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第三章:Bunny&Black

百六十六話:神秘商人とジョブ

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 「む?」

 なんだアレ?
 東雲東高校の周辺を『ブラックホーンシャドウ』で警戒飛行していると、見慣れない不思議な物が見える。
 大きな卵型の建物。
 ポツンと東雲中央公園の隅に建っている。
 
「どうしたの、シンク?」

 前は無かったぞ?
 明らかに公園の景観と合っていない。
 ブラックに妖しく光る卵型の建物なんて。

「んん? なにあれ……」

 怪しい。 ミサも気づき不思議そうに首を傾げる。
 これは調査せねばなるまい。

 魚頭の魔王を倒した効果か、現状は東雲中央公園の近くは魔物がいない。
 以前は縄張り争いで野犬も見かけたのだが、異界化した魔王の跡地を警戒しているのか見かけない。

「前は無かったよね……」

「うむ」

 黒い卵型の建物は正面の入り口がぽっかりと穴が開いているのに、中は見えない。
 不思議だ。
 手を入れてみると空間が揺れる。
 すっと、なんの抵抗もなく中に手は入る。

「ふぇぇ」

 ミサと顔を見合わせ中へと進む。
 嫌そうな顔をしながらミサもついてきた。
 中へと入るとまず香りに気づく。
 香油の香りに包まれている。
 どこか外国のようなエキゾチックな。

「わぁ……」

 卵型の建物だったはずなのに、中は外見より広く長方形の広間。

「いらっしゃい、人族」

 正面にはカウンターがあり一人の女性が座っている。
 その声は耳朶を撫でるように魂を震わせる。
 自然と人を魅了するような声色。
 人形のように整った顔立ち、頬には逆三角形の模様。 まるで猫の髭を連想させるような、民族的な意匠のよう。
 身に纏う煌びやかなアクセサリーよりも、美しい黒髪とまるで黄金のような金のメッシュに目は魅かれる。

『猫の女神様』
 
 そんな感じ。
 黒猫の招き猫が場違いにカウンターに置かれていた。

「ここは神秘商人の館。 まぁ、【猫の手】の系列店と思って貰えれば大丈夫よ」

「ほう」

「常に移動しているから、出会えるのは偶然でしかないわね」

 【猫の手】と違って商品で溢れているようなことはない。
 高級そうな絨毯にお高そうな調度品もある。
 高級店なのだろうか。 

「ふふ、私に逢いに世界中を探してくれるかしら?」

 絶世の美女、いやもはや女神の類に上目遣いでそう言われれば、普通の男なら狂ってしまうかもしれない。
 だが残念!
 俺には効かない。
 その豊満な胸をさらけ出すドレスは危険だが、木実ちゃんや玉木さんで慣れている。
 魅了などされないぞ!
 されてないから、お尻ひねるのやめようねミサ。

「残念。 彼女が怒っているから冗談はやめておくわね」

「カノジョ!?」

 まぁお揃いのバトルスーツ着てるからそう思われるかもしれない。
 
「初々しいお二人にこちらはどうかしら、エンゲージメントリングよ」

「エンゲージリングッ!?」 

 エンゲージメントリングって言ってたよ?
 契約の指輪みたいな感じか?
 アクセサリーや香油を扱っているお店なのだろうか。
 そういえばガチャのSRで出たまま放置しているアイテムを鑑定してもらおう。

「あら……」

 正体不明のポーション。
 黒のガチャから出たアイテムだが、具現化されている。
 マジック手甲に死蔵されていた。
 緻密な意匠の施されたガラス瓶に入った紫色に輝く液体。

「3万クレジットでどうかしら?」

「む?」

「……5万クレジット」

 5万クレジットあったらママノエ瓶が5千個も買えますよ?
 ちょっと表情が変わっていて怖いぞ。
 獲物を狙う猫のようだ。
 いったいどんな効能のポーションなんだろう。

「人族には危険よ? 全能のポーション。 一定時間超人になれる秘薬ね。 ポーションとしても使えるし、錬金術の素材としても使えるわ」

 なんだか凄そう。

「ただ、人族は使用後に不能になるから危険なの。 若い男の子には辛いと思うわよ?」

「売る」

 不能って危険物すぎるだろ!
 
「ふふ、売却ありがとうございます。 ……これを使えば、逆に不能でも一時的に全能になるのよ? ああ、楽しみだわ」

 誰に使うつもりなんですかあ!?
 なんにせよ大量ポイントゲットだ。
 ゴブリンで稼ごうとしたら2万体くらい狩らないと稼げない。
 お嬢様学校の領地化用のスクロールを買っておこうかな。

「ねぇねぇ、シンク。 ……コレ、綺麗だなぁ?」

「ん」

 大人しいと思ったらミサは指輪を見ていた。
 値札には2万クレジットと書かれている。 2万クレジットだと……?
 ミサは子犬のようにしおらしく上目遣いで見てくる。
 おねだり上手だと!?

