授業中も心ここに在らずで先生に当てられても全く答えられなかったし…今もぱぱっとお風呂に入って会いに行こうとしてたんだよね~?」

「なっ!ココアなにをチクってるんだっ!!」


えっ……シャオンが?
俺と目が合うとシャオンの顔がカーッと赤くなった。


「じゃあ僕は一時間ほど出かけてくるから。あとは二人っきりでごゆっくり~っ。」


ココアがスキップしながら部屋から出ていった。
気が利くじゃねえか…ナイスだココアっ。
シャオンは俺を無視するようにベッドに座って本を読み始めた。
本当は心配で仕方がなかったくせにツンデレな野郎だ。
シャオンのすぐ横に体をピタリと寄せながら座った。


「ちょっ……ツクモ、近いっ!!」


シャオンが手にしていた本はマフマディー教団の聖書だった。
なんでこんなの読んでんだ……?


「……シャオン、まさかとは思うけど、今度なんかあった時のために魔女の記憶を蘇らせておこうって考えてる?」


気まずそうに押し黙るシャオン……
図星かよ……
シャオンならそんな風に考えるだろうなあとは思っていた。だから三度目の審判のことは教えたくなかったんだ。


「一応読んでるだけだ。今後なにが起こるかなんて誰にも分からないし……」
「そんな先のことをシャオンが心配しなくていい。」

「僕はまだ魔女の力を半分も出し切れてないんだ。」
「だからなんだ?また俺に頼ればいいだけの話だろ。」


シャオンの気持ちは分からないでもない。
今まで散々な人生を送ってきた。だから怖いんだ……
このありふれた日常も、いつかは壊れてしまうんじゃないかと……

だったらすることは一つだ──────




「シャオンは普通の女の子でいいんだよ。」




─────そんな不安をかき消すくらい、俺がシャオンのことを幸せにすればいいんだ。

シャオンの両肩を掴んで俺の方に向かせた。


「俺から見れば、シャオンはワガママで寂しがり屋で泣き虫で…なのに平気なふりしていつも強がってる普通の女の子だよ。」
「ツクモ……」

「頭が超かてえから人の意見なんてまず聞かねえし、何かっつうたらデンデぶっ放すし、不器用で力加減てもんを全く知らない凶暴な女でもある。」
「ツクモ……悪口になってないか?」


だって事実だろ?と言ったらシャオンはプクっと頬を膨らませて拗《す》ねた。
その仕草が可愛らしくて………


「初めてだよ。千年生きてきてシャオンみたいな子は……」


思えば…会った瞬間から心を持っていかれたんだ。
深入りすれば面倒くさいことに巻き込まれると分かっていたのに……



「俺のそばでずっと笑ってて欲しい。」



どんどん好きになる気持ちを止めることなんて出来なくて……
どんな目に遭ってもそばにいたいと思った。





「好きだよ…シャオン。」





誰にも渡したくない。
シャオンの全てを、俺だけのものにしたい。
そんな自分勝手な感情が抑えきれなくなるくらい…シャオンのことが、俺は大好きだ──────……





シャオンの大きな瞳が、戸惑いながらも俺のことを真っ直ぐに見つめていた。

「魔女は短命かも知れないぞ?」
「俺が死なせねえ方法を見つける。」

「僕だけどんどん歳をとるかも知れないぞ?」
「シャオンならおばあちゃんになっても可愛いだろ?」

俺はシャオンの背中に手を回し、まだ質問を続けようとするその唇を塞ごうとしたのだが……
グーでぶん殴られた。


「なんで男の僕にキスしようとするんだ!!変態か?!」


だって今めっちゃ良い雰囲気じゃなかったっ?
シャオンだったら男でも全然構わねえし。

痛って~……
やっぱいきなりキスするのは無謀だったか。
焦って嫌われないように気長に攻めるしかないかと落胆していたら、シャオンが肩をトントンとしてきた。


「なんだよ、シャオ……」


頬っぺにプニっと軟らかな感触がした。

女に戻ったシャオンの紅い瞳に、俺の顔が映っているのがはっきりと見えた。
シャオンとの距離がとんでもなく近い……
突然の出来事に頭がついていけずにきょとんとしていると、シャオンが照れたように顔を伏せた。





うっ……


うそだろっ?
シャオンが俺に……チュウしてきたぞ!!


「ちょっと待て、シャオン……いきなり過ぎだっもう1回してくれっ!」
「もうしない。」

シャオンは顔を真っ赤にして下を向いたままだ。
なんなんだ……
シャオンのこの反応──────
もしかしてもしかするともしかするのかっ?!

