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第三章:Bunny&Black

百四十五話:【不撓不屈】

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 先手必勝。

『――ウィンドストームッ!』

 無数の風の刃が激昂する女マーマンの従える群れに飛来する。
 広域を狙った乱雑な風刃。
 仕留めるよりも削りにいっている。
 足並みを揃わなくすれば戦力は一気にダウンだ。
 玉木さんも戦い慣れてきている。

『ゲェノム!』

 ビキニアーマーから漏れ出る贅肉を揺らし、女マーマンが杖を鳴らす。
 展開されるのは魔法。
 紫紺の障壁が風刃の嵐から魚頭の部族を守る。

「わっ!?」

 ぶつかり合う激しい音が響き、風刃は掻き消された。
 女マーマンはその醜い魚顔を弾ませる。
 歪む顔。
 挑発するように醜い魚顔を左右に激しく振り乱す。
 うん、気が狂ってるわ。

『ギェ、ギェルトム!』

 強化魔法か。
 赤黒いオーラが魚頭たちを包み込む。
 その鋭い爪は色濃くオーラに包まれている。
 さらなる攻撃力の強化。
 ほんとわかりやすいくらい脳筋な部族だな。

「『ウィンドフォース!』」

 こちらも玉木さんからバフをもらう。
 緑の光に体が包まれる。
 体は羽のように軽く感じる。

「シンク君!」

 骨矛を構えた魚頭の群れ。
 風刃のお返しとばかりに無数の骨矛が投げ込まれる。
 玉木さんの焦った声。
 しかし、俺の精神は落ち着いていた。

 【不撓不屈】。
 冷静な精神の底、魂の奥から熱を感じる。
 どんな困難も乗り越える意志の力。
 冷静に熱く。
 矛盾するそれは俺の感覚を研ぎ澄まさせる。
 感覚時間を引き延ばす。
 世界がまるでスローモーションになったかのように錯覚する。

「っ、凄いわ……」

 気づけばただただ冷静に、ヴォルフライザーで全ての骨矛を叩き落とした。
 最小の動きで理合いをもって振るう。
 次の骨矛を落とすためにどう体を動かすか、考える思考の余裕。
 単純な身体強化では到達できない領域の拡張。
 ガチャの試練は俺の心を強くした。

『ギョエェ!?』
 
「ふぅぅ……」 

 急激な成長。
 追いついていなかった心の成長。
 100回の疑似的な死の体験は、俺の体に心のピースをはめ込んだ。

「『クリムゾンデスサイズ』」

 『ヴォルフライザー』とUR『クリムゾンデスサイズ』を入れ替える。
 禍々しい大鎌。
 核となる紅玉は爛々と輝く。
 まるで早く獲物の血を飲ませろといわんばかりに。
 玉木さんの息をのむ音が聞こえる。
 怪物たちの恐れ・・を感じる。

「――――」

 俺は中腰に大鎌を構え、力を溜める。
 力を溜める技は苦手なのだが。
 自然と体はその技を理解し最適な魔力の流れを実現させる。
 まるで大鎌に支配されるかのような、危険な感覚。
 地を踏ん張る『ブラックホーンリア』。
 『ブラックホーンオメガ』は共鳴するように力を増幅し続ける。
 幾度となく見た死神の構えとは違う形になった。
 俺にとって最適な構え。
 まるでゴルフのスイングのように、限界まで捻りを加え天を貫く『クリムゾンデスサイズ』。
 ボディビルダーのサイドバックのように膂力をみせつけるポージング。

『――ゲョエエエエエエエッ!!』

 女マーマンが絶叫をあげる。
 その叫びが何を言っているかはわからない。
 舐めるなと憤ったのか、何かする前に潰せと部族に叱咤したのか。
 なんにせよ、女マーマンの不安、焦燥、恐怖が『クリムゾンデスサイズ』に愉悦を与える。
 骨矛は禍々しい障壁が防ぐ。
 女マーマンの魔法は禍々しい障壁が防ぐ。
 疾駆してきた魚頭の鋭い強化された爪は禍々しい障壁が防ぐ。

 ああ、絶望だ。

「『クリムゾンストライク』」

 絶望を刈り取る漆黒の斬撃。
 死神の一撃が全てを終わらせる。
 広範囲に死の一撃が炸裂した。

「わぁぁ……」

 一部始終を見ていた玉木さんが口をあけて声を漏らす。
 エルフさんの端正な顔があほの子になる。
 うん、オーバーキルだよね、わかります。
 周囲の木々すらも刈り取った漆黒の斬撃は、魔物の群れを狩りつくした。
 女マーマンも真っ二つにされその臓物をまき散らしていた。
 絶望に絶叫する顔はこちらを睨みつけながら……。


◇◆◇


 うーん……お蔵入りの技が増えた。
 死神を破った大技のように次元をぶち破ることはなかったが、『クリムゾンストライク』も超広範囲すぎて使いづらいかもしれない。
 範囲をコントロールできるようになればいいのか?
 まだ大鎌に撃たされているような感覚で制御できていないのだ。
 要練習である。

「あっ、シンク君! 宝箱あるよ!!」

「!」

 シャム太の解体作業を見守っていると玉木さんが宝箱を発見した。
 魚頭たちの集落の中。
 ひときわ気色の悪い天幕にそれはあった。
 骨で出来た宝箱のようである。
 悪趣味ではあるが、宝石などで装飾されなかなか豪華な感じだ。 
 女マーマンの宝物だろうか?

「開けてみる? トラップとか、ないかな?」

 嫌な感じはビンビンするけど、ワクワクに勝てない。
 念のため玉木さんには離れてもらい俺が開ける。
 『ガードドッグイヤー』の感覚を研ぎ澄ませ慎重に。

「あ」

 鍵開けの才能はないかもしれない。
 鍵穴をみたけどわからないから力でこじ開けた。
 蓋を上げた瞬間、骨の棘が飛び出してくる。

「きゃ!?」

 危ない。
 俺が開けててよかった。
 確実に不埒者の脳天を貫けるよう、鋭く太っとい棘が眉間に飛んできた。
 
「大丈夫っシンク君!?」

「大丈夫」

 瞬間的に『ブラックホーンオメガ』の兜が反応してフルフェイスになってた。
 まぁ掴んだので先が触れたくらいだったけど。
 毒が有ったら怖かったから『ブラックホーンオメガ』はナイスです。

 まぁなんにせよ、御開帳です。
 はじめての宝箱の中身はなんだろうか?
 俺はガチャも好きだが、宝箱も大好きですよ?

「わぁ!」

 趣味の悪い宝箱の中にはちゃんとした金銀宝石が入っていた。
 髑髏とか呪いの呪物だったらどうしようかと思ったけど、ちゃんとしたお宝である。
 女性物のアクセサリーが多い。
 女マーマンへのプレゼント品か略奪品か。
 魔法のアイテムとかもあるんだろうか?
 
「コレ……凄く綺麗……」

 宝物の中でも一際目立つ聖銀に輝くネックレス。
 玉木さんは一目見ただけで魅了されたようだ。
 手にもった玉木さんから緑色の輝きがネックレスに移る。
 風の精霊?
 ふわふわと聖銀のネックレスに纏わりついている。
 『猫の手』で見てもらってからのほうがいい気がするけど、たぶん大丈夫だろう。
 嫌な感じはしない。 むしろ神聖な気配すらする。
 女マーマンの宝物にしては豪華すぎないだろうか?
 誰だろうね送った人は。 人ではないか……。 というか絶対盗品、いや略奪品だよコレ。
 なんだかヤバそうな物ではある。 異世界のどこぞの王族の宝と言われても納得できそう。 曰く品。 RPGだったら売ろうとしたら面倒ごとに巻き込まれるやつ。
 
「えっ」

 まぁ戦利品として頂いて問題ないだろう。
 玉木さんによく似合いそうだし。
 俺は受け取った聖銀のネックレスをそのまま玉木さんに贈る。
 後ろに回りつけてあげる。
 細く白い首筋に良く映える。
 玉木さんの肌は聖銀のネックレスにも負けない透明感がある。
 
「……ありがとう、シンクくんっ」

 ちょっと涙を浮かべた玉木さんに抱き着かれました。
 胸の中の彼女が愛しい。
 なんだかいつもよりそう感じる。
 
(……?)
 
 ただなにか違う感覚もある。
 魂から従いたくなるような、でもそれには抵抗している。
 魅了。
 その言葉が頭によぎる。

(これは危険物なのでは……?)

 魅了効果のあるネックレスとか危険すぎるかとおもったが、玉木さんはナチュラルに男どもを魅了しているから関係ないなと、今更危険かもしれないからと返品はしてもらいずらいので気づかなかったことにしようと思いましたまる。

「うふふ、嬉しいな。 ミサちゃんに自慢しようっと」

 麗しきエルフは上機嫌に微笑むのであった。

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