「ダメかな?」

「お揃いで4万クレジット、領地化スクロールで1万クレジット、合計で5万クレジットね。 5万クレジット達成すると、会員証を発行するわ。 これがあれば満月の日にゲートを開くことが可能よ」 
 
 いまなら会員番号1番よ?と購買意欲を呷ってくる神秘商人。

「これがあればまた逢えるわよ?」

 魅了するようにカウンターに胸を置いて見つめてくる。
 畳みかけられている。
 店員と彼女の連携プレイ!

「……買う」

 男はつらいよ。

「わぁ!」

「ふふ、いい彼氏ね。 これからも御贔屓に、人族」

 黒猫の会員証にはしっかりとNO.1と会員番号が記載されていた。
 クレジットの残高もわかるようで、500クレジットしかない。

 稼がないと……。

「ありがとう、シンク!」

 ミサの指に指輪を嵌めてあげると、凄い喜んでた。
 なんだかんだ連れまわしたり前衛で頑張っているし雑用も頑張っているので、ご褒美でいいだろ。
 『ブラックホーンシャドウ』のSP補充にも貢献してもらってるしね!
 
「玉木さんに自慢しよーっと!」

 やめて差し上げろ!!
 聖銀のネックレス自慢されたの根に持ってるのかな……?


◇◆◇


 東雲東高校の中庭には神社が建っている。
 領地化により新しく建てられたそれは、真新しく立派であった。

「アマミク様、お菓子食べるかね?」

「ありがとうございます」

 ご老人たちの憩いの場になっている。
 どこか清涼な空気も漂っていて居心地が良いのだろう。
 朝から忙しく働きお昼はここでランチ会がご老人たちの楽しみだった。
 避難生活ではなにかとストレスが溜まるもの。
 発散は重要である。

「アマミク様の聖水のおかげで、今日も元気ですじゃ……ありがとのう」

「ううん、みんなが頑張ったからだよ!」

 老体に鞭打って戦った。
 木実の聖水やスキルの恩恵を得て誰よりも勇敢に。
 服部達と連携し知恵を振り絞りその身を犠牲にして。
 その姿を見ていたからだろう。
 東雲東高校の団結力は高い。
 決して神駆だけで防衛を成功させたわけではない。
 神駆が守りたいと思った場所を作り守った、彼らが陰の立役者だ。

「アマミク様、このジョブっちゅうのはどれを選べばええんじゃろか?」

「え?」

「教えてくれんかのぉ? ジジイにはよくわからんのじゃよ……」

 孫にスマホの使い方を尋ねるように、爺は質問する。

「えっと、ジョブですか? わっ!?」

>>>【神殿マスタリーLv.1】選べるジョブは以下の通りです
戦士:剣士:射手:盗賊:商人:農民:僧侶:遊び人:薬師:職人
獲得条件:5千魂魄

 頭に響くアナウンスと共に目の前に現れたウィンドウ。
 木実は驚きの声を漏らす。
 
「……ジョブを覚えるには5千魂魄必要みたいです」

「5千ですかぁ、まだまだ頑張らんといかんのぉ!」

「遊び人っちゅーのはジョブなんか?」

 神社も【神殿マスタリー】に含まれるらしい。
 その辺は複雑であるが、木実は領主である服部に伝えねばと、領主室に向かう。
 ジョブについては検証していたのだが、突然どうして? 理由は分からないが急いで伝えないと。
 宮司服の木実が走っていく。
 腰の長い帯は浮き強調された双丘がバウンドしている。
 神駆に貰ったブラのおかげで走っても痛くない。
 素晴らしい。
 男性たちの視線も釘付けだ。

「服部先輩! ジョブについてなんですが――――ふえ!?」

 領主服部は忙しそうに仕事をしていた。
 なぜか隣で九条が半裸で誘惑している。
 蠱惑的な胸が見えている。
 小ぶりだが形の良いおっぱいだ。
 紅の瞳の少女。
 
『慎之介……休憩シヨ?』

「もう少しやってから……雪代さん!? これはっ、ちが――「お邪魔しましたっ!」」

 服部先輩と九条先輩。
 ちょっと良い感じの雰囲気になっていたのは知っていたが、もうそこまで関係が進んでいたなんて!
 頬を染めた木実は走り出す。
 宮司服の木実が走りまわっている姿を避難所の人々は不思議そうに見ていた。

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