157 / 179
第三章:Bunny&Black
百五十三話:救援要請
しおりを挟むそれは深夜の事だった。
『シンクさん……救援願えないでしょうか?』
念話。
【神鳴館女学院付属高校】の黒髪ロングの声だ。
俺は念話を持っていないので受信しかできない。
余裕のない声。
『お願いします、シンクさん』
異界迷宮の発見でしばらく行っていなかったが、なにかあったのだろうか?
黒髪ロングの指揮能力とツインテの戦闘力。
薙刀使いのお姉さんも強そうだったし、雑魚には負けそうにないんだがな。
「ふぁ……シン、出かけるの?」
一緒に寝ていた葵が目を覚ます。
猫型ルームウェアの触り心地が良いのか潜り混んできていた。
葵も猫型ルームウェアを着ており似合っている。 ……行動まで猫っぽいな。
「うむ」
「そっか……気をつけてね?」
心配そうにどこか残念そうな葵に見送られてお嬢様学校に急ぐ。
屋上から『ブラックホーンシャドウ』に乗り込み上空へ。
SPは満タンだ。
飛んでいくぜ!
「シャム太」
気づいたらシャム太が荷台部分に乗り込んでいた。
お嬢様学校にシャム太を連れて行くのは初めてだな。
驚かれるだろうか?
上空から見る東雲東高校はずいぶんと立派になった。
高校の周りも含んで大きな城壁が囲んでいる。
篝火も焚かれて外敵の侵入を拒む。
魚頭の襲撃はなくなり、野犬は建物を壊すのは苦手そうだった。
しばらく留守にしても彼女たちは安全だろう。
それにもう、守られているだけの彼女たちじゃない。
「……」
でもやっぱり心配だ。
魔物だけじゃなく、不埒なことを考える男どもがひょっとしたらいるかもしれない。
悪い虫がついたらどうしよう。
「……」
シャム太が肩を叩き大丈夫と励ましてくれる。
そうだ、もっとガチャを回してシャム太のような人形をだせれば警備隊を作れるな。
ドール親衛隊とかどうだろう。
「ん?」
あっという間に着いた。
直線距離で障害物も気にせずかっ飛ばしてきたからね。
SPもそんなに消費していない。
【神鳴館女学院付属高校】では戦闘中のようだ。
正面の門は修復が終わったようである。 その前で弓部隊が戦闘している。
相手はアンデット系の魔物。
はっきりいって相性が悪い。
近接戦闘を担当していたフレイヤ隊の姿が見えない。
ツインテもいないようだ。
「シンクさん!」
念話ではない直接の声。
『一ノ瀬 栞』が大きく手を振っている。
「シッ!」
『ブラックホーンシャドウ』に乗ったまま『ヴォルフライザー』を振り回す。
馬上攻撃のように縦横無尽にアンデットの集団を蹂躙する。
ヒィイイイイイイイイイイイイイ!
馬の嘶きのような音を奏でる『ブラックホーンシャドウ』はご機嫌である。
どうした!?
まるで好みの雌馬でも見つけたように暴れまわる。
ジャンプからの突進。
発生した蹄のような漆黒の衝撃波がゾンビたちを肉片に変える。
こんな攻撃方法があったのかと、驚きながら敵を殲滅する。
「……圧倒的、ですね」
全ての敵を蹂躙するまで10分もかからなかった。
デュラハンみたいなのも一体いたけどサクッと一刀両断。
きらきらと漆黒のエフェクトを纏った『ブラックホーンシャドウ』が黒髪ロングの前に斜め45度でとまる。
タイヤの角度まで完璧である。
うん、俺が格好つけてるみたいで嫌なんだが!?
「助かりました、シンクさん」
――ヒィン! ヒィイン!
夜中に空ぶかしはやめようぜ。
◇◆◇
いつも疲れた顔をしている黒髪ロングだが、さらに疲弊しているのかふらふらである。
「すみません、こんな夜中にお呼び立ててしまい……」
『ブラックホーンシャドウ』と『シャム太』にお嬢様学校の人たちは驚いていた。
なんだか普通の反応で嬉しい。
東雲東高校だと、なんだ鬼頭かみたいなノリでスルーされるからね。
すでにシャム太はマスコット的な人気を確立している。
「緊急事態でした、それに敵の脅威を知らせるべきと判断しました」
案内されたそこは野戦病院のようであった。
並べられている女生徒たちは紫色の斑点を浮かべ体調が悪そうだ。
「毒です」
「毒……」
「『猫の手』から状態異常を回復するポーションを購入し使用してみました……症状は良くなるのですが完治はしません」
万屋『猫の手』では怪我、病気、体力を回復するポーションが売られている。
俺は結構ドロップアイテムを売って中級も買えるのだが、使用したのは初級だろうか?
