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ヤリたい男ヤラない女〜デキちゃった編
しおりを挟む目覚まし時計が鳴っている。
うっすら目を開けると隣で眠る大きな体の男…私の彼氏であり婚約者でもある純平《じゅんぺい》が寝ていた。
「純平~朝だよ~。」
純平の鼻を指で摘むとフガッとだけ言った。
同棲を始めてから今日で一週間……
幸せそうな間抜けな寝顔に癒される。
「やべっ…立ってきた…麻里《まり》ぃ今からヤルぞ~……」
なんちゅう寝言言ってんの?
寝てても頭ん中猿だな。笑っちゃう。
て、しまった……
今日は朝イチで会議があるから早めに出社しなきゃいけないんだった。
カンペキ寝過ごしたっヤバいっ!
私、服飾関係のOL27歳。
身長170cmでスラリとした体付き。
いつもパンツスタイルのスーツでまんま宝塚の男役だ。
高校時代はベリーショートだったのでそのへんにいるイケメンより女子にもてた。
性格もキツく、思ったことは言う。
男みたいだと自分でも思っている。
「あれっ麻里。なに急いでんの?」
「早く出社しなきゃいけないの忘れてたの。今日は朝ご飯いらないから。」
料理が苦手な私の代わりに、ご飯の用意は主に純平がやってくれている。
着替えて玄関から出ようとしたら純平もくっついてきた。
「俺、今日は出社遅いから会社まで車で送ってってやるよ。」
純平の会社はフレックスタイム制で、自分で始業・終業時刻を決めることが出来る。
純平の愛車である黒のスープラは、身長190cmでラガーマンだった純平が乗るととても窮屈そうに見える。
「ポリウレタンはシャカシャカしてるし付けづらいよな。やっぱイソプレンラバーだな。伸縮するしラテックスと違って熱も伝わる…でも高いしネットでしか買えないってのがネックなんだよな~。」
頭良さそうに語っているけれど、話の内容はコンドームである。
純平は最近いろんな種類のを買ってきて、どれが生と同じくらい気持ちいいかを試している。
「麻里は今まででどれが一番良かった?」
「うるさい。朝からする話じゃない。」
「チェーっ昨日はあんなにさあ…」
「うるさいって!もうっ!」
「照れてる照れてる。」
純平の話は9分9厘下ネタである。
出会った時からこんな調子だった。
一番最初に声を掛けられた言葉が「おう、イイ女だな。一発ヤラせろ。」である。
頭にウジがわいているとしか言いようがない。
そんな出会いで付き合う私も私なのだけど……
「俺は麻里の性感帯ぜんぶ把握してるからな。麻里のよがり声でカエルの歌ぐらいだったら演奏でき……」
私は運転する純平の左頬をバチンと思いっきり殴った。
「っぶね!運転中だってっ!」
「死にたくなかったらそれ以上しゃべんな!」
純平は抜け道を上手く通り、渋滞に巻き込まれることなく当初想定していた時間より早くに会社まで送ってくれた。
車から降りた私に純平が何かを投げ渡してきた。
「なにコレ……」
「アメちゃん。糖分取らないと頭回んねえだろ?会議頑張れよ。」
純平はたまに優しい。
まあ、私の前ではほぼサカってるんだけど……
今日だって私を送るために、わざわざ出社時間を遅らせてくれたのだろう。
わかっているのにありがとうと言えない。
こんな可愛げのない女をこんなにも愛してくれるのは純平くらいだと思う。
私は今度社内で立ち上げる新ブランドプロジェクトのサブマネージャーに選ばれていた。
新ブランドのコンセプトは「繊細でありながら芯のある凛とした女性」
働く若いママをターゲットとしていて、オフィスでも着れて、イージーケアが可能な素材や仕様にした、オシャレなママのためのブランドである。
サブマネージャーと言ってもチーフマネージャーのアシスタント的存在で、雑用が山のようにあってとにかく忙しい。
純平が早く結婚式を上げて入籍も済ませたいと言ってくるのだが、今は仕事を優先したい私のワガママで保留となっていた。
あ…まただ。
届いたサンプルを見やすいように会議室で並べていると吐き気がしてきた。
私は忙しいとイライラしてくる。それも度を越すと体調にまで影響してくるのだ。
ここ一ヶ月は仕事に加えて引越しもあって大忙しだったからな…ああ気持ち悪い……
「麻里、大丈夫?」
私と一緒に準備をしていた同期の美和《みわ》が心配そうに声を掛けてきた。
美和も私と同じサブマネージャーに任命されている。
「大丈夫。すぐ治まるから。」
私は純平からもらったアメを思い出し、ポケットに入っていた箱から一つ取り出した。
「アメ。美和も食べる?」
受け取った美和はえっと驚いて一気に真っ赤な顔になった。
「美和顔赤いよ?美和も体調悪いの?」
「……違う…麻里、これ……」
純平がアメだと言って渡したカラフルな箱はコンドームだった。
なに考えてんだあのヤロウっ……
こんなもん普通間違えるか?!
