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第二章:魚と犬と死神
百二十九話:千棘のマーマンロード ②
しおりを挟む『千棘のマーマンロード』、ダアゴンの攻撃は止まらない。
投擲した矛は無数に変化し襲い掛かる。
万軍の放つ矢のように、槍隊の放つ牙突のように、魔法使いの放つ毒沼のように。
【千棘万化】
魔界の数多の外敵を屠ってきた魔王の固有スキル。
怨嗟と共に繰り出されるそれは止まらない。
『ギィイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイッッ!!』
神駆は機動力を活かし回避する。
放たれる攻撃は速いが、手に持つ矛の形から攻撃を予想し回避に成功していた。
細く鋭い矛は無数の矢のように変化し盤面制圧に向いている。
太く螺旋状の矛は貫通力が高く危険だが、それほど速くもなく数も少ない。
刺々の矛は地面にスパイクの罠を作る。
「ははっ!」
興奮状態にありながら、思考は冷静だった。
戦いが進むにつれより精錬されていく。
(アメショ猫にロードとは戦うなって言われたけど、たしかに強い、強すぎるな)
かつて【猫の手】の主人に言われたことを思い出す神駆。
魂魄ランクの低い状態ではロードクラスと対峙するのは不可能。
今地球上でロードクラスと戦闘を繰り広げられる人材はどれほどだろうか?
きっと片手で足りる数だ。
魔王は制約に縛られる。
それは本来の目的、黒の魔皇帝争奪戦を考えた時にもっとも重要となる。
最下位である『千棘のマーマンロード』はあらゆるペナルティを無視し、重い枷を嵌めて『嗤ウ者』を討伐することを決めた。
脳筋魔王は全てのリソースを自身に振り分けている。
眷属も領地も投げ捨てる暴挙。
捨て身の魔王ダアゴン。
「シッ!」
神駆は虚空を蹴り立体起動から『ヴォルフライザー』を繰り出す。
回転する刃。
『ヴォルフガング』の指輪と鳴動し漆黒のオーラを纏う。
神駆の一撃が届く。
「っ!」
硬い。
ダアゴンの逆立つ鱗を突破できない。
鋭く硬い鱗。
もし掴まればその鋭い鱗に切り裂かれるだろう。
三日月に嗤う口からギザギザの歯が零れる。
『コザカシイッ!』
人外の膂力の一撃が神駆を吹き飛ばす。
「――がっあッ!?」
咄嗟にブラックホーンリアを逆向きに起動するが止められず、神駆は壁に衝突する。
世界に異変が起きてから住宅の壁は強固になっている。
しかしそれにもかかわらず神駆の衝突で壁は破壊されてしまった。
防御した大楯『エポノセロス』が僅かに欠けている。
「ぐぅっ……ッ!」
体がバラバラになりそうな衝撃。
散乱した家具に手をかけ体を起こす神駆は焦る。
ダアゴンが構えていた。
『必殺』の一撃。
短い下半身はしっかりと腰を落とし、筋骨隆々の上半身は矛を構え大きくしならせていた。
周囲の風景が歪むほどの力の収束。
『――――羅弩棘擲ッッ!!』
特大の矛が神駆の視界を埋めた。
◇◆◇
大きな音と揺れが響いた。
「わっ!?」
「んっ!?」
びっくりして手に持っていた鬼頭君のお土産を落としそうになったよ。
葵ちゃんも花火に驚いた猫みたいに腰砕けになってる。
「地震?」
「ガス爆発……かも……」
たしかに爆発したような音、その後になにか崩れるような音がした。
胸騒ぎがするよ。
「鬼頭君、大丈夫かな?」
「シン……」
不安になってしまったのか、葵ちゃんが泣きそうな顔で抱き着いてきた。
私もなぜか震えていた。
心がそわそわしている感じだ。
葵ちゃんのぬくもりで少し落ち着いたけれど。
「……?」
今は神社の中にいる。
宮司なんだから使っていいよと、服部先輩に言われたから。
正直ありがたかったよ。
東雲東高校にいるとみんなに声を掛けられて、それは嬉しいのだけど、静かになれる場所があると嬉しい。
おじいちゃんたちも神社の外で集会はしているけれど、中には入ってこないんだ。
むしろ不埒者が近づかないように警備してくれているらしい。
神社の建物が青白く光っている。
(なんだろう?)
強烈な光ではない。
僅かにぼんやりと光っていた。
「鬼頭君」
胸騒ぎを取り払うように。
私はお祈りをする。
もし彼が困っていたら助けてくださいと。
神様は見ている。
だから私はお願いをする。
「木実……」
少しでも彼の力になれますように。
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