紅い瞳の魔女

タニマリ

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儀式

命懸けです

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なにかが俺のおデコを突いている─────……


違和感を感じて目を開けると、緑色の鳥がチュンと鳴いて飛んで行った。
あのデブ鳥め…人の睡眠を妨害しやがって……

なんだが体がフラフラする。
たっぷり寝たんだかちょっとしか寝てないんだかよく分からん。

てか、ここどこだ……?
ふかふかのベッドに寝かされていたそこは、豪華な調度品で飾られた見知らぬ部屋だった。



「あら、ようやく起きたのね。」



隣の部屋を覗くと、ばあさんが背もたれの長い椅子に腰掛けていた。
どうやら校長室の横にある寝室で寝かされていたらしい。

「俺って何時間くらい寝てたんだ?」
「なに言ってるの。丸三日寝てたわよ。」

み、三日も?!
飛行艇の中で寝てからず───っと寝っ放しだったらしい。
どんだけ疲れてたんだよ、俺……






とにかくシャオンに会いたい。
学校の授業はもうとっくに終わっている時間帯だったので、寮へと向かった。


「あっツクモ!もう大丈夫なのっ?シャオンから二回死んだって聞いたんだけど。」


ドアを開けた瞬間、ココアが勢いよく話しかけてきた。
シャオンは風呂上がりなのか、タオルで濡れた髪の毛を乾かしていた。
男の姿をしているシャオンを見ると、学生生活が戻ってきたのだなあとしみじみと感じる……

「思ったより元気そうで良かったよ。」

シャオンは素っ気ない口調でそう言うと、ドライヤーのスイッチを押した。
なんだよ……もっと喜んで抱きついてくるかなとか期待してたのに。
俺達の微妙なやり取りを見てココアが吹き出した。


「シャオンさあ、この三日間ずっとツクモのこと心配して校長室までしょっちゅう見に行ってたんだよ?授業中も心ここに在らずで先生に当てられても全く答えられなかったし…今もぱぱっとお風呂に入って会いに行こうとしてたんだよね~?」

「なっ!ココアなにをチクってるんだっ!!」


えっ……シャオンが?
俺と目が合うとシャオンの顔がカーッと赤くなった。


「じゃあ僕は一時間ほど出かけてくるから。あとは二人っきりでごゆっくり~っ。」


ココアがスキップしながら部屋から出ていった。
気が利くじゃねえか…ナイスだココアっ。
シャオンは俺を無視するようにベッドに座って本を読み始めた。
本当は心配で仕方がなかったくせにツンデレな野郎だ。
シャオンのすぐ横に体をピタリと寄せながら座った。


「ちょっ……ツクモ、近いっ!!」


シャオンが手にしていた本はマフマディー教団の聖書だった。
なんでこんなの読んでんだ……?


「……シャオン、まさかとは思うけど、今度なんかあった時のために魔女の記憶を蘇らせておこうって考えてる?」


気まずそうに押し黙るシャオン……
図星かよ……
シャオンならそんな風に考えるだろうなあとは思っていた。だから三度目の審判のことは教えたくなかったんだ。


「一応読んでるだけだ。今後なにが起こるかなんて誰にも分からないし……」
「そんな先のことをシャオンが心配しなくていい。」

「僕はまだ魔女の力を半分も出し切れてないんだ。」
「だからなんだ?また俺に頼ればいいだけの話だろ。」


シャオンの気持ちは分からないでもない。
今まで散々な人生を送ってきた。だから怖いんだ……
このありふれた日常も、いつかは壊れてしまうんじゃないかと……

だったらすることは一つだ──────




「シャオンは普通の女の子でいいんだよ。」




─────そんな不安をかき消すくらい、俺がシャオンのことを幸せにすればいいんだ。

シャオンの両肩を掴んで俺の方に向かせた。


「俺から見れば、シャオンはワガママで寂しがり屋で泣き虫で…なのに平気なふりしていつも強がってる普通の女の子だよ。」
「ツクモ……」

「頭が超かてえから人の意見なんてまず聞かねえし、何かっつうたらデンデぶっ放すし、不器用で力加減てもんを全く知らない凶暴な女でもある。」
「ツクモ……悪口になってないか?」