「ごめん美和っ純平のやつ殺しとくから!!」
美和はいいよいいよと言ってくれたのだが、この手の話は美和は大の苦手だ。
私がハゲ散らかした親父だったら一発退場もんのセクハラ行為である。
いつもはすぐ治まる吐き気が、今日はお昼になっても治まらなかった。
お腹は空いていたので社員食堂であっさりしたものでも食べようかなと思ったのだが、ご飯の匂いに気持ち悪くなりトイレで吐いてしまった。
参ったな…風邪でも引いたのかな……
「麻里今日は帰る?残りの仕事は私がしとくよ?」
美和がデスクで突っ伏している私を心配そうにのぞき込んできた。
美和は私と違って凄く気が利くし優しい。
甘えたいところだけれど、とても美和一人で片付けられる量ではなかった。
最近私達は毎日終電帰りなのである。
「二人とも~久しぶりぃ。」
声がした方を振り向くと五つ上の先輩がいた。
子供を産んで今は休業中のバリバリのキャリアウーマンだ。
先輩の腕には生後10ヶ月の赤ちゃんがスヤスヤと眠っていた。
「わぁあ可愛いっ。先輩もうすぐ復帰ですよね?」
美和は赤ちゃんを抱っこさせてもらっていた。
ふんわりとした女性らしい雰囲気の美和には赤ちゃんがとてもよく似合う……
私はといえば、子供が苦手だった。
だって子供ってなに考えてんだかわからないし、どう対処していいんだか困るんだもん。
「えっ…先輩辞めるんですか?」
「うん、まあね…この子夜泣きがひどくって。今もしょっちゅうおっぱい欲しがるし、とてもじゃないけど体力がもたないわ。」
先輩は再来月には復帰するつもりでいた。
聞けば旦那さんはあまり協力的ではないらしく、結婚する前は分担しようと約束していた家事もほぼ先輩がしていたらしい。
先輩ほど仕事が出来る女性はいないのに……
今日は残していた自分の荷物を持ち帰るために来たようだった。
「二人とも男をちゃんと見定めてから結婚しなよ~。私みたいになっちゃうからねっ。」
自虐的にそう言いつつも、赤ちゃんを抱かえて去っていく先輩の後ろ姿はとても幸せそうに見えた。
子供を産むって大変そうだな。
つわりも大変だって聞くし……
私にはまだまだ無理だな、うん。
……あれっ…待てよ。
ちょっと待てよ………
───────はっ………
私、生理いつきたっけ?
ドラッグストアの店員さんがチラチラと私を見ている……
黒いパンツスーツにサングラスにマスクをした私はまるでスパイだ。
怪しいヤツなのは自分でもわかっている。
でも私は今からアレを初めて買うのだ。私にとってこれはミッションだっ。ミッションインポッシブルっ!
「ねぇ、あの男の人なんであんなの買ったんだろ?」
レジ店員が私を見ながらひそひそ話すのが聞こえた。
誰が男だっ私は女だっちゅーの!
私はソレを持って近くのトイレに駆け込んだ。
─────妊娠検査薬──────
本検査薬は妊娠したときに分泌されるhCGというホルモンが尿中に含まれているかどうかを検出する試薬です。このhCGは妊娠(受精卵の着床)後、徐々に分泌され、生理予定日を過ぎた頃に急激に増加します。
生理予定日一週間後から検査するとはっきりとした紫色のラインが現れますが、生理予定日やその前に検査すると、hCGがごくわずかなので妊娠していても陰性になる可能性があります。
妊娠検査薬での検査は、生理予定日一週間後からをお勧めします。
気付けば生理予定日から一週間なんてとっくに過ぎていた。
私は毎月決まった日にくる方だ。
一週間過ぎたことなど今までに一度もなかった。
──────出来てたらどうしよう……
仕事どうすんの?
