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19.調査
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晩餐会が終わりルチアはいつもの生活に戻っていた。相変わらずレオポルトは忙しくている。
あれ以来、レオポルトは何か考え込んでいる様子が見受けられたのだが、ルチアには彼の悩みがどんなことが分からない。
無理矢理聞き出すことも出来ないので、ルチアは心配に思っていたが、ただ見守ることしかできなかった。
「あれ、奥様……何をしているんですか?」
そう声を掛けてきたのはセスだった。
ルチアは今庭におり、手にいっぱいの花束を抱えている。
「お花が綺麗だったから、部屋に飾ろうと思ったの。庭師のエドモンドに頼んで切ってもらったのよ」
ルチアがそう説明すると、セスは誰をも魅了しそうな笑みを浮かべた。
相変わらず軽薄そうな印象を拭えないセスだが、ルチアは彼が凄い人だと知っている。
家令のリカルドは妻のアラーナの事もあり、家令としての仕事の大半をセスが担っているようだった。
それだけでなく、レオポルトの執事兼護衛としての仕事もこなす出来る男なのだ。
相当忙しい筈なのに、彼が疲れた表情をしているところを見た事がない。彼はいつ休んでいるのだろうかとルチアは不思議に思っている。
「花束綺麗ですね。……奥様の美しさには敵いませんが」
セスはニッコリと微笑んだ。
見た目だけでなく、言動も軽薄である。
セスとレオポルトが混ざって半分になったらちょうどよくなるのではないかとルチアは思った。
「ありがとう、セス」
「どういたしまして。旦那様の部屋には飾らないのですか?
ああ、ですが旦那様に花は似合いそうにありませんかね」
セスは揶揄い混じりにクスクスと笑う。
しかしルチアは、それはとても素晴らしい提案に聞こえた。
悩んでいる様子のレオポルトが少しは元気になるかも知れない。
「そうね。お仕事で執務室に篭ってる事も多いから、花でも飾れば気分転換になるかも知れない。今度飾ってみるわね」
ルチアが笑顔でそう言うと、セスは嬉しそうに笑う。
「奥様が本当に良い方で良かった。旦那様は幸せ者ですね」
セスの言葉に、ルチアは複雑な気持ちになった。
レオポルトの気持ちを考えれば、セスに妻として素晴らしいと判断されるのは余り良くない事なのではないかと思えた。
このままでは、レオポルトの恋路を邪魔してしまう可能性がある。それはルチアの望むところではない。
彼女はセスを調査し有力な情報を得ようと考えた。
「セスに聞きたいことがあるのだけど」
「はい、何でしょうか?」
「セスは、今お付き合いしている人がいる?」
「え!?私ですか??」
ルチアが頷くとセスは驚いたように目を見開いた。しかし、直ぐに笑顔に戻ると平然と答える。
「今は特定の恋人はいません。全ての女性が私の恋人って事かも知れませんね」
セスはパチンとウインクをするが、ルチアは淡々と呟いた。
「なるほど、特定の恋人はいないという事ね」
それを見たセスが苦笑している事に彼女は気がついていない。
ルチアはというと、やはりレオポルトは片思いなのだと確信した。だとすれば、セスの気持ちが気になるところだ。
「ところで、セスはどんな方が好み?」
「好みですか……?」
「ええ。好きな人の好み」
「えっと、優しい子……とかですかね?」
セスの答えにルチアは困った。
レオポルトもヴァニアも優しい人だ。その基準でどちらかを選べといわれたら難しいだろう。
「では、見た目などの好みは?」
「見た目?そうですね……綺麗な人とかですかね」
セスの返答に、ルチアは更に困った。レオポルトとヴァニアは綺麗な人という言葉に当てはまらない気がした。レオポルトは言わずもがな、ヴァニアは可愛い感じだからだ。
「なら可愛らしい方とか男前な方などは好みに入らない!?」
「え?いや……可愛い子は兎も角、男前な子ですか?」
困惑しているセスをルチアは縋るように見つめた。
「駄目?」
「いや、えーっと……カッコいい男勝りな子とかなら良いのではないですかね?」
「そう!」
ルチアは嬉しくて破顔した。しかし、直ぐに気がついてしまう。
これではレオポルトもヴァニアも有りという事になって結局元の木阿弥ではないか。
すると、セスは不思議そうにルチアに質問してきた。
「あの、何故そんな質問を?」
「え?あ……えっと、色々とあるのよ」
ルチアは答えられずに誤魔化した。
セスは不審げな目をルチアに向けてくるが彼女が視線を逸らすと、それ以上聞いてくることはなかった。
彼女はその様子に胸を撫で下ろした。
「お話はそれで終わりですか?」
「え、ええ。ありがとう」
「なら戻らせていただいても?」
「ええ、時間を取らせてしまってごめんなさい」
ルチアがニコリと笑うと、セスは綺麗にお辞儀をした後屋敷の中に入って行った。
結局の所、ルチアにはセスがどう考えているのか分からなかった。どんな人が好みなのかもいまいちハッキリとしていない。
けれど現在セスに特定の恋人が居ないのだとしたら、レオポルトとヴァニアにも可能性があるという事だ。
今の所、優勢なのはレオポルトだろう。物理的な距離というのはどうしても壁になる。そういう意味ではヴァニアは劣勢になってしまう。
身分差、性別、距離、恋とは色々と難しい問題が山積みなのだ。
ルチアは庭から見えるレオポルトの執務室の窓をふっと見上げた。
どんな結果になろうとも、ルチアはレオポルトに幸せになって欲しいと願った。
あれ以来、レオポルトは何か考え込んでいる様子が見受けられたのだが、ルチアには彼の悩みがどんなことが分からない。
無理矢理聞き出すことも出来ないので、ルチアは心配に思っていたが、ただ見守ることしかできなかった。
「あれ、奥様……何をしているんですか?」
そう声を掛けてきたのはセスだった。
ルチアは今庭におり、手にいっぱいの花束を抱えている。
「お花が綺麗だったから、部屋に飾ろうと思ったの。庭師のエドモンドに頼んで切ってもらったのよ」
ルチアがそう説明すると、セスは誰をも魅了しそうな笑みを浮かべた。
相変わらず軽薄そうな印象を拭えないセスだが、ルチアは彼が凄い人だと知っている。
家令のリカルドは妻のアラーナの事もあり、家令としての仕事の大半をセスが担っているようだった。
それだけでなく、レオポルトの執事兼護衛としての仕事もこなす出来る男なのだ。
相当忙しい筈なのに、彼が疲れた表情をしているところを見た事がない。彼はいつ休んでいるのだろうかとルチアは不思議に思っている。
「花束綺麗ですね。……奥様の美しさには敵いませんが」
セスはニッコリと微笑んだ。
見た目だけでなく、言動も軽薄である。
セスとレオポルトが混ざって半分になったらちょうどよくなるのではないかとルチアは思った。
「ありがとう、セス」
「どういたしまして。旦那様の部屋には飾らないのですか?
