同居人はイケメン様。

タニマリ

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こぼれた夢

奇妙な同居生活

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夢を見た──────────


相澤先生におんぶされている夢だ。

大きくて温かい相澤先生の背中はとても居心地が良くて……くっついているだけでとても幸せな気持ちになれた。


「相澤せ~んせい。」

相澤先生の首に両手を回してギュッと抱きしめた。





このままずっと……

離れたくないな───────

















うん……なんか重い………?
目を覚ますと、また後ろからがっつりホールディングされていた。
またか……せっかく布団を買ってあげたっていうのに。
三度目ともなるともう驚かない。


「もう、相澤先せ………?!!」


今までで一番度肝を抜いた。
だって相澤先生、真っ裸なんだもん!!

自分のことを慌ててチェックした。
着衣は乱れてない、灰色の生真面目スーツのまんまだっ。
体に違和感もないっ多分なんもされてない!
ビビった…酒の勢いでヤッちゃったのかと思った。

でも私……
一晩中裸の相澤先生に抱きしめられてたの……?
体中から変な汗が吹き出てきた。


「……マキマキ起きたのか…二日酔い大丈夫か?」

むっく~と起き上がるもんだからバッチリ見えそうになって、目が泳いだ。
これは不可抗力なんだから見ても許されるよね?
いやいや、やっぱ見ちゃダメでしょ……

……って葛藤してる場合じゃないっ!


「相澤先生なんで裸なんですか?!」
「俺に思いっきりゲロかけたの忘れたのか?」

「だ、だからって服着てないのはおかしいでしょ?!」
「クタクタだったんだよ。寝落ちしたおまえをおんぶして帰ったから。」


おんぶ?
あれ夢じゃなかったんだ。
……あれ、あれれ?
私、夢の中で相澤先生にすっっごく甘えてなかった?
もしかして現実でもしたんじゃ……
チラっと相澤先生の方を見たら布団からそのまま立とうとしていた。


「なにしてるんですか!見えるっ!」
「俺そんなの気にしないけど?」

「私が気にするんです!!」


ちょっとは気にしろよっ!
てか相澤先生の裸率多くないっ?
ナチュラルな露出狂かよ!!


「なあマキマキ。朝ご飯フレンチトーストが食べたい。」
「作りますから今すぐ服を着て下さいっ!」









台所でフレンチトーストを作っているとスーツに着替えた相澤先生がやってきた。
ホストクラブで見た時にも思ったけど、この人…キチンとした格好をして黙ってれば抜群にカッコイイんだよね。

出来上がったフレンチトーストを置くと、相澤先生から封筒を手渡された。
なんだこれ……?

「昨日のホストクラブのおまえ宛の請求書。高校の教師ってことでツケにしてくれたけど、締日までにはキチンと払ってくれって。」


見てみるとド高い請求額に目ん玉が飛び出そうになった。
桁が…7桁あ?!

「なんで?!初回は3000円ポッキリって言ってたのに!」
「ボトルが飲み放題に含まれるわけねえだろ。飲んだ分はちゃんと払えよ。」

「ボトルったってたかが5本ですよ?!」
「ホストクラブなんてそんなもんだろ。あと、ホストが飲み食いした分も別料金だって言ってたし、あの店はTAXも45%かかるんだってよ。」

税金……高すぎじゃね?

「菊池の指名料も入ってるって言ってたな。なんにせよ豪遊しすぎだ。もう行くなよ。」


菊池君…指名料取るんだ……
貯金…全部飛んでった……



「じゃあ俺行くわ。世話になったな。」


朝食を食べ終えた相澤先生がいつもよりかなり早い時間なのに出ていこうとした。
手には大きな鞄をいくつも抱えている……

「相澤先生…出て行くんですか?」
「今日は給料日だしな。金さえあれば泊まるとこなんていくらでもある。」

うそっ……相澤先生、もう帰って来ないの?
そんな………


「じゃあな。飯、美味かったよ。」

ニッと笑って玄関を出ようとした相澤先生の背中にしがみついた。




「……出て行かないで下さいっ。」




今さら私をひとりぼっちにするなんて
そんなの、酷い──────



「マキマキ……?」



少し戸惑ったような顔をした相澤先生と視線が絡む……



「……私と、ずっと一緒にいて下さい。」



最初は相澤先生を泊めるなんて嫌だった。
口が悪くて自分勝手でデリカシーもない相澤先生のことなんて、大嫌いだったから。




でも今は………────────




「………ずっと一緒にって、おまえ……」
「だって…相澤先生がいないと私……」




──────嫌だとか、言ってらんないっ!!


「明日からどうやってここの家賃を払っていけばいいんですかあ?!」



「………………は…ぁああっ?」


今相澤先生に出ていかれたら間違いなく路頭に迷ってしまう!!