すぐ辞めなきゃいけない?
いや…お腹大きくても仕事は出来るか……
でもそれっていつまで?
まさか産む前日までするわけにはいかないし……
コンドーム付けてても妊娠てするの?
純平はそういうのはキチンとしてくれる性格だ。猿だけど……
いろんなのを試してたから海外の不良品でも混じってたのかな?あの猿め……
それか純平のって凄い強そうだからゴムを突き破ったとか?さすが猿……
「ああもうっ!怖くて検査なんか出来ないっ!」
トイレの個室で頭を抱えてジタバタしていると、猿…じゃない、純平からメールが届いた。
「麻里まだ仕事中?明日休みだし今日は飲みに行かね?」
男っていいよね気楽で。
女はこういう時、どうしたって一人で悩まなきゃいけない……私はすぐさま純平に電話を掛けた。
「上等じゃねえかっ!飲みに行ってやらあこの猿が!」
「どした麻里っ?俺なんかしたか?」
ビビる純平といつもの居酒屋で落ち合う約束をした。
私と純平の職場のちょうど中間地点にその居酒屋はある。
店内を見渡したけれども、純平はまだ来ていなかった。
ここは古くからある立ち飲み屋で、店内はほぼ汚い親父で埋め尽くされている。若い女性客などまず来ない。
でも安いし味は最高なので、私と純平は好んでよく飲みにきていた。
この店から漂うノスタルジックな雰囲気が私は大好きなのだけど……
「よお姉ちゃん一人か?俺のナニでも食うか?」
こんな風に酔っ払いに絡まれることはしょっちゅうだ。
口臭いなぁこいつ……
少し遅れてきた純平がぬっと間に割り込んできた。
「おいおっさん。もうすぐ俺の嫁になる女になんか用か?」
図体のデカい純平にひと睨みされ、酔っ払いは縮こまって平謝りした。
まあ驚くよね…プロレスラーですって言われても納得の体格だもん。
「麻里ぃ外で待っとけよ。一人じゃ危ねえだろ?」
「あんなの全然平気だから。」
「俺が嫌なんだよっ。麻里が卑猥なこと言われんのが!」
なに言ってんだ。自分はどんだけってくらいド下ネタを言ってくるくせに……
私が呆れながらドリンクを飲むと、純平があれっという顔をした。
「なんで麻里、ウーロン茶飲んでんだ?」
「あ~…うんちょっと、禁酒……」
なぜ私が禁酒をし出したのか。それについて純平は特に尋ねてくることもなく、大将に生ビールを頼んで私の目の前で美味そうに一気飲みした。
ちょっ……私だって本当はカ───っと飲みたいのにっ!
「ダイエットか?俺はもうちょいケツがデカい方が好きだぞ?」
無神経にもほどがある……血管がピクピクしてきた。
「あのさあ純平…話が……」
純平は二つ生ビールを頼んだ。どうやら私の分も頼んだようだ。
私の前に、キンキンに冷えたビールが置かれる……
「一週間遅れだけど麻里と俺の同棲祝いだな。カンパーイっ。」
純平は私のジョッキに軽く当ててからまた一気に飲み干した。
どうしよう……
もう…飲んじゃおっかな……
だいたい昨日までガブガブ飲んでたのに、今更禁酒したところでどうなの?