ああ、ですが旦那様に花は似合いそうにありませんかね」
セスは揶揄い混じりにクスクスと笑う。
しかしルチアは、それはとても素晴らしい提案に聞こえた。
悩んでいる様子のレオポルトが少しは元気になるかも知れない。
「そうね。お仕事で執務室に篭ってる事も多いから、花でも飾れば気分転換になるかも知れない。今度飾ってみるわね」
ルチアが笑顔でそう言うと、セスは嬉しそうに笑う。
「奥様が本当に良い方で良かった。旦那様は幸せ者ですね」
セスの言葉に、ルチアは複雑な気持ちになった。
レオポルトの気持ちを考えれば、セスに妻として素晴らしいと判断されるのは余り良くない事なのではないかと思えた。
このままでは、レオポルトの恋路を邪魔してしまう可能性がある。それはルチアの望むところではない。
彼女はセスを調査し有力な情報を得ようと考えた。
「セスに聞きたいことがあるのだけど」
「はい、何でしょうか?」
「セスは、今お付き合いしている人がいる?」
「え!?私ですか??」
ルチアが頷くとセスは驚いたように目を見開いた。しかし、直ぐに笑顔に戻ると平然と答える。
「今は特定の恋人はいません。全ての女性が私の恋人って事かも知れませんね」
セスはパチンとウインクをするが、ルチアは淡々と呟いた。
「なるほど、特定の恋人はいないという事ね」
それを見たセスが苦笑している事に彼女は気がついていない。
ルチアはというと、やはりレオポルトは片思いなのだと確信した。だとすれば、セスの気持ちが気になるところだ。
「ところで、セスはどんな方が好み?」
「好みですか……?」
「ええ。好きな人の好み」
「えっと、優しい子……とかですかね?」
セスの答えにルチアは困った。
レオポルトもヴァニアも優しい人だ。その基準でどちらかを選べといわれたら難しいだろう。
「では、見た目などの好みは?」
「見た目?そうですね……綺麗な人とかですかね」
セスの返答に、ルチアは更に困った。レオポルトとヴァニアは綺麗な人という言葉に当てはまらない気がした。レオポルトは言わずもがな、ヴァニアは可愛い感じだからだ。
「なら可愛らしい方とか男前な方などは好みに入らない!?」
「え?いや……可愛い子は兎も角、男前な子ですか?」
困惑しているセスをルチアは縋るように見つめた。
「駄目?」
「いや、えーっと……カッコいい男勝りな子とかなら良いのではないですかね?」
「そう!」
ルチアは嬉しくて破顔した。しかし、直ぐに気がついてしまう。
これではレオポルトもヴァニアも有りという事になって結局元の木阿弥ではないか。
すると、セスは不思議そうにルチアに質問してきた。
「あの、何故そんな質問を?」
「え?あ……えっと、色々とあるのよ」
ルチアは答えられずに誤魔化した。
セスは不審げな目をルチアに向けてくるが彼女が視線を逸らすと、それ以上聞いてくることはなかった。
彼女はその様子に胸を撫で下ろした。
「お話はそれで終わりですか?」
「え、ええ。ありがとう」
「なら戻らせていただいても?」
「ええ、時間を取らせてしまってごめんなさい」
ルチアがニコリと笑うと、セスは綺麗にお辞儀をした後屋敷の中に入って行った。
結局の所、ルチアにはセスがどう考えているのか分からなかった。どんな人が好みなのかもいまいちハッキリとしていない。
けれど現在セスに特定の恋人が居ないのだとしたら、レオポルトとヴァニアにも可能性があるという事だ。
今の所、優勢なのはレオポルトだろう。物理的な距離というのはどうしても壁になる。そういう意味ではヴァニアは劣勢になってしまう。
身分差、性別、距離、恋とは色々と難しい問題が山積みなのだ。
ルチアは庭から見えるレオポルトの執務室の窓をふっと見上げた。
どんな結果になろうとも、ルチアはレオポルトに幸せになって欲しいと願った。
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