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第三章:Bunny&Black

百五十三話:救援要請

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 それは深夜の事だった。

『シンクさん……救援願えないでしょうか?』

 念話。
 【神鳴館女学院付属高校】の黒髪ロングの声だ。
 俺は念話を持っていないので受信しかできない。
 余裕のない声。
 
『お願いします、シンクさん』

 異界迷宮の発見でしばらく行っていなかったが、なにかあったのだろうか?
 黒髪ロングの指揮能力とツインテの戦闘力。
 薙刀使いのお姉さんも強そうだったし、雑魚には負けそうにないんだがな。

「ふぁ……シン、出かけるの?」

 一緒に寝ていた葵が目を覚ます。
 猫型ルームウェアの触り心地が良いのか潜り混んできていた。
 葵も猫型ルームウェアを着ており似合っている。 ……行動まで猫っぽいな。

「うむ」

「そっか……気をつけてね?」

 心配そうにどこか残念そうな葵に見送られてお嬢様学校に急ぐ。
 屋上から『ブラックホーンシャドウ』に乗り込み上空へ。
 SPは満タンだ。
 飛んでいくぜ!

「シャム太」

 気づいたらシャム太が荷台部分に乗り込んでいた。
 お嬢様学校にシャム太を連れて行くのは初めてだな。
 驚かれるだろうか?
 
 上空から見る東雲東高校はずいぶんと立派になった。
 高校の周りも含んで大きな城壁が囲んでいる。
 篝火も焚かれて外敵の侵入を拒む。
 魚頭の襲撃はなくなり、野犬は建物を壊すのは苦手そうだった。
 しばらく留守にしても彼女たちは安全だろう。
 それにもう、守られているだけの彼女たちじゃない。
 
「……」

 でもやっぱり心配だ。
 魔物だけじゃなく、不埒なことを考える男どもがひょっとしたらいるかもしれない。
 悪い虫がついたらどうしよう。
 
「……」

 シャム太が肩を叩き大丈夫と励ましてくれる。
 そうだ、もっとガチャを回してシャム太のような人形をだせれば警備隊を作れるな。
 ドール親衛隊とかどうだろう。

「ん?」

 あっという間に着いた。
 直線距離で障害物も気にせずかっ飛ばしてきたからね。
 SPもそんなに消費していない。
 
 【神鳴館女学院付属高校】では戦闘中のようだ。
 正面の門は修復が終わったようである。 その前で弓部隊が戦闘している。
 相手はアンデット系の魔物。
 はっきりいって相性が悪い。
 近接戦闘を担当していたフレイヤ隊の姿が見えない。
 ツインテもいないようだ。

「シンクさん!」

 念話ではない直接の声。
 『一ノ瀬 栞』が大きく手を振っている。

「シッ!」

 『ブラックホーンシャドウ』に乗ったまま『ヴォルフライザー』を振り回す。
 馬上攻撃のように縦横無尽にアンデットの集団を蹂躙する。

ヒィイイイイイイイイイイイイイ!

 馬の嘶きのような音を奏でる『ブラックホーンシャドウ』はご機嫌である。
 どうした!?
 まるで好みの雌馬でも見つけたように暴れまわる。
 ジャンプからの突進。
 発生した蹄のような漆黒の衝撃波がゾンビたちを肉片に変える。
 こんな攻撃方法があったのかと、驚きながら敵を殲滅する。

「……圧倒的、ですね」
  
 全ての敵を蹂躙するまで10分もかからなかった。
 デュラハンみたいなのも一体いたけどサクッと一刀両断。
 きらきらと漆黒のエフェクトを纏った『ブラックホーンシャドウ』が黒髪ロングの前に斜め45度でとまる。
 タイヤの角度まで完璧である。
 うん、俺が格好つけてるみたいで嫌なんだが!?

「助かりました、シンクさん」

――ヒィン! ヒィイン!

 夜中に空ぶかしはやめようぜ。


◇◆◇


 いつも疲れた顔をしている黒髪ロングだが、さらに疲弊しているのかふらふらである。
 
「すみません、こんな夜中にお呼び立ててしまい……」

 『ブラックホーンシャドウ』と『シャム太』にお嬢様学校の人たちは驚いていた。
 なんだか普通の反応で嬉しい。
 東雲東高校だと、なんだ鬼頭かみたいなノリでスルーされるからね。
 すでにシャム太はマスコット的な人気を確立している。

「緊急事態でした、それに敵の脅威を知らせるべきと判断しました」

 案内されたそこは野戦病院のようであった。
 並べられている女生徒たちは紫色の斑点を浮かべ体調が悪そうだ。
 
「毒です」

「毒……」

「『猫の手』から状態異常を回復するポーションを購入し使用してみました……症状は良くなるのですが完治はしません」

 万屋『猫の手』では怪我、病気、体力を回復するポーションが売られている。
 俺は結構ドロップアイテムを売って中級も買えるのだが、使用したのは初級だろうか?

「ん」

「え? ……少し違う? 中級ですか!」

 中級の解毒ポーションを渡すと、黒髪ロングは奥へと走っていった。
 重症者でもいたのだろうか。
 手持ちにさほど中級は持っていない。
 もっと交換しておけば良かったな。
 木実ちゃんが作ってくれた元気の出る水でも効くだろうか?
 
 近くの体調の悪そうな女生徒に飲ませてみる。
 嫌がることも怖がることもなく水を受け取った女生徒は会釈し少しづつ飲み始める。
 一緒に戦ったことのあるフレイヤ隊の娘かもしれない。

「ふっかーーつ!!」

「ちょ、美愛さん! 大人しく寝ててくださいっ!」

 奥のほうの部屋からツインテの声が聞こえた。
 ツインテも毒でやられてたのか。
 
「あ……痣が、薄くなりました。 消えていきます……」

 木実ちゃんの元気水を飲んだ女の子の紫色の斑点も消えていく。
 痛々しい痣が残らなくてよかった。
 ありがとうございます、と涙ながらに微笑まれた。

「……」

 毒に蝕まれていたからだろうか?
 すごく痩せている。 栄養は足りているのか? 食事はちゃんと取れているのだろうか?
 周りを見ればみんなそうだった。
 いかに優秀な生徒達でも命がけの戦闘が続いていけば疲弊する。
 逆に優秀すぎるから節約しギリギリのところでやっているのかもしれない。
 近くの『猫の手』でもろくな食料が交換できないと言っていたしな。
  
「あ、す、すいません」

「うむ」

 起き上がりお礼をしようとした女子が倒れそうだったので支えてあげる。
 毒が治ってもしばらくまともに動けないだろうなぁ。
 情報を貰う代わりに少し働くとしますかね。
 温泉にも入りたいし。
 そういえば円ちゃん元気かな?
 またお兄ちゃんって呼ばれたい。

「あっ」

 そうと決まれば近くの敵は殲滅して買い出しに行ってくるかな。
 パタラシュカも届けようと思ってたしね。
 義妹の好感度を高めようなんて思ってないですよ!


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