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5.図書館
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王都の中央区には、大きな王立図書館がある。自国のみならず他国の書物も多く扱っていて、貴族平民に関わらず、利用される場所だ。
とは言え利用者の多くは貴族、平民でもそれなりに裕福な家の者に限られる。図書館に入るために身分証が必要になる為、安易に誰でも中に入れると言うわけではないのだ。
実は今日はルーファス様に誘われて、一緒に図書館に訪れたのである。
「初めて来ましたが、凄いですわ」
図書館の中は、本で埋め尽くされており、圧巻の景色だ。
「本が好きだと聞いたから、喜ぶかと思って」
ルーファス様が心配そうにしていた為、私はニコリと微笑む。
「もちろん、とっても楽しみにしておりましたわ」
「そ、そっか。良かった」
ホッとしたように胸をなで下ろすルーファス様は、やはり可愛らしい。
今日のルーファス様は、先日のお茶会の時のようなしっかりとしたジャケット姿ではなく、白のパリッとしたシャツに灰色のズボンというシンプルな服装だ。一方私も派手なドレスではなく、シンプルな緑色のワンピースを着ている。
お互い服装だけなら、裕福な商家の息子と娘といったところだ。
図書館内を回りつつ、気に入った本があれば借りていくつもりだ。ルーファス様にも相談しつつ、彼のお勧めの本や私のお勧めの本を紹介し合いながら過ごす。
「ルーファス?」
ルーファス様が広げた本を覗き込んでいると、後ろから声を掛けられる。
ミルシェは振り返った瞬間後悔した。
「トリスタン、偶然だね」
ルーファス様はにこやかに彼を迎え入れた。
黒い髪に黒い瞳、大きめの眼鏡を掛けた少し神経質そうな男の子。トリスタン・ケンドリック公爵子息。
「偶然だねじゃないだろう。先日の王妃殿下のお茶会でも一瞬目を離した隙に姿を眩ませて…」
「あ…、ごめん。僕、ああいう華やかなの苦手で」
「そんなことを言って…お前も貴族の端くれなら、きちんとした社交は必要だろう」
呆れたように言うトリスタン様に、ルーファス様は苦笑いを浮かべる。
次の瞬間、トリスタン様と目が合う。
「…失礼。ご挨拶が遅れました。トリスタン・ケンドリックと申します」
トリスタン様が私に挨拶をしてきた為、仕方がないと私も挨拶を返す。
「ミルシェ・ハヴェルカと申します。初めまして」
「ハヴェルカ公爵家の…?」
「はい」
「そうでしたか」
トリスタン様は、伺うように私の全身を見てくる。相手を値踏みするような瞳に私は懐かしさと嫌悪感を覚えた。
トリスタン・ケンドリック公爵子息。
私より二つ歳上で第一王子殿下と同じ歳。宰相閣下であるケンドリック卿の嫡男ということもあり、第一王子殿下とは旧知の仲だ。
一度目の生で、第一王子殿下から彼を紹介された時にも私は同じような視線を向けられた。
例の男爵令嬢の毒殺が未遂に終わった時、事件の証拠を見つけ出したのがこの男だった。
彼のおかげで、殺人犯にならずに済んだとも言えるが…彼もまた例の男爵令嬢に魅了されていた一人なので、感謝しようとは思えないわ。
淡々と私の罪の証拠を語る彼は、そら恐ろしかった。一番関わりたくないのは第一王子殿下だけれど、二番目に挙げるとすれば彼。
何を考えているのか分からない、表情では読み取れない、怖い男だ。
「ルーファス様は、トリスタン様とお知り合いでしたのね?」
私は彼の視線から逃れるように、ルーファス様に声をかける。
「あ…うん。ケンドリック公爵領とうちの領が隣接してるから、昔から交流があったんだ」
「そうでしたのね」
なるほど、所謂幼馴染のような関係なのかしら?
「しかし…まさか、ルーファスがミルシェ嬢と知り合いだとは思わなかったな」
「先日のお茶会で知り合って…と、友達になったんだ」
「…へぇ」
トリスタン様は、何やら物言いたげにこちらに視線を向けてくる。
何だか怖い。さっさとどっかいってくれないかしら?
