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27.列車内探索

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個室を出たレオポルトは、ルチアに向かって手を差し出した。

「揺れると危ないからな」
「えっと、はい。ありがとうございます」

ルチアは恥ずかしい気持ちになりながらも、彼の手を握る。
彼が歩き始めると、ルチアは後ろからついて行った。

「案内といっても、一等車両はどこも似たようなものだがな」

レオポルトに言われて、ルチアは辺りを見渡した。
個室がずらりと並んでいる様子は、宿泊施設の廊下と似たようなものだ。

「反対側の窓からも景色が見えるのですね」

個室の反対側にも窓があり、景色が動いていくのが見える。

「暫くすれば、草原や山ばかりになる」
「草原や山……何か動物でも見られるでしょうか?」
「見られるかも知れないな」

ルチアの言葉に、レオポルトがフッと笑みを浮かべた。

「あちらの扉の奥も一等車両なのですか?」

彼女が奥の扉を指差すと、レオポルトは首を横に振る。

「あそこは、特別車両だ。私達は入る事が出来ない」
「特別?」
「そうだ。あの車両は王族が列車に乗られる時に使う車両なんだ」
「へぇ。だから、特別なんですね」

中がどんなものか見てみたい気もしたが、そんな事をすれば捕まってしまいそうなのでルチアは諦めることにした。危ないことはよくないのである。
するとレオポルトは特別車両への扉とは反対側を指差した。

「反対側は食堂車両だ。いってみるか?」
「食堂車両!?はい、行ってみたいです!!」

レオポルトに手を引かれルチアは食堂車両に向かった。

食堂車両に入ると、既に何人かの乗客がご飯を食べていたり、飲み物を飲んでいたり、話し込んだりしていた。

テーブルと椅子が並び、窓から景色を眺めながら食事がとれるように横長のテーブルが窓の前に置かれている。
まだお腹は空いていなかったが、美味しそうな匂いがルチアの鼻腔をくすぐった。

「素敵ですね。窓から景色を眺めながら食事をしたら、楽しそうです」
「そうだな。後で他の二人も呼んでここで食事をするか?
部屋に運んでもらう事も出来るが……」
「食堂車両で食べてみたいです!」

ルチアが元気よく答えると、レオポルトの頬が緩む。

「なら、そうしよう」

その答えに、ルチアは食事の時間が益々楽しみになった。

食堂車両の奥にも扉がある事に気がついたルチアは、そちらに視線を向ける。

「レオ様、あちらの奥は何があるのですか?」
「あっちに行っては駄目だ」
「え?何故です?」
「向こうは二等車両だから、人も多いし危ない」

二等車両と聞いて、ルチアは目を輝かせた。

「二等車両には、たくさん椅子が並んでいるんですよね?」
「そうだが……」

ルチアのソワソワしているのに気が付いたレオポルトは、溜息をついた。

「見たいのか?」
「は、はい。見てみたいです」

ルチアはコクコクと頷く。

「少しだけだぞ?」

レオポルトの言葉に、ルチアはパアッと表情を明るくする。
彼の手に引かれながら、彼女は食堂車の奥へと進んでいき、扉の前に到着した後レオポルトが扉を少し開けてくれた。
ルチアは隙間から二等車両を覗き込む。

「わぁ。すごい人」

二等車両には、たくさんの椅子が同じ方向に向かって並べられていた。中央に細い通り道があり、左右に席が設けられていた。
人々はぎゅうぎゅう詰めに座っているが、みんな楽しそうに窓の外を眺めていたり、お喋りをしたりしていた。

これだけぎゅうぎゅう詰めに座っていたら、隣に座っている人とも距離が近い。
もしレオポルトとルチアが二等車両に乗っていたら、とても近い距離で座る事になっただろう。
そう思うとルチアは二等車両が羨ましくなった。

そんな事を考えていると、手を引っ張られ扉から離された。そして目の前で扉はパタリと閉められる。

「はい、お終い」

レオポルトの言葉にルチアは残念に思った。
近い距離で座れば、彼に少しくらい意識してもらえるようになるかも知れないのにと不埒な事を考える。

「これ以上は、駄目だぞ。危ないからな」
「そんなに危ないのですか?レオ様は、二等車両に乗った事があるのですか?」

ルチアは何故そんなにも駄目と言うのか分からなかった。彼女は二等車両にとても興味が湧いていたのだ。

「あるぞ」
「え!?」

まさか乗った事があるとは、ルチアはとても驚いた。

「随分昔の話だがな。ルチアの弟のエリクくんと同じ歳くらいの頃だ。屋敷を抜け出して、セスと共に王都に行こうとした。
二等車両に乗るくらいの資金しか持ち合わせていなかったから、そっちに乗ったんだ」

レオポルトの話にルチアは目を見開いた。凄い思い出話を聞いてしまった。

「屋敷を抜け出したって……もしかして、家出ですか!?」

ルチアが慌てて尋ねると、レオポルトは苦笑しつつ首を横に振った。

「いや、もっとくだらない理由だ。外国のある有名なスポーツ選手が当時王都に滞在していたんだ。
私もセスも大ファンでな。会ってみたかったんだよ」
「凄い行動力ですね」

ルチアは素直に凄いと思った。なかなか子供二人で列車に乗って王都に行こうと思わないだろう。

「大丈夫だったんですよね?怪我とか……」

凄いとは思うが、ルチアは心配になってそう尋ねる。

「私もセスも怪我などはしなかった。だが今思えば無茶をしたと思う。結局肝心の選手には会えなかったし、連れ戻されてかなり叱られた」
「……それは、叱られますよ。でも、会えなかったのは残念でしたね」
「ああ、そうだな」

レオポルトは懐かしむように顔をほころばした。彼にとって大切な思い出なのだとルチアは少し羨ましくなった。

「でも意外です。レオ様がそんな事をするなんて……。昔はやんちゃだったんですね」
「どうだろうな?一人ならそんな事はしなかっただろうが、セスがいたからな。
あいつは昔からあんな調子だから、ついついのせられてしまうんだよ」

そう言いながらレオポルトが肩を竦めると、ルチアは何度も頷いた。

「分かる気がします。でも、そうやって何でも一緒に出来る人が近くにいるというのは、羨ましいです」
「確かに楽しかったがな」
「私も二等車両の旅、ご一緒したかったです」

ルチアは希望を込めた瞳でそう言ってみたのだが、レオポルトはキッパリと拒否した。

「絶対に駄目だ」
「えぇ!?」
「危ないだろう。絶対に駄目だ」

二度目の拒否に、ルチアは少しやさぐれた。 

「……してみたかったな。二等車両の旅」
「駄目」

レオポルトは念押しの駄目を言い放ち、ルチアの手を引っ張って二等車両の扉から離れた。

こんな事がありながらも、列車は王都へと向かって走り続けた。
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