確かめるようにシャオンに聞いた。


「シャオンも俺のこと好きって思ってもいい?」
「……うん、いいよ……」

「いつからだよ?!」
「……知らない。気付いたらそうなってた……」


なんだよそのキュン死にしそうな返答はっ!!
マジかよ……全っ然気付かなかった。
シャオンが俺のこと好きだとか夢みたいだ。ヤバい、顔が緩みまくって仕方がない。
あれっ…てことは……


「なあ、シャオン……」
「ダメだ。」


まだなにも言ってねえのに被せ気味に断るんじゃねえ!
気持ちが暴走しそうなのをどうにか堪えてるっていうのに。
ペンダントに手をかけて男に戻ろうとしたシャオンの手を掴み、そのまま全体重をかけてベッドに押し倒した。


「こんどは俺の方からチュウさせろ。口に。」
「ダメだって言ってるだろっ!」

「好き同士なんだからいいだろ?」
「しつこいって!」

「じゃあ俺のこと好きってちゃんと言って。そしたら止める。」
「そ…それもダメ……無理。恥ずかしい……」


ああもうっ……このウブな反応、可愛いったらない。
これ以上は俺の自制心がもちそうにない……
気持ちを落ち着かせようとシャオンから離れた。


「じゃあもういい。あ~あ…シャオンのこと嫌いになりそ。」


冗談で言ったのに、シャオンはえっ…と驚き、瞳を潤ませながら見つめてきた。
今まで散々お預け食らって我慢させられてた分、ちょっといじめ返してやろうかと思っただけなのに……
おねだりするような目で見てくんじゃねえわ。


……んとに、こいつはっ………
分かっててやってんのか?





「ウソに決まってんだろ……」





シャオンの体を強引に引き寄せ


優しく……キスをした────────……
















このあと俺はシャオンから超特大のデンデを食らい、三日ぶりに起きたばかりだというのにもう一日寝る羽目になった。


「嫌だったわけじゃないんだ。ちょっとビックリしただけで……」



……うん。


シャオンと付き合うのは命懸けなんだなってことがよーく分かった………













しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

神聖国 ―竜の名を冠する者―

あらかわ
ファンタジー
アステラ公国、そこは貴族が治める竜の伝説が残る世界。 無作為に村や街を襲撃し、虐殺を繰り返す《アノニマス》と呼ばれる魔法を扱う集団に家族と左目を奪われた少年は、戦う道を選ぶ。 対抗組織《クエレブレ》の新リーダーを務めることとなった心優しい少年テイトは、自分と同じく魔法強化の刺青を入れた 《竜の子》であり記憶喪失の美しい少女、レンリ 元研究者であり強力な魔道士、シン 二人と出会い、《アノニマス》との戦いを終わらせるべく奔走する。 新たな出会いと別れを繰り返し、それぞれの想いは交錯して、成長していく。 これは、守るために戦うことを選んだ者達の物語。

【完結】異世界で小料理屋さんを自由気ままに営業する〜おっかなびっくり魔物ジビエ料理の数々〜

櫛田こころ
ファンタジー
料理人の人生を絶たれた。 和食料理人である女性の秋吉宏香(あきよしひろか)は、ひき逃げ事故に遭ったのだ。 命には関わらなかったが、生き甲斐となっていた料理人にとって大事な利き腕の神経が切れてしまい、不随までの重傷を負う。 さすがに勤め先を続けるわけにもいかず、辞めて公園で途方に暮れていると……女神に請われ、異世界転移をすることに。 腕の障害をリセットされたため、新たな料理人としての人生をスタートさせようとした時に、尾が二又に別れた猫が……ジビエに似た魔物を狩っていたところに遭遇。 料理人としての再スタートの機会を得た女性と、猟りの腕前はプロ級の猫又ぽい魔物との飯テロスローライフが始まる!! おっかなびっくり料理の小料理屋さんの料理を召し上がれ?

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

飯屋の娘は魔法を使いたくない?

秋野 木星
ファンタジー
3歳の時に川で溺れた時に前世の記憶人格がよみがえったセリカ。 魔法が使えることをひた隠しにしてきたが、ある日馬車に轢かれそうになった男の子を助けるために思わず魔法を使ってしまう。 それを見ていた貴族の青年が…。 異世界転生の話です。 のんびりとしたセリカの日常を追っていきます。 ※ 表紙は星影さんの作品です。 ※ 「小説家になろう」から改稿転記しています。

無貌の男~千変万化のスキルの力で無双する。

きゅうとす
ファンタジー
化粧師の男は異世界に転移したことでスキルとして力を得てその特異な力を使って村人から商人、そして冒険者や傭兵となる。男を巡って女が集まり、様々な思惑が男を巻き込んでいく。

闇ガチャ、異世界を席巻する

白井木蓮
ファンタジー
異世界に転移してしまった……どうせなら今までとは違う人生を送ってみようと思う。 寿司が好きだから寿司職人にでもなってみようか。 いや、せっかく剣と魔法の世界に来たんだ。 リアルガチャ屋でもやってみるか。 ガチャの商品は武器、防具、そして…………。  ※小説家になろうでも投稿しております。

魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します

怠惰るウェイブ
ファンタジー
グレイの世界は狭く暗く何よりも灰色だった。 本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。 彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。 世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。 喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

処理中です...