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14.一度目の彼女

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マリー・クラリーク。それが私の名前。

私が全てを思い出したのは、クラリークという名前になった時だった。
母と2人で暮らしていた私、母が亡くなった後現れたクラリーク男爵に引き取られ、マリー・クラリークという名前を与えられた瞬間に思い出した。

私には、前世の記憶がある。

記憶はとても断片的だったけど、この世界が乙女ゲーム『身分違いの恋~私の側にいて~』の世界だという事が分かった。

転生ヒロインきたー!!

私は嬉しかった。前世の記憶は断片的ではあるものの、あまり幸せなものではなかった。だから、今度こそ私は幸せになりたい。

大丈夫。この乙女ゲームは私がとてもハマっていたゲームで、隅から隅まで内容が頭の中に入っている。
きっと思いのままに進める事が出来る。

攻略対象者は5人。
第一王子、第二王子、宰相の息子、軍部大臣の息子、そして年下の公爵令息。
全員好きなキャラクターだ。

このゲーム、残念な事に逆ハーレムルートはない。

でも、1人に絞るなんて嫌だ。全員とのスチルが見たい。…なら、ギリギリまで全ルートを制覇して、最終的に1人に絞ればいいんじゃないか?

よし、そうしよう!

最終的に選ぶのは、やっぱり第一王子のユベールよね。

何故かと言えば、一番危なくないから。

それは悪役令嬢の違いだ。
それぞれの攻略対象者には、それぞれに悪役令嬢が設定されている。
第一王子には婚約者。第二王子には彼の侍女、宰相の息子には彼の姉、軍部大臣の息子には女騎士、そして公爵令息には彼の幼馴染。

仮にバッドエンドだった場合、第二王子の場合は侍女に暗殺される。
宰相の息子の場合は彼の姉に娼館送りにされ、病死する。
軍部大臣の息子の場合は女騎士に決闘を申し込まれて刺殺される。
公爵令息の場合は彼の幼馴染に崖から突き落とされる。
それぞれ絶対に死ぬ。

ところが第一王子の場合、彼の婚約者に毒殺されそうになるのだが、もしそれが成功したとしても死に至らない。
元来大人しい性格の婚約者は、無意識に致死量の毒を盛れず、もし毒を飲んだとしても死なない。
ただ自分のせいで毒を盛られたヒロインに対して第一王子が罪悪感から身を引くというのがバッドエンドのストーリーなのだ。

一方で、悪役令嬢は、婚約を解消されるものの、領地に引っ込むくらいで彼女も死なない。
他のルートだと悪役令嬢が死ぬ場合もあるから、一番穏便に済むのが第一王子殿下ルートなのだ。

第一王子のルートをメインに進めつつ、他の攻略対象者のルートをそれなりに楽しみながら、最終的に第一王子と結ばれる。うん、最高の選択だ!

私は、舞台が始まるのを楽しみにしていた。

さて、攻略を始めるにあたってそれぞれの攻略方法を改めて思い出してみよう。

先ずは第一王子ユベール殿下。メインヒーローであり狙い目。彼は俺様系王子なのだが、実は彼の好みは気が強くてツンデレな女の子。
彼の言葉に食ってかかる事もあれば、たまにデレをいれると相手もデレる。

第二王子ステファン殿下、彼は遊び人だけど実は好みのタイプは無垢で何も知らない女の子。彼の甘い誘惑を頑なに拒み、それでも彼を意識する視線を向けると尚よろしい。

宰相の息子トリスタン、真面目が取り柄の彼は賢い女の子が好み。ぽやっとしてそうで偶にキリッとした頭の良さそうな事を提案すると、コロッといく。

軍部大臣の息子フィリップ、彼は騎士として守ってあげたくなる女の子が好き。庇護欲を掻き立てるように彼に頼る女の子を演じればオッケー。

それから公爵令息のノエル、彼は実は義姉に憧れている。義姉とはユベール殿下の婚約者であるミルシェの事なのだけど、彼女は王妃教育に忙しくて義弟のノエルとは殆ど交流がなかった。
だから、ノエルは姉のように優しくしてあげて、甘えさせてあげればいい。ちょっとシスコンなのよね。

どんな言葉をかければ、彼らの好感度が上がるか分かっているし、後はミルシェ以外の悪役令嬢と接触するようなイベントはスルーしつつ、やってみよう!

