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第二章:魚と犬と死神
百三十三話:ファーストキスは甘い味 ☆
しおりを挟む「シンク、くん」
俺の名前を呼んだ唇。
優しいルームライトの光に木実ちゃんの唇が照らされている。
ぷっくりと柔らかそうな桜色の唇。
誘蛾灯に吸い込まれる蛾のように。
俺の唇は吸い込まれた。
「んっ……」
甘い。
先ほどのおにぎりが辛く感じるほどの甘さ。
脳天から下半身まで甘美な衝撃が突き抜ける。
「ぅん゛ん゛っ」
ファーストキスは甘い味というのは本当だったらしい。
木実ちゃんとファーストキス。
世界が変わってしまう前には想像できなかった。
教室でぎこちなく挨拶してきてくれた木実ちゃん。
ちゃんと挨拶できない俺にも笑顔だった。
いつも明るい笑顔で癒してくれる。
「あっ」
「おっふ」
今は俺の豪槍に触れて顔から湯気がでそうなほど赤くして驚いている。
背中に当たっていたけどちゃんとは理解していなかったのか。
豪槍を挟んでななめに座る木実ちゃん。
限界突破している息子をまじまじ見られると恥ずかしい。
まぁ興奮もするんだけど。
「なでなで、すると、……気持ちいい?」
空気を読んでビキビキに薄くなった『ブラックホーンオメガ』のせいでもはや直に触られているようなものだ。 たぶん0.02ミリもないよ。
テニスのラケットを握るようにこちらを見ながら握る木実ちゃん。
彼女の小さな手の平がすべてわかる。
これは……むしろいつもよりも感覚が鋭い。
まさかの『ブラックホーンオメガ』のエロ機能である。
「葵ちゃんに、んぅ、もっと聞いておけば、あっ、よかったな……」
変態魔法少女に毒されないでっ!
女子同士でもエロイ会話をするんだろうか?
「おぅッ」
刺激が強いよ。
経験値の少ない、いや、皆無と言っていい卸したての豪槍には。
女の子の手の平がこんなに気持ちいいとは。
これは早々に果ててしまう。
『早漏』
夜のダメージディーラーたる葵の発言が棘のように刺さっている。
いいか? 男にはいってはいけない言葉があるのだ。
『小さい』『早い』はダメ絶対。
「んっ……シンクくん、気持ちいい?」
ビキビキに薄いバトルスーツの下で俺の豪槍は可愛く震えている。
「気持ちよく、してあげたいよぉ、んっ!」
木実ちゃんがこんなエロエロ娘に!?
なにかおかしい。
誰かにドッグキャンディーでも盛られたのか?
「っ?」
気配。
そうだ最初から感じていた。
誰かに見られているかのような気配。
悪意のあるものではなかったから気にしていなかったけど……。
(どこだ?……うっ!)
「おふッ」
「あっ、ああっ」
ダメだ、限界は近い。
『ケケ』
俺は天を仰ぎどうしようもない表情を浮かべた。
その時だ。
何とも言えない濁声が聞こえた。
何かいるっ、万死一生、まにあえっ!
「【千棘万化】ッ!」
俺は抜いた髪の毛を棘に変え声のした方に撃ち放つ。
『ゲケェ!?』
壁の隅にカッパがいた。 いつか学校の横の川でみたカッパだ。
そいつは手を構え念を送るようにしていた。
皿に棘を撃ち込まれたカッパは逃げていく。
壁をすり抜けて川のほうへと。
「なんだったんだ?」
誰かに見られているような気配は消えた。
神社にあった結界のような雰囲気も。
赤い布団とルームライトは残っている。
「あれ、わたし……あわわ!?」
さっきまでとろんとしたエロい顔だった木実ちゃん。
いつものプリティフェイスに戻った。
俺の物を掴んでいることにビックリしたようで手を抜こうとするが引っかかってとれない。
「――おぅふッ!?」
「――あわわッ!?」
手を離したらいいよ!?
掴まれたまま体勢を崩し覆いかぶさる形になった。
まるで正常位のような格好だ。
「あっ、まってシンクくん!」
掴んだままの木実ちゃんは慌てている。
動くたびに双丘が激しく揺れている。
正常位すごい。
「まって! まだっ、心の準備が――」
ブルンブルンの双丘に吸い寄せられる俺の手。
前傾姿勢になった瞬間。
いつものピンク色の稲妻が貫く。
「――ふぅごおおおおおおおおおおおおおッ!? おッオオオッーー!?!?」
「――シンクくんっ!?」
覆いかぶさる形で倒れた神駆は、ピンク色の稲妻をしばらく浴び続けるのだった。
◇◆◇
領主である服部の元に不思議な報告が入るようになったのは神社を建ててからだった。
「カッパ?」
「ああ、何人か見た奴らがいる」
「そうなんだ……被害はあるんですか?」
「特に、ないらしい」
河童の目撃情報。
襲ってくるような被害はなく、目が合うとすぐに逃げていくらしい。
「じゃあ放置でいいのかなぁ?」
「まぁな。 じっと見られて気持ち悪いって言っているやつもいるけどな。 ただ爺さんたちはアマミク様の使いだと盛り上がってたがな?」
「へぇ、そうなんだ! じゃあ放置でいいんじゃないかなっ」
神社を建てる際には恩恵があるようにメニューには書かれていたが詳しくはのっていなかった。
ひょっとしたら幸運を呼ぶ河童なのかもしれないと、服部はポジティブに考えた。
実際、東雲東高校は今一番乗っているのだ。
「鬼頭君のおかげで魚頭も野犬の襲撃も減っている今がチャンスだね」
「ああ」
「東雲東高校、『要塞化計画』――始めようか!」
やる気に満ちた領主様の政策が始まろうとしていた。
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