夜だってヤルことヤッてたし……
私は目の前に置かれたジョッキに手を伸ばした。
─────でもっ……
「どした麻里?」
いつもは癒される間抜けな純平の顔に、フツフツと怒りがわいてきた。
「……男はいいよね…そのままの生活でいれるんだから。なんで女だけ我慢しなきゃいけないの?」
純平はまたかといった感じでスルメをかじりだした。
私達はあまりケンカをしたことがない。
いつも怒るのは私の方で、純平は私が一方的に言うのを気が済むまで聞いてくれていた。
「だいたい純平が悪いんだからね?なんでもっとちゃんとしとかないの?なんで今なの?」
「あー…もうちょい具体的に言ってくれ。なんで怒られてんだか意味わかんねえ。」
「なんでわかんないのよ?鈍すぎるでしょっ?!」
「あっ、そうかっ。」
純平はぽんと両手を合わせてニッコリ笑った。
「麻里あの日だろ?だからそんなにイライラしてんだな?」
純平のあまりにも的はずれな答えに、私の頭の中でなにかがブチ切れた。
「その生理がこないからイラついてるんだろうがあっ!!」
私の大声は店内にこだまのように響き渡った。
店中の親父達が皆一斉に振り向いた。
目ん玉を見開いている者、手で口をふさいでいる者、ビールやツマミを口から吹き出している者など実に様々だ。
「見てんじゃねえよ!!」
私が一括すると皆目を逸らした。
いきなり叫んでおいて見るなとは我ながら理不尽だとは思う…もう怒りたいんだか泣きたいんだか恥ずかしいんだかわからなくなってきた。
居ずらくなってしまい、外に出ようとした私の腕を純平が掴んだ。
「麻里の体は大丈夫なのか?病院は?」
私のことを心配そうに見つめる優しい眼差し……
まず私の体を気遣う純平に涙が出そうになってきた。
「……行ってないけど、妊娠したのは確実。」
私は鞄から妊娠検査薬を取り出し純平に見せた。
はっきりとした紫色のライン。陽性反応が出ている。
それは私の中に新しい命が宿ったことを意味していた。
「……ごめん俺…気を付けてたんだけど…甘かった。」
辛そうに謝る純平に、私まで苦しくなってきた。
純平は私には言わないけれど子供好きだ。
本当はすぐにでも自分の子供が欲しいんだと思う……
でも私が子供が苦手なのを知っているし、今は仕事を優先したいという私の気持ちを尊重してくれていて、あえてそんなことは一切言わないようにしてくれていた。
わかってる。
わかってるのに……
「……純平……」
私は今からそんな優しい純平にサイテイなことを言う。
「今回は諦めて欲しい。」
純平の顔が見れない。
店内は静まり返っていて、私達の話の行方に聞き耳を立てているのがわかった。
「サイテイな女だって軽蔑してもらっていい。でも無理なの。仕事だって忙しいし…今、子供を産む自信なんて私には全然ないから。」
じゃあいつならいいのか……
仕事が落ち着いたら?子供を産む自信が付いたら?
そんなの…一生こないかもしれないのに。
「自分がサイテイなことを言ってるのはわかってんだ?じゃあ俺も今からサイテイなこと言ってもいい?」
私への罵倒ならいくらでも聞く。
でもこれは……
まさか………別れ話?
私は子供を産むという現実から逃げたかった。
こんな女、振られても仕方がない。
でも…だからって純平と別れるなんて……
「……麻里……」
──────やだ……聞きたくないっ!!
「産んでくれ。」
えっ……
「麻里が子供が苦手なのも仕事が大事なのもわかってる。でも、産んでくれ。」
─────純平……
「俺の知ってる麻里は何事にも真剣に取り組む真面目な女だ。でも、一つのことしか考えられない不器用な女でもある。」
純平は私のことを困ったような顔で見つめながら言った。
「本当は迷ってんだろ?」
私だって純平との子供が欲しくないわけじゃない。
本当はどうしたいかだなんて自分でもわからなかった。
今お腹の中にいる自分の子供が可愛くないわけでもない。
むしろ、元気に産んであげたいって思ったから、禁酒しなきゃって…そう、思ったんだ……
「最初っから自信満々で産むやつなんかいると思うか?」
「それは……」
確かに、そうかもしれないけれど……
「麻里は今まで通り仕事を続けたらいい。全部俺がするから。」
「なに言ってんの?産むのは私なんだよ?」
紫のラインをトイレで一人で見た時…その、とてつもない重さに心が押しつぶされてしまった。
大変そうだなあと他人事のように見ていたことが、いきなり自分にも降りかかってきたのだ。
「産むことは代わってあげれない。でもそれ以外は全部俺がする。」
その責任感から逃げたくてサイテイなことを言ってしまった。
でも、そんな私に純平はなんの迷いもなく、産んでくれと言ってくれた。
私は一人じゃない。目の前に、共に歩んでくれる人がいる……
「お乳あげんのも、オムツ変えるのも、風呂に入れんのも寝かし付けんのも全部俺がする。」
大きな体の純平が小さな赤ん坊の世話をしている姿は、微笑ましさを通り越して笑ってしまう。
ホントに…頼もしすぎる……
「保育所の送り迎えだって離乳食だって、なんなら家事だって全部俺がする。」
ううん?全部って…どこまで全部?