だって事実だろ?と言ったらシャオンはプクっと頬を膨らませて拗《す》ねた。
その仕草が可愛らしくて………


「初めてだよ。千年生きてきてシャオンみたいな子は……」


思えば…会った瞬間から心を持っていかれたんだ。
深入りすれば面倒くさいことに巻き込まれると分かっていたのに……



「俺のそばでずっと笑ってて欲しい。」



どんどん好きになる気持ちを止めることなんて出来なくて……
どんな目に遭ってもそばにいたいと思った。





「好きだよ…シャオン。」





誰にも渡したくない。
シャオンの全てを、俺だけのものにしたい。
そんな自分勝手な感情が抑えきれなくなるくらい…シャオンのことが、俺は大好きだ──────……





シャオンの大きな瞳が、戸惑いながらも俺のことを真っ直ぐに見つめていた。

「魔女は短命かも知れないぞ?」
「俺が死なせねえ方法を見つける。」

「僕だけどんどん歳をとるかも知れないぞ?」
「シャオンならおばあちゃんになっても可愛いだろ?」

俺はシャオンの背中に手を回し、まだ質問を続けようとするその唇を塞ごうとしたのだが……
グーでぶん殴られた。


「なんで男の僕にキスしようとするんだ!!変態か?!」


だって今めっちゃ良い雰囲気じゃなかったっ?
シャオンだったら男でも全然構わねえし。

痛って~……
やっぱいきなりキスするのは無謀だったか。
焦って嫌われないように気長に攻めるしかないかと落胆していたら、シャオンが肩をトントンとしてきた。


「なんだよ、シャオ……」


頬っぺにプニっと軟らかな感触がした。

女に戻ったシャオンの紅い瞳に、俺の顔が映っているのがはっきりと見えた。
シャオンとの距離がとんでもなく近い……
突然の出来事に頭がついていけずにきょとんとしていると、シャオンが照れたように顔を伏せた。





うっ……


うそだろっ?
シャオンが俺に……チュウしてきたぞ!!


「ちょっと待て、シャオン……いきなり過ぎだっもう1回してくれっ!」
「もうしない。」

シャオンは顔を真っ赤にして下を向いたままだ。
なんなんだ……
シャオンのこの反応──────
もしかしてもしかするともしかするのかっ?!

確かめるようにシャオンに聞いた。


「シャオンも俺のこと好きって思ってもいい?」
「……うん、いいよ……」

「いつからだよ?!」
「……知らない。気付いたらそうなってた……」


なんだよそのキュン死にしそうな返答はっ!!
マジかよ……全っ然気付かなかった。
シャオンが俺のこと好きだとか夢みたいだ。ヤバい、顔が緩みまくって仕方がない。
あれっ…てことは……


「なあ、シャオン……」
「ダメだ。」


まだなにも言ってねえのに被せ気味に断るんじゃねえ!
気持ちが暴走しそうなのをどうにか堪えてるっていうのに。
ペンダントに手をかけて男に戻ろうとしたシャオンの手を掴み、そのまま全体重をかけてベッドに押し倒した。


「こんどは俺の方からチュウさせろ。口に。」
「ダメだって言ってるだろっ!」

「好き同士なんだからいいだろ?」
「しつこいって!」

「じゃあ俺のこと好きってちゃんと言って。そしたら止める。」
「そ…それもダメ……無理。恥ずかしい……」


ああもうっ……このウブな反応、可愛いったらない。
これ以上は俺の自制心がもちそうにない……
気持ちを落ち着かせようとシャオンから離れた。


「じゃあもういい。あ~あ…シャオンのこと嫌いになりそ。」


冗談で言ったのに、シャオンはえっ…と驚き、瞳を潤ませながら見つめてきた。
今まで散々お預け食らって我慢させられてた分、ちょっといじめ返してやろうかと思っただけなのに……
おねだりするような目で見てくんじゃねえわ。


……んとに、こいつはっ………
分かっててやってんのか?





「ウソに決まってんだろ……」





シャオンの体を強引に引き寄せ


優しく……キスをした────────……
















このあと俺はシャオンから超特大のデンデを食らい、三日ぶりに起きたばかりだというのにもう一日寝る羽目になった。


「嫌だったわけじゃないんだ。ちょっとビックリしただけで……」



……うん。


シャオンと付き合うのは命懸けなんだなってことがよーく分かった………













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