「元々幼なじみとルームシェアする予定だったんですっ。貯金が全部飛んでったから一人で家賃を払っていくなんてもう無理です!ヤバいんです!!」
「……えっと、だから俺にルームメイトになれと?」


私は全力で何度もうなづいた。
安いとこに変えたいけど引越しするお金さえない。
田舎から出てきたばかりなので今すぐルームシェアを頼めるような友人もいない。
結果、不本意だけど相澤先生にすがりつくしかないのだ。


「……なんだそれ…紛らわしい……」


相澤先生はため息混じりに頭を抱えている。
なにを悩んでいるのだろう。相澤先生にとっても良い話だと思うんだけど……

「俺、出てく。」

ガ────ン!!なんで?!


「じゃあな。」
「待って下さいっ!私、三食ご飯用意しますから!」

「いいね~マキマキ料理上手だもんな。」
「でしょ?もちろん食費は頂きますが。」

「でもやっぱいいわ。」
「ちょっちょっ、待って下さいって!」

私を引きづったまま相澤先生は出ていこうとした。
どうしようっ、なんとしてでも引き止めないとっ!

「じゃあ私っ……」

他に私が出来ることって──────




「私、毎晩抱き枕になりますからっ!!」




相澤先生の動きがピタっと止まった。

……なに言っちゃってんだろ……
すっごくエロいことを口走ってしまった気がする……



「………マジで?」
「いや、あの……これはやっぱり……」


ナシでと言おうとしたのに相澤先生は嬉しそうに私のことをギューってしてきた。

「俺、昔っからイルカの抱き枕がないと寝付きが悪くてさあ。でもマキマキ抱っこしたらぐっすり寝れたんだよ。」

なにこの異様なまでの食いつき具合。


「最近寝れなくてイライラしてたんだ。なあ、おまえって前世イルカだった?」
「あの……相澤先生、倫理的観点から言ってもこのお話は無かったことに……」

私の話しなど全く無視して、相澤先生は私のことをお姫様抱っこした。


「なっ!なにするんですか相澤先生!!」
「なにって。今から寝るんだよ。」

「今起きたばっかじゃないですか!それに学校!」
「騒ぐな俺の抱き枕。寝不足で限界なんだよ。」


相澤先生は私を布団の上に下ろすと30分経ったら起こしてと言って寝てしまった。
もちろん、しっかりと私のことを抱きしめながら……


今までは私が目覚めるとこの状態で、抱きついてる相澤先生から離れるのがお決まりだった。
だからこんな風に起きてる状態でずっとなんてのは初めてで……
しかも、なんか向かい合わせで密着しちゃってるし……

超っ、恥ずかしいんですけどっ!!



相澤先生はあっという間にぐうぐうと寝てしまった。
意識してるのが私だけってのが腹立つ~……!






今日私は登校指導の当番だ。

30分経ったから起こしたのに、全く起きようとしないので放ったらかして家を出た。
登校指導とは立ち番とも言って、文字通り校門の前に立って違反している生徒や遅刻する生徒がいないかをチェックする番人のようなものだ。

学校に着くと、まだ誰もいない校庭で一人ランニングをする生徒を見つけた。
その頑張る姿に声をかけずにはいられなくなった。


「お──いっ菊地く─ん!おはよ───!!」


菊地君はこちらに気付くと大きく手を振り、走って来てくれた。

「マキちゃんおはよっ。体調どう?」

息を切らせながら心配そうに私のことを覗き込んできた。
良かった…いつもの優しい菊池君だ。
昨日は散々お見苦しいところをお見せして迷惑をかけたので、怒っていたらどうしようかと思っていた。


「朝早くから自主練?」
「うん。まずは落ちた筋肉をつけなきゃと思って。」

菊地君は右足にアンクルウェイトと呼ばれるトレーニング用具をつけていた。
中に重りが入っていて、負荷をかけることで日常生活をしながらでも筋力トレーニングが出来るのだ。
今はまだ500g程度の重さだが、徐々に重くしていって最終的には5kgにまでする予定なのだという。
私だったらまともに歩くのも無理だな……

昨日まではホストクラブにいたのに、もう前だけを見て走り出している菊地君が凄く眩しく見えた。


「なにマキちゃん?俺の顔になんかついてる?」
「頑張ってて偉いなあって思って……」

私なんかまだまだだ。
いつになったら私が思い描く理想の教師になれるんだろうか……


「……そりゃ、初めて本気で好きになった子から応援されたら…頑張るよ。」
「いいね~アオハルだね。さすが高校生っ!」

「う……ん。マキちゃんて鈍いって言われない?」


菊地君が大きなため息を付いてガックリと肩を落とした。
なんかまずいこと言ったかな……?
そろそろ生徒が登校してくる時間だ。門に立っておかないといけない。


「あ、そうだマキちゃん。慰謝料のことなんだけど。」


そうだった……──────!!

