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第三章:Bunny&Black

百三十九話:東雲東高校要塞化計画

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 わた雲は青空を気持ちよさそうに浮かんでいる。

 「やっと着くっすねぇ」

 藤崎駐屯地を出発した自衛隊員、寺田はやれやれといった感じで汗を拭う。
 夏は近づいており温暖化の影響著しい日本の夏はジメジメして蒸し暑い。
 年々と猛暑日のおとずれも早くなってきていた。

「そうだな。 予定よりも2週間も遅れてしまったか……」

 山木の顔色も疲労の色が濃い。
 
「橋を渡ったら魔物の襲撃が減りましたであります! なぜでしょうか? どういった魔物がでるのかきになります! 人型の魔物は隠れている可能性がありますから要注意であります! 各自気を付けて気を抜かないようにッ! 適時水分補給は小まめにとるであります! 川の水は煮沸してから飲むように! いいですか? 川の水に――――」

 ただ一人の女性隊員である梅香は元気であった。

 彼ら自衛隊員3名、有志の民間人戦闘員7名は東雲東高校を目指し藤崎駐屯地を出発していた。
 駐屯地指令『京極 武蔵』より任務を受けてのことである。
 ただ、任務を言い渡されてからすぐには出発することができなかった。
 至急の任務であるはずなのにだ。
 
「たしかに、この辺りは魔物の気配が薄いな」

「ここまで大変だったすねぇ……」

 寺田の言葉に志願した民間兵も頷く。
 7名は全て若い男性であり戦闘もこなしている。
 今回は前回の失敗を踏まえ人選に人選を重ねて連れてきている。
 万一にも東雲東高校で問題をおこなさないように。
 過度な面接をして連れてきた。 なるべくグループの違うメンバーからと徹底して。 悪だくみを防ぐためだ。

「武器防具、それに医薬品の損耗が激しい。 東雲東高校で補給できないと帰れないぞ?」

 自衛隊から装備を借り受け戦い方も教わってはいる。
 けれど接近戦を主体とした攻防ではどうしても怪我人はでる。
 未だ『猫の手』の恩恵を十全に受けれていない状況である。
 山木の独断で神駆から譲り受けた分は使用している。
 この遠征を気にぜひ『猫の手』によりたいと彼は考えていた。

 藤崎駐屯地の側には『猫の手』が見つからなかった。
 これは神駆がブラックホーンリアと屋根上パルクールを駆使して探しても見つけられなかった。
 ひょっとしたらないのかもしれないし、見つけにくいところにあるのかもしれない。
 わからない。
 『猫の手』についての詳しい情報など誰も持ち合わせていないのでしかたない。

「気になります! ぜひ行ってみたいであります! まっさきに行きましょう!!」

「あほ。 先に任務をこなすにきまってるっしょ」

 同期である寺田は梅香係と化している。
 『きになります!』が口癖の困った女子だ。
 めんどくさい、と放置しておくと永遠としゃべり続ける。
 クリっとした瞳にショートヘア、日焼けした肌に喜怒哀楽の激しい性格。
 年齢以上に若く見える。 そろそろ落ち着いてもいい頃の年齢であるのだが。


「あ、あれか?」

 塀の裏、放置された車両、物陰。
 あらゆるところに魔物は隠れ潜んでいる。
 とくに個体名ゴブリンは嫌らしいエネミーだった。
 幾度も奇襲を受けた彼らは目的地が見えても慎重に歩みを進める。

「……普通高校だよな?」

「ああ。 てか俺の母校。 ……いつ、リニューアルしたんだろ?」

 民間兵の東雲東高校卒業生は母校の変わり果てた姿に驚いていた。

 巨大な城壁が見えてきたのだ。
 まるでお嬢様学校の終わらない外壁のように。
 学校を取り囲むように城壁が出来ていた。
 周囲の田畑も川さえも取り込んだ巨大な城壁である。

「城塞都市かよ」

 山木や寺田にはヨーロッパの城塞都市のように見えた。
 服部考案の東雲東高校要塞化計画。
 周辺の土地ごと城壁で覆う、総構えになっている。
 東雲東高校を覆う内郭、そのさらに外側にも城壁を作っているのだ。
 魔皇帝争奪戦この戦いは長期に渡り繰り広げられる。
 そして国からの救援など期待できないと、早期に判断した服部の決意の表れであった。
 まぁせざるを得ない状況であったともいえるのだが。

「凄いです! どうやって作ったんでしょう? 重機も、車も動かせないこの状況で!? 気になります!」 

 もっとも周囲に二つの魔王の拠点が存在する東雲東高校は稀な危険地帯だったのだが、今では一つしか拠点は残っていない。

 その潰れた拠点の影響は世界中に出ている。
 山木たちの出発の遅れた要因でもあった。

 魔物の活性化。
 もとより活発だった魔物の動きがさらに激しさをましたのだ。 
 それもより多くの領地を手に入れる動き。
 リソースの獲得に重点を置き、戦力の低下の少ない戦闘をするようなった。
 まるでなにかに追われているような、絶対に手に入れたくない不名誉に怯えているような、はたまたなにかデバフでも与えられるのではと、魔王たちが本腰をいれて回避しだしているのだ。
 
 一体の六六六位の魔王が討たれたが故に。

「なっ、なんだアレは!?」

「魔物かッ!?」

 学校の上空を漆黒のオーラを垂れ流し疾走する大型トライク。
 未だ常識の中にいる人々は腰を抜かすほど驚く。
 東雲東高校の人々は見慣れたようになんの感情もすでに抱かないのだが。
 
「リアルエルフ……さん?」

 空飛ぶ大型トライクに緑玉色《エメラルド》の髪のエルフを見つけた寺田。
 運転する神駆にぴったりとその豊満な胸を預け腰に手を回していた。
 魂魄ランクの上昇により強化された視力は見てしまった。
 エルフさんの細い指が運転する男の股のほうに伸びていたのを。

「どうなってるんだ?」

 東雲東高校の周りは城壁。
 とくに服部のイメージが小田原城だったせいか、校舎にも影響がでており、またご老人たちの影響もあってかまるで城のように変化していた。
 そしてSFチックな乗り物で宙を移動する者までいる始末。
 もはやなにがなんだかわからない。

「どうなってるんだ?」

 山木3尉は困惑していた。
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