学校に入ってからの生活は楽しくて仕方がなかった。攻略対象者達にはチヤホヤされるし、虐めみたいなことはあったけど、正直言って深窓のご令嬢達が行う虐めなんて可愛いものだ。

そしてミルシェの毒殺は未遂に終わり、彼女は領地へと旅立った。
そう、私はユベール殿下とのハッピーエンドを迎えたのである。
最高の気分だった。

そう、どこで崩れたのか分からないほどに。

最初に違和感を覚えたのは、ノエルだ。
ノエルは公爵家の後継から外され、今後どうするか決めるのに忙しくてと避けられるようになった。
おかしい、彼は他の攻略者ルートでも自身のルートでも必ず公爵家を継いだのに。
…どういう事?

そして、彼を筆頭に他の攻略者達も続々と離れていった。けれどユベール殿下だけは側にいてくれたから、彼のルートが確定して他の攻略者が離れていっただけなんだと思った。

ユベール殿下が私を娶りたいと言ってくれたので、私は了承した。色々と問題はあるけれど、能力さえあれば大丈夫と、私は王妃教育を受ける事になった。

だけど、これが辛過ぎた。

覚える事が多過ぎて、頭がついていかない。ミルシェはこれを全部こなしていたのか、超人だなおい!と思う。

結果として、私は落第した。

ユベール殿下は、リオノーラ侯爵令嬢を正妻とし、私を妾にする道を選んだ。

悔しい気持ちはある。けど、私に王妃は無理だというのも分かっている。
よくよく考えれば、妾という立場の方が楽だし、贅沢できるし、ユベール殿下との甘々な生活を楽しめばいいだけなのだから、寧ろいいかもしれない。

ユベール殿下の訪れがどんどん減ってくるまでは、そんな風に考えていた。

今では月に一度来るか来ないか。手紙を書いても忙しいの一点張り、なのにリオノーラのところには毎晩のように通っていると侍女達が話しているのを聞いた。

何故、どうして?

私は何を間違えたのか。

そんな時、第二王子ステファンが久し振りに姿を現した。

「元気にしてる?」

前の時と変わらず、軽い雰囲気の彼に少しばかりホッとする。

「お久しぶりです。ステファン様」
「元気なさそうだね?兄上の訪れがないから寂しいのかな?」

ニヤニヤと笑みを浮かべるステファン様に違和感を覚える。こんな嫌な笑みを浮かべる人だったっけ?

「でも仕方ないよね。学生の時はあんなに兄上の好みバッチリの言動をとってたのに、今は何か…普通の人って感じだもんね」

ステファン様の言葉に私はハッとした。
そうだ。私はルートが確定して安心しきっていたのだ。彼の好みの気が強いツンデレな女の子…いつの間にかその仮面が剥がれていた。
それはそうだ。私は、ツンデレなんかじゃないから。

「君の手腕と演技力には舌を巻いてたんだよ。面白いなぁって。
でも…詰めが甘かったねー。兄上達を落とすところまでは上出来、でもその後は全然駄目。いきなり愚か者になったよねぇ」

ステファン殿下の馬鹿にしたような口ぶりに、私は何も言い返せなかった。そう、彼は女たらしで腹黒キャラだった。
それに、攻略対象者達に合わせて性格を変えていたのまでバレている。

「今じゃ、兄上は王太子妃を溺愛してる。君はこのままこの後宮でひっそりと生きる事になるだろうね。まあ…兄上も馬鹿だと思うけど、君も馬鹿だよねぇ」

ああ、そうだ。その通りだ。
このゲームには、逆ハーレムルートなんてなかった。
私が全員とのイベントを進めてしまったせいで、それに伴った歪みが徐々に現れただけなんだ。

ノエルが公爵家を継げなかったのは当たり前だ。彼は、公爵の一人娘を断罪した1人だったんだから。しかも、大した罪でもないのに。

ああ、私は何もかも間違えた。
…やり直したい。
私は、これからどうなってしまうんだろう?
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