まだ肝心の大問題が残ってたんだった。
いろんなことがありすぎて頭からぶっ飛んでしまっていた……

「だ、大丈夫よ菊地君。いざとなったら先生の貯金が……」

貯金、ゼロになったんだったあ!!
ヤっバい…どうしよう……
あの強面ヤクザの顔が浮かんで身震いした。

「マキちゃん、それなんだけどもう払わなくて良くなったから。」
「えっ…どういうこと?」


「相澤先生が解決してくれたんだ。」



───────相澤先生が……?











校門に立って登校指導をしていたら、ギリギリの時間に相澤先生が全力疾走でやってきた。
門をくぐると同時にチャイムが鳴った。

「相澤先生。もう少しで遅刻ですよ。」
「……誰のせいだ、誰の……」

腰をかがめて汗だくでゼイゼイ言っている。
知らないよ…起きなかった自分が悪いんじゃん。
周りを見渡してから相澤先生にコソッと尋ねた。


「相澤先生…ヤクザと知り合いだったんですか?」


菊地君が言うにはあのヤクザと相澤先生は知り合いだったらしく、電話をしたらすんなり解決したのだという。
あんな顔面凶器のガチモンヤクザと高校教師である相澤先生がどこで接点をもったのだろうか……


「あー…それな。前に財布拾ってやったんだ。」
「……財布、ですか?」

「よっぽど大事なもんでも入ってたんじゃね?授業の用意しないといけねえから先行くわ。」


相澤先生は早足に校舎へと入って行った。
そんな偶然、有り得る?
それにあのヤクザは組が絡んでるからもう止めるのは無理だって言っていた。
なのに、相澤先生がちょっと電話しただけで即解決するだなんて……


「……怪しい。」

そう思ったけど、はぐらかすような相澤先生の態度にそれ以上聞くことが出来なかった──────






















───────その夜。


「マキマキ~。疲れたからもう寝ようぜ。」


スウェット上下の完全オフモードの相澤先生が、私の布団の上に我が物顔で寝転んでいる。

これから毎日やるのか…アレを……
落ち着け落ち着け私の心臓。
こんなの単なる儀式だと思えばなんてことはない。
スマホをいじってくつろぎながら待っている相澤先生の隣に、コロンと横になった。


「マキマキ、なんで俺に背中向けんの?」
「どっちに向こうがいいじゃないですかっ。ちょっとは遠慮して下さい!」

「十分遠慮してるけど?」
「どこがですか?!」

「だって俺、家にいる時はほぼ全裸だったもん。」

ゲッ。
聞くんじゃなかった……


 
「まあ抱き枕に出来たらどっちでもいっか…おっ、良い匂い。」

相澤先生が後ろから私の体に腕を絡ませてきた。
相変わらず力強く抱きしめてくる。
風呂上がりの私のうなじをクンクンと嗅いでいる……
こんなの、意識するなって言う方が無理だ!

「菊地君、立ち直ってくれて良かったですねっ。」

なにか話でもしてないと緊張して仕方がない。

「ああ。マキマキのおかげだよ。ありがとな。」
「わ、私なんか別に……」

酒飲んで酔っ払ってゲロっただけだったし……
相澤先生にお礼を言われるとは思ってもいなかったので、余計に心臓がドキドキして体が熱くなってきてしまった。



「生徒の力になれる度に、教師になって良かったって思うんだ。」



────なんか……
相澤先生らしいな………

生徒のことを自分のことのように考えられる、教師としての相澤先生はとても素敵だなって…思った。

あくまでも教師としてのね。



相澤先生が教師になった理由ってなんだったっけ?
なんか聞いたような気がしたんだけど思い出せない。


もう一度聞いても教えてくれるかな……


「あの…相澤先生?」
「なに?」


そう言えばあの時、なにかされたような……
名前を呼んだくせに黙りこくってしまった私に、相澤先生が体を起こして覗き込んできた。

「マキマキ、なに?」

ち、近い……
てか完全に私に覆いかぶさってない?
目線が自然と相澤先生の形の整った口元にいってしまった。


あれ?なんか思い出してきたぞ。
あの時確か…この唇で、私の頬っぺに………




──────……キスしてきた!!





起き上がって、相澤先生の顔面に枕をぶつけた。

「ぶはっ!なにすんだよマキマキ!」
「なにすんだはこっちのセリフです!!」

「俺がなにしたよっ?」
「なにって……」


いや、待てよ……
相澤先生が私にチュウなんかする?
夢だと言われれば夢だったようにも思える。
でも、柔らかな感触はしっかりしたし……
どっち?どっちなのっ?


「なんも手なんか出してねえだろ?」
「その出さないってのも失礼ですからっ!」

「……おまえは俺にイロイロして欲しいわけ?」
「ただの一般論を言っただけです!!」

「はあっ?もう、今から手ぇ出してやるからどこまでして欲しいか言えっ!」
「なんですかそれ?!サイッテイ!相澤先生のバカ!!」









私と相澤先生の奇妙な同居生活は
まだまだ始まったばかりだ───────


















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