「本気で言ってる?本気で全部出来ると思ってる?」
「楽勝だろ。」
楽勝って……あまりの大口ぶりに逆に信用出来なくなってきた。
不安がる私のお腹を、純平は愛おしそうにそっと撫でた。
「赤ちゃんを産む大仕事に比べりゃ、これぐらい屁でもねえだろ?」
────純平………
「麻里のことも、これから産まれてくる子も俺は全力で守る。だから安心しろ…わかった?」
ああ、私は……
ちゃんと
サイコウの人を選んでたんだ。
「うんわかった……私、頑張って産む。」
店内から雄叫びのような歓声が上がった。
シャンペンシャワーならぬビールシャワーが、そこら中で噴水のように降り注いだ。
そういやこいつら聞いてたんだ……
「兄ちゃん良かったなぁ。まあ飲めや!」
「俺のも飲め~っ遠慮すんなーっ!」
酔っ払った汚い親父達が、次から次へと純平のグラスにビールを注いだ。
それを純平はありがとーっ!と言いながら片っ端から飲んでいた。
私の皿には大量のアテが置かれた…とてもじゃないけど食べ切れない。
底なしの純平だがさすがに酔っ払ったようだ。
店の中だというのに鞄から例のアレを、ドラえもんのごとく高々と取り出した。
「じゃじゃ~ん。スパイラルとつぶつぶ~っ!麻里はどっちがいい?」
またその話かよ…純平の頭ん中ソレばっかだな。
「これは男側というより女側への機能だし~麻里はどっちの方が気持ち良さそうだなって思……」
純平の顔面に拳をめり込ませた。
「だいたいしばらくはH出来ないからね?」
「はぃい~?ダメなのっ?安定期入ったらソフトのなら大丈夫じゃねえの?お父さんだよって挨拶がてら良くない?」
ナニで挨拶する気なんだよ……
お腹の子がビックリするだろ。
「まさか妊娠中なら生で中出し出来るとか考えてないよね?」
「自分の子に顔射するほど腐ってねえわ!」
サイテイだなこいつ……
─────それから9ヶ月後。
身長49.5cm、体重3058g。
陣痛を感じてからおよそ8時間後に、私は立派な男の子を出産した。
純平は産まれてきた我が子を見たとたんボロボロと泣きまくった。
こんなに泣くお父さんは初めてだとベテランの助産婦さんが苦笑したほどだ。
でも……
私はそんな純平を見て、この人となら一生やっていけるって思ったんだ。
名前は純平から一字もらって、純太と名付けた。
我が子というのは本当に可愛い。
子供が苦手だとか言っていた私はどこへやら……
純太の一挙手一投足が可愛くって仕方がない。
当たり前のことだが子供って母親をなんの疑いもなく信用してくれて頼ってくれるんだよね。
それがもう全身から愛くるしく伝わってきて……
この子のためならなんでも出来るって思った。
「麻里ぃ今、パパって言った!純太が俺のこと見てパパって言ったぞっ!」
早いよ…まだ生後2ヶ月だっちゅーの。
純平は親バカが炸裂していて見てて飽きない。
「聞いたか?今、パパちゅきって言ったぞ!」
「はいはい。良かったね~。」
「うん、なんだ?ボク妹が欲しいって?わかった。今夜パパ頑張るから任しとけっ。」
……赤ちゃん相手に何言ってんだか。
二人目はさすがにまだお預けだからねっ。
「なあ麻里ぃ~そろそろさあ…ダメ?」
純平がおねだりするように体をすり寄せてきた。
妊娠が発覚して以来、まだ1回もしていない。
純平はあの時の宣言通り、仕事に家事に育児にと毎日目が回りそうなくらい頑張ってくれている。
今は私が育休を取っているからそんなにしなくても大丈夫だと言っているのに、私が止めないと本当に全部やりそうなくらいの勢いなのだ。
「じゃあお風呂入ってくるから。純太のこと寝かしつけといてくれる?」
「やったあっ!」
純平はスキップしながら寝かし付けに行った。
疲れているはずなのに……
どうやら純平にとって夫婦の営みは別腹のようだ。
純平猿はまだまだ健在だ。
なんだか久しぶり過ぎてドキドキするな……
今夜は寝かせてくれるのだろうか。
念入りに体を洗いお風呂から出ると、家の中は静まり返っていた。
あれ?飛び付いてくるかなって思ったのに……
寝室をそっとのぞくと純平は純太を腕に抱きながらスヤスヤと眠っていた。
「……二人とも寝顔そっくり。」
ホント…見てて飽きない………
私を癒す、間抜けな寝顔が
もう一つ増えた─────
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