「ん」
「え? ……少し違う? 中級ですか!」
中級の解毒ポーションを渡すと、黒髪ロングは奥へと走っていった。
重症者でもいたのだろうか。
手持ちにさほど中級は持っていない。
もっと交換しておけば良かったな。
木実ちゃんが作ってくれた元気の出る水でも効くだろうか?
近くの体調の悪そうな女生徒に飲ませてみる。
嫌がることも怖がることもなく水を受け取った女生徒は会釈し少しづつ飲み始める。
一緒に戦ったことのあるフレイヤ隊の娘かもしれない。
「ふっかーーつ!!」
「ちょ、美愛さん! 大人しく寝ててくださいっ!」
奥のほうの部屋からツインテの声が聞こえた。
ツインテも毒でやられてたのか。
「あ……痣が、薄くなりました。 消えていきます……」
木実ちゃんの元気水を飲んだ女の子の紫色の斑点も消えていく。
痛々しい痣が残らなくてよかった。
ありがとうございます、と涙ながらに微笑まれた。
「……」
毒に蝕まれていたからだろうか?
すごく痩せている。 栄養は足りているのか? 食事はちゃんと取れているのだろうか?
周りを見ればみんなそうだった。
いかに優秀な生徒達でも命がけの戦闘が続いていけば疲弊する。
逆に優秀すぎるから節約しギリギリのところでやっているのかもしれない。
近くの『猫の手』でもろくな食料が交換できないと言っていたしな。
「あ、す、すいません」
「うむ」
起き上がりお礼をしようとした女子が倒れそうだったので支えてあげる。
毒が治ってもしばらくまともに動けないだろうなぁ。
情報を貰う代わりに少し働くとしますかね。
温泉にも入りたいし。
そういえば円ちゃん元気かな?
またお兄ちゃんって呼ばれたい。
「あっ」
そうと決まれば近くの敵は殲滅して買い出しに行ってくるかな。
パタラシュカも届けようと思ってたしね。
義妹の好感度を高めようなんて思ってないですよ!
0
お気に入りに追加
146
あなたにおすすめの小説
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
ヒューマンテイム ~人間を奴隷化するスキルを使って、俺は王妃の体を手に入れる~
三浦裕
ファンタジー
【ヒューマンテイム】
人間を洗脳し、意のままに操るスキル。
非常に希少なスキルで、使い手は史上3人程度しか存在しない。
「ヒューマンテイムの力を使えば、俺はどんな人間だって意のままに操れる。あの美しい王妃に、ベッドで腰を振らせる事だって」
禁断のスキル【ヒューマンテイム】の力に目覚めた少年リュートは、その力を立身出世のために悪用する。
商人を操って富を得たり、
領主を操って権力を手にしたり、
貴族の女を操って、次々子を産ませたり。
リュートの最終目標は『王妃の胎に子種を仕込み、自らの子孫を王にする事』
王家に近づくためには、出世を重ねて国の英雄にまで上り詰める必要がある。
邪悪なスキルで王家乗っ取りを目指すリュートの、ダーク成り上がり譚!
男女比の狂った世界で愛を振りまく
キョウキョウ
恋愛
男女比が1:10という、男性の数が少ない世界に転生した主人公の七沢直人(ななさわなおと)。
その世界の男性は無気力な人が多くて、異性その恋愛にも消極的。逆に、女性たちは恋愛に飢え続けていた。どうにかして男性と仲良くなりたい。イチャイチャしたい。
直人は他の男性たちと違って、欲求を強く感じていた。女性とイチャイチャしたいし、楽しく過ごしたい。
生まれた瞬間から愛され続けてきた七沢直人は、その愛を周りの女性に返そうと思った。
デートしたり、手料理を振る舞ったり、一緒に趣味を楽しんだりする。その他にも、色々と。
本作品は、男女比の異なる世界の女性たちと積極的に触れ合っていく様子を描く物語です。
※カクヨムにも掲載中の作品です。
男女比世界は大変らしい。(ただしイケメンに限る)
@aozora
ファンタジー
ひろし君は狂喜した。「俺ってこの世界の主役じゃね?」
このお話は、男女比が狂った世界で女性に優しくハーレムを目指して邁進する男の物語…ではなく、そんな彼を端から見ながら「頑張れ~」と気のない声援を送る男の物語である。
「第一章 男女比世界へようこそ」完結しました。
男女比世界での脇役少年の日常が描かれています。
「第二章 中二病には罹りませんー中学校編ー」完結しました。
青年になって行く佐々木君、いろんな人との交流が彼を成長させていきます。
ここから何故かあやかし現代ファンタジーに・・・。どうしてこうなった。
「カクヨム」さんが先行投稿になります。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
大好きな彼女を学校一のイケメンに寝取られた。そしたら陰キャの僕が突然モテ始めた件について
ねんごろ
恋愛
僕の大好きな彼女が寝取られた。学校一のイケメンに……
しかし、それはまだ始まりに過ぎなかったのだ。
NTRは始まりでしか、なかったのだ……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる