上 下
144 / 179
第三章:Bunny&Black

百四十話:

しおりを挟む
 困惑する山木3尉。
 太鼓を叩く音が彼らの耳朶を打つ。
 ドォン! ドォォン! ドオオオン!!
 すわ敵襲かと皆が構えた。
 しかし周囲に魔物の気配はなし。

「高校の中からでしたね」

「急ぐぞ!」

 疲れた体に鞭を打ち、自衛隊員たちは駆けだす。
 太鼓の音のする場所に急げは大勢の人たちが集まっていた。
 なにをしているのだろうか?
 何人かはこちらに気づいているようだが、熱狂に負けた。
 普段、避難所に顔を出せば大勢の人たちに頼られるのだが。
 一切そんな人たちはいなかった。
 自衛隊に期待する者など皆無であった。

「な、なにをしているんだ!?」

 武装する者たち。
 鈍器、槍、大剣と様々な武器を持ち、レザー防具をつけている。
 各自のファッションセンスか『猫の手』で購入したノービスシリーズやワイルドドッグシリーズを改良している。 ファンタジー感の強い見た目の集団になっていた。
 そんな彼らの中心。
 石造りの舞台があった。
 そこでは槍の穂先に赤い布を巻いた服部と、見た目60歳くらいのおばあさんが対峙していた。

「危ないっ!」

 青年の鋭い突きが老人へと放たれる。
 思わず叫ぶ山木。
 なんてことをするんだと、憤りで睨みつけるが杞憂であった。

「うああ!?」
 
 老婆の持つ薙刀に簡単にあしらわれている。
 落ち着いて見れば老婆の動きは熟練者のそれであり、青年のほうはまだぎこちない。
 薙刀を持ち構える姿は凛としており背筋は伸び脚は地に根を張るが如く安定している。

「ふぉほほ!」

 米子婆さん98歳。
 つい数週間前までは腰の曲がったよぼよぼのおばあちゃんであったが、魂魄ランクの上昇、木実の聖水の力、さらに領地バフによって60代くらいの見た目まで若返った。
 曲がっていた腰も徐々に直る。
 靄がかかったように遅かった思考も、今では普通に思い出せる。
 天之水神姫アマミク様の奇跡。
 老人たちの信仰心はMAXである。

「凄いっ」
「頑張れ服部ー!」
「米子ばあちゃんかっけぇーー!」

 もともと曲がった腰で高速移動し魔物を倒していた米子婆さんである。
 昔のように動けるのが嬉しくてついつい張り切りすぎてしまった。
 妖怪と間違われることもあった。
 ただ腰の曲がりが戻り若返った今では、まさに奇跡の人である。

「達人っすかね?」

 自衛隊員たちは気づかない。
 自分たちの連れてきた民間人の困惑のベクトルの違いに。
 彼らは思う、どうしてここの人たちはこんなにも明るい? どうして生き生きとしている?
 武器を手に熱狂する人、仕事の手を休め応援する人、小さな子供たちも楽しそうに笑っている。
 少なくともこの場には悲壮な面持ちでいる者たちは見えなかった。
 駐屯地に蔓延する悲壮感はなかった。

「……」

 もとよりその空気が嫌で飛び出したに等しい彼らには眩しかった。
 彼らが戻った時、駐屯地にいる仲間になんと伝えるのだろうか?
 
「あら、山木さん。 お久しぶりですね?」

 そして特大の爆弾は投下される。

「ふぁ!?」

 まるで映画の中から飛び出してきたような、とびきりの美女がお出迎えする。
 寺田の間抜けな声。
 以前にあった時よりも、玉木の美しさに磨きがかかっている。
 麗しきエルフは上機嫌なのか全ての男を魅了する笑みをもって挨拶にきた。
 ファリードレスの谷間は毒だ。
 若い男性、戦闘によって興奮している体には特に。
 目の前の美巨乳エルフから有志の民間戦闘員7名の目は離せない。
 聖銀のネックレスが光る。

「あ、ああ。 みなさん、元気そうでなによりです……」

「ふふふ」

 エルフは語らない。
 ただただ悠然と微笑む。

「それで今日はどうされたのかしら?」

「ああ……」

 本来の目的は『魔王討伐』を誰がなしたか、どうやって?
 その最重要人物の調査であるが、それを直接言えば警戒されるだろうと、山木は表向きの任務を伝える。
 周辺地域の現状確認。

「そうですか。 シンク君が見学させてもらったと言っていましたし、ご自由に見学して頂いて構いませんよ?」

「助かります」

「ああ、ただし」

 まるで東雲東高校の責任者であるかのように、いや女王であるかのような玉木の言葉。
 実際周囲には女王を守る近衛兵が待機している。

「西校舎の3階には近づかないほうがいいわ」

 微笑むエルフ。

「なぜ、です?」

 山木は心臓を鷲掴みにされたように苦しい。
 返答はなく、エルフは微笑み去っていく。

「はぁぁ……」

「なんか疲れたっすね……。 梅香、大人しかったな?」

 寺田は梅香が暴走して質問の嵐を繰り出したら、羽交い絞めにして頸動脈を極め絞め落とすつもりであったが、思いのほかというか、借りてきた猫のように静かな梅香を訝しんだ。

「完全敗北です。 彼我の戦力差がありすぎであります。 無理です。 完全無欠のエルフ相手にどうしろと……」

「はぁ?」

 ブツブツとどんよりした梅香に寺田は困惑した。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

勝負に勝ったので委員長におっぱいを見せてもらった

矢木羽研
青春
優等生の委員長と「勝ったほうが言うことを聞く」という賭けをしたので、「おっぱい見せて」と頼んでみたら……青春寸止めストーリー。

ヒューマンテイム ~人間を奴隷化するスキルを使って、俺は王妃の体を手に入れる~

三浦裕
ファンタジー
【ヒューマンテイム】 人間を洗脳し、意のままに操るスキル。 非常に希少なスキルで、使い手は史上3人程度しか存在しない。 「ヒューマンテイムの力を使えば、俺はどんな人間だって意のままに操れる。あの美しい王妃に、ベッドで腰を振らせる事だって」 禁断のスキル【ヒューマンテイム】の力に目覚めた少年リュートは、その力を立身出世のために悪用する。 商人を操って富を得たり、 領主を操って権力を手にしたり、 貴族の女を操って、次々子を産ませたり。 リュートの最終目標は『王妃の胎に子種を仕込み、自らの子孫を王にする事』 王家に近づくためには、出世を重ねて国の英雄にまで上り詰める必要がある。 邪悪なスキルで王家乗っ取りを目指すリュートの、ダーク成り上がり譚!

男女比の狂った世界で愛を振りまく

キョウキョウ
恋愛
男女比が1:10という、男性の数が少ない世界に転生した主人公の七沢直人(ななさわなおと)。 その世界の男性は無気力な人が多くて、異性その恋愛にも消極的。逆に、女性たちは恋愛に飢え続けていた。どうにかして男性と仲良くなりたい。イチャイチャしたい。 直人は他の男性たちと違って、欲求を強く感じていた。女性とイチャイチャしたいし、楽しく過ごしたい。 生まれた瞬間から愛され続けてきた七沢直人は、その愛を周りの女性に返そうと思った。 デートしたり、手料理を振る舞ったり、一緒に趣味を楽しんだりする。その他にも、色々と。 本作品は、男女比の異なる世界の女性たちと積極的に触れ合っていく様子を描く物語です。 ※カクヨムにも掲載中の作品です。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

大好きな彼女を学校一のイケメンに寝取られた。そしたら陰キャの僕が突然モテ始めた件について

ねんごろ
恋愛
僕の大好きな彼女が寝取られた。学校一のイケメンに…… しかし、それはまだ始まりに過ぎなかったのだ。 NTRは始まりでしか、なかったのだ……

男女比世界は大変らしい。(ただしイケメンに限る)

@aozora
ファンタジー
ひろし君は狂喜した。「俺ってこの世界の主役じゃね?」 このお話は、男女比が狂った世界で女性に優しくハーレムを目指して邁進する男の物語…ではなく、そんな彼を端から見ながら「頑張れ~」と気のない声援を送る男の物語である。 「第一章 男女比世界へようこそ」完結しました。 男女比世界での脇役少年の日常が描かれています。 「第二章 中二病には罹りませんー中学校編ー」完結しました。 青年になって行く佐々木君、いろんな人との交流が彼を成長させていきます。 ここから何故かあやかし現代ファンタジーに・・・。どうしてこうなった。 「カクヨム」さんが先行投稿になります。

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

処理中です...