「ミルシェ嬢、宜しければ私とも友達になってくださいますか?」
「え?」
私は眉間に皺が寄りそうになったが、王妃教育の賜物で、なんとか嫌悪感を顔には出さずに済んだ。
はっきり言えば、答えはノーだ。
だが、トリスタン様はルーファス様のお知り合いだし、ケンドリック公爵家と懇意になる事は、ハヴェルカ公爵家にとっても悪い話ではない。
それにトリスタン様は公爵家の嫡男なわけだから、天地がひっくり返っても私の婚約者候補になる事もないだろう。
王子殿下方や件の男爵令嬢に関わらなければ、別にこの男も危険ではない筈よね。
「ええ、もちろん。よろしくお願いいたします」
私はニコリと笑顔で返した。
その後トリスタン様とは別れたので、私はルーファス様と共に図書館巡りを再開した。
冷や汗をかいた出来事はあったものの、ルーファス様とは楽しく過ごすことが出来たので、良かったと思う。
またお出掛けしようと約束して、ルーファス様とのお出掛けは終わりを告げた。
とは言え利用者の多くは貴族、平民でもそれなりに裕福な家の者に限られる。図書館に入るために身分証が必要になる為、安易に誰でも中に入れると言うわけではないのだ。
実は今日はルーファス様に誘われて、一緒に図書館に訪れたのである。
「初めて来ましたが、凄いですわ」
図書館の中は、本で埋め尽くされており、圧巻の景色だ。
「本が好きだと聞いたから、喜ぶかと思って」
ルーファス様が心配そうにしていた為、私はニコリと微笑む。
「もちろん、とっても楽しみにしておりましたわ」
「そ、そっか。良かった」
ホッとしたように胸をなで下ろすルーファス様は、やはり可愛らしい。
今日のルーファス様は、先日のお茶会の時のようなしっかりとしたジャケット姿ではなく、白のパリッとしたシャツに灰色のズボンというシンプルな服装だ。一方私も派手なドレスではなく、シンプルな緑色のワンピースを着ている。
お互い服装だけなら、裕福な商家の息子と娘といったところだ。
図書館内を回りつつ、気に入った本があれば借りていくつもりだ。ルーファス様にも相談しつつ、彼のお勧めの本や私のお勧めの本を紹介し合いながら過ごす。
「ルーファス?」
ルーファス様が広げた本を覗き込んでいると、後ろから声を掛けられる。
ミルシェは振り返った瞬間後悔した。
「トリスタン、偶然だね」
ルーファス様はにこやかに彼を迎え入れた。
黒い髪に黒い瞳、大きめの眼鏡を掛けた少し神経質そうな男の子。トリスタン・ケンドリック公爵子息。
「偶然だねじゃないだろう。先日の王妃殿下のお茶会でも一瞬目を離した隙に姿を眩ませて…」
「あ…、ごめん。僕、ああいう華やかなの苦手で」
「そんなことを言って…お前も貴族の端くれなら、きちんとした社交は必要だろう」
呆れたように言うトリスタン様に、ルーファス様は苦笑いを浮かべる。
次の瞬間、トリスタン様と目が合う。
「…失礼。ご挨拶が遅れました。トリスタン・ケンドリックと申します」
トリスタン様が私に挨拶をしてきた為、仕方がないと私も挨拶を返す。
「ミルシェ・ハヴェルカと申します。初めまして」
「ハヴェルカ公爵家の…?」
「はい」
「そうでしたか」
トリスタン様は、伺うように私の全身を見てくる。相手を値踏みするような瞳に私は懐かしさと嫌悪感を覚えた。
トリスタン・ケンドリック公爵子息。
私より二つ歳上で第一王子殿下と同じ歳。宰相閣下であるケンドリック卿の嫡男ということもあり、第一王子殿下とは旧知の仲だ。
一度目の生で、第一王子殿下から彼を紹介された時にも私は同じような視線を向けられた。
例の男爵令嬢の毒殺が未遂に終わった時、事件の証拠を見つけ出したのがこの男だった。
彼のおかげで、殺人犯にならずに済んだとも言えるが…彼もまた例の男爵令嬢に魅了されていた一人なので、感謝しようとは思えないわ。
淡々と私の罪の証拠を語る彼は、そら恐ろしかった。一番関わりたくないのは第一王子殿下だけれど、二番目に挙げるとすれば彼。
何を考えているのか分からない、表情では読み取れない、怖い男だ。
「ルーファス様は、トリスタン様とお知り合いでしたのね?」
私は彼の視線から逃れるように、ルーファス様に声をかける。
「あ…うん。ケンドリック公爵領とうちの領が隣接してるから、昔から交流があったんだ」
「そうでしたのね」
なるほど、所謂幼馴染のような関係なのかしら?
「しかし…まさか、ルーファスがミルシェ嬢と知り合いだとは思わなかったな」
「先日のお茶会で知り合って…と、友達になったんだ」
「…へぇ」
トリスタン様は、何やら物言いたげにこちらに視線を向けてくる。
何だか怖い。さっさとどっかいってくれないかしら?
「ミルシェ嬢、宜しければ私とも友達になってくださいますか?」
「え?」
私は眉間に皺が寄りそうになったが、王妃教育の賜物で、なんとか嫌悪感を顔には出さずに済んだ。
はっきり言えば、答えはノーだ。
だが、トリスタン様はルーファス様のお知り合いだし、ケンドリック公爵家と懇意になる事は、ハヴェルカ公爵家にとっても悪い話ではない。
それにトリスタン様は公爵家の嫡男なわけだから、天地がひっくり返っても私の婚約者候補になる事もないだろう。
王子殿下方や件の男爵令嬢に関わらなければ、別にこの男も危険ではない筈よね。
「ええ、もちろん。よろしくお願いいたします」
私はニコリと笑顔で返した。
その後トリスタン様とは別れたので、私はルーファス様と共に図書館巡りを再開した。
冷や汗をかいた出来事はあったものの、ルーファス様とは楽しく過ごすことが出来たので、